指先から煽られて



「…お前の趣味はよくわからんな」

テレビに映る男女を眺めながら、ソリダスはどことなく不機嫌そうにそう呟きながら買ってきたキャラメルポップコーンを摘んでいる
その様子に苦笑しながらも、俺は同じく買ってきたスナックを摘みながらテレビの画面の中の男女の動向を見守る

今テレビに映っているのは、少し前に流行った恋愛映画
感動すると評判のそれは、本当はソリダスと見に行こうと想っていたけど

『そんなものに興味はない』

と一蹴されて、結局見れずじまいだったものだ

ソリダスは、恋愛物の映画があまり好きではない
アクションがベースのものならば見るが、こういう純粋な恋愛物はめったに見ない
今日も、一人で見れば言いというのを全力で拝み倒したところ、俺のしつこさに珍しく折れてくれたソリダスは渋々一緒に見ている
不機嫌そうにポップコーンを摘む姿は、確実に映画を楽しんでいるようには見えない
その姿に少しだけ罪悪感を覚えたけど、やっぱり結構嬉しい
こうして一緒に恋愛映画を見ているなんて、恋人っぽくていいじゃないか

いや、俺とソリダスは恋人同士だが、デートにしてもこう色気というか、何と言うか…恋人っぽさが足りないと思う
行き先はほぼ決まってケーキ屋、予定を立ててもソリダスの気分次第で変わってしまう、さらにはソリダスが行きたくないといえばそれでおしまい
いや、それでも俺はソリダスが好きだし、一緒にいられれば嬉しい
けど、たとえ乙女思考だの女々しいだの彼の兄弟に言われようと、たまにはこうして恋人っぽいことをしたっていいじゃないか
この後、普通の恋人同士のように雰囲気がよくなるかといわれれば、果てしなく怪しい…いや確実に機嫌の悪くなったソリダスのご機嫌取りになるけど

「…何がいいんだ?これの」

「ソリダス…まだ10分しか立ってないから…」

機嫌が悪そうに画面を眺めるソリダスを時折横目で見ていたが
やがて、映画に引き込まれていった

「はぁ〜…」

映画も山場を迎え、さぁこれからどうなるんだ!というところでCMが入った
先ほどまでの雰囲気とは真逆の明るい音楽に、詰めていた息を自然と吐いた
隣のソリダスも、ふぅ…と小さく息を吐いて伸びをしている
それが俺と同じように魅入っていたせいか、それとも一応俺に気を使ってみているフリをしていたせいかはよくわからない
けど魅入ってしまっていても、こうして山場でCMが入ると、先ほどまで感情移入しきっていたのが少しだけしらけてしまう
テレビだから仕方ないか、と思いながらスナックの袋に手を入れ

「あれ?」

中身がすでに空だということに気がつた
どうやら、無意識のうちに摘んで食べてしまっていたみたいだ
指先も、スナックについていた粉で少しだけ汚れている

「ソリダス、何か拭く物持ってないか?」

「持っていないが、どうした?」

隣にいるソリダスに声をかければ、ソリダスももう食べ終えてしまったのか、クッキーを摘みながらソリダスは不機嫌そうに俺の方へと視線を寄越す
どうやら、よほど映画の内容が気に食わないらしい
…本当にこの映画が終わったら、機嫌取りをしなければならないようだ

「指先が少し汚れて…ティッシュどこだ?」

明日にでも、ソリダスの好きなケーキを買ってくるべきか?
なんて考えながらティッシュを探していると
ソリダスが、俺の手を掴んだ

「ソリダス?」

その意図が読めなくて、ソリダスを見つめれば
ソリダスはにぃっと小さく笑うと、ぱくりと人差し指と中指を口に含んだ

「うぁっ!?」

突然のことに、思わず声が上がり反射的に手を引っ込めようとしてしまう
だが、しっかりと手首を掴まれているせいで、指はソリダスの口の中に納まったままだ
ぬるり、ぬるりと二本の指の間を舌が動き回る
唾液をまぶすように大胆に動いたかと思うと、爪の間を柔らかくなでるように繊細に動き回る
その動きは奉仕のそれに似ているけれど、それとはまた違うエロティックさがある
ごくり、と自然と息を呑んだのが伝わったのか、ソリダスはちゅっと音を立てて軽く吸い付いてきた
その淡く甘い快感に、無意識に小さく息が漏れる

