Sweet sakeにご用心?



「…ジャック、何のつもりだ?」

見慣れた白い天井と、私に覆いかぶさるジャックの顔を眺めながら、舌打ちしたい気持ちをどうにか抑え
ほんのりと染まった頬で私を見つめるジャックを軽く睨みつける

「ソリダス…」

だが、ジャックは堪えた様子もなく、にこりと笑って私を見下ろしている
ほんのりと酒臭いその息に、今度は堪えずに舌打ちをしてやった

この状態の、そもそもの原因
オセロットが少し早いバレンタインだと私に寄越した、上等なチョコレートリキュール
これならキングでも飲めますよ、などとからかい混じりに贈られたそれは、やはりからかいの意が含まれたいかにもバレンタインらしい大層可愛らしい包みに包まれていた
それをひったくるように受け取り、ニヤニヤと笑うオセロットに軽く拳を入れたのが昨日のこと
そしてせっかくだからとその酒を開けてみたのが、つい数時間前のことだ

言っておくが、私は別に酒が飲めないわけではない
付き合いであれば口にするし、さほど弱くもない
ただ、自分から進んで口にしようと思わないだけだ

あの男は何かにつけて人をからかう癖があるが、物を見る目は確かだ
ミルクで割っても楽しめますが、ストレートでも美味しいですよ
との言葉通り、甘すぎないその酒は中々楽しめた
その酒を楽しんでいるところに、ジャックがやってきた
ジャックが連絡もなしにやってくるのは、とても珍しい

『どうしたジャック、何か用か?』

普段なら文句の1つでも投げかけてやるが、機嫌がよかった私は何も言わずにジャックを招き入れてやった

『あ、あぁ…ちょっと……酒?珍しいな、ソリダスが酒を飲んでるなんて』

『あぁ、チョコレートリキュールだ。オセロットからバレンタインのプレゼントだ』

『オセロット、から?』

『中々美味いぞ、お前も飲め』

ジャックはなぜか複雑そうな顔をしていたが、グラスに注いで渡してやれば、大人しくそれに口付けた

『あ、美味い』

『あの男の物を見る目は確かだからな』

それから2人で、雑談をしながらリキュールを楽しんでいたが
甘い酒だからと、つまみを用意していなかったのが悪かったのか
それとも、ストレートで飲ませたのが悪かったのか

『…ジャック?』

気が付けば、ジャックは私の言葉に曖昧な返事を繰り返すようになっていた
完全に、酔ってしまっているようだ
その時になって初めて、ジャックと酒を飲んだのが初めてだということに気が付いた
酒に強いのか弱いのか、知らないのだ
いつもなら気がつけるが、どうやら私も多少酔っていたようだ

『ジャック、大丈夫か?』

ふらふらと揺れる肩を軽く揺すって、少し伏せられた顔を覗き込む
するとジャックは、とろんとした酔っ払い特有の瞳で私を見ると
その場に、私を押し倒した

「ジャック、私を怒らせたくなければ、今すぐにどけろ」

いつもなら、私が少しキツイ言葉を言えば、ジャックはすぐ引き下がる
だが、今日は酔って気が大きくなっているのか、動く気配がない

「ソリダス…可愛い…」

それどころか、どこか嬉しそうに笑って私に口付ける
遠慮などないそのキスに性的な色を感じて、ぞわりと肌が粟立つ

この男は、誰だ?
そんな言葉が、頭の中に過ぎる

こんなジャックを、私は知らない
こうして私の意思を無視して触れてくる手を、知らない
一方的に押し付けられるような感情も欲情も、知らない
誰だ?この男は、私を無理矢理抱こうとしているのは、誰だ?

