違う世界、違う僕ら



僕は科学者で、君は兵士
僕は1人では歩けなくて、君はしっかりとその足で大地を踏みしめて
僕はメガネをかけなくてはよく見えなくて、君の目は片方しかない

そんな違う僕らの見ている世界は、どれくらい違っているんだろうね
ねぇ、スネーク?

「…うん、大体こんな感じかな?」

ふぅ…とため息を吐いてパソコンから視線を外す
ZEKEの駆動系に一部欠陥があったけど、どうにかその原因を突き止めて解決策を見つけることに成功した
おかげでどうにか、提出期限までに書類が間に合いそうだ

研究にめどが立つと、大抵思考は研究以外のことを考え出す
今日も、猫背でパソコンに向かっていたせいですっかり縮まってしまった背筋を伸ばして大きく息を吐いた瞬間
ふと、スネークの顔が思い浮かんだ

2本の足でしっかりと大地を踏みしめる、隻眼の僕らのボス

ふと、彼の世界はどんな感じなんだろうという疑問が浮かんできた
僕は兵士にはなれないし、自分の足で立つこともできない
でも、少しだけ君の見ている世界に近づいてみたくて
少しだけ、同じ景色を見てみたくて
右目の瞼を、指で押さえてみた

「あ…半分になるわけじゃないんだ」

そのまま、左の目でだけ辺りを見回してみる
視界が半分になるかと思ったけど、見えなくなるのは視界の右側3分の1にも満たない部分
今は右側を意識してしまうからかもしれないけど、ただ見るだけなら、特に不自由しないかもしれない

「あ〜、でも遠近感わかりにくいかも…」

けど、片目な分遠近感が多少わかりにくい
でも、僕は科学者で、普段デスクに座ってばかりだからあまり困らないかもしれない

「…何をしてるんだ、ヒューイ」

右目を押さえたままあちこち見渡していると、後ろから呆れたような声が聞こえて、ビクッと反射的に体が跳ねる

「あ…スネーク」

「おいおい…何をそんなに驚いてるんだ」

「いきなり声をかけられたら、ビックリするよ」

「それはすまなかった」

口では謝りながらも、スネークは笑いながら近くにあった椅子に腰を下ろした
こうやって、スネークが僕の研究室を訪れることは時々ある
大抵、暇を持て余したときなんだけどね

「で、何をしていたんだ?」

「う〜ん…なんて言うか、君の見ている世界を見てみたかったんだ」

「俺の見ている世界?」

訝しげに眉を寄せるスネークに、少しだけ苦笑して見せて
もう一度、右目を指で押さえてみる

「うん。ほら、君右目が見えないだろう?右目が見えないって、どんな感じなのかなぁって思ってさ」

「ほう…で、どんな感じだ?」

「不思議な感じはするけど…僕はあまり困らないかもしれないなぁ。ほら、僕は科学者だし。…後、君は凄い人なんだなって思った」

指を離して、スネークに視線をやると
その表情が、不思議そうなものに変わる

「凄いか?俺が?」

「うん。僕は片目がなくても困らないけど、君はないと凄く不自由なんだろうなって思ってさ。遠近感とかよくわからないし、視界の端は欠けちゃうし」

僕は科学者だ、だから、片目がなくても困りはしない
けど、スネークは兵士だ
僕とは違って戦場で命のやり取りをする彼にとっては、僕が困らない視界の端3分の1も、掴みにくい遠近感も致命的なんだろうと思う

そう考えると、やっぱりスネークは凄いんだなぁと思う
致命的な弱点を持っているのに、それでも伝説の兵士として、ここのボスとして立っている
僕は、どうなんだろうか
僕は歩けないけど、別に科学者としては困りはしない
ここでZEKEの開発を任されてはいるけど、指揮を取ってるのはストレンジラブ博士で
それに、ZEKEに使われている技術は、遠い地に住んでいた友人のアイデアだ
僕は、それを煮詰めて形にしただけ

僕は、ここで役に立てているのだろうか
君の側にいるのに、ふさわしい人間なんだろうか
僕の見ている世界は、ほんの少しでも君の役に立てているんだろうか

「まぁ、最初は困ったが…今は不自由してない。ようは慣れだ」

「あはは、慣れかぁ…君は本当に凄いね、スネーク」

そんなネガティブな思考を少しでも吹き飛ばしたくて、できるだけ明るく笑って見せる
すぐネガティブになるのは、僕の悪い癖だ
よくそれで、ストレンジラブを怒らせてしまう
スネークと…彼と出会って、どこまでも真っ直ぐな彼を見て
僕も、少しでもこんなダメな僕を変えたいと思って、努力はしているけれど
やっぱり、人間というものはすぐには変われないらしい

