愛しくて気まぐれな恋人・1



恋人と過ごす、ある日の午後
俺は、どうしようもなく悶々とした気持ちを抱えたまま、本を読むソリダスに見入っていた

『出かけるのが面倒になった、お前がうちに来い』

そうソリダスが電話してきたのは、久しぶりのデートに向かうために家を出た直後のこと

『…わかった、今から行く…』

俺はその電話に軽くため息をつきながら、駅に向かおうとしていた足を逆方向へ向けた

ソリダスは、時折こうやってデートの予定を変更することがある
大抵それは、寝坊して間に合わなくなってもう面倒になったか
朝起きた瞬間、出かけるのが面倒になったか
それとも何か事情があって面倒になったか

まぁとにかく、出かけるのが面倒になることが、このマイペースで女王様気質の恋人には時々ある

最初のうちは、呆れたり怒ったりしていたが、最近ではすっかり慣れてしまった
まぁ、デートといっても大抵行き先はソリダスが決めているし
それが家になるか、ケーキ屋とかになるかの違いだと思えばそう腹も立たない

出かけるのは面倒でも、俺と一緒に過ごすのはイヤじゃないらしいし
それだけわかれば、もういいや…と半分諦めたというほうが正しいが

さて、そんなこんなでソリダスの家に着き
さっきから、俺をほったらかしで本に夢中な…まぁ家に来ればよくあることだけど…ソリダスを眺めていたら
どうしても、ソリダスに触れたくなってしまった

ページをまくる、意外と細くて綺麗な指に
真剣に文字を追う横顔に
欲情してしまったのだ

惚れた欲目かもしれないが
ソリダスは一つ一つの仕草がとても綺麗で、色っぽい
いまも、気だるげに頬杖をつく仕草が何故か誘っているようにすら見える

けれど、ソリダスの意思を無視して触れれば、気まぐれでプライドの高い彼はあっという間に不機嫌になってしまう
不機嫌になってしまえば、それ以上触れるどころか酷く拒絶される

だからソリダスがいいといわなければ、俺はソリダスに触れることが出来ない
強引に触れて、ソリダスの機嫌を損ねるのはイヤだ
無理にすれば、数日どころか数週間にも渡る無視という名のお仕置きが待ち構えていることは、イヤというほどわかっている

そういうところが、彼の弟達いわく
ソリダスの飼い犬といわれる由縁なのだろうが…

「…ジャック、そんなに私の顔を見て楽しいか?」

そんなことを考えていると、わざとらしくため息を吐いたソリダスがぱたりと読んでいた本を閉じて、不機嫌そうに俺をにらみつける
しまった…どうやら見すぎたらしい

「い、いや…何でも…」

「何でもないということはないだろう?」

本を置いたソリダスは、するりと俺の膝の上に乗り
じっと、俺の顔を見つめる
真っ直ぐに俺の目を覗き込むソリダスの深い色をした瞳に、背筋がゾクリとする
試されている
とっさに、そう思った

俺の次の言葉で、次の行動が決まる
きっと、下手な嘘もお世辞も通用しない
ソリダスは、きっと全部見抜いてしまう
少しでも機嫌を損ねれば、ソリダスに触れるどころか今日はこれ以上同じ空間にいることすら許されなくなる
まるで、地雷原を歩くような駆け引き
けれど、その緊張感はどこか甘い蜜のようで

「ソリダスが…綺麗だから」

俺は迷った挙句
正直に、けど欲情は隠してそう言った

「…そうか」

俺の言葉にソリダスは
ふ、と…満足げに笑った

「ソリダス?」

「…今日の私は機嫌がいい」

にまり、と目の前のソリダスの笑みが妖艶に深まる
まるで、美しい花が咲くようなその笑みに、自然と、こくりと喉を鳴らしてしまう

「何でも、ジャックのしたいことをしてやろう」

「何でも?」

「あぁ。さぁジャック、何がしたい?私にどうして欲しい?」

俺を見つめるソリダスの瞳の奥に、俺と同じ欲情の色がちらついているのが見えて
甘い麻薬のようなその色がチラリと覗くたび、俺の欲情をさらに掻き立てて
背筋がゾクリと震えた

「ソリダスを、抱きたい」

衝動のままソリダスの後頭部へ手をやり、引き寄せて口付ける
舌先で赤い唇を撫でれば、抵抗することなく薄くそこが開き、夢中で舌を差し入れる
けど、その舌先を待ち構えていたようにソリダスの柔らかな舌が絡めとり
キスを仕掛けたのは俺だというのに、あっという間に主導権を握られてしまう