怯えにも似た感情が、胸の中に湧き上がる

「っ…離せ!」

首を振って口付けを解き、力いっぱいジャックの体を殴りつける
だが、上に乗っているジャックは一瞬息を詰めだけで、その体はびくともしない
純粋な腕力という面では、私とジャックにそう差はない
それなら、上に乗っているジャックの方が有利なことくらい、簡単にわかる
そのことが、より恐怖感を煽る

「聞こえなかったか、離せ!!」

全身を使って、どうにかジャックの下から這い出ようともがく
だが、ジャックも私を逃がす気はないらしく、全力で押さえ込まれる
この体勢では力で敵わないという現実をまざまざと見せ付けられて、怯えと混乱が心を支配する
体が、思い通りに動かせない
呼吸すら、うまくできなくなる

「やめろ…やめてくれ、ジャックっ」

もう、どうしたらいいかわからずに
目の前の男を見たくなくて、ぎゅうっと力いっぱい目を閉じた

「ソリダス…」

不意に、ジャックの声が泣きそうに震えた
うっすらと目を開ければ、少しだけ眉間に皺を寄せて唇をかみ締めてたまま、ジャックが私を見ていた
この表情は、昔…ジャックがまだ幼かった頃よく見たものだ
泣きたいのを、必死で堪えているときの顔
その顔に驚きと軽い困惑を覚えていると

「ソリダスは…オセロットが、好きなのか?」

ジャックは真剣に、頓珍漢なことを言い放った
その言葉に、今度こそぽかんと口を開けてしまう
あの男が好きか嫌いかと問われれば、好きだと答えるだろう
だが、ジャックが聞きたいのはおそらくそういう意味ではないだろう
遠い昔、私がまだ幼かった頃まで掘り返せば、そういう感情を抱いたことがないといえば嘘になるが、一応私の恋人は今目の前にいる男だ
…こいつは、私が好いてもいない相手を恋人にすると思っているのだろうか
次から次へと浮かぶ言葉を混乱する頭では処理できず、ただ黙ってジャックを睨みつけた

「…やっぱり、オセロットが好きなのか」

私の沈黙を悪い方へとったらしいジャックはくしゃりと顔を歪めて、じわりと目元に涙を滲ませた
どうして無理矢理事に及ぼうとしているお前が泣きそうなんだ
泣きたいのは、私のほうだというのに

「誰もそんなことは言っていない」

「だって、俺の事拒むし」

「お前が無理矢理シようとするからだ」

「でも…オセロットからバレンタインのチョコ貰ってるし」

「毎年のことだ、何を今更」

「でも…」

ぐずぐずと、まるで女のようなことを繰り返すジャックにさすがにイラッとし
同時に、混乱していた思考がどんどんと冷静になっていく

「何だ、言いたい事があるならはっきり言え」

少しだけ強めの口調でそういえば、ジャックはしばらく落ち着きなく視線をさ迷わせ

「…怖いんだ」

そう、ポツリと呟いた

「怖い?」

「ソリダスが、どこかいってしまいそうで…オセロットのとことか、俺の知らない誰かのとことか…俺のとこから、いなくなってしまいそうで…」

どんどんと、ジャックの声のトーンが沈んでいく
同時に、表情もみるみるうちに暗いものへと変わっていく
自分の言葉に、本気で落ち込んでいっているらしい

「…そんなに私がどこかへ行くのがイヤか?」

その言葉にジャックは小さく頷き、真っ直ぐに私の目を見た

「だって…俺は、こんなにソリダスが好きなのに…」

ジャックの泣きそうな、けれど真っ直ぐな言葉に
固まっていた体から、ゆっくりと力が抜けていく

あぁ、私は何を恐れていたのだ
こいつは、ジャックじゃないか
昔から気が弱いし、人の言葉をすぐ悪いほうに取るし、意外に思い込みは激しいし
でも、何だかんだでいつも私に付き合ってくれて、捻くれた私とは違って素直に愛情を表現してくれる
私の、ジャックだ
それに気付いた途端、さっきまでの自分を笑い飛ばしたいような気持ちになった

「いいかジャック…一度しか言わないからよく聞け」

酒で赤く染まった頬に手を伸ばし、ゆるりと撫でてやる
ジャックの揺れる瞳が、ゆっくりと私に向けられる

「私は、お前が離れても追わないし縋る気もない。離れたければ勝手に離れればいい」

私の言葉に、青い瞳が泣きそうに歪む
おそらく、私の言葉を悪い方へ取っているのだろう
そういうところは気が大きくなっていても変わらないんだなと、何となくおかしな気分になる

「だが…私から手放す気もない。離れてほしくなければ、お前が離れなければいいだけの話だ」

頬から唇へと指を滑らせ、その場所を軽くなでながら、きっぱりとそう宣言してやる
私の言葉があまりのも予想外だったのか、さっきまで泣きそうだったジャックの顔が、何が何だかよくわかっていないといわんばかりのものへと変わる
ぽかんと真ん丸くなった瞳が、私の顔を映しだす
ジャックの青い瞳の中の私は、うっすらと微笑んでいた

