Oh My Girl!番外編



なぁ、スネーク
俺さ、時々不安になるんだ

俺は、ちゃんとアンタの隣に立ててるかって

「これで最後、っと」

山のように積まれた書類の、最後の一枚
それにサインし終わった俺は、仕事をやり終えたという充足感と心地よい疲れを感じ、ペンを放り投げて大きく伸びをした

「あ〜…肩こった」

軽く肩を回せば、バキバキといい音がして気持ちがいい
そのまま体を軽く動かしていると、不意にのどの渇きを覚えて、マングース、マテ茶!と言おうとして思い出した
そうだ、今日はマングース買出しでいないんだっけ
自分で淹れてもいいが、仕事も終わりオフモードに入っているせいか物凄く面倒くさい
仕方なく、書類整理を始める前に用意したコーヒーの残りを口に含む

「…まっず」

熱くもなく冷たくもなく、ぬるいとしか言いようがないコーヒーはあまり美味しくない
やっぱり自分で淹れるか…とカップの中を覗きこみ
ふと、冷めたコーヒーに映った俺の顔に
男のフリをした女の顔に、じわりと胸の中に黒いシミが広がる

俺は、男として育った
そして、男として生きている
一応野郎だらけの戦場で生きているから、女であることがばれないように気をつけてはいる
けれど自分が女であると思ったことはあまりないし、ジェーンにも女である自覚も薄いとよく言われる
つまりは、自分の性別についてあまり深く考えたことは無かった

けれどここ最近、自分の性別について…女であることについて考えさせられる
2年前、スネークに拾われたときから、俺は自分が強い男であろうと、より立派な人間になろうと精一杯努力してきた
性別という枠にこだわらず、俺を1人の人間として見込んでくれたスネークの期待に応えられるように
スネークの右腕としてふさわしい人間と、みんなに認めてもらえるように
スネークの隣にいても、恥ずかしくない男として立っていられるように

けれど、時々不安になる
スネークは、俺が女だから助けてくれたんじゃないかって
俺はガタイもいいし言葉遣いも男そのものだし、色気や可愛さなんか欠片もないけれど、一応は女だ
今年で付き合いは2年と少しになるが、その間スネークは実に紳士だった
男女間で差別したりはしないが、女性に対してはいつもさりげない優しさを見せる
それは俺に対しても同じで、訓練や任務ではスネークは俺を女だからと手を抜いたりすることはなく、他の男と同じように扱ってくれる
けれど体が女である以上、どうしても男とは違う面が出てくるのは避けられない
そこを、いつもスネークはさりげなくフォローしてくれる
戦闘と食い物のことしか頭にないように見えて、意外と細やかな気遣いの出来る男だ
それはスネークが生来持っている優しさ
そして、師匠が女性であったから自然と身についていったものだろう
そのことを考えると、なぜか胸が痛む
理由は、よくわからない
そんな彼女を殺さなければならなくなったスネークへ、自分を重ねているのだろうか?
10年
まだ30にもならない俺には、途方もなく長い時間に思える
スネークにとっても、それはとても長い時間だっただろう
それほど長い時間を、共に過ごした彼女を…

「(…痛い)」

ズクリ、と胸が小さく痛む
いつもなら、それがどうした、そんなことで立ち止まっている暇はない
俺は俺の出来ることを精一杯、男としてやるだけだ
男として側にいたいと望んだのは、俺なんだから
そう自分を奮い立たせるけど
時折、心が不安定になり同じことばかり考えてしまう

『お前が男だろうと女だろうと、お前はお前だろう?』

俺が男として側において欲しいと、図々しい頼みをしたとき
さも当然といわんばかりの笑みと共にもらった、大切な言葉を
俺を認めてくれたあの言葉を、どうしても疑ってしまう

だって、俺は女だ
いくら男のふりをしたって、男として生きようと努力したところで
俺が女である事実は、変えられない
男であるスネークより弱くてちっぽけで、こんなにも女々しい女だ
男として生きているのに、こうして女としての自分が顔を出すのがいやになる
男として、スネークの隣にいると決めたのに
庇護される存在ではなく、対等なパートナーとして側にいると誓ったのに

「…カズ?」

ぼんやりと思考を遠くに飛ばしていると、不意にすぐ側でスネークの声が聞こえた
慌てて思考を戻せば、すぐ目の前に書類を持ったスネークが困り顔で立っていた
どうやら、処理した書類を持ってきてくれたらしい