「ヒューイ…」

そんな僕の顔を見て
スネークは、一瞬だけ眉を寄せた後

「…俺の見ている世界を見てみたいんだったな?」

そう、真っ直ぐな目で言った

「え…うん、見てみたいなぁって思ったけど…」

「じゃあ、見せてやろう」

ふ、とどこか楽しげに笑ったスネークは、僕の側に歩み寄って
脇下と足に手をいれ、一気に僕の体を持ち上げた

「うわぁっ…スネーク!?」

突然の浮遊感に、慌てて近くにあったスネークの首にしがみ付く
バクバクいう心臓を落ち着けようと深呼吸していると、スネークがどこか楽しげに笑う声が聞こえた

「い、いきなり何するんだい!?ビックリするじゃないかっ!」

「はは、すまん」

その声にムッとして、しがみ付いていた首から顔を上げれば
予想以上に顔が近くにあって
それで、気がつく

この体制は、いわゆるお姫様抱っこというやつで

気がついた瞬間、ものすごい恥ずかしさが襲ってきて、一気に顔が熱くなる

「ななな、何でお姫様抱っこ!?お、重いだろ、僕!」

「重くないさ。というか、軽すぎないか?もう少し飯食って太ったほうがいいと思うぞ?」

「余計なお世話だよ!とにかく、降ろしてくれっ」

背中を精一杯叩いて睨みつけてみるものの、普段筋トレすらしない僕の攻撃なんて一流の兵士であるスネークには効きもしないんだろう
ニヤニヤとどこか楽しげに笑うだけで、痛がる素振りすら見せない

わかってはいるけど、やはり同じ男として、少しだけ悔しい気分になる

「…で、どうだ?俺と同じ世界は」

笑ったまま、スネークが僕から視線を外して前を向く
それにつられるように、僕も辺りを見回してみる

「うわぁ…すごく、高い。全然違う場所みたいだ…」

見慣れたはずの研究室なのに、視界の位置が変わるだけで随分と違った場所に見える
普段見えないものが見えて、見えるものが見えない
その不思議な感覚が何だか怖くて、無意識にスネークの首に回した腕に力が入る

「君は、随分と遠くまで見えるんだね」

「そうか?」

「うん。僕じゃ、この部屋全体は見渡せない…僕には、目の前のものしか見えないから…」

遠い地面、近い空
僕が見ている世界とは、まるで違う世界
スネークの世界は、こんな遠くまで見えているんだろうか?
遠い未来も、彼には見えているのだろうか
今いる場所を見るだけで精一杯の、僕の世界とは違って

「そうか?ヒューイには、ヒューイにしか見えないものがたくさん見えてるじゃないか」

またネガティブになりかけた思考が、スネークの声に引き戻される
スネークへ視線を戻せば、随分と真剣な瞳が僕を覗き込んでいて
少しだけ、心臓が跳ねた

「僕にしか、見えないもの?」

「あぁ。この間だって、俺が無くしかけた書類見つけてくれただろ」

スネークの言葉に、この間のことが思い出される
ZEKEの開発報告をしにスネークの部屋を訪ねたら
鬼の形相をしたミラーと、心底困り果てた表情のスネークが机の周囲をひっくり返していた
話を聞くと、スネークが重要な書類を無くしてしまったらしい

『それって…もしかして、あれ?』

辺りを見回すと視界の下のほう、机の引き出しの僅かなスペース
そこに、紙のようなものが見えて
それを指差してみると、ミラーが屈んでそこからそれを引っ張り出した

『でかした博士!これだ!!』

それを見たミラーは鬼の形相を和らげ、よほど重要だったのか熱烈なハグまでされてしまった
それから、スネークはたっぷりとミラーにお説教されていたけど

「僕は視界が低いからね。床に落ちてるものとかよく見えるんだ」

「よく物を無くす俺には、その視界がうらやましい」

「そうかな?僕は君の高い視界がうらやましいよ」

「ないものねだりだな、お互いに」

小さく笑うスネークに、僕もつられて少しだけ笑って
もう一度、スネークの世界へ視線を巡らせる
僕が見ている世界とは、まるで違う世界
彼がいなければ、きっと知らずにいた世界

まるで彼に出会った日と同じようだと、ふと思った
新しい世界を知った、あの日と同じ…

「ヒューイ…お前にしか見えないものがあるように、お前にしかできないことは、たくさんある」

思考の海に沈みかけたとき
ふと、柔らかなスネークの声が耳を擽り
驚いて、反射的に彼に視線を戻せば
僕を見るスネークの片方しかない目は
とても、優しい色をしていた

「僕にしか、できないこと…?」

「あぁ、この間カズがZEKEの設計図を見せてくれたが…俺には何が何やらさっぱりだった。だが、お前にはわかるんだろう?」

「でも…ZEKEの指揮は、ストレンジラブ博士が…」

「博士も褒めていた。お前がいなければ、ママルは…ピースウォーカーは完成しなかったと。ZEKEも同じだ」

「でも、それだって人のアイデアだ…」

「アイデアは他人のものでも、それを完成させたのはお前だ」

「でも…」

「ヒューイ…お前は、お前にしかできないことがたくさんある。俺が設計図なんか見てもわからないようにな」

ふっと、優しく笑う君に、泣きそうな気持ちになる
どうして君は、僕の心をこんなにも見透かしてしまうんだろうか
僕の弱さも狡さも、全部全部見抜いて
それなのにどうして、そんなに優しい言葉をかけてくれるんだろうか