「お前はお前らしく、私にだけ尻尾を振っていればいい」

マヌケにうっすらと開いた唇に軽く口付け、さらりとした金の髪を撫でてやれば、ジャックの目からぼろりと涙が零れ落ち

「ソリダス〜」

そのままぼろぼろと泣きながら情けない声をあげ、ぎゅうっと背に腕を回して抱きついてきた
力加減が出来ていないせいか、少し苦しい

まったく…笑い上戸の泣き上戸か
酔うと厄介な男だったんだな、コイツは
だが、悪い気はしない
こうして素直な行為を示されるのは、嫌いじゃない

それが、好いている相手ならなおさらだ

ぽんぽんとあやすように背を叩いてやりながら、楽しいような嬉しいような、妙な気分のまま私は笑った

「…ごめん、ソリダス」

暫く泣いて落ち着いたのか、少しだけバツが悪そうにジャックは私の顔を覗き込んだ

「今回は許してやるが、次はないと思え」

冗談めかしてそういってやれば、ジャックはこくりと頷いて笑った
その嬉しそうな顔に笑い返してやれば、すぅっと青い瞳が細まり
まるで啄むように口付けられ、手がゆるりと太ももを撫でる
その手もキスも性的な色を持っていたが、先ほどのように一方的に押し付けるようなものではなく、私の欲を煽るようなものだ
おそらく払いのければ、今のジャックは私に無理強いはしないだろう
だが、今日は好きにさせてやることにした

もうすぐバレンタインだ
今日くらい、好きにさせてやってもいいだろう…チョコレートのかわりだ
こいつにはそれなりのチョコレートを用意していたが、それは私が食べることにしよう
それくらいの報復は、させてもらわないとな

続けてもいいか?と私を見つめるジャックに小さく笑いかけ
その背に腕を回して、答えてやった





目を覚ましたときのジャックの顔は、今まで見てきた中で5本の指に入るほどおかしなものだった
わけがわからないという表情で、全裸の私と自分をひたすら見比べ、私に縋るような目を向けてきた
どうやら、何一つ覚えていないらしい

「どうした、ジャック」

「あの…その、これ…一体、何が…?え?」

「酷いなジャック…私にあんなことをしておいて、覚えていないなど」

「え…え!?俺何した!?」

「…私に、そんなことを言わせる気か?」

「えぇ!?ご、ごめんソリダス!!俺何したんだ!?」

軽く睨みつけてやれば、ジャックはいつもの通り面白いくらい慌てだす
それに笑いが漏れそうになるが、我慢してあからさまなため息を吐いてやる

「はぁ〜…人にレイプまがいのことをしておいて覚えていないとは…いい度胸だな、ジャック」

あながち嘘でもないだろう
始まりは確かにレイプめいたものだったし、最中もいつもより強引だった
まぁ、いつもとは趣向が違って中々楽しめた、ということは別に言わなくてもいいだろう

「えぇぇぇ!!?」

何も覚えていないらしいジャックは、私の言葉を真に受けて顔をざぁっと青くし
ぴしりと、音がしそうな勢いで固まった

「…ご、ごめんソリダス!!本当にごめん!!!」

暫くの沈黙の後、ようやく我に返り泣きそうな顔で土下座をするジャックを眺めながら
たまには酒を飲ますのも面白いなと思った






















アンケート4位雷斜でした!
コメントより、本気の雷電を使わせていただきました

何処が本気の雷電なのか!!!
いえ、我が家の雷電がソリダスがたじたじになるレベルで本気出すには、酒くらいしかないだろうと書き始めたら
もう…書いてる本人も何が何だか…
何だこれ…本当に何だこれ!?

雷電がウザくてすみません、本気出してなくてすみません、結局ソリダスが女王様ですみません
何もかもすみません…所詮は我が家の雷電でした
ドヘタレでソリダス大好きな、なんか間違った雷電です

雷斜、好きだけと全く思い通りになってくれなくて困る…
雷斜好きです、雷斜好きさん増えろ〜我が家の2人じゃ無理だけど…

タイトルのセンスを誰かください(切実)

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