「ソリダス…」

思わず名前を呼べば、ソリダスはちらりとコチラに視線を寄越す
その目も、まるで最中のように蕩けている
少しだけ指を動かすと、その目がまるで猫のように細まり舌が絡みつく
ちゅく、ちゅくと小さな水音が聴覚を、時折ちらりと覗く赤い舌と蕩けた瞳が視覚を、這い回る舌が触覚を刺激する
ありとあらゆる場所から煽られ、背筋がぞわりと粟立った

ゆっくりと、ソリダスが口を離す
先ほどまで指を咥えていたせいか、唇もうっすらと唾液に濡れて光っている
そこを指先でなぞれば、ちろりと覗いた舌が指先を舐める
たまらなくなって、指先で顎を持ち上げて唇を重ね…

「いっ!?」

「お、始まったな」

ようとした瞬間、突然ソリダスの手のひらが何の遠慮もなく俺の顎を押したと同時に、先ほどまでの雰囲気を感じさせないような声で視線を外した
ぐぎり、と嫌な音を立てた首を軽く擦りながらソリダスの視線の先を追えば、先ほどまで見ていた映画の続きが始まっていた
正直、すっかり忘れていた…というかもうどうでもいい
続きはDVDでも借りて見ればいい
さっきの続きを仕掛けようとソリダスの肩を抱こうと腕を伸ばし

「なぁジャック、あの2人はどうなるんだろうな?」

もう少しで肩に触れるという絶妙のタイミングで、物凄く楽しそうなソリダスがこちらを振り向いた

「さぁ、それよりも…」

「気にならないか?」

さっきの続きを…と言い掛けると、またも絶妙のタイミングでソリダスはそう呟き
完全に、映画に集中する体勢になった
さっきまで不機嫌そうに、つまらないというのを隠しもしなかったくせに

「ソリダス…」

この状態になったソリダスを無理にどうこうしようとすれば、確実に機嫌が悪くなるどころの話じゃなくなる
それ以前に、この映画自体一緒に見たいと拝み倒したのは俺だ
今中断したら、色々想像するのも恐ろしい事態になる
泣く泣く雑念を振り払おうと映画に集中しようと、必死にさっきまでの内容を思い出していると

「…ソリダス?」

「何だ、不満か?」

追い討ちをかけるように、ソリダスが俺の腕に自分のそれを絡ませ、ぴったりと体を寄せて体重を預けてきた
その言葉に反射的に首を振りながらも、俺はいろんな意味で泣きそうになってきた
いや、嬉しいよ?嬉しいけど!
けど、どうすればいいというんだ
煽りに煽られてこの盛り上がった気持ちとか、ちょっと反応してるソレとか、それなのにおあずけ状態の持て余し感とか、今にも襲い掛かりたいこの気持ちとか!

「2人がどうなるのか楽しみだ、なぁジャック?」

「…うん、そうだな…」

やたら上機嫌に笑う、隣の愛しい体温を感じながら
映画の内容とは別の意味で泣きそうになりながら、煽りに煽られた欲情を少しでも収めようと無駄な努力をするのだった

















リクエスト、雰囲気エロ目の雷斜でした!

Q.どのあたりがエロめ?
A.指フェラの辺り

雰囲気エロめといったら指フェラだろう!
という先入観だけで突っ走りました
そしたら大して、いえ全くエロくない物が出来上がりました
すみません、全力で土下座いたします

ちなみに映画が終わるまで雷電は生殺しの予感がします
ようやく映画が終わっても、雷電苛めて満足したソリダスは雷電無視して帰りそうな気がします
我が家の雷斜はこんなもんです(待て)

リクエストありがとうございました!
これからも当サイトをよろしくお願いいたします

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