いけない
いくらここが安全なマザーベースとはいえ、スネークがすぐ側に来ても気付かないなんて

「あぁ、すまないスネーク…ちょっと、ぼぉっとしてた」

激しい自己嫌悪に襲われながらも、カップを置いてどうにかスネークに笑って見せる
こんなことじゃ、いけないのに
もっともっと、強くなければいけないのに

こんな弱い俺じゃ、女の俺じゃ
スネークの側にいる資格なんて、ないのに…

「で、何だスネーク?珍しく書類持ってきてくれたのか?」

そんな弱い感情を押し殺して、いつもの軽口を叩いて
できるだけ普通どおりに見える笑みを、スネークに向ける

「…カズ、何かあるなら言え」

けれど俺の笑みを見たスネークは、ぎゅっと眉を寄せ
優しい声で、優しい瞳で、俺を真っ直ぐに見つめてきた
その優しい瞳に、スネークの優しさに涙が出そうになる
こうして、優しく庇護される存在じゃいけないのに
スネークの隣にいるには、どんな事だって跳ね除けてしまうくらい強くなければいけないのに
スネークに弱さを見抜かれてしまうようじゃ、いけないのに

「なぁ、スネーク…俺、アンタの役に立ててるか?」

けれど、不安定に揺らいだ心は弱い言葉を吐き出す
そんな弱い自分に、さらに自己嫌悪に陥る
俺の言葉にどこか困ったような表情になったスネークに、さらにそれが深まる

「急にどうした?誰かに何か言われたのか?」

「そういうわけじゃない…そういうわけじゃないけど…」

心配そうに俺を見つめるスネークに、俺は小さく頭を振ってみせる
どういったらいいのか、わからない
なんていえばスネークにそんな表情をさせなくてすむのか、わからない
上手く言えない歯がゆさに、これくらい誤魔化せない苛立ちに、頭がぐちゃぐちゃになっていく
どういったらいいのかわからない、何を言って欲しいのかわからない
コーヒーに落ちたミルクみたいに、混ざってぐちゃぐちゃになってわからなくなる
思考の深い海に沈みそうになっていると

「…カズ」

大きくて温かな手が、ふわりと頭の上に乗せられる
慈しむようなその手つきに、不安に揺れていた心が温かな何かに包まれていく
ふと顔を上げれば、スネークが真っ直ぐに俺を見ていた
その目が、あまりにも優しかったから
柔らかい青の瞳に、何もかも許されてしまいそうな気になるから

「…俺、役に立ててる?」

ポロリと、言葉が口から零れ落ちた

「あぁ、お前のおかげで大助かりだ」

「女、なのに?」

「ん?」

「俺、女なのに?」

不思議そうに俺を見るスネークに、やめなければと思う
でも一度零れ落ちた言葉も不安も、もう止まらない

「俺、女だよ?スネークより弱いし、女々しいし、みっともないし…なぁ、本当に俺はアンタの役に立ててる?」

困惑しきった目で俺を見るスネークに、ざわざわと不安が胸いっぱいに広がっていく
なぁ、スネーク…本当は俺、ずっと不安なんだ
俺が女だから、弱くて女々しくてちっぽけな存在だから、側においていてくれるんじゃないかって
俺が女じゃなかったら、もしも俺が男だったら、アンタに拾われることも、必要とされることもなかったんじゃないかって考えたら、怖いんだ
俺の能力も何もかも関係なくて、ただ女だから、胸を揉んだからって側に置かれていたら
どんなに頑張っても、アンタに俺自身が見てもらえなかったらって考えたら、どうしようもなく怖くて泣きたい気分になるんだ
アンタに認められたい、名実共にアンタのパートナーになりたい
女でも男でもなく、俺自身がアンタに必要とされたい
護って欲しいんじゃない、庇われたくもない、お飾りでいたくない
ただ、アンタに…他の誰でもないアンタに、俺は必要とされたいんだ

「よくわからんが…そうだな、お前が女だから、慌ててキャンプに連れ帰りはしたが…」

どこか不思議そうな声で言われたその言葉に、反射的に体が竦んで視線が下へと落ちる
けれどスネークはそんな俺を咎めるでもなく、責めるでもなく
ふ、と表情を緩めて俺の頬に手を沿え、顔を上げさせると

