Oh My Girl!バレンタイン特別編



バレンタイン当日、俺は執務室に篭って溜めた書類を片付けていた
…というのは建前で、実際はあまり進まない書類を眺めながら、あることばかりを考えていた

「カズから、チョコが欲しい…」

そう、どうしたらカズからチョコレートがもらえるか、だった

カズは、女であることを隠してこのマザーベースで副指令をやっている
あの豊かな胸を隠し、男として俺のサポートをしてくれている

そして、俺はそんなカズに惚れている
おそらく初めて会ったときから惚れているんだろうが、未だにあの時から何一つ関係は進んでいない
自分でもそろそろどうにかしたいと思うし、物凄く強力なライバルも出来たことだし、早めに決着は付けたいと常々思っている
だが、どうしたらいいかさっぱりわからず手詰まりだというのが正直なところだ

だから、日本では、バレンタインデーに女性が好きな相手にチョコレートを渡す習慣があるとジェーンから聞いた瞬間、チャンスだと思った
何故女性限定でチョコレート限定なのかはわからないが、日本でも愛する人間にプレゼントを贈るという習慣はあるのだ、と

元々俺の祖国アメリカでも、バレンタインに恋人同士や親しいもの同士でプレゼントを交換し合うという文化はある
なので、カズにプレゼントを渡そうかとも思ったが、いくら親しい間柄とはいえ、野郎同士でプレゼントを交換し合うのはここでは不味い
職業柄野郎の割合が多く、女に飢え手近な男で済ます輩も多い状況で、男同士でプレゼントを交換といったら、そういう意味にとられてしまう可能性が高い
うっかり俺がカズにプレゼントを渡したことが部隊中に知れ渡ったら、不味いことになる
俺がそういう目で見られるのは一向に構わないが、カズがそういう目で見られたりしたらとんでもなく困る
いくら男だと誤魔化しているとはいえ、あの美貌だ
出来る限り排除はしているが、カズをそういう目で見る輩は少なくはない
カズがそうだという噂が広まるだけでなく、あまつさえ強引に迫られたりしたら、それで女であることがばれたりしたら…
考えるだけでも、恐ろしい

「ならせめて、カズからチョコが欲しい…」

ならばせめて、カズからのチョコレートが欲しいと思ったが
だが、さっきも言ったとおり、俺とカズは別に恋人同士でも何でもない
嫌われてはいないだろうが、恋人になるほど好かれている自信もない
そんなカズが、自主的にチョコレートをくれるかと考えれば…くれない可能性のほうが高いだろう
だが、そんな習慣があるのなら惚れた女からチョコが欲しいと思うのは、当然の男心だ
ただ、どうやったらチョコがもらえるのかわからない
チョコをねだれば、当然どうしてか聞かれるだろう
そうなれば、当然俺がカズに惚れていてチョコが欲しいと説明しなければならない
それはもう、告白と一緒だ
それができるなら、とっくの昔にどうにかなっている

「スネーク、入っていいか?」

普段使わない頭を使って考え込んでいると、控えめなノックの音と共に俺の悩みの原因であるカズの声が聞こえてきた

「あぁ、開いているぞ」

慌ててペンを持ち直し、適当に書類を手にとって眺める振りをしながら扉の向こうへと声をかける
カチャリと扉が開く音がして、白いカップを持ったカズが部屋に入ってきた

「なんだ、結構進んでるじゃないか」

うむ、とどこか満足げなカズに釣られてすぐ横に視線をやると
いつの間にか、サイン澄みの書類の山が出来ていた
どうやら、考えながら無意識に書類にサインをしていたらしい

「あ、あぁ…まぁな」

全く覚えていないサイン隅の書類の山に軽く冷や汗が流れたが、それを今口にすればカズから雷が落ちることは目に見えていたので、曖昧に笑って誤魔化した
何かあったら、疲れていたと誤魔化そう

「ほら、疲れたときは甘いものだ、そうだろ?」

そんな頭の中を読まれたら怒られそうなことを考えていると、カズはやけに早口でそう言い
ごんっと中身が溢れそうな勢いで、カップをテーブルに叩き付けた
ふわり、と漂う甘い香りは、いつものコーヒーのものではない

「ココア、か?」

たぷたぷと今にもカップのふちから溢れそうに揺れているそれは、薄茶色のココアだった
いつもはコーヒーなのに、珍しい
そう思いカズを見上げると、カズは物凄い目で俺を睨んでいた
その強い目に、一瞬気圧される

