重ね重なり混ざり合う・1



「ほう、中々上物のブランデーだな」

「さすが、アンタは話がわかるな!手に入れるの大変だったんだ」

芳醇な香りの酒を口に含み、素直な観想を言えば
目の前の男…ミラーは嬉しそうに笑って同じように杯の中のブランデーを口に含んだ

「これくらいわかるさ。こうみえても、酒とコーヒーには少々うるさいのでね」

「はぁ〜…アンタくらいスネークも酒にこだわってくれればいいんだけどな。アイツはこのブランデーもやっすいビールもどっちも同じ酒だろ?なんていいやがる!」

「ははは、戦場で生きていればそうなるものだよ」

その時のことを思い出したのか、ふるふると拳を震わせながら不機嫌そうに唇をとがらせるミラーに、苦笑混じりの言葉を返してやり
上質のソファーへと背を預け、美しく磨かれたグラスを傾けた

ここは、私が普段いる独房ではない
目の前にいる男、ミラーの私室だ

私の何が気に入ったのか、ミラーは時々独房からコッソリと私を連れ出して
こうして部屋へと連れ込み、酒を飲みながら話をする
それは仕事の愚痴だったり、自身の思い出話だったり、恋人であるビックボスへの惚気混じりの文句だったりする
私は基本的に、彼の話を聞いて相槌をうってやるだけだ

何故私をこうして部屋へ誘うのか?と以前問いかけたところ

『アンタみたいに、酒に詳しい奴と飲みたいんだよ。ここの奴らは酒は酔えればいいと思ってやがる奴が多いからな…うちのボスを筆頭に』

と、これまた中々上物のワインを揺らしながら、どこか困ったように笑っていた

こう見えても、私は人生の大半を軍で過ごしてきた
若い頃から数多の諜報活動に携わり、人間の心理についても学んだことがある
そんな私から見れば、ミラーは重度のファザコンだ
彼の父親が私くらいの年で死んだという話を聞いたことがあるから、おそらく私に父親を重ねているのだろう

『アンタ、笑うと親父に似てる』

以前酔いに任せてそんなことを口走ったこともあるし、いくら私が彼の全貌を知るサイファーの仲間とはいえ、警戒を解くのが早すぎると感じた

父親との思い出があまりいいものではなかった分、理想の父親を求めているのだろう
彼の恋人であるビッグボスも、一回り年上だ

年上の男がよほど好きなのだろうなと思いながら、目の前で喋り続けるミラーを眺める
上機嫌に喋る続けるミラーの言葉を肴に酒を傾け
時折、彼が望むであろう返事を返してやる
いつもの、とても心地のいい空間

ふと、先ほどまでマシンガンのように喋る続けていたミラーが黙った
ブランデーを傾けながら、目の前の男をチラリと見やる
白い肌が酔いのせいかほんのりと赤く染まって、妙な色気がある
いつもはサングラスに隠されている蒼い瞳も、とろりと潤んでいる

チラチラと、こちらを誘うような雰囲気を持った瞳で伺うその視線に気付かないふりをしながら、グラスを傾ける
妙な沈黙が、部屋を支配する
やがてミラーは焦れたように杯を机に置いて立ち上がり

「ちょっと、酔った」

私の隣に腰を下ろすと、くたりと甘えるようにもたれかかってきた

甘えるような…誘うような視線を向けられたのは、初めてではない
だが、こうやって行動に移してきたのは、今回が初めてだ
少しだけ驚いて彼を見れば、とろんと潤んだ蒼い瞳が私を見返し
すりすりと、猫のように体を擦り付けてきた
少しだけ苦笑しながらその柔らかな髪を撫でてやれば

「なぁ…ザドルノフ…」

すっと気持ち良さそうに目を細めたミラーは、私の膝の上へと移動して体を擦り寄せる

その行動の意味がわからないほど、私は若くも初心でもない
決定的な言葉は口にしないが、明らかに性的な意味を持って誘われている

「どうしたのかねミラー?」

だが、それにも気付かないふりをして彼ににこりと笑ってやる
途端に、彼の表情が不機嫌そうなものへと変わる

「アンタ、意地悪い…わかってるくせに」

「生憎、私はこう見えても朴念仁なものでね。君が何を求めているのかわからないんだ」

からかうように言ってやれば、ミラーはわかってんじゃん…と唇を尖らせ

「…お願い、抱いて」

私の首に腕を巻きつけ、耳元でそう甘く囁いた

甘えるように体を擦り寄せるミラーに、ふとある考えが頭をよぎる
この男は、どうやって甘えたらいいのかわからないのかもしれない
甘えたくて、抱きしめて欲しくて
どちらも自然と満たせる、性行為を相手にねだる

あまりに不器用で悲しい、甘え方
そうなるまでに、彼はどれほどまでの悲しみを抱えたのだろうかと、一瞬思ったが

「…君は、ビックボスの恋人だろう?いいのかね?」

私はこの男のあまりにも魅力的な姿に、抗えそうにない
小さな最後の抵抗に、彼が最も愛しているであろう恋人の名前を出せば

「…バレなければいいさ」

一瞬きょとんとした後、まるでいたずらっ子のような笑みでそう言い
私に、口付けた

柔らかく甘い唇に誘われるままに
私も彼の背へと腕を伸ばし抱きしめた


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