愛しき人とその娘



通いなれた閑静な住宅街
その中のある一軒の家を目指して俺は落ち葉の散る道を歩いていた
手に持っている白い箱に入っているのは、とある高級菓子屋の特製ケーキ
なぜこんな場所を歩いているかと言うと、目的の家に住む愛しい人たちに会いに行くためだ
目が覚めて、ふと彼らの顔が見たくなったのだ

のんびりと歩いていると、目的の家が見えてきた
車があるのだから、きっといるのだろう
そう思いながら、チャイムを鳴らすと

「はぁい」

可愛らしい声が聞こえ、カチャリと音を立てて扉が開く
ひょこりと顔を出したのは、可愛らしい女の子
金色の髪をお団子に結い上げ、さらに三つ編みまで組み合わせるという手の込んだ髪型はきっと彼女の父親の作品だろう
彼女の髪を結い上げるのを彼女の父親は何よりも楽しみにしていることを思い出して、少しだけ微笑ましく感じる

「あ、スネーク…こんにちは」

彼女は俺を見上げ、まるで鈴が鳴るように愛らしい声でそう言って、天使のような笑みでにこりと笑った

「キャサリー、カズいるか?」

「いるよ…パパー、スネークきたよー!」

そして彼女は奥に向かって父親…カズの事を呼んだ
彼女の名前はキャサリー
カズの、娘だ

「ようスネーク、いらっしゃい」

彼女…キャサリーの声にひょっこりと、カズが家の奥から顔を出す
にこりと笑うその顔に自然と笑みが浮かんでくる

「急にすまないな、忙しかったか?あ、これ土産だ」

「お、この箱はケーキか…しかも、キャサリーが好きなとこの」

ケーキの箱を渡すと、カズの目が少しだけ細くなる
カズも、この店のケーキは好きなのだ
カズの言葉に、キャサリーの顔が嬉しそうに綻んだ

「わぁ!キャサリー、ケーキ大好き」

「はは、よかったなキャサリー。さ、上がれよ」

「悪いな、邪魔するぞ」

「どっかそのへん適当に座ってくれ、今飲みものを用意するから」

「キャサリーも手伝おうか?」

「いや、キャサリーはスネークの相手しててくれるか?ほっといたらこのオッサン拗ねるから」

「おいカズ、いつ俺が拗ねた?」

「わかった!キャサリー、スネークとお話してるね!」

「いい子だな〜キャサリーは!さすがは俺の娘だ」

「うん!パパの娘だもん。キャサリー、パパのこと大好きよ!」

「パパもキャサリーのこと大好きだぞ〜!」

いつものごとく俺をほったらかして始まった親子漫才に、2人に気付かれないようにため息をついた
カズは娘であるキャサリーを溺愛といっても過言ではないほど愛している
まぁ、気持ちもわからなくない
キャサリーは非常に可愛らしい女の子だ
ふっくらとした頬は健康的なバラ色をしていて、まぁるいカズと同じ色をした瞳、高すぎず引くすぎない鼻、赤い形のよい唇がバランスよく収まっている
今日は可愛らしく結い上げているが、背中の真ん中辺りまである金色の髪もまるで絹糸のようにさらさらとしている
それに四肢も幼いながらもすらりとしている
どこぞの子役モデルだといっても通用するくらいの愛らしさ
にっこりと笑った顔は、まさに天使のようだと俺でも思う

それに、性格もいい
父親に似て明るく朗らかで、誰とでも仲良くなれる
カズのしつけの賜物か行儀も非常にいいし、大人の前でも物怖じしない

将来はとてつもない美人になると、カズは毎日のように俺に自慢する
同時に、将来嫁にはやらないとも豪語している

『なぁスネーク…キャサリーが大きくなって、お嫁に行ったらどうしよう…それ以前に、思春期になって、パパなんか嫌い!なんて言われたらどうしたらいい?嫌いなんていわれたら俺死ぬかもしれない…!』

最近は酔っ払うと、グジグジと泣きながらその話ばかりするくらいだ
そのたびに俺は、大丈夫だ…きっとそんな事態にはならないぞ、とある種の確信を持って言ってやっている

カズの前では、彼女はまさに天使といっても差し支えない

そう、カズの前では

「じゃあキャサリー、パパは飲み物を用意してくるからな」

「キャサリーはオレンジジュースがいいな」

「わかった、オレンジジュースだな」

カズはキャサリーの頭を軽く撫でてやりながら、俺が持ってきたケーキを持って台所へと消えていった
このリビングからは、台所は見えない
カズの背中をニコニコと天使の笑顔で見送っていたキャサリーは、カズの背中が消えた途端
くるり、と俺のほうを振り返った

「…で、何のつもり?」

「…何がだ?キャサリー」

「白々しい、私とパパの2人きりのお休みを邪魔しにきたくせに。スネークはお仕事で毎日パパの顔見てるんだから、お休みの日くらいパパの顔見なくてもいいじゃない」

さっきまでの天使の笑顔が嘘のように、ジトリとした目で俺を睨みつけてくる
幼いが、なまじ顔が整っているだけにその表情は妙な迫力がある

「いや…休みだからこそカズの顔が見たくてな…それにキャサリー、お前にも逢いたかったんだ」

「そんなお世辞はいいわ。今日はパパと2人っきりでイチャイチャしようと思ってたのに…ケーキがなきゃその場で追い返してるところよ」

にこり、と笑ったその顔も、先ほどの天使のそれとはまったく異なる
言うなら、魔王の笑みだ

そう、キャサリーは父親…カズの前では天使のごとき愛らしさと無邪気さを発揮するが
カズ以外の前では、魔王が降臨したかのごとく毒舌を放つのだ

「まったく、本当にスネークは気がきかないんだから…パパはスネークのどこが好きなのかな?葉巻臭いただのオッサンなのにね?」

今も、無邪気な笑顔でグサリと俺の心を刺している
俺はカズの恋人だからか、少々手加減されているようだが
キャンベルが相手だと、本気で容赦ない
笑顔で、グサグサと容赦なく心を言葉の刃で突き刺すのだ
時々本気で泣かされそうになっていることがある、キャンベルが

しかも、そのことにカズはまったく気付いていない
うまく使い分けているのだ
時々、同一人物かと思うほどに性格が違う

まったく…これは誰に似たのだろう?
カズも若い頃から人によって態度を変えるのが大層上手かったが…若干8才でこれはどうなんだと、彼女が赤ん坊の頃から見てきた俺は心配で仕方ない

キャサリーは、ある日突然カズの元へやってきた
8年前泣きそうな顔で赤ん坊を、キャサリーを抱いてやってきたときは俺の人生の中で10本の指に入るくらい驚いた
話を聞けば、家に帰ったところ
【あなたの子どもです、名前