闇に沈む



ふと、沈んでいた意識が覚醒する
その覚醒に逆らうことなく目を開ければ、暗い闇が広がっていた

「…まだ、夜明け前か」

いつもは、微灯をつけて眠るはず
それなのに、目の前に広がるのはとても濃い闇
一瞬その闇にドクリと心臓が鳴り
まるで、何かを確かめるように思ったことを口に出せば
しんとした部屋に、自分の声がやけに大きく響いて
一瞬、闇の中に1人で取り残されたような気がして
心臓が、ドクドクと脈打つ

「ん〜…」

ふと、思考が闇の底へ沈みかけたとき
その闇の中から、誰かの声が聞こえた

「…スネーク?」

聞きなれたその声に、ドクドクと脈打っていた心臓が徐々に落ち着いていくのがわかる
ようやく闇に慣れ始めた目で声のしたほうを向けば
スネークが、シーツに包まって眠っていた

それで、思い出す

ここは、スネークの部屋だ
何故俺がスネークの部屋にいるかといえば
恋人同士が、夜に同じベットに裸で寝ているという状況で察して欲しい

「平和そうに寝やがって…」

安堵感から、意外に柔らかな茶色の髪に手を差し入れて撫でれば
んぅ…と小さく声が漏れ、眉間に僅かにしわが寄る
やば、起こしたか?
そう思い手を止めるが、スネークは何やらうにゃうにゃと呟いてまた寝息を立て始めた

普段は無駄にかっこいいくせに、こういう仕草が年上の癖に何だか可愛らしくて苦笑が漏れる
最も、そんなことを本人に言えば

『何を言う、お前のほうが可愛いぞ』

と、本気で言ってくるであろう事が容易に予想できる

『可愛いぞ、カズ…』

それと同時に、昨夜のスネークの甘い声と自分の痴態を思い出し
自然と熱くなる顔を誤魔化すため、シーツに顔を埋める
すると、深い闇が目の前に広がって
また、思考が不安定になっていく

夜は、怖い
全てを包んで飲み込んでしまうような闇が、怖い
でも、朝はもっと怖い
全てをさらけ出し、先が想像もできない光は、闇よりもずっと怖い

明日になれば、アンタは俺を捨てるかもしれない
明日戦場へ行けば、アンタは冷たい骸になって帰ってくるかもしれない

そう思うだけで、夜が明けるのが、どうしようもなく怖くなる

捨てられるのは、きっと俺のせいだというのに
戦場に送り出すのは、俺だというのに

「スネーク…」

襲いくる不安から逃げるようにシーツから顔を上げて
闇の中、ぐっすりと眠っているスネークの顔を見つめれば
どうしようもない愛しさと、苦しさが湧き上がってくる

俺は、スネークを愛している
確かに、最初は打算から始まった関係だった
けど、今は誰よりも…俺自身よりも、スネークを愛していると強く自覚している

だから、自分ではどうしようもできないほど苦しくなる時がある

強く、ありたいと思う
アンタの隣に立って、胸はれるくらい強くしっかりした人間でありたい
スネークを支えられるくらい、強くありたいと願う
でも俺は、結局はスネークに支えられてばかりの弱い人間で
アンタという男があまりにも大きすぎて、ちっぽけな俺がいくら背伸びをしたって届かない
必死であがいても、もがいても
結局は、アンタの大きさを見せ付けられるだけで
俺がいかにちっぽけな人間かを思い知らされるだけだった

それならば、いっそ弱くなってしまおうかとも思った
アンタだけを見て、アンタがいないと生きていけなくなってしまおうと思ったこともある

プライドも、ビジネスも、人生も
全てをかなぐり捨てて、アンタの腕の中にだけいられたら
アンタだけを見て、アンタだけを感じて

愛するスネークのためだけに生きることができたなら、どれだけ幸せだろう

けど、そんな生き方をするには、俺は臆病すぎる
臆病すぎて、己の全てを差し出せるほどこの恋に盲目になれない
こんなに愛しているのに、全てを預けてしまえない
もしも裏切られたら、スネークが心変わりしてしまったら
そんな、わかりもしない未来のことばかり考えてしまう

自分が傷つくのが怖くて、汚くて醜い自分を見られるのが嫌で

どうしても、線を引いてしまう

アンタを、このくだらない自分自身より愛しているはずなのに
結局一番大事なのは、こんなくだらない自分自身で

そんな自分に吐き気がする
全てをさらけ出せないくせに、全てを受け入れて欲しいと思っている
中途半端に弱くて卑怯で、どうしようもない臆病者な自分を殺してやりたい

こんな俺は、スネークの側にいる資格なんかないことぐらい
痛いくらいに、わかっている

けど、そんな俺をスネークが甘やかすから
優しく包んで、愛してくれるから
どうしても、すがってしまう
側にいる資格なんかないのに、側にいたいと願ってしまう

そんな、どうしようもない最低な自分が酷く汚くて醜いモノに見えて、こんな自分が大嫌いで
そんな俺すら愛してしまえるアンタが、俺は…

その瞬間、どうしようもなく苦しくなって
けれど、こんな俺じゃ目の前のスネークには縋れなくて
ぎゅっと、息を詰めて目を閉じた

息を殺していると、眠っているはずのスネークの腕がそっと俺の背中に回り
あやすように、優しく俺を抱きしめた
まるで、縋ってもいいんだとでも言うように

眠りの中にいながらも、俺の苦しみを察して癒してくれているようで

その腕の温もりが、聞こえてくる優しい心音が
愛しくて、苦しくて、悲しくて、どうしようもなくて

スネークの胸に額をつけてすがりつき、声を殺して泣いた



闇に沈む



朝がきたら
この闇が晴れたならば
いつもの俺に戻るから
苦しいのも悲しいのも、全部押し殺していつもみたいに笑うから

だから、今だけは
光が闇を拭い去ってしまうまでは
どうしようもなく弱い俺を、抱きしめてください















リクエスト【ネイカズでカズヒラが鬱】でした!

ウツヒラさんで、という言葉に盛大に吹かせていただきました…
ウツヒラさん、いい響きだ

ひたすらカズに鬱々とさせた結果、グダグダになった気がしないでもない…
ネイカズ成分を濃くしようとした結果、甘甘と見せかけて鬱という残念仕様に

うちのカズは、悩むとどこまでもマイナス思考な深みにはまりやすい子です
スネークはそんなカズが愛しくてもどかしくあればいいと思う
というコンセプトで書いて、見事撃沈

リクエストしてくださった方のみ、お持ち帰り可能です
こ、こんなんでよろしかったでしょうか!?
苦情も返品も絶賛受付中でございます!!

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