特別な言葉を



日本では、バレンタインには好きな相手や世話になった異性にチョコレートを渡すという習慣があるらしい
日本生まれのマスターがくれるバレンタインプレゼントもチョコレートで、毎年俺はマスターがくれるチョコレートを楽しみにしている

たとえそれが、親父やリキッドやソリダスと全く同じ…いわゆる一家共同という形であったとしても

包装は個別だから、別々にくれてるんだと思いたいが…毎年、4人とも中身は一緒だし、包装紙もリボンも全く同じものだ
それでも手渡しでくれてるんだから、マスターから俺個人へのチョコレートだと必死で思い込み続けて数十年
今年のバレンタインは、正直期待している
理由は、ただ1つ
長年の俺のアピールがようやく実り、晴れてマスターの恋人というポジションを獲得したのだ
あまりのしつこさにほだされてくれただけのような気もするが、確かにマスターは俺の求愛に頷いてくれた

そして、マスターの恋人としてのポジションを勝ち得て初めてのバレンタイン
期待するなという方が、間違っている
今年こそは、今年こそはマスターから特別なチョコレートがもらえるのだと期待しまくっていた

そんな期待を込めて迎えた、2月14日、バレンタイン当日

「カズ、今年は何だ?」

「今年はガトーショコラだ」

「ミラーのケーキは美味いから楽しみだ」

「おい親父、今年は人の分まで食うなよ」

俺は親父達と共に、リビングでマスターを迎えていた

「(どうして、こうなった…)」

俺はマスターにわいわいと群がる蛇…もとい家族を眺めながら、1人ため息を吐いた

バレンタインチョコを持って行きたいんだが、今平気か?
そうマスターが電話してきたのは、今から30分ほど前
その電話を受けたのが俺ならすぐさまマスターを迎えに行くが、生憎電話を受けたのはソリダスだった
しかも
『全員出掛ける気配もないし、別に言わなくてもいいだろ』
という女王様理論で、マスターがチャイムを押すまで誰一人マスターの来訪を知らなかった
おかげで、玄関を開けに行った親父とマスターがリビングにやって来た瞬間、思わず飲んでいたコーヒーを噴出してしまった

『ま、マスター!?何で!!?』

『いや、電話したんだが…ソリダス?』

『別にミラーが来るのはいつものことだろう、いいじゃないか』

『…用は、みんなに言うのが面倒だったんだな?』

『まぁそうとも言うだろうな』

しれっと言い放つソリダスを殴りたい気持ちでいっぱいだったが、マスターの手前我慢し
そして、冒頭へと戻るのだが
別にこの後約束があるわけでもないし、このまま毎年のようにマスターがうちで飯を作って本来家主である俺達に振舞う展開になるのも、目に見えている
つまり、今日この後2人きりになる予定なんて、ない
この後マスターが、俺個人にチョコレートをくれるような時間も、ない

「ソリッド?」

そんなことを考えていると、マスターの不思議そうな声が耳に届く
その声にはっとしてマスターの方を見れば、手に包みを持ったマスターと、同じ包みを持っている親父達の姿が目に映った
どうやら俺が考え込んでいる間に、他の奴らはチョコを貰ったようだ

「どうしたソリッド、カズのチョコいらないのか?」

「いや、貰う」

せっかく恋人になったのに、今年も家族共同のチョコレート
マスターは、何を考えているんだろう
もしかして、恋人になったと舞い上がっているのは俺だけで、マスターは別に俺のこと恋人とか思ってないんじゃ…

少しだけ落ち込んだ気分になり、マスターから視線をそらして包みを受け取り…あれ?と思った
リボンの色が、ほんの少しだけ他の物と違った
よく見なければわからない違いだが、それでも親父達とは違うもの

これには、何か意味があるのか
それとも、ただ単にリボンが足りなくなって似たような色で誤魔化したのか
判断しかねて、マスターの顔を見る
マスターは、俺の視線を受けると目を細め

ないしょ

と口を動かし、イタズラっぽく笑った

その笑みに、これが意図的なものであると理解し
さっきまでの落ち込んだ気分が吹き飛んで、今度は逆に踊りだしたいような気持ちになる
はじめて貰った、マスターから俺へのバレンタインチョコ
冷凍庫に入れて、食べずに一生保存しておこうか?
そんなことを考えてしまうくらいの感動が、俺の胸を満たしていく

「おいカズ、食っていいか?」

が、そんな感動もつかの間
もう待ちきれないらしい親父が、そわそわとした様子で手の中の包みとマスターを見比べている
空気読めこのクソ親父!と舌の先まででかかったが、やはりマスターの手前必死で飲み込んだ

「あぁ、いいぞボス」

さすがにマスターも苦笑を浮かべ、まるで子どものようにそわそわしている親父にそう言った
その瞬間、すごい勢いでリボンに手をかけた親父を視界の端に収めながら、俺達も貰った包みを解いた

中に入っていたのは、マスターの作ったガトーショコラ
そして、フォーチュンクッキーが2つ
1つは、よくある白と黒の不規則な模様のもの
もう1つは、可愛らしいハートの模様が描いてあった

「ほう、フォーチュンクッキーか」

おそらく俺と同じものが入っていたんだろう
ソリダスがそれに気づいたようで、袋から持ち上げて興味深そうに眺めている
その指先にあるのは、不規則な模様のもの
続いて親父やリキッドも取り出したが、その手にあるのはソリダスと同じもの

「あぁ、1つずつ恋愛にまつわる運勢を書いて入れておいた。面白いだろ?」

マスターも、そう言いながら笑っている
つまり、ハートの模様のフォーチュンクッキーは、俺の袋の中にしかないんだろう

俺だけの、特別なバレンタインプレゼント
今すぐ見せびらかしてやりたい衝動を堪え、みんなと同じ物を取り出して、中に入っている紙を取り出す

「おぉ!俺は今年いい出逢いがあるらしいぞ!」

「………ふん、貴様が作ったのだろう?当てにならん」

「私は好きな相手とそれなりに仲良くやれるそうだ。ソリッドは?」

「あぁ…」

その手の中の紙をソリダスに見せびらかすように広げ、辺りに聞こえるような声で宣言する

「恋が実って、幸せになれるそうだ」

その瞬間、マスターがこちらを見てちょっぴり笑ったのは、気のせいじゃないはずだ

部屋に戻り、コッソリとハート模様のフォーチュンクッキーを取り出して中身を見る
その紙に書かれていたのは、知らない言葉
おそらくは、マスターの祖国日本の文字なのだろう
何が書かれているかは、わからない
だが、眺めているだけで幸せな気持ちになれる
マスターが、俺だけにくれた特別な言葉
それだけで、十分だった

頑張って日本語を覚えて、この言葉の意味を理解できたなら
マスターに、日本語で返事を書くのもいいかもしれないと思いながら
俺はその紙を失くさないよう、大切にしまい込んだ



















アンケート2位、ソリリキでした!
コメントより、ソリッドが幸せな話で、を使わせていただきました

う、うちのソリッド…そんなに不幸ですか?
いや、原作ベースだと酷いけど、現パロだと結構幸せじゃないですか!?
や、不憫なのが何となく見えるけど(コラ)

相変わらず現パロに逃げて申し訳ない、原作ベースはどう頑張ってもソリッド幸せになれないんです、我が家では…
誰か、誰か原作ベースで幸せなソリマスを書いてくださいませ!!

投票してくださり、本当にありがとうございました!

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