甘い媚薬はいかが?・1



「…ソリダス、それ美味いか?」

「あぁ、ジャックも一口食べるか?」

「いや…いい」

とある有名な店のケーキを食べながら機嫌よさそうに笑うソリダスを眺めながら、俺はため息をかみ殺すためにコーヒーを口にした

今日は1年の中でもソリダスの機嫌が最高潮によくなる日
そう、バレンタイン
何故この日にソリダスの機嫌がよくなるのかといえば、ソリダスの大好きな甘いものが大量に贈られる日だからだ
別にバレンタインのプレゼントは菓子でなければいけないというルールはないが、ソリダスの重度の甘いもの好きは誰もが知っている
だから、大抵の人間はソリダスに甘いもの
有名店のケーキやチョコレート、クッキーなどを贈る
どんな高価なプレゼントよりも、そのほうがソリダスが喜ぶからだ
今も、机の上に大量に乗せられている甘味に、ソリダスの機嫌は最高にいい
これほどまでに幸せそうな満面の笑みは、この日以外は滅多に見られない

恋人の俺としては、たとえ付き合いとはいえ他人から贈られたバレンタインプレゼントに嬉しそうにするソリダスは、あまり見たくない
それにソリダスは気付いてないかもしれないが…ソリダスは、凄くモテる
マイペースでわがままだが、人の心を掴むことの得意なソリダスに、よからぬ感情を抱く輩がいるのも知っている
このプレゼントの何割がそういう輩からのものかと考えるだけで、正直気分がよくない
だが、別にそれにどんな感情が篭っていようと甘いものは甘いものだという考えを持つソリダスにそんなことを言えば、確実に機嫌が悪くなる
せっかく機嫌がいいのに、わざわざ地雷を踏みたくない
でも、面白くないものは面白くない

「知っているかジャック、日本ではバレンタインに、恋人にチョコレートを贈るらしいぞ」

ぼんやりと考え込んでいると、ソリダスが不意にそんなことを言い出した
その言葉に慌てて顔を上げれば、いつの間にかケーキを食べ終わったらしいソリダスの手元には、トリュフの入った箱が置かれていた
おそらくケーキを食べ終わって、チョコレートに取り掛かったのだろう

「知ってる、ソリダスが毎年教えてくれるじゃないか」

「そうだったか?」

ささやかな抵抗にワザと不貞腐れたように返してみるも、ソリダスは楽しそうに口元を上げて笑った
そんな話題を出しながら、他人から貰ったチョコレートを食べるソリダスに、本気でいじけたい気分になる
ソリダスの恋人は、俺なのに

「ジャック」

不意にソリダスが、楽しそうに俺の名を呼ぶ
何だよ、とチラリとソリダスの方を見れば
うっすらと開いた唇から舌を伸ばして、その先でトリュフを軽く転がしながら、人差し指をちょいちょいと動かしている
その表情は、物凄く楽しそうだ

あまりにあからさまな誘い方に、何となく小ばかにされているような微妙な気分になる

「ソリダス…」

でも、俺が逆らえないのも、ソリダスはきっと知っている
誘われるままにソリダスを抱き寄せ、舌先に乗っているトリュフに自分の舌で触れ唇を重ねる
きゅっと背中に腕が回り、ソリダスからも舌を伸ばしてくる
互いにチョコレートを舌で転がしながら、咥内を弄りあう
恐る恐るソリダスのシャツのボタンに手をかけても、抵抗は返ってこない
どうやら、このまま続けていいらしい
ボタンを1つずつ外していくと、綺麗に筋肉の付いた胸が露わになる
そこを手のひらで撫ぜれば、ソリダスが小さく声をあげ

「…お前も脱げ、ジャック」

首を振って口付けを解くと、軽くシャツを引っ張りながら俺を見上げてきた
どうやら、自分だけ脱ぐのがお気に召さないらしい

「わかった」

ソリダスに言われるままに一度体を離し、着ていたシャツを脱いで脇に落とした瞬間
視界が、ぐるりと反転した

「…へ?」

思わずマヌケな声を上げてソリダスを見上げれば
にまぁっと、物凄く楽しそうな笑みを浮かべたソリダスが俺の太ももの上に乗っていた
逆光になっているせいか、その笑みに妙な迫力がある
そしてその手には、一体どこから出したのか何かのビン…おそらくチョコレートシロップのビンだ…が握られている

「え、と…ソリダス?」

「ん?どうしたジャック」

困惑している俺とは裏腹に、ソリダスは楽しそうな笑みを崩さないまま、可愛らしく小首を傾げて見せる
どうやら機嫌が最高にいいうえに、そういう気分らしい
普段なら嬉しいけど…ソリダスの手に握られているビンが物凄く気になる

「…そのビン、どうするんだ?」

ちらっとビンに視線をやると、ソリダスも手の中のビンに視線を移し

「わかっているだろう?」

物凄く魅惑的な表情で、微笑んだ
それと同時にビンが傾けられ、とろりとチョコレートシロップが垂らされる
俺の、体の上に

「うぁっ!?」

思わず声を上げた俺に、ソリダスはふふんと満足げに目を細めるとビンを置き、トロリと体の上を滑るチョコレートをペロリと舐め

「甘いな」

そう呟いて、ぺろぺろと舐め始めた

「そ、ソリダス!?」

いや何となく、何となくビンを見たときから予想はしていたけど…でも、できるなら俺がソリダスにチョコレートをかけて舐めたいんだけど!
起き上がろうにも、太ももの上にしっかりとソリダスが乗っている上に、上半身にもさりげなく体重がかけられている
無理矢理起き上がろうと思えばできるけど…そんなことをしたら、もれなくソリダスの怒りを買ってしまう
つまり、大人しくしているほかないのだ

「っ…」

ソリダスはまるで遊ぶように垂れたチョコレートを指先で広げ、それを辿るように舌を這わせていく
そのたび、くすぐったさとぞわぞわとした感覚が広がっていく
もぞり、と小さく体を動かせば、ソリダスは小さく笑ってちゅっと軽く吸い付いてくる
思わずびくりと体を震わせれば、それが面白かったのかちゅっちゅっと音を立ててキスを落としながら、ペロリとチョコレートを舐める

「そり、だす…」

さらにその指先が、胸から腹へと徐々に下に滑れば、どうしても期待してしまう
僅かに揺れた腰に気付いたのか、腹の上のチョコレートを舐めていたソリダスがコチラをチラリと見やり
ゆるりと、主張をはじめた場所を指先で撫でた


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