蝶のように、花のように・1


副指令の私室に続く長い廊下
仕上がった書類を持って、その廊下を歩く
本来なら副指令室にいる彼が、今日はもう私室に引き上げてしまったと彼の側近から聞いたからだ
今日中に提出しろといわれた書類
それを届けるためだと、自分に言い聞かせ
高鳴る胸を押さえながら、廊下の先を目指して歩く

廊下の先にある、重厚な副指令の私室の扉
それを、3度ノックする

「入れ」

中から威厳たっぷりな副指令の声が聞こえてから、失礼しますと声をかけてその扉を開けた

「どうした?何か用事か?」

「今日中にと言われた書類が仕上がったのですが、副指令室にいらっしゃらなかったもので…」

「あぁ、わざわざすまないな」

「いえ…俺のほうこそ、お休み中申し訳ありません」

いつものように、朗らかに笑う彼に書類を手渡す
その瞬間、指先が触れ合って
ふ、と副指令と視線がかち合った

「後で、また俺の部屋にこい…」

その瞬間、副指令の笑みが先ほどとは真逆の
まるで、誘うように甘い笑みに変わり
とろりとした、蜜のような声で囁かれる

その笑みに、声に
ドクリと心臓が跳ね

「…はい、副指令…」

夢見心地な気分で、俺は小さく頷いた





夜も十分ふけた頃
副指令の私室の前に立ち、数度ノックをすると、中から入れと声が聞こえてきて

「失礼します、ミラー副指令」

一度大きく息を吸い込んでから、その扉を開けた

「遅かったじゃないか、待ちくたびれたぞ」

「申し訳ありませんでした」

「まぁいい。ほら、こっちにこい」

クスクスと、昼間とはまるで違う表情で笑う副指令に手招きされるまま、俺はふらふらとベットに近づく
バスローブを身につけているせいか、副指令からは妖しいほどの魅力が漂っている

「何故ここに呼ばれたか、わかっているか?」

くいっと顎を人差し指で撫でられ、至近距離から見つめられる
まるで、透き通るように美しい、蒼い瞳が俺を映している

「…はい」

その色に吸い込まれそうになりながら、どこか夢見心地で答えると
すっと、楽しそうにその瞳が細くなった

「なら、話は早い…今夜は無礼講だ、楽しませてくれ」

そのまま、形のいい唇が俺のそれに重なり
まるで、誘うようにチロリと唇を舐められる
それに誘われるままに、副指令の唇を舐めればゆるりとそこが薄く開く
欲望のまま舌をねじ込み、待ち構えていたように差し出される舌と絡めあう
その唇を貪りながら、副指令の体を抱きしめて背後へと押し倒すと
ボスン、と副指令の体越しにベットのスプリングが跳ねたのが伝わってきた

「ん…」

副指令の、甘い鼻に抜けたような吐息に欲を煽られて
バスローブの結び目を解いて、隠された体を露にする
唇を離して、その体に視線をやれば
枕元の淡い証明で、白い体がまるで浮き上がるように照らされていて
こくりと、湧き上がった生唾を飲み込んだ

「…綺麗です、副指令…」

あまりの美しさと妖艶さに、陶酔しきった頭でそう呟くと
副指令が、クスクスと笑いながら体を起こした

「無礼講だといったはずだ…今は副指令じゃない、ミラーだ」

すっと、俺達と同じ兵士の手とは思えないしなやかな指が、まるでいさめるように俺の唇を撫でる

「…ミラー」

確かめるように、彼の名前を口にして
そのしなやかな指先に舌を這わせ、その先の手の甲に唇を落とす
その行為が気に入ったのか、彼はふふ、と声を上げて笑った

「お前は礼儀正しい奴だな…無礼講だと言っているのに」

「ミラーが、あまりに綺麗なので…」

「俺が綺麗?面白い奴だ、男に綺麗は褒め言葉じゃないぞ」

「いいえ、貴方は綺麗です、ミラー…髪も、瞳も、唇も、白い肌も…貴方の全てが」

「変わったやつだ」

どこか楽しげに笑う彼に、もう一度口付ける
今度は、彼のほうから深いキスを仕掛けてきた
上あごを舐められて、背筋がゾクリと震える

「ほら…楽しませてくれよ」

ふわりと笑う、その瞳の奥に燻る欲情の炎
あまりにも妖しく、艶っぽい表情

誘われるままに、その白い首筋に口付ける
軽く体を押せば、彼の体はゆっくりとシーツに沈む
普段スカーフに隠れるその場所に吸い付けば、紅い花びらが散って
白と赤のコントラストに、征服感と欲情が煽られる

そのまま形の綺麗な鎖骨にも花びらを散らし、舌でゆっくりと舐め上げる
チラリと彼を見上げれば、どこか楽しそうな余裕の表情で
その表情を少しでも歪ませたくて、ぷっくりと立ち上がっている胸の飾りに噛みついた

「んっ…」

その瞬間、彼の肩が僅かに跳ね、少しだけ息を詰めたのが伝わってきた
舌で押すように舐めながら、もう片方の胸を手のひらで撫ぜる

しっかりと鍛え上げられた、彼の胸
その胸には、女のような柔らかさも弾力もない
けれど、その肌は男とは思えないほどキメが細かく、しっとりと手に吸い付いてくるようで
まるで、極上のビロードのような触り心地だ
肌の感触を楽しむように、ゆっくりと胸を撫でて軽く揉むように力を入れる

「はぁ…男の胸なんか、揉んでも…ん、楽しくないだろう?」

「気持ちいいですよ、肌が吸い付いてくるみたいで」

「お前は本当に変わってるな…」

ほんのりと目元を高揚させて、彼はどこか困ったように笑う
少しでも、感じてくれているのだろうか

「胸よりも、こっちの方が触り心地がいいと思うぞ?」

するりと、彼の白い手が胸を撫でていた俺の手を取り
ゆっくりと、内股へ導く
感触を確かめるように指を滑らせれば
その場所の肌も、まるで最高級の白磁のように滑らかで
なぜ同じ男なのに、俺とは何もかもが違うのだろうかと思った

「ミラー…綺麗です…」

まるでうわ言のようにそう呟いてから、舌を胸から腹へと滑らせ、そのまま緩く勃ち上がった性器の先端にキスを落とす

「ぁっ…」

その瞬間、彼の喉から甘い声が漏れて
その声に、ズクリと下半身が疼くのを感じた

「ぁん…ん、ふっ…」

ちゅうっと先端を軽く吸ってから、ゆるりと性器に舌を這わせる
そのたび、彼の口から漏れる快楽の滲んだ声に
自分がこの綺麗な彼からこんないやらしい声を出させているのかと、酷く興奮した

性器を愛撫しながら指先で内股の感触を楽しみ、徐々に後ろへと回していく
尻の谷間にある秘められた蕾に触れれば、そこがきゅうっと誘うように収縮した

「ミラー、ローションは?」

すぐにでも、ソコに押し込んでしまいたい衝動を堪えながら、顔を上げて彼に問いかける
とろりと溶けた瞳が、不思議そうに俺を見つめる

「別にいらないだろう?俺は…」

「貴方が痛いのは、イヤだ。例えほんの少しでも、傷つけたくない」

きょとんとした目で俺を見つめる彼を真っ直ぐ見据えながら、俺は自分の心のままに口にする

この綺麗な人を、傷つけたくない
心の底から、そう思うのだから仕方ないのだ


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