kidnaping・1



ゆっくりと落ちていた意識が浮上し、俺は目を開けた
だが、目を開けたはずなのに、目の前には依然として闇が広がっている
目を、何かで覆われている感じがする
それを取り除こうと手を動かそうとするが、どうしてか手が動こうとしない

「お目覚めかね?ミラー君」

まだぼんやりする思考で状況を把握しようとしていると、聞きなれない男の声が耳に飛び込んできた
こいつは、誰だ?

声からしておそらく初老の男だろうが、こんな声の男の声は知らない
一度でもビジネスの話をした相手の声と顔は、きっちり把握している
思い出そうと必死になっていると、冷やりとした風が肌を撫でる
そこで、気が付いた
服が脱がされている
あまりに異常な状況に一瞬パニックになりかけたが、大きく息を吸って冷静になる
それと同時に、ようやくあることを思い出した
俺も乗っていた買出しに行くための船が、襲撃された
補給に使うルートには、ごく稀にだが海賊も出る
襲われてもいいように何隻かで固まっていたのだが、想定を上回る数で囲まれ対処しきれなかった上、目立たないように最低限の装備しかつんでいなかったのも手伝って、俺の乗る船はあっという間にジャックされた
一応抵抗はしたが、多勢に無勢
麻酔銃を打ち込まれた俺は意識を失い…そして目が覚めたらこんな状況になっていた

「手荒な方法で迎えて申し訳ない。本当はもう少し穏便に事を運びたかったのだが…一刻も早く君に会いたかったのでね」

粘りつくような声と共に、かさついた手が俺の頬を愛おしげに撫でる
あまりの悪寒に反射的に手を振り払いそうになるが、ガチャっと小さな金属音と共に手が何かに引っ張られるような感触がした

「無駄だよミラー君」

どうにか抜け出そうともがいてみるものの、手も足も動かすたびガチャリという金属音と共に引き戻される
おそらく、鎖か何かで繋がれている
暴れたくらいじゃ脱出は不可能だと判断して、声の聞こえる方へと顔を向ける

「そうそう、君は大人しくしていればいい」

俺が諦めたと思ったらしい男は、どこか満足げに下品な声で笑う
その笑い声に唾でも吐きかけたいような気分になりながらも、必死で冷静さを保つ
状況がわからない以上、下手に暴れたり相手を挑発して体力を消耗するのは得策ではない
そんな無駄なことをするくらいなら、少しでも脱出の可能性、生存の可能性を上げるため情報を得る方がよっぽどいい

耳を澄ませ、全身の感覚を研ぎ澄ませ、出来うる限りの情報をかき集め、整理する
服は脱がされているものの、肌に伝わるのは上質の布の感触…おそらくシーツだ
手足はおそらく寝かされているであろうベットに繋がれているものの、特に体のどこが痛むというのはない
捕虜の扱いにしては、随分と丁重だ
それに、コイツは俺を捕らえたではなく迎えたといっている
多分最初から俺狙いで補給船団を襲い、俺が乗っている船だけを襲った可能性がある
いくら武装が俺達より上だったといっても、あの装備で俺達の船を全滅させるのは難しいし、俺も一隻でも多く逃がすために奮闘した自信がある
それなら、他の船は今頃はMSFに戻っているはずだ
そして、こいつが余裕な事を考えれば、それもコイツの計算のうち
となれば、考えられることは1つ
俺を、何らかの交渉材料にする気に違いない

「おや、すっかり大人しくなってしまったね…怖いのかい?」

一つ一つ整理していると、男は粘りつくような声と共に、俺の体に手を這わせてきた
俺に触れる男の手には吐き気がし、反射的に体を捩る
だがその反応がお気に召したのか、男は笑いながら俺の体を撫で回す
その手は多少かさついてはいるものの特に豆もタコの感触はない
戦場で生きる者…スネークとは、まるで違う手
言葉遣いも上品で丁寧
こいつはおそらく相当身分が高い、金持ちだ
その証拠に、裸でいるというのに気温に関しての不快感を感じない
きちんとした空調のある部屋だという証拠だ
それに、部屋に漂う趣味の悪い香り
軍用の施設や傭兵達の住処なら、こうはいかない
おそらくここは、この男の私的な別荘か何か

「ボス、準備が出来ました」

肌を撫で回される不快感に耐えていると、ガチャリと扉が開く音が聞こえ、一拍遅れてやけにダルそうな男の声が聞こえてきた

「そうか、なら始めてくれ」

「イエス、ボス」

何かを始めるつもりなのか、男は俺の体を撫で回すのをやめ、俺の側から離れた
そのことにホッとしつつ、先ほど得た新たな情報を整理する
この建物は、海の近くにある
先ほど扉が開いた瞬間吹き込んできた風に、僅かだが潮の匂いが混じっていた
それに先ほどの男はコイツの私兵ではなく、おそらくは金で雇われた傭兵
ボス、と一応は呼んでいたものの、その声には欠片の誠意も尊敬も感じられなかった

集められるだけ集めた情報
それらを整理し、ありとあらゆる可能性を吟味し

「ミラー君」

それらから導き出される、最悪とも言えるシナリオ

「少し待っていてくれたまえ…仕事が終わったら、たっぷり楽しもう。互いにね」

この男は、俺を使ってMSFに…ひいてはボスに何かしらの要求を突きつけ、従わなければ俺を殺すと脅し
その上で、俺を囲う気なのだ
それを証明するような男の声に、ゾワリと肌が粟立つ

冗談じゃない!こんな男に囲われて…いいようにされてたまるものか!
どうにかして逃げるか、マザーベースに…スネークに、伝えなければならない
残念ながら、逃げるのは絶望的だ
縄ならともかく、鎖と手錠らしきもので繋がれていては縄抜けも使えない
独房ならば色々やりようもあるが、ここはあの男の私室のようなものだ
それならば、スネークにどうにかしてこの場所のヒントを伝え、救助を待つしかない
幸いなことに、俺はどうやら暫くは殺されたり傷つけられたりはしなさそうだ
事が終わった後に俺と楽しむつもりなら、それまでは一応の身の安全が保障されている

助けられるのを待つという状況はかなり癪だが、それでもあの男に好き放題されるよりはましだ
問題は、どうやって伝えるか
俺から離れた場所でなにやら相談している奴らの会話を盗み聞きながら、俺は必死でスネーク達へ伝えられる術はないかと頭を働かせた



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