白いチョコレートで…
「ただいま」
買い物から帰ってきて、家の中に声をかける
だが、珍しく誰の声も返ってこない
そのことに、小さく首をかしげた
おかしいな…玄関の鍵は開いていたし、リビングの電気がついている。誰かはいるはずなんだが…
そう思いながら、小さな買い物袋を下げたままリビングへ足を踏み入れると
リキッドが、ソファーに座って真剣にテレビを見ていた
他の連中の姿は見当たらない
多分どこかへ出掛けているのだろう
「何だ、リキッドいたのか」
声をかけてみるが、リキッドはコチラに視線を寄越しもせずに小さく手を振ってみせた
多分、テレビに夢中になりすぎて俺が帰ってきたことに気付いてなかったんだろう
というか、この調子だと今声をかけたのが誰なのかも把握していなさそうだ
かなり嫌なことに、俺ら一家はリキッド以外声が物凄く似ている
家族である俺でさえも、何かに集中していると親父とソリダスの声を聞き間違えるし、当然2人もたまに聞き間違えている
これほど集中しているリキッドが、聞き間違えても何の不思議もない
「なぁ、リキッド」
「何だ、兄弟」
ソファーへと歩み寄り、足元に袋を置いて隣に座って声をかけてみると、リキッドは目だけでコチラを見て誰か確認した後、またすぐにテレビに視線を戻してしまった
どうやら、よほどテレビに夢中らしい
何となく、面白くない
「ホワイトチョコを体にかけたら、エロイと思わないか?」
なので、軽くリキッドの嫌いなシモネタを含んだ話題を振ってみる
一拍置いて、リキッドが心底嫌そうにこちらをチラリと見てきた
だが、反論しようとはしてこないしすぐにテレビに視線を戻してしまった
さっきの発言で、俺を無視することを決めたらしい
まぁ、無視されるなら反応するまで喋るだけだ
あのリキッドが、そう長いこと俺を無視できるはずもないし
「白だと何だかアレに見えて、普通のチョコよりもエロイと思わないか?」
「………」
「特に浅黒い肌にかけたら、それは映えるだろうな」
勝手に喋りながら、チラチラとリキッドの様子を伺う
口の端がピクピクと引きつっているし、目つきもさっきより鋭い
それでも必死に俺を見まいとテレビへと視線を固定し、どうにか無視を決め込もうとしているのが何だかおかしくて、つい噴出してしまった
「…何がおかしい、兄弟」
その声に、ついに…というか、もう我慢できなくなったのか、リキッドはリモコンを取ってテレビを消すと、俺の方を嫌そうに睨みつけてきた
その目は、呆れと侮蔑と嫌悪が入り混じっている
その顔をもっと歪ませたいと思うのは、愛ゆえかそれとも単純なイタズラ心か
「いや別に?ただ浅黒い体にホワイトチョコをかけたらエロイと思っただけだ」
「…俺はやらんぞ」
上にはTシャツしか羽織っていない体をじっくり舐めるように見回しながら、笑ってそういってやれば
リキッドが一瞬にして警戒態勢に入り、まるで威嚇するような低い声でそういって俺を睨みつけてくる
まるで猫が威嚇するような様に、漏れそうになる笑みを必死で堪える
「誰もお前にやるとは言ってない。何だ、やって欲しいのか?」
「誰が!!」
ニヤリ、とからかうように口の端をあげて見せれば、案の定リキッドは顔を真っ赤にして吼えた
それに堪えきれずに笑い出せば、リキッドはまだ赤く染まった頬のまま不快感を隠さない表情になり、盛大に舌打ちをした
「ところでリキッド、今日は何の日か知ってるか?」
「知らん」
まだ笑いが収まらないままでそういえば、リキッドは心底不快ですという目で俺を睨みつけてきた
そんなにイヤなら、俺を無視してさっさとリビングから出て行けばいいのに、こうして相手をするあたり、こいつはバカ正直というか、アホというか、そこが可愛いというか
こいつは構われたがりだからなぁと、勝手に結論付ける
「知らないのか?今日はバレンタインだ」
「で?」
「ほら、プレゼントだ」
足元においておいた袋の中から小さな箱を取り出し、リキッドへ軽く投げる
突然のことにリキッドは目を丸くしながらも、器用に俺の放り投げた箱をキャッチした
「…兄弟、これは?」
「言っただろう?バレンタインのプレゼントだ、受け取ってくれるか?」
憮然とした表情で俺と箱を見比べるリキッドに、にっこりと笑って言ってやる
一瞬だけリキッドの目が泳ぎ
「まぁ、もらってやらんでもない」
そう、ふんっと小さく鼻を鳴らしながらそういった