「あぁ、俺が淹れた。粉から練って俺が淹れた、俺が自分で淹れた」

カズはその表情を崩さないまま、早口のままやたらと同じ言葉を繰り返す
…ココアという物を淹れたことはないが、やたらと主張するほど難しいものなのだろうか
困惑したままカップからカズに視線を戻すと、さぁ受け取れといわんばかりの物凄い気迫を浮かべた表情で俺を見ていた

「あ、あぁ…ありがとう、カズ」

頭の中が疑問符で一杯になりながらも、その気迫に押されて恐る恐るカップを持ち上げた

「じゃ、俺仕事あるからまたな!!」

その瞬間、カズはくるりと振り返り声を変える暇もなく早足で…むしろダッシュで部屋から飛び出していった

「お、おいカズ!?」

慌てて声をかけたが、その時にはカズはもう部屋から消えていた
何が何だかわからずに、俺は暫くカズが消えた扉をポカンと眺めていた

「…何だったんだ?」

そう呟いても、返事が返ってくるわけでもなく、俺の声だけが虚しく響く
とりあえず落ち着くために、カズが持ってきてくれたココアを飲むことにした

「…美味い」

さすがはカズが淹れたものだ、ほんのりと甘いココアは中々美味い
それをチビチビと口に含みながら、俺は小さくため息を吐いた
正直、カズが部屋にきてくれたら思い切ってチョコをねだってみようかと思い始めた矢先の、嵐のような訪問
やはり嫌われているのだろうか…とネガティブな思考が頭の中で回り始める
こんなことでは、カズからのチョコなど夢また夢…

「スネーク、ちょっといいかしら?」

軽く凹んでいると、今度は扉の向こうからよく知った声が聞こえてきた

「あぁ、ジェーンか…開いてるぞ」

昔からの知り合いに、俺は落ち込んでいるのを隠そうとせずに声をかける
すると可愛らしい小柄な女…中身は魔王だが…ジェーンが書類片手に入ってきた

「書類にサインが欲しいんだけど…どうしたの、何か声が沈んでるけど」

「あぁ…ちょっとな…」

「あら、ココア?珍しいわね、いつもはコーヒーなのに」

「あぁ、カズが淹れてくれたんだ」

さっきの嵐を思い出して、少し落ち込んだままそう答えると、ジェーンの目が驚いたように丸くなった

「ミラーが?ほんとに?」

「嘘をついてどうする」

「…はは〜ん、だからさっき顔真っ赤で廊下走ってたのね」

かと思えば、ニヤニヤとどこか楽しげな表情で笑い始めた
ジェーンの百面相に、頭の中が再び疑問符で一杯になる

「このココアが、どうかしたのか」

何が何だかわからずに、軽くカップを持ち上げてジェーンを見上げる

「あら、スネーク知らないの?」

状況がわかっていない俺を見返し、ジェーンはどこかおかしそうに笑い

「あのねスネーク…ココアはね、ホットチョコレートとも言うのよ」

楽しげに、けれど優しい声でそう言った
ジェーンのその言葉に、一瞬思考が真っ白になり

今日に限ってコーヒーではなく、ココアだったり
なぜか物凄い目で俺を睨んでいたり
やたら自分で粉から入れたと主張したり
俺がコップを持った瞬間逃げるように部屋から出て行ってしまったり

そういった小さな疑問達が、1つの線で繋がった

「ジェーン!カズはどっちに走って行った!?」

「射撃場のほうよ。多分そこにいるんじゃないかしら?」

「ありがとう!」

俺は慌ててココアを一気に煽り、カズが飛び出していった扉へと駆け出した

「スネーク、頑張ってね!ミラーを泣かしちゃだめよ〜?」

「もちろんだ!」

背中に楽しそうなジェーンの声を受け、俺は叫ぶようにそう言った
素直じゃない、けれどカズらしいチョコレート
その味を思い出し、自然と浮かぶ笑みを抑えないまま
カズにどうやって想いを伝えようか、それだけを考えて廊下を全力疾走した



















コメントより、にょたカズでボスを幸せな目に、でした!

にょたカズでスネークの最大の幸せといえば、やはりカズからチョコがもらえることだろう!ほぼそうに違いない!
というスタンスで書いたこの話
あんまり幸せな目にあっていない気がします

でも、書きたいネタが書けたので満足です

あ、ちなみにこれ番外編です
本編では当分恋人になれない予感がします(コラ)
というか、この話で恋人になれるかどうかもわかりません
例えば義理だ義理!と真っ赤な顔で右ストレートをかますカズという結論になるかもしれませんしね!

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