「…僕は、ほんの少しでも君の役に立ててるかな?」

「少しどころか、とても頼れる存在だ」

どうして君は
いつも、僕の一番欲しい言葉をくれるんだろう

「…ありがとう、スネーク」

油断すれば溢れそうになる涙をどうにか堪えて、ニコリと笑って見せる
けど、彼の目の中に映る僕は随分と情けない顔をしている

そういえば、こうやって同じ視線で彼の顔を見るのはとても新鮮だ
いつもは、下から見上げた顔しか見れないから
いつもは高い位置にある真っ直ぐな青い瞳が、すぐ目の前にあって
急に照れくさくなって、少しだけ下を向く
それで、気がついた
いつもは、僕の頭は彼より随分低い位置にあるから、こうしてしまえば彼は僕の顔を見ることが出来ない
けど、今は目線が同じ位置にあって、同じものが見える
ということは、今僕の顔が赤いのも、きっとスネークには丸見えだ

「も、もう降ろしてスネーク…」

その事実と、下を見たことで今されている体勢も思い出して
爆発しそうなほどの恥ずかしさに、かぁぁぁっと頬が赤くなるのを感じた

「どうした?顔が赤いぞヒューイ」

きっと、僕のそういう感情もスネークは見抜いているんだろう
ニヤニヤと、意地悪げに笑いながら僕の顔を覗き込もうとする彼は実に楽しそうだ

「何でもないよ!だから早く降ろしてくれよスネーク!」

「いやぁ〜、もう少し恥ずかしがるヒューイを見ていたんだが?」

「君時々意地が悪いよね!」

「こんな俺は嫌いか?」

意地悪く、けれどどこか試すような瞳で覗きこまれたら、黙るしかない
そういう聞き方は、ずるいと思う
そんな聞き方されて、嫌いなんて言えるわけないじゃないか

「…好きだよ、スネーク」

でも、スネークの思惑通り嫌いじゃないと言うのは、少しだけ悔しいから
少しだけ、意趣返しのつもりでそう言ってみた

…言った後、ものすごい恥ずかしさが襲ってきて、すぐに後悔したけど

恥ずかしさに身悶えていると、スネークの顔がみるみる笑顔になっていき
頬に、ちゅっと音を立ててキスされた

「すすすスネーク!!?」

「どうせだ、このまま甲板に海でも見に行くか?ちょうど今なら夕日が綺麗だ」

「い、イヤに決まってるだろう!?もう降ろしてくれよっ」

「暴れると落とすぞ、じっとしてろ」

「ちょ、降ろしてってば!ねぇスネーク頼むからさぁ!」

「もう一度、さっきの言葉を聞かせてくれるなら降ろしてやろう」

どうする?と意地悪げに見つめてくる瞳に、真っ赤になった僕が映っていて

「…好きだよ、スネーク」

呟くように、恥ずかしさからバクバクいう心臓をどうにか押さえてそう言えば
すっと、スネークの目が嬉しそうに細まって

「俺も好きだ、ヒューイ」

言葉と共に、ゆっくりと近づいてくる唇を
スネークの首に両手を回して、目を閉じて受け入れた



違う世界、違う僕ら



僕は科学者で、君は兵士で
僕は1人では歩けなくて、君はしっかりとその足で大地を踏みしめて
僕はメガネをかけなくてはよく見えなくて、君の目は片方しかない

僕らの見ている世界は、まるで違う世界だけど
たとえ少しでも重なるなら、ほんの少しでも君の世界を補えるなら
違う世界も、あまり悪くないと思えるかもしれない
















リクエスト【ネイヒュ】でした!

シチュエーション等特に指定がありませんでしたので、かなり好き勝手書かせていただきました
眼鏡ネタと視界ネタ、どちらを書こうか迷いましたが、視界ネタでスネークに憧れの姫抱っこしてもらいました!

…多分、うちのカズヒラは姫抱っことかさせてくれない人なので
落とされてでも、全力で暴れて拒否する予感がします

ヒューイは、割とすぐネガティブになる人だと思います
そんなヒューイをわかってて、落ちきってしまわないように時々優しい言葉をかけるスネーク
そんな関係の2人だといいです
やりたいシチュエーションをひたすらやりまくった感が拭えない作品ですみません
どうにか甘くしようとした結果、何か迷走したような気がします…

リクエストくださった方のみお持ち帰り可能です
こんな2人でよろしかったでしょうか?
苦情、返品等お気軽にお申し付けください
リクエストありがとうございました!

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