声は不快そうだが、目元は先ほどよりも緩んでいるし口元も小さく弧を描いている
「開けてみろ」
わかりやすい奴だなぁと思いながら、リキッドの手の中を箱を指差す
リキッドは、どこか機嫌良さそうに素直に箱の包装を破り
「…兄弟、ふざけているのか?」
中身を見た途端、一気に不機嫌そうに俺を睨みつけた
その表情に、自然と笑みが漏れる
「ふざけていないさ。正真正銘、お前へのバレンタインプレゼントだ」
浮かんだ笑みを引っ込めて、出来る限り真面目な顔でそういってやれば、リキッドはむぅ…と黙り、物凄く微妙そうな顔で俺と箱の中身を見比べている
予想通りの表情に、小さな満足感が俺の中で生まれる
リキッドに渡した箱の中身は、ホワイトチョコの詰め合わせ
ソリダスがお勧めする店のチョコレートだ
おそらく美味いだろうし、実際いいお値段だった
普段なら何の疑問もなく受け取るだろうが…さすがにあんな話の後ではいくら美味くても微妙な気分だろう
「食わないのか?」
「いや…後で食う」
実際、リキッドは完全に手の中のチョコレートを警戒している
チョコレート自体に細工はしてないが、こうも警戒されると何かしてやりたくなる
「それなら、1つくれないか?ソリダスから美味いと聞いていたからな、1つ食べてみたいんだ」
「貴様…人にやった物を寄越せとか…」
「いいじゃないか、1つくらい」
にこりと笑いながら手のひらをリキッドに向けて差し出してみせる
リキッドはため息を吐きながらも、箱の中のチョコレートを1つ俺の手のひらに乗せた
「さんきゅ」
それを見せ付けるように、口の中へ放り込む
その瞬間、程よい甘さと風味が口の中に広がる
さすが、あの重度の甘党が進めるだけの事はある
「ん、うまい」
もぐもぐと口を動かしていると、リキッドが眉間に皺を寄せて箱の中身を眺めている
おそらく、自分も食べようかどうしようか迷っているのだろう
その隙が命取りだって、何度体験すればわかるんだろうな
完全に油断しきっているリキッドの腕を取り、こちらに引き寄せて口付ける
突然のことに目を白黒させているリキッドが、何か言おうと口を開く
それを逃すことなく、開いた口の中に舌とチョコレートを突っ込む
「んー!」
やっと我に返ったのか、力いっぱい肩を押して抵抗してくるが、舌を絡めればその力が少しずつ緩んでいく
互いの舌でチョコを溶かしあえば、甘い味が口の中に広がっていく
それを堪能するようにたっぷりと咥内を蹂躙して、俺を押しのけようとしていた手が縋るようなものに変わる頃、ゆっくりと唇を離す
「はっ…」
酸欠か、それとも気持ちよかったのか、僅かに蕩けた瞳が俺を映す
その口元に、飲みきれなかった唾液が伝っている
ホワイトチョコレートの混ざったソレは、まさにアレと同じような白さに見えて
「…エロイな」
思わず、そう呟いてしまった
「……ソリッド・アイボリーがぁぁぁぁぁ!!!!!」
その瞬間、リキッドの顔が真っ赤になり、遠慮のない拳が飛んできた
「おっと」
それをリキッドの上から飛び退いてかわすと、リキッドは真っ赤な顔のまま服の袖でごしごしと口元を拭っている
その様がまたエロイのだが、ソレを言えば確実にケンカになるだろう
だから、その可愛い姿を眺めるだけにしておいたのだが
「こっの、ソリッドアイボリーが!!」
リキッドは、それも気にくわなかったらしい
真っ赤な顔のままそう叫ぶと、ドスドスと足音を立ててリビングから出て行った
だが、箱を持っていったあたり、心底イヤなわけではなかったようだ
「まったく…素直じゃないな」
まぁ、そこがあいつの可愛いところだと思うが
もう少し時間がたって機嫌が直ったら、本当にあの体にホワイトチョコを塗りたくってみたい
そんな親父臭いことを考えながら、俺はニヤつく顔を抑えきれないまま、口の中に残っているホワイトチョコレートの味を堪能した
コメントより、ホワイトチョコでイチャイチャを使わせていただきました!
何かこう…多分、意図されていたものとは違う予感がぷんぷんしますが、コレが限界でした
わがサイトのソリリキではこれが限界イチャイチャでした…
この後リキッドがホワイトチョコまみれになったのかどうかは、皆様のご想像にお任せします
投票、本当にありがとうございました!
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