Formless oath・1



―ブツリ

そう音がして、スネークとの通信が切れたのは
とある基地に潜入する途中だった

「スネーク!?スネーク!応答してくれ!!」

どれだけ呼びかけても、ザァザァと不快な音しか返ってこない無線機を叩きつけた

「ぼ、ボス!?」

「ま、まさか…やられて…」

「バカな!あのボスだぞ!?」

「で、でもっ…」

スネークとの通信が途絶えることなんて、今までになかった
初めての事態に、司令塔の兵士達の間にも動揺が広がる
ざわりざわりと、不安と動揺と絶望が部屋中に広がって
兵士達を飲み込んでいく

「落ち着け!!」

そんな兵士達に舌打ちしつつ、ガンッと目の前の機械をぶっ叩いてでかい音を立てれば
先ほどまでのざわめきが、一瞬で静まった

俺が、しっかりしなければ
今俺が動揺したら、ここは脆く崩れる
ここの大きな柱である、ボスがいない今
何が原因で、崩壊するかわからない

「俺達のボスがこんなあっさりくたばるわけない…そうだろ?」

震える足を、声を、体を叱咤して、いつものように笑ってみせる

「今から俺達がすることは、ボスが無事に帰ってこれるようにバックアップすることだろ?」

まるで、子どもに言い聞かせるように動揺する兵士達に…自分自身に言い聞かせて
心を完全に殺して、副指令の仮面をかぶる

心を殺して、演技をすることには慣れている
そうだろ?カズヒラ・ミラー

普段と変わらない俺に安堵したのか、部屋を飲み込んでいた不安と動揺がゆっくりと引いていく

「予定より早いが、回収用のヘリを準備!捕虜回収用に上空に待機しているヘリは最終地点付近を上空よりボスを捜索!安否の確認および必要ならばその場でボスを回収しろ!!」

「は、はっ!!」

「それから、スキーニングに優れた兵士を招集し回収用のヘリに乗せろ!予定回収地点に降下後、事前に確認してあったルート付近を捜索し情報を集めさせるんだ!!もしもボスが敵の手に落ちていたなら、そのままボスの救助へと移行させる!!!」

「イエス!ミラー副指令!!」

その空気を壊さないように、考える暇を与えずに兵に指示を飛ばす
余計なことを考えさせないほうが、物事がうまく運ぶ

ここが崩れてしまえば
スネークが帰ってくる場所がなくなってしまう
ここが、MSFがあれば、スネークは必ず帰ってくる

今の俺の仕事は、スネークが帰る場所を守ることだ









「ボス…本当に良かったです…!!」

「ボス!!ご無事で何よりです!!」

あれから3日…ようやくマザーベースに帰ってきた俺は、先ほどからずっと涙ぐんだ兵士や感極まった兵士達に囲まれていた

少々疲れるが、今回ばかりは俺が悪いからしょうがない
何せ、3日も連絡を寄こさなかったのだから

MSFと、カズと通信が繋がらなくなった原因は、ほんの些細なことだった
しかも、100パーセント俺が悪い

情けないのだが、落としたのだ
無線機を、崖下に

カズとの通信中、物音がしたことに反射的に銃を構え
茂みから飛び出したのがただの小鳥であることに安堵し、通信を再開しようとしたら
通信機がなかった
慌てて探したところ、崖のはるか下にある小さな岩場に叩きつけられ、バラバラになった無線機が見えた

『…まずいな』

マザーベースと連絡が取れなくなるということは、様々な支援が受けられなくなるということだ
だが、今回は支援が絶対に必要な大型兵器やAI兵器を相手にするのとは違い
スキーニングミッションだったし、全てを現地調達で済ますことなどなれていたから、軽く考えてそのまま任務を続行した

マザーベースが、大騒ぎになっているとは思いもよらずに

慎重に行動していた俺を、ヘリも降下した兵士達も見つけるどころか痕跡すら発見できず
敵の手に落ちたのかと探りを入れても、当然任務をこなしている俺の情報などあるはずもなく
一部の兵士の間では、俺の生存が絶望視されていたらしい

さらに、支援がないのだからといつもにも輪をかけて慎重になったのが仇になり
本来の任務遂行期間を大幅にオーバーしてしまい

3日後に、ようやく回収地点に辿り着いたとき
俺は、絶望的な顔をしていた兵士達に涙混じりの抱擁を受けた

「ボスが無事でよかった…これも、ミラー副指令のおかげですね!」

そんなことを思い出しながら、何十人目かの抱擁を受けたとき
満面の笑みを浮かべた兵士が、そうどこか自慢げに言うと、周りの兵士が一斉に頷いた

「本当に…ミラー副指令がいらっしゃらなかったら、パニックになっているところでした」

「我々を纏め上げて、冷静に指示を出してくださって…ミラー副指令がいらっしゃらなかったら、ボスを回収できなかったかもしれません」

次々に口に出されるカズへの賞賛に、どこか鼻が高くなるような気がした

俺からの連絡が途絶え、パニック寸前だったマザーベースを落ち着かせ
時には叱咤し、時には励ましてこの3日間を乗り切ったのは副指令のおかげだ、とみなが口をそろえる

さすがは俺の見込んだ男だ、と自慢したくなる一方で
ほんの少しだけ、寂しい気もしていた

兵士達にはあまり知られていないが、俺とカズは恋人同士だ
3日間連絡を取らずにいて、兵士達に涙ながら出迎えられて
悪いことをしたと思う一方で

カズも、俺を心配してくれただろうか?

と、少しだけ思ってしまった
普段意地っ張りで負けず嫌いで、恋人になってもあまり甘える素振りを見せないカズが、ほんの少しでも心配したと甘えてはくれないだろうかと、ちょっぴり期待したのだ

『ボスぅ、心配したじゃないか!』

けど、マザーベースに帰ってきた俺を出向かえたカズの顔は、いつもと変わりなく

『おいおい、無線機を落としたって…ボ〜ス〜、アンタ本当にここのボスの自覚があるのか?新兵だって無線機を落として壊すなんて初歩的なミスはしないぞ』

連絡が取れなかった理由を説明したら、本気で呆れられて
たっぷりの嫌味と皮肉とお説教を食らっただけだった

MSFの副指令としてのカズの行動は正しい
けど、恋人としてもう少し心配していた素振りを見せてくれてもいいじゃないか

少しだけ、拗ねたような感情を抱えながら
俺は、次々と訪れる兵士達の抱擁を受けていた


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