宵話 歪な男の歪な信頼〜裏話〜



おやおや、貴女はこの間の
しがない語り部に何かご用ですかな?

いえ、お客様の顔を覚えるのは趣味のようなものでして
特に、貴女はあの話を食い入るように聴き入っていらしたので、よく覚えている
のですよ

ふむふむ…どうしてもあの続きが知りたい、と
そのために、わざわざ私のようなしがない語り部を探して歩いたのですか?

もしも貴女がこの話に救いを求めているというのなら
真実を知ろうとするのはおやめなさい

真実とは
いつだって残酷で、救いようのない虚しいものなのですから

それでも、真実を知りたいと望むのですか?

…貴女も物好きなお方だ

それでは、貴女の為に語りましょう

歪な形で出逢い
歪な信頼で結ばれた
歪な2人の歪な末路を













『んん!んー!!』

哀れ蒼眼の男は、独眼の蛇に捕らえられ
両の腕を鎖にて縛られ、頭の上に一纏めにされ
その口には白い布が押し込まれ
何とも哀れで、情けない姿になっていたのでございます

『いい眺めだ…可愛いぞ、カズ』

けれど、蒼眼の男をこんな姿にした張本人
独眼の蛇は、恐怖に怯え、懇願するような瞳で己を見上げる蒼眼の男を
さも、愉しそうに眺めるのみ

さて
怯える蒼眼の姿を男をたっぷりと堪能した独眼の蛇
その懐から取り出したるは、鋭く光る凶器にございます
この凶器
蛇が独眼となるより前から使い込まれ
数え切れないほどの命を奪い、その血を浴びてきた
もはや、独眼の蛇のもう1つの手といっても過言ではないのであります

その鋭い刃が、蒼眼の男の柔らかな肌に食い込めば
その柔らかな躯は、間違いなく冷たい骸と成り果てることでしょう

蒼眼の男は、その凶器をよく知っていました
その凶器が、どれほどの命を奪ってきたか
そして
その凶器の切れ味の鋭さを、嫌というほど知っていたのでございます

『んんん!!んん、んんー!!』

まるで幼子のように髪を振り乱し
その瞳からとめどなく涙を流し
ガクガクと体を震わせる蒼眼の男
その姿は、哀れと以外言いようのないものでございます

『いい顔だ…もっと、その顔を見せてくれ…』

けれど、独眼の蛇はそんな蒼眼の男の姿をうっとりと
まるで、この世で最も美しいものでも見るような表情で眺めるのでございます

凶器を持たない手が、そろりと蒼眼の男の首元に落ち
ゆっくりと
まるで、神聖なものを扱うような手つきで蒼眼の男のスカーフを外し
その白い喉を、露にしたのでございます

『綺麗な喉だ…きっと、紅がよく似合う』

その言葉に、蒼眼の男はビクリと大きく体を震わせ
大きく首を振り、己の意思を伝えます

『首は嫌か?』

『んー!んー!!』

『そうか…なら躯にしよう』

そう言うと、独眼の蛇はそっと上着の合わせ目
首元近くのその場所に凶器を滑り込ませ

一気に、下へと引きおろしたのでございます

『んー!!』

鋭い凶器は細い糸の塊など、いとも簡単に引き裂いて
飛び跳ねた釦が、ぱらぱらと飛び散り
意味を成さなくなった上着が、はらりと前をはだけたのです

『お前の躯も、喉と同じくらい白くて美しい…ここにも、紅が似合うに違いない』

独眼の男はうっとりと呟くと、意味を成さない上着を左右に引き
その下の、白磁の肌を隠す白いシャツ
それを、襟元からゆっくりと
まるで、舐めるように引き裂いていくのであります

蒼眼の男は、恐怖から暴れそうになる躯を必死に押さえつけるのみ
もしも、恐怖に屈して暴れれば
シャツを引き裂く鋭い凶器
その切っ先が、己の躯へ突き刺さるのは火を見るより明らかだからでございます