「ん…んっ…」

「ふぅ…ん…」

口の中を犯す舌が、まるで別の生き物のように這い回る
舌が触れる場所から、じわりと快感が広がって下肢が甘く疼き
鼻から漏れる甘い吐息が、それをさらに加速させていく

「キスだけなのに、もうこんなにするなんて…元気だな、ジャック」

ゆるりと唇を離せば、舌先をどちらのものとはいえない唾液が結び
それを舐め取ったソリダスが、クスクスと笑いながら甘い声で囁く

「私の太ももに、硬いものが当たってるぞ?」

すりっと、まるで擦り付けるように太ももを動かされ、思わず息を詰めてしまう

「さぁジャック…どうして欲しい?」

耳元に口を寄せたソリダスは、甘い吐息と共にそう囁く
まるで、麻薬のようなその声が脳みそを溶かしていく

「口…ソリダスの口でして欲しい」

頭を掠める欲望のまま、うわ言のようにそう呟いた俺に
ソリダスはニヤリと笑った

「わかった、口だな?」

そう、いやらしい声で言うと俺の上から一度どき
綺麗な所作で俺の前に跪いた

ゆっくりと、白い手が焦らすようにズボンのベルトに手をかけて外していく
カチャカチャという音にすら煽られて、何もされてないのに熱い吐息が口から漏れる

そんな俺を見上げ、ソリダスは少しだけからかうように笑い
ゆっくりと、ズボンのチャックを下ろしていく
まるで押し付けられるように下げられるそれに、小さく声が漏れてしまう

そうして、ソリダスが下着を下ろす頃には
すっかりと、ソレは先走りで濡れてしまっていた

「こんなに濡らして…少しは我慢が出来ないのか?」

ぬちりと、先端を指が撫でた瞬間ちいさな水音がし
軽く引けば、先走りが糸になって指と先端を結んでいる

「ソリダスだから、我慢なんてできない」

からかうような言葉に、思ったままのことを口に出せば
すぅっと、まるで機嫌のいい猫のようにその蒼い瞳が細まり
そっと、先端を舌先で舐められる

「うっ…」

そのまま、チラリと俺を見上げながら先端を舐め上げ
そこからゆっくりと、見せ付けるように裏筋へと舌を這わしていく

「ソリ、ダス…」

くしゃりと、以外に柔らかな銀色の髪を撫でれば
ソリダスはチラリと俺のほうを見て、性器を口に含んだ

「く、ぁ…」

性器が温かくて湿ったものに包まれて、思わず声が漏れる
その声に、ふっと目元を緩ませたソリダスは、口の中のそれに舌を絡ませながらゆっくりと頭を上下させる

あまりの快楽に、あっという間に絶頂感が訪れる
自分でも情けないと思うが、こればかりはしょうがない

うねうねと動き回る舌や、きゅうっと吸い付いては締め付ける口も絶品だ
でも、それ以上にソリダスの視線や仕草に煽られる
絶妙のタイミングで、欲情のたっぷり篭った瞳で見つめられ
見せ付けるように性器を這い回る赤い舌に、どうしようもなく煽られる
おまけに、ピチャピチャと猫がミルクを飲むような音までさせるもんだから

「うぁっ」

ちゅうっと、先端を吸われた瞬間
堪えきれず、ソリダスの口の中に出してしまった

「ん、ぅ…」

一瞬、ぎゅっと眉を寄せたソリダスだったが
ちゅうちゅうと、残滓を吸い取るように吸い付いてから、ゆっくりと顔を上げた

「ご、ごめん…」

何も言わないソリダスに、怒っているのかと思い反射的に謝ると
その目元が、ニヤリと妖艶に下がり
口を開け、舌を差し出してみせる

その舌の上には、先ほど放った精液が溜まっていて
まるで煽るようにそれを軽く舌で転がし
見せ付けるように、飲み込んだ

「さぁ、次はどうする?」

あまりの光景に、思わず生唾を飲み込んで見入っていると
どこか楽しそうな表情をしたソリダスが俺を見上げてくる

ソリダスに触りたい、と言おうとしてふと考える
今日は、ソリダスの機嫌がいい
何でも、俺がしたいことをしてくれるといっていた

「…ソリダスが、自分で慣らしてるとこが見たい」

なら、いつもなら絶対してくれないであろう事を言ってみようか
そう思い、恐る恐る思ったことを口にする

「私が?自分で?」

さすがにこれはソリダスも予想していなかったのか、余裕そうな表情が怪訝に歪む

「あ…す、すまないっ」

その表情に、しまったと思うと同時に冷や汗が吹き出てくる
エベレスト並みにプライドが高く女王様気質なソリダスが、いくらなんでもするといったからって
さすがに、そんなことを言われれば怒るだろう

今怒らせて、ここで放り出されて困るのは、確実に俺だ

けれど
予想に反して、ソリダスは俺を見上げて蟲惑的な笑みを浮かべた

「なら、寝室へ行こうか…ここにはローションも何もないからな」

ゆっくりと立ち上がり、くるりと背を向けて寝室へ歩いていくソリダスの背中を眺めている俺の表情は、かなりマヌケだろう
ソリダスの言っている言葉の意味がよくわからなかった
絶対に、怒らせてしまったと思ったのに

「どうしたジャック?見たいのだろう、私が自分でシているところが」

けど、寝室の扉を開け
まるで誘うような笑みを浮かべて、こちらを振り返ったソリダスに

俺は慌てて、その背中を追いかけた



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