「だがなカズ…お前が女だろうと、男だろうと、俺は必ずお前を連れ帰って仲間にした。性別なんか関係ない。お前は誰よりも大切な俺の…仲間だ」

満面の笑みを浮かべて、真っ直ぐな…俺が一番欲しかった言葉を俺にくれた
その言葉にどうしようもない喜びと

「(…何だ?)」

ほんの少し、本当に少しだけ
チクリ、と胸が刺すように痛んだ

「…ありがとう、スネーク」

自然と浮かんだ笑みを返しながら、ちくりと痛んだ胸について考える
あんなに欲しかった言葉なのに、どうして胸が痛んだろう?
少し考えて、あることに思い至った
そうか…スネークは俺を仲間だと言ったけど、パートナーだとは言わなかった
そうだ、俺はスネークに認められて、スネークのパートナーになりたいんだ
俺はスネークの仲間だけど、まだパートナーじゃないって言われたみたいで…だからちょっとだけ胸が痛くなったんだ

「スネーク…俺さ、強くなるから」

「…ん?」

「もっともっと強くなって、もっとスネークの役に立てるようになるから」

ねぇ、スネーク
俺、もっと強くなるから
男も女も関係なくなるくらい、こんな不安なんか笑い飛ばせるくらい強くなるから
強くなって、もっと知識も貯えて、誰よりもアンタの役に立って見せるから
だから、そうしたら…

「…絶対に俺のこと、パートナーって認めさせてやるから」

認めて欲しい、とは恥ずかしくて言えなくて、にっと挑発的な笑みを浮かべて、スネークの肩を軽く拳で叩く
そうだ、認められてないなら、認めさせればいい
俺の最高のパートナーだって、言わせればいい
お前以外パートナーはいらないって、土下座してパートナーでいてくれって言われるくらいになってやる!
決意も新たに、スネークを見返すと

「…あぁ」

スネークはどこか曖昧に笑いながら…どこか困ったようにすら聞こえる声でそう言った

「何?俺がパートナーじゃ不満なわけ?今の俺じゃあ力不足なのはわかってるけどさぁ」

「いや…そうじゃない…そういうわけじゃないんだが…」

「じゃあ何?」

「その…お前を、その…いや、なんでもない…なんでもないんだ…」

「気になるじゃん、言えよ」

「ほ、本当に何でもないんだ…!それより書類にサインしてくれないか!?」

じろり、と睨むとスネークはどこか慌てたように、書類を俺に突き出してきた
その書類と、これ以上追求しないでくれといわんばかりのスネークを見比べて…盛大にため息を吐いた

「…まぁ、いいけど」

今は、追及しなくてもいい
そのかわり、俺がアンタのパートナーになったら、締め上げてでも聞いてやる
その日を楽しみに、今日のことは追及しないでおいてやろう

「すまん…………たら…」

だが、そう思ってせっかくこっちが譲ってやっているのに、スネークはまだ何かブツブツといっている

「…だから何!?気になるんだけど!!?」

「す、すまん!なんでもない!!」

さすがにイラッときて強めの口調で問いただせば、スネークはビクリと体を竦ませてブルブルと首と手を振る
その仕草に今すぐ締め上げたい気分になってきたが、どうにか押さえてもう一度ため息を吐いて見せた

「もう何なのさ…」

「いや、その…独り言、だ」

「独り言なら、他所で言ってくれる?中途半端に聞こえると気になるから」

「あぁ、すまん」

『もう少し…きちんと俺の腹が決まったら…お前にきちんと伝えよう』

スネークが呟いた独り言
俺の知らないスネークの本心を知らないままで、俺はスネークを軽く睨みながら書類のチェックを始めた

















バルサミコ酢様リクエスト、Oh My Girl!続編でした!
内容はおまかせします、とのことでしたので好き勝手やらせていただきました

テーマは、こーいーしちゃってんだー多分、気付いてなーいでしょー!MSF.var
そして無意識にスネークに惚れているカズ
カズが不安になって、それをスネークが解決する話が書きたかったんです
う〜ん…カズの不安描写がくどいかな?っていうか、くどい
こういう話になるとくどく書きがちになる癖、治さないとな…
ボスの描写要らないかな…でもカズがボスに嫉妬(無意識)してるの書きたいなぁとか…詰め込みすぎですね!

ちなみにスネークからのフラグはビンビンです、パートナーとか言われちゃって嬉しいやら脈ない?と不安になるやら忙しいです
…ボス、告ればよかったのに
他にも月のモノでギャグとか、酔っ払っちゃったカズで色々すっ飛ばす勢いの大進展系ギャグ(パス日記ネタ)とか考えましたが…リクなので真面目な話書きました

バルサミコ酢様、リクエスト本当にありがとうございました!

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