それでも、時折躯が跳ねるのを抑えきれず
その切っ先が躯を掠め
その箇所から、じわりと紅が滲み

それがさらに、蒼眼の男の恐怖を煽っていくのです

『あぁ…やはり、お前には紅が似合う』

ゆっくりと
全てを引き裂き、その白磁の肌を露わにした独眼の蛇は
その白に浮かぶ紅に満足そうな笑みを浮かべ

その紅に、舌を這わせたのでございます

『んんっ、んんん!』

ちゅるちゅると音を立てて紅を啜る独眼の蛇を
蒼眼の男はただ、恐怖に支配された瞳で見つめています

『紅も似合うが…そのピンクの飾りも美しい』

そんな蒼眼の男の視線に気づいたのか
独眼の蛇は顔を上げ、ふわりと優しげな表情で微笑んで見せると

鋭く光る凶器の背で、胸の飾りを弾いたのでございます

『んん!!ん、んんー!!!』

その瞬間、蒼眼の男の体が、大きく跳ねました

耐え切れなくなった恐怖に、ボロボロと涙を零しながら

『はは、カズは本当に可愛い…最高だ』

独眼の蛇は、愉快でたまらないといった声で笑い
もう片方の飾りを、その口に含んだのです

まるで赤子のように吸い上げ、時折それに歯を立て
もう片方は、凶器の背でくにくにと押し上げます

その凶器の切っ先は
蒼眼の男の喉元に向けられたまま

下手に動けば、簡単に凶器は喉に食い込むでしょう
いえ、独眼の男がその気になれば
美しいと評したその飾りでさえ、簡単に落としてしまえるのでございます

そのことを誰よりも痛感している蒼眼の男は
ただ、髪を振り乱しながら何やら呻くのみ

『ものすごく心臓の音が速いな…』

するりと、心臓の真上を独眼の男の手が撫で
そのまま、ゆっくりと指先で鎖骨から喉へと指を滑らせ
そして、涙で濡れた頬をゆっくりと撫でたのです

『カズ…俺が好きか?』

独眼の男は、優しく柔らかな声で問いかけながら
蒼眼の男の白い首に、その凶器を押し付けたのでございます

『んん、んん!んんん!!』

『それじゃ、わからないな…なぁカズ、俺を好きか?俺を愛しているか?』

ぐっと、僅かに凶器に力が入れられ
ぷつりと、その柔らかな皮膚を僅かに突き破ったのです

つーっと、その刃に紅が伝い
蒼眼の男の胸を濡らします

さて、困ったのは蒼眼の男
ほんの僅かでも首を動かせば、首に当てられた凶器が食い込み
紅が噴出し、冷たい骸と化すことは恐怖に支配された頭でも理解できたのでございます
しかしながら、あまり待たせれば独眼の男蛇の手によって、凶器が首に食い込むことは容易に想像できるのでございます

恐怖に支配された脳で必死に考え
蒼眼の男は、唯一自由になる足を
そっと、独眼の蛇の腰に絡ませ
緩やかにその背を撫でたのでございます

『カズ…』

蒼眼の男の行動を、目を細めて見守っていた独眼の蛇は
その行為が御気に召したのか
そっと、蒼眼の男の口を塞いでいた白い布を取り払ってやったのでございます

『はっ…スネ、スネーク!ごめ、ごめん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!ゆるし、赦して!!赦してスネーク!!ごめ、スネー、ごめんなさい!ごめっスネーク!!』

ようやく自由になった口で
蒼眼の男は、まるで言葉を覚えたばかりの幼子のように取り留めのない言葉を吐き出しました
それは、今の蒼眼の男の頭の中そのままなのでございます

『何を謝るんだ?カズ…俺は、カズは俺が好きかどうか聞いているのに』

『す、好き!好き!!愛してる、愛してるスネーク、愛してる!!』

『そうか、好きか、愛しているか…他の奴は?愛しているのか?』

『スネークだけ愛してる!!スネークだけ、スネークだけだから!!スネーク以外いらない!!スネークだけ!!あいしてる、あいしてる!!!』

『ははは、カズは可愛いなぁ…俺も、お前だけを愛しているぞ?嬉しいか?』

蒼眼の男の、叫びのような言葉を聞き
独眼の蛇はニコリと優しく微笑みながら、首からすっと首筋を切り裂くがごとく動きで
腕を己のほうへ引いて凶器を外してやり
その金糸を、凶器を握ったままの手で優しく撫ぜたのでございます

