kidnaping・3



「ようこそビックボス、私の別荘へ」

あれから3日
農場に潜入し、男の要求してきた物を入手し
俺は、交渉をするために奴の指定した屋敷へと訪れていた
使いの男に案内され趣味の悪い部屋に通されると、そこにいたのはゆったりとしたソファーに座る、すでに老人といっていい年齢の男
そして、俺の周りを取り囲むように配置された、十数人の武器を構えた男
じろり、とそいつらを軽く牽制しつつ、男の前に足を踏み出した

「約束どおり1人だ、例のものも持ってきてある。カズはどこだ、ここにいるのか?」

「そう焦らなくても大丈夫だよビックボス。そうだ、いいコーヒーがあるんだがどうだね?」

「断る。カズはどこだ」

「君はよほど彼が大事なんだね…残念ながら彼はここにはいない。別の別荘でお待ちいただいている。君が持っている物を確認したら案内しよう」

のらりくらりとした態度に苛立ちを感じながら、男の足元に書類と種の入った袋を投げつける
その瞬間、いくつかの銃口が俺のほうを向いたが、それを男は片手を上げて制し、床に落ちた書類と種を拾い上げた

「ふむ…種は発芽するまではわからないが…」

「そんなには待てない、今すぐにカズを返してもらおう」

「そんなに焦らないで欲しいね…とりあえず、書類を確認してみよう」

にこり、と穏やかにすら見える笑みを浮かべながら男は書類の中身をじっくりと眺める

「…確かに」

やがて、顔を上げた男はそういうと

「それじゃあさよならだ、ビックボス」

にぃっと嫌悪感しか感じない笑みを浮かべて片手を挙げる
それと同時に、一斉に銃口が俺に向けられた
反射的に俺も銃を構えるが、発砲すればその瞬間蜂の巣になることくらい、赤ん坊だってわかる

「…やはり、用が済んだら俺を殺す気だったか」

「あぁ。君もあの組織も、残しておくとミラー君の未練になるからね」

「やはり本当の目的はカズか…このゲスが」

ある程度予想していたとはいえ、やはりいい気はしない
思い切り睨みつけてやるが、男はひるむでもなく、にっこりといっそすがすがしい笑みを浮かべて俺を見返す
自分が勝者だと、確信している人間の目
今すぐあの目を閉じさせてやりたいが、まだダメだ
まだ、合図がない

「安心してくれたまえ。君がいなくなっても、私が彼を可愛がっておくから」

まだか、と苛立ちながら、笑みを浮かべたまま卑下じみた言葉を連ねる男に、真っ直ぐに銃口を向ける
今にも引いてしまいそうな引き金を、精神力で押さえ込む
まだだ、まだ早い
自分に必死にそう言い聞かせる
だが、発砲してこないとタカをくくっている男は、睨みつけながら銃口を向ける俺を、ただの苦し紛れと判断したらしい
口が憎らしいほどによくまわり、苛立ちがどんどんと募っていく

「そうだね…君の死体を見せて、泣き叫ぶ彼を可愛がるのもいい趣向だと思わないかね?」

どうだい?と得意げに吐き捨てる男に、我慢の限界が近づいた頃
ザザ…と小さなノイズが耳に届き

『ボス!副指令を保護しました!無事です!!』

耳にはめて置いた小型の無線機からの待ちわびた知らせが、鼓膜を揺らした

「は…はははは!」

待ち望んでいた瞬間に、司令官失格だとはわかっていても、自然と笑みが漏れた
突然笑い出した俺を怪訝そうに見る連中には構わず、つま先を三度床に叩きつける
その瞬間、窓や扉が派手に音を立てて壊れ

「ムーヴ!!」

密かに待機させていた実戦部隊が、一斉に雪崩れ込んだ
いくら相手も武装しているとはいえ、突然のことに動揺している連中に俺達が負けるわけがない
まるで赤子の手を捻るように、簡単に拘束されていく
俺も動揺している目の前の男との距離を一気につめ、CQCで気絶しない程度に床に叩きつけて腕を拘束する

