Oh My Girl!2



「しまった…」

狼たちの群れから彼女を担ぎ上げ、キャンプ近くまで戻ってきた
それは、いい
この怪我では、一度キャンプで適切な治療を受けさせなければならないのだから

けれど、俺は彼女を連れ帰ることに必死で、あることを忘れていた
それに気づいたのは、キャンプまで後10メートルないくらいの距離に来てからだ

「キャンプにも、飢えた野郎しかいないじゃないか…!!」

何度でも言おう、戦場の男女比なんて調べるまでもなく男が多い
つまりは、慢性的に女に飢えているのだ、俺も含め!
このまま彼女を連れ帰ったところで、飢えた獣の群れに放り出すことには変わりないのだ

「ど、どうする…」

彼女には、安静な場所で的確な治療が必要だ
けど、それができるキャンプは飢えた野獣の群れの中だ
一刻も早く彼女の傷を治療しなければ
けれど、野獣の群れの中に放り込むのは…!

普段戦闘と食い物にしか働かない頭を必死にフル回転させ
そして、思い出した

「そうだ!ジェーン!!」

野郎だらけの医療スタッフ…いやキャンプの中、唯一の生物学的女性の存在を

「ジェーン!!ジェーン来てくれ!!!」

彼女を肩から下ろし、キャンプに向かって彼女を呼ぶ
ここからなら、十分聞こえるだろう

「どうしたのボス、そんな大声で…逢引はお断りよ?」

「天地がひっくり返ってもそれはないから安心しろ」

予想通り、すぐにジェーンはいつもの軽口を叩きながら俺の元へやってきた
一応女である彼女なら、この傷ついた彼女を野獣の群れに放り出すようなマネはしないだろう

「そうハッキリ言われるとムカつくわね…で、どうしたの?」

「怪我人だ、治療を頼みたい」

「怪我人?」

そこで、俺の側に横たわる彼女に気づいたらしい
ジェーンは、俺と上半身裸で傷だらけの彼女見比べ

「ジェーン?彼女を…」

「なぁにしてんだこの最低獣野郎がぁぁぁ!!!!!」

「ぐおぁぁぁ!!!」

鬼の形相で、全力で俺を殴り飛ばした









「もう、ボスったら早く言ってよね〜、私てっきりボスが傷ついた敵の女兵士を襲って手篭めにしちゃったとばっかり」

言う暇なかったろうが

カラカラと悪気なく笑うジェーンに、俺は盛大にため息をついた

あれから、渾身の拳で数メートル吹っ飛ばされ、さらに追撃をかけようとする彼女を宥めすかし事情を事細かに説明し
数発殴られた頃、ようやく事情を飲み込んだジェーンと共に彼女をキャンプの医療室まで運び
立ち入り禁止の札をかけ、彼女の治療を始めた

「…とりあえず、仮にも女が初撃に拳はどうかと思うぞ?」

「しょうがないじゃない、私か弱いレディーなんだから」

どこがだ
舌先まででかかった言葉を、必死で飲み込む

万が一にでも口に出せば、もう1発とは言わず10発くらい拳が飛んでくる

「はい、終わり…後は安静にしてれば良くなるわ」

「そうか、ありがとうジェーン」

「ふふ、どういたしまして」

ニコリと笑うジェーンに、ほんの少しだけドキリとする
黙って微笑んでいれば、彼女はとても美人だ
オマケに医療スタッフとしての腕は一流
黙ってさえいれば、非常に魅力的な女性だ

ただ、手癖の悪さと性格と口がそれを台無しどころか打ち砕いている

彼女を初めて見る兵士はたいてい口説くが
3日もすれば

『悪魔より恐ろしい』

という恐怖に変わる
何故彼女が実戦部隊にいないのか、と疑問を持つ兵士も少なくない
まぁ、これくらいでないと野郎だらけのこの世界で生き残ってはいけないだろうが

「それにしても珍しいわね…ボスが女を連れ込むなんて」

「意味深な言い方をするな…サムライだと、思ったんだ」

「サムライ?」

ジェーンが、小さく首を傾げる
俺は、ベットに横たわる彼女を眺めながら口を開いた

「あぁ…『俺は自ら望んで日本からやってきた。戦場が俺の居場所だからだ』と言っていた…『例えどんな手段を使おうと、決して負けない』とも」

その真っ直ぐな目が
真っ直ぐな声が
かつて日本にいた、サムライを連想させて

だから、ここで死なせるのが惜しくなった
だから、ここに連れてきた

「だから、サムライ?彼女、女なのに?」

「男だと思ったんだ…理由は知らないが、これで胸を隠していた」

彼女が巻いていた布をジェーンに差し出せば、彼女はジロジロとそれを観察した

「これは…サラシね」

「サラシ?何だそれは?」

「えぇっと、日本の伝統的な下着みたいなものね。お祭りのときなんかに、ハンテンという和服の下に着たするのよ。女性が胸を隠したいときなんかにも使うわね」

「ほぉ、詳しいんだな」

「当たり前よ!私日本大好きなの、いつか行ってみたいわ!」

目をキラキラ輝かせ、日本について語る彼女の瞳は子どものようだ
本当に、日本が好きなんだろう

「…ところで」

少し微笑ましい気持ちになっていると
急に、ジェーンはじとりと俺を睨んできた

「本当に…ほんっとうに、何もしていないんでしょうね?」

「な…何がだ?」

「彼女によ!最初上半身裸だったし、ボス…本当に何もしていないんでしょうね?」

彼女の疑いがたっぷりこもった眼差しに、つい視線をそらしてしまう

「な…何もしていないさ…」

つい、胸を揉んでしまったが…
あれはしょうがないだろう!?不可抗力だ!!
アレほど魅力的な胸を見せ付けられて何もしないとかどれだけ聖人だ!
俺には無理に決まってるだろう!