『あ…ぁ、はは…嬉しい…うれしい、スネーク…あいしてる、あいしてる…あいしてる…』

そんな独眼の男の手を受け
壊れたように瞳から涙を零しながら
蒼眼の男は、壊れてしまいそうなほど儚く
美しい笑みを浮かべたのでございます

その笑みは、恐怖に壊れた心が浮かべたものか
初めて愛した他人からの、愛の告白に喜ぶ心が浮かべたものか
それとも、その2つが混じり合ったものか

知るのは、そっと落ちる独眼の蛇の唇を受け止める蒼眼の男のみ

独眼の蛇?
もちろん、その笑みの意味など知ろうとしないのでしょう

えぇ、ですから私申し上げましたでしょう?
罪悪感も懺悔も信頼も、愛ですらも所詮は独りよがり

信頼は、相手に必要とされたいという望み
罪悪感は、相手に赦されたいという願い
愛するということは、相手に愛されたいという心の裏返し

どれも、己を愛するが故の感情

孤独を埋めるために蒼眼の男を愛した独眼の蛇も
愛ゆえに独眼の蛇に罪悪感を抱いた蒼眼の男も

所詮は
己のことしか考えていなかったのですよ

なればこそ
独眼の蛇は愛する蒼眼の男の笑みの意味など、どうでもいいのですよ
独眼の蛇にとって大切なのは

『可愛いなぁ…愛してるぞカズ。お前は、俺のものだからな』

『あは、あはは…あははは…あいしてる、スネーク…おれは、スネークのもの…あいしてる、あいしてる…はは…あははっは、あははははは…』

己の腕の中で泣きながら笑う蒼眼の男が
己の側に居続ける事だけなのですから

例え、それがどんな形であれ

そう言えば、日本にはこんな諺があるそうですね
情けは人の為にならず
例え人に優しくしても、その優しさは廻り廻って己に帰ってくる
だから、結局は己のためなのだ…という意味だそうですね

もしも
己の利己的な感情ばかりを押し付ければ
それも、己に廻って返ってくるのかもしれませんね

けれど、そのことに気づいたとてもう遅い
一度壊れたものは
例え何であろうと
二度と、同じ形に戻ることはないのですから





さて、これでこの物語は本当に終焉を迎えたのであります

歪な信頼と愛情で結ばれたこの2人がどうなったかは
今ではもう、誰も知りえないのですから

ただ、1つだけ言わせてもらえるなら

利己的な思いのみを抱きながら、独眼の男を愛した蒼眼の男と

蒼眼の男を愛しながら、孤独を恐れた独眼の男

どちらがより、壊れているのでしょうね





さぁさ、貴女の為に語る物語
歪な形で出逢い
歪な信頼と愛情で結ばれた
歪な2人の哀れな末路

これにて、本当に終幕にございます

















かえるこ様リク【宵話ネイカズ続編】でした

本気でUPするかどうか迷った作品ですが
リクエストだし、今病み神様降りてきてるから勢いで!(コラ)

歪な2つがピタリと合えば
それは美しい形になるが
ほんの僅かにでも歪めば
たちまち壊れて四散する

がテーマな宵話…少しでもお楽しみいただけましたでしょうか?

当初はもうちょっとソフトでエロい作品の予定でしたが
病み闇スネーク様が本気出したのでエロくなりませんでした

スネークが病むと、こうなるイメージがあります
恐怖でも何でもいいから屈服させて、壊してでも側に置く

先日書いたソリッドさんとは似て非なる感じです

カズが案外あっさりと壊れましたが、カズはどうでもいい他人から与えられる苦痛や恐怖には強そうですが
本当に愛して、求めている相手から与えられる恐怖には滅法弱いだろうという勝手な思い込みからです
というか…これ以上描写増えると、ただ痛いだけの話になるし…
いや、十分痛いけど…

かえるこ様…こんなので、こんな痛い話で本当によろしかったですか!?
お、お叱りは覚悟の上です!
返品、リクエストしなおしバッチこいです!!
リクエスト、本当にありがとうございました!!

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