「ば、馬鹿な…外には、厳重に見張りを…!!」

「見張り?アレで見張りを置いたつもりか?」

さっきまでの余裕の表情など欠片もないほど動揺している男を、見下ろして哂う
さっきまでの仕返しといわんばかりに軽く絞めてやると、ようやく状況を理解し始めたのか、無我夢中で暴れだした
軽く…あくまで俺の力で軽く殴ると、ぐぅっとみっともない声を上げて男は俺を睨みつけてきた

「わ、私にこんなことをして…!ミラー君がどうなっても…」

「カズなら救助した。もうお前の言いなりにはならない」

「馬鹿な!?どうして居場所が…!!」

信じられない、とばかりに目を見開く男に、少しだけ溜飲が下がる
何故カズの居場所がわかったのか、どうやって情報が伝えられたのか、この男が知るはずなどない
かつて北ベトナムの捕虜収容所で主に使われていた、タップコード
音だけで情報を伝える手段はいずれ必要になるだろうと、それを改造し、俺達だけの信号を予め作ってあった
まさかそれを最初に使うのが、考案したカズ本人だとは夢にも思っていなかったが
捕まりながらも、カズが必死で集めた情報
金属音と声で伝えられたその情報と最初に襲撃された時間を元に、該当する場所を割り出した
その場所を、俺がここに来るタイミングで襲撃させておいた
もちろん、こことの通信手段を断った上で
出来ることならすぐにでも助けてやりたかったが、その場所に向こうの戦力が集中しているのは目に見えている
さらにカズが自力で動けない可能性がある以上、下手に襲撃すればカズの命を危険に晒してしまう
カズを確実に、出来る限り危険に晒さず奪還するのには、俺が交渉の場に出向いた時が一番だった

「あまり俺達を舐めない方がいい…もう遅いがな」

「い、命だけは…」

「安心しろ、すぐに殺しはしない…その代わり、俺達のマザーベースで尋問を受けてもらおうか」

カードを全て失い、この期に及んでみっともなく命乞いをしてくる男に哂いかけ
死ぬより辛い目にあわせてやる、と耳元でありったけの憎悪を込めて囁いてやると、男の顔が見る見るうちに青くなった

「頼む…た、助けてくれ…」

「おい、コイツを連れて行け。俺はカズの様子を見に行ってくる」

ガタガタと震える男を無視して、すぐ側にいた兵士に男を投げ渡してそう告げる
幸いなことに、こことカズが捕まっていた場所はそう離れていない
マザーベースに帰れば会えるだろうが、一刻も早くこの目でカズの無事を確認したい

「わかりました。この男の処遇は…」

「尋問をする、殺すな。それに支障がない程度なら何をしても構わん。後は任せるぞ」

「イエス、ボス!」

俺の言葉に兵士は敬礼を返し、男を乱暴な手つきで引きずっていった
今回の事ではらわたが煮えくり返っているのは、何も俺だけじゃない
マザーベースに帰るまでに、随分と歓迎されるだろう
わめきながら引きずられていく男を横目で眺めた後、早足で屋敷を飛び出し兵士が用意していてくれた車に乗り込んでアクセルを思い切り踏み込んだ

「ボス!」

カズが囚われていた屋敷にたどり着くと、こちらの指揮を任せていたマングースが真っ先に俺に近づいてきた
その背の向こう側に人だかりが出来ていて、皆心配そうに中心を覗き込んでいる
おそらく、あの中心にカズがいるのだろう
今すぐに駆け寄りたい衝動を抑え、マングースに足早に近寄る

