カカオ99%の恋



「お疲れさんスネーク、終わったか」

たまりに溜まった事務仕事を、四苦八苦しながらもどうにか終えたらしいスネークが伸びをするのが視界の隅に入り
俺も書類から顔を上げ、スネークのほうへと視線をやる

「あぁ、めどはついたが…何でこんなに書類が多いんだ…」

「溜めるからだろ?第一、俺はアンタに最低限の書類しか回してないはずだが」

ブツブツと文句を言うスネークに正論で返してやれば、溜め込んでいた自覚はあるのかむぅ、と口を尖らせはするものの何も言い返してこない
そのどこか子どもじみた仕草に自然と浮かぶ苦笑を隠さないまま、俺はデスクのすぐ側に備え付けられた冷蔵庫からあるモノを取り出した

「ま、めどが付いたなら休憩しないか?いいものがあるんだ」

俺は冷蔵庫から取り出したモノを、そのままスネークに手渡した
その上に乗っているのは、俺特製のチョコトリュフ
ココアパウダーとシュガーパウダーをかけた、俺の自信作

「ほう、チョコレートか」

ふわりと香る甘い香りに、さっきまで不機嫌そうだったスネークの顔が一気に明るくなる
本当に、食い物の事に関してはわかりやすいなこの男は
普段からコレくらいわかりやすければ、俺もやりやすいんだが…
そんなことを思いながら、ミルクも取り出してミルクパンに注ぎ入れ、コンロに火をつけた

「今日はバレンタインだからな」

「そうだったか?」

「あぁ。ちなみに日本では、バレンタインに恋人にチョコレートを渡す習慣があるんだ」

「変わった習慣だな」

「あぁ、日本独特の習慣なんだ。まずは白いやつから食べてみてくれないか?」

ほどよく温まったホットミルクをカップに注ぎながら、キラキラとした目でチョコレートと俺を交互に見つめている…まるで、待てといわれた犬のようだ…スネークにそう言ってやれば
スネークは上機嫌に、シュガーパウダーのかかったチョコを1つ口の中に放り込み

「…んぐ」

俺が予想したとおり、一瞬で眉間に盛大に皺を寄せて唸り
ほぼ同時に、喉が上下に動いた
吐き出すかと思ったが、どうやらそのまま飲み込んだようだ
その表情に堪えきれない笑いを漏らしながらホットミルクを渡せば、スネークはそれをひったくるように受け取ると一気に飲み干した

「…カズ、何だコレは?」

「チョコレートだ。ただし、カカオ99%のな」

渋い表情のまま俺を睨みつけるスネークに、種明かしをしてやる
そう、俺が渡したチョコレート
正確にはシュガーパウダーがかかっているほうは、ちょっとしたツテで手に入れたカカオ99%のチョコレートが元になっている
バターやら生クリームを多少足してあるが、甘さなんて欠片もあったもんじゃない

甘い砂糖の衣を纏って、甘い香りを放ちながらも
その実、中身は口にできたモンじゃないくらい苦い
まるで、俺達みたいなチョコレート

俺とスネークは、いわゆる恋人同士というやつだ
ただし、互いの演技の上に成り立つ
ある種、虚像の恋人同士

俺のスネークへの気持ちは、嘘じゃない
ちゃんと愛しているし、大切だとも思う
そうじゃなきゃ、抱かれたりなんかしない
たとえ演技でも、俺は俺を安売りしない

だけど、所詮この関係は騙し合いの延長上にあるもの
俺はスネークに嘘をついているし、スネークが俺に何かを隠していることも知っている
きっとスネークも、俺が嘘をついていることを薄々感づいているだろう
互いに互いを騙していると知っている上で、どちらも何も言わない
知らないふりをして、見ないふりをして
裏ではお互いに腹の中を探り合っている
腹の中に苦いモノを隠しながら、口先では甘い愛の言葉を囁きあう

まさに、このチョコレートそのものだ

「…まだ口の中が苦いんだが」

「ごめんって。ココアかかってるほうは普通のチョコだから、口直しにそっち食えよ」

渋い顔のまま口元を抑えるスネークに、笑いながらまだ皿の上に残るチョコレートを指差す
スネークは訝しげにチョコレートと俺の顔を見比べ

「…いや、口直しならコチラのほうが甘そうだ」

そう言って不敵に笑うと、俺の腕を引き寄せて強引にキスをしてきた
驚いて何か言おうと開いた唇に、スネークの舌が押し入ってくる
まだチョコが残っているのか、その舌先は酷く苦い

「…やはり、お前は甘いな」

散々咥内を好き勝手蹂躙しまくった後、スネークは唇を離し
ニヤリと、どこか獣じみた笑みを浮かべた

「アンタは苦いよ、スネーク」

ゆるりと体を撫でる手に、スネークの欲情を感じて
その偽りの甘さと、舌先に残る確かな苦味を感じながら
今度は、自分から舌を出して見せた



カカオ99%の恋



俺達に甘いだけの恋なんて不釣合いだ
だから、コレくらい苦いほうがちょうどいい
だけど、少しくらい甘い夢を見たっていいじゃないか


















コメントより、ネイカズシリアスでした!

シリアス…シリアス??(聞くな)
バレンタインでシリアスって、こんなネタしか思いつかなかったorz
しかもシリアスじゃないし

つか、カカオ99%は本気で苦いです
あれは人類の食べるものではありません
ソレを食いきったスネークの愛の深さを感じてやってください(何)


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