初調教は物置部屋で・1



「まったく…どこにいったんだあいつは…」

俺はため息を吐きながら、仕事サボってどこかに隠れているカズを探していた

『カズ、いるか?』

訓練も終わり、デスクワークも終わり
特に任務のない俺は暇を持て余し、ふと思いついてカズがいるであろう副司令室へと足を向けた
仕事中でも顔を出せば、カズは迷惑そうな顔をしながらも何だかんだで相手をしてくれる
…デスクワークを、押し付けられることもあるが

けど、予想に反して
副司令室の扉を開ければ、中にいたのはカズではなく

『…どうした、マングース?』

カズの側近の1人、マングースが困ったような顔で立ち尽くしていた

『カズがいない?』

俺が聞き返すと、困ったようにマングースは頷いた
話を詳しく聞けば、今日は1日副司令室で書類整理だったはずのカズが、さっき部屋を覗いたらいなかったらしい
そして、机の上にメモが1つ

【ちょ〜っとだけ、休憩してくるbyミラー】

どうやら、自主休憩という名のサボリに出かけたらしい

仕事を滅多にサボることのないカズだから、マングースも珍しいと目を丸くしていたところに俺がきてしまったらしい

『わかった、見つけたら声をかけておこう』

俺がそういうと、マングースはすまなそうに頭を下げて
頼みますと、困ったように笑った

「それにしても…どこいったんだカズは」

食堂、射撃場、甲板
思いつくところは、全て回ってみたがカズの姿は見当たらない

もしかしたら、仲のいい女兵士のとこでお楽しみかもしれない

一瞬そう考えてしまい、ズクリと俺の中の独占欲が疼いた

…何…て…

ふと、カズの声が聞こえた気がして
足を止めて、声のしたほうへ聴覚を集中させる

…え…そ…か…

何を言ってるかはわからないが、確かに聞きなれたカズの声
その声を辿って歩いていくと
普段はあまり使われない、倉庫へとたどり着いた

こんなところでサボっていたのか…見つからないわけだ
僅かな安堵感と、脱力感が全身を襲い
仕返しに少し驚かせてやろうと、足音を立てずに近寄り
そっと、閉じられていた扉を開けて中を覗きこんだ

「カ、ズ…?」

倉庫の中には、カズともう1人…比較的カズと仲のよい兵士、オポッサムがいた

暗い、人気のない倉庫の隅で
2人は、キスをしていた
それも、舌を絡めあうような深いキス

すぅっと、腹の奥が冷えて…そのくせ、はらわたが煮えくり返りそうなほど煮えたくる

何故、お前たちはキスをしている?
お前たちはどういう関係だ?
これから、何をしようとしている?

ぐるぐると、その言葉が頭の中で回り
そのたび、黒いものがその言葉から溢れ出す

きゅっと、カズの目が閉じられた瞬間
我慢できずに、近くのパイプを力いっぱい殴った

―ガァンッ!!!!!

派手な音が空間を支配し、驚いたようにカズの肩がビクリと跳ねた
拳が、冷たくて固いものを押しつぶしているのを感じた
もしかしたら、拳をいためたかもしれない
けど、体中を暴れまわる怒りがそれを感じなくさせている

けど、オポッサムは部屋を支配した音に動じることなくゆっくりと唇を離した

「…ボス」

あまつさえ、俺のほうを見てため息を吐いた
その態度に、酷く神経が逆撫でされているような感覚に陥る

「あ〜あ、時間切れですか」

「…カズからどけ、オポッサム」

「そんな怖い顔しないでくださいよ、ボス…ちょっとふざけただけですよ」

本気の殺気を向けているにもかかわらず、オポッサムは動じることなく
逆に、ニコリといつものように笑ってみせる

まるで、自分が優位だといわんばかりの、自信たっぷりの笑みだ

お前がさっきまでキスをしていた男は、俺のものだというのに

「それじゃあミラーさん、気をつけてくださいね…俺みたいに邪な感情を持つ奴はいっぱいいるんですから」

そんな俺の気持ちを読んだのか
オポッサムは、挑発するように俺に視線をやり
カズの頬に、キスを落とした

その光景に、一瞬で目の前が怒りで真っ赤に染まる
視線が鋭くなるのが、自分でもわかった

けど、そんな俺を見て
オポッサムは、挑発的に笑った

「そんな顔するくらい大切なら、ちゃんと見張っておかないと…油断してたら、俺がミラーさんをもらいますからね?」

そう、耳元でどこかからかうような、言葉を囁いて
オポッサムは、俺の隣を通り過ぎスルリと扉から消えていった

残されたのは、呆然と俺を見上げてくるカズと俺だけ

その唇にオポッサムが触れていたと思うだけで、どうしようもない怒りがこみ上げてくる

女は、まだ許せる
カズの思考は基本的にノーマルだし、女性のふくよかな胸や柔らかな四肢に俺も欲情することはある

けど、男は許せない
他の男と寝るくらいなら、何故俺のところへ来ない?
望めばいくらでも、抱いてやるといっているのに
男と寝る快楽を教えてやったのは、俺だというのに
それほど俺に抱かれるのがイヤか?
他の男を誘惑するほど、俺が嫌いか…カズ

ぞわりぞわりと、真っ黒でドロドロとした感情が心を支配していく
思考が、真っ黒な闇に堕ちていく

「立て、カズ」

衝動のまま、カズの腕を掴んで強引に立たせる

「いたっ…スネーク、痛い!」

カズの顔が痛みに歪むが、そんなの知ったことではない

お前を見込んだのは俺だ
お前を生かしたのは俺だ
お前に快楽を教えたのも俺だ

お前は、俺のものだ

掴んだ腕を力いっぱい引っ張り、大股で歩く
その間カズは痛みからか、どうにか腕を引こうとする
その仕草すら、俺の闇を濃くするだけ

「ついて来い」

人通りの少ない通路までカズを引き、その腕を放して歩き出す
背後で、カズが戸惑っているのが伝わってくる
おそらく、俺の剣幕に逃げようかどうか迷っているのだろう

甘いぞ、カズ…

「逃げる気か?カズ…」

俺が、お前を逃がすと思ったのか?

俺の眼を見たカズは、一瞬怯えたような表情を見せ
大人しく、俺の後ろをついて歩き出した

そうだ、それでいい
お前は、俺の後ろをついてくればいい
後ろに感じるカズの怯えた気配を感じながら
俺は、自室を目指して歩き出した


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