「カズはどうだ」

「外傷などはありませんが、意識がありません。薬物だと思います」

「大丈夫なのか?」

「ここにいた人間を尋問したところ、致死量を投与されていたわけではないようです。念のために応急処置をしていたところです」

マングースと話をしていると、周りの兵士達も俺に気がついたのか、俺のために場所を開けてくれた
そこから見えたのは、医療班から応急処置を受けている、シーツらしきものはかけられている…おそらくその下は全裸であろう…カズの姿

「…カズ」

たまらずに駆け寄って声をかけるが、反応がない
目はどうにか開いているが虚ろで、焦点が全く合っていない
ぐったりと力が全く入っていない体に触れると、どこか冷たい
マングースが無事だといっているからには無事なのだろうが、ぞわりと背筋に悪寒が伝う

「カズ、おいカズ!しっかりしろ!」

祈るような気持ちで少し強めに名前を呼ぶと、虚ろな瞳が一瞬俺を捕らえ

スネーク…

音にはならなかったが、確かに俺の名を呼んだ
その反応に、俺を含めた全員が一斉に安堵の息を吐き、どこか緊張していた空気が和らいだ

「カズ…遅くなって、すまなかった」

すっかり乱れてしまっている髪に指を差し入れ、梳くように撫でてやりながら話しかけると
カズの口元が、僅かに弧を描き
ゆらり、と手が動き、弱弱しく俺の服の裾を握り締めた
今更ながらカズの無事を実感し、自然と口元が笑みの形を作る
そのまま髪を撫でてやっていると

「ボス…」

どこかバツの悪そうなマングースの声が耳に届き、慌ててそちらに顔を向ければ

「ヘリが来るまで、副指令の側に居てあげてください」

マングースはどこか困ったように、けれど嬉しそうに微笑んだ
よく見れば、周りの奴らも似たような表情で俺達を見ている

「あ〜、その…すまん」

「いえ、応急処置も終わったようですし、意識が戻ったならひとまず大丈夫でしょう」

さすがに居心地の悪さを感じ、軽く頭を掻きながらそう口にすれば、逆にどこか微笑ましいものでも見たような目で見られて余計に居心地が悪くなる

「それじゃあヘリが来るまで、ボスは副指令を見ていてくださいね。俺は他の用事を済ませてきますから」

しかも、そういうが早いかマングースは見事な速度で屋敷の中へと入って行き
それに習ったのか、さっきまで心配そうにカズを見ていた奴らまで、あっという間に散っていき
不自然なほど、俺達の周りから兵士が消えていった

「…気を使わせてしまったか」

俺としてはこの状況はありがたいが、後でカズが知ったら絶対に怒るだろう
まだ意識がハッキリしていないのか、今自分が置かれている状況をよくわかっていないらしいカズは相変わらず俺の服の裾を握り締めたままだ
それがカズの甘えのように見えて、愛しさと申し訳なさが湧き上がってくる

「もっと早く迎えに来られたらよかったんだが…すまなかった」

本当に、もっと早く助けてやれればよかった
この3日間、カズがどんな仕打ちを受けたのかはわからない
外傷はないといっていたから、さほど酷いことはされていないはずだ
それでも、精神的には大きな負担だったに違いない

「すまなかった、カズ」

俺の言葉を、今のカズが理解しているかどうかはわからない
けれど、カズの目がほんの少し細まり、まるで笑っているように見えた

「お前が無事で、本当によかった」

その笑みに、心の底からそういって笑みを返し
僅かに聞こえ始めたヘリの音を聞きながら
小さく、触れるだけのキスを落とした



















リクエスト・カズがどこかの組織に拉致られた、でした!

あれだね、こういう長めの話は何も考えずに書いたらいけんね!!
タップコードで場所を知らせるカズ、以外何も考えずに書き始めました…すみません、オチ見失ってます

どうしても言わせたかった
あまり俺達を舐めない方がいい…もう遅いがな
って言わせたから満足
本当はこう、拉致られて犯される→お清めエチな流れも考えてましたが、色々とんでもないことになりそうなのでボツ

お待たせしてすみません!リクエスト、本当にありがとうございました

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