「それならいいけど…彼女、見た目はこうだけど日本人なんでしょう?」

「あぁ、そう言っていた」

「日本人…特に女性はものすごく慎ましくて奥ゆかしい人種なのよ」

「つつま…おく…?」

「ものすごく健気でおしとやかってこと」

「ほう…?」

お前とは正反対の人種なんだな

「…ボス?今何か凄く失礼なこと考えなかった?」

「い、いや全然考えてないぞ!それで?」

ジェーンは疑り深い目で俺をしばらく見ていたが、聞き出すことを諦めたのか続きを話し始めた

「つまり、とっても控えめで大人しいの。例えば、結婚なんかほとんど親が決めた相手とするそうよ」

「そ、そうなのか!?」

「えぇ、昔は結婚の儀式が夜這いだった時期もあったらしいわ」

「夜這い!?」

「親が決めた相手を家に招いて、女の人の布団…ベットみたいなものね。それに男の人が入り込んで事をいたせば結婚、という感じね」

「信じられん…日本の女はそれでいいのか?」

「それが日本の伝統だったみたい。でも、日本の女性はとても慎ましく控えめだから、その相手を夫として一生尽くすの」

「尽くす…」

「影から夫を支え、常に夫の数歩後ろを歩き、余計なことは言わずに夫に従い、夫の親を敬い、子どもと家庭を守るのよ」

ジェーンの口から漏れるのは、信じられない話ばかりだ
国が違えば、これほど文化が違うとは…
そんな国で生まれ育ったのか、彼女は

どうりで、これほど魅力的な女性なわけだ
ベットに眠る彼女を眺め、俺は小さく笑みを浮かべた

「それに、日本人女性はとても貞操観念が固いのよ」

が、ジェーンの言葉にその笑みが凍りついたのがわかった

「て、貞操観念が…」

「えぇ、なんせ夫が死んだら残りの一生を尼となって喪に服すそうよ」

「アマ?」

「シスターみたいなものよ。そうして生涯夫に操を立てるの」

「そ…そうか………」

だらだらと、背中に冷や汗が伝っている
いや、気づかないだけで顔中も冷や汗だらけなのかもしれない

そんな俺に気づいているのかいないのか、ジェーンはさらに熱く語り続ける

「でも日本には、夫が妻の浮気現場を見たらその場で刀で切り殺していいという法律まであったくらいだし…国民性なのかもね」

「そ、そんな法律まであったのか!?」

「えぇ、だから国民性なのかもしれないわね…浮気は認めないっていう」

「ほ…ほぉ…」

「夫以外の男に陵辱されてしまった場合、自害する女性もいるらしいしね」

「ジガイ…」

「自殺するって事。それくらい日本人女性の操は固いのよ」

な…なんということだ
日本人とは、そこまで操の堅い人種なのか…!

「…で、ボス?本当に何もしてないんでしょうね?」

ニコリと微笑んで、じぃーっと俺の目を見つめるジェーンに
俺はがっくりと肩を落とした

「…揉んでしまった…その、胸を…」

「やっぱり何かしちゃったんじゃない!ボスってば最低!!」

「けど、それだけだ!それ以外は何もしていない!!」

「十分よ!もし彼女が結婚してたらどうするの!?」

「う…」

「結婚してなかったらもっと大変よ!嫁入り前の乙女の大切な胸を揉むなんて!!」

「うぅ…それは…」

ジェーンの怒りも最もだ
知らなかったとはいえ、それほど操が堅く、健気な女性の胸を揉んでしまうなんて…
俺は、なんてことを…!

「ジェーン…俺は、どうしたらいいと思う…?」

「知らないわよ、自分で考えなさい」

ほら、邪魔よ獣!とジェーンに医務室からたたき出され、俺は地に膝をつけたままがっくり項垂れた

あれほど気高いサムライの生き残りに、俺は何てことを…
どうすれば、彼女は俺を許してくれるのだろうか…

「…ボス……医務室の前で、何を……」

帰ってきた兵士に、半ば引き気味でそう言われるまで
俺はそのままの体勢で、普段戦闘と食い物にしか働かない頭でグルグルと考え続けていた














オリキャラ出張りまくってます
これがにょたカズという部類でいいのかどうか激しく疑問

別にいいか、寝てるカズは確かにきょぬーな美女だから
皆さん、ベットに横たわる女体カズを心の目で見てください

ボスに相当間違った日本人の知識を披露したジェーンさん
それを鵜呑みにして凹みまくりなボス

さて、ボスはどうするのやら…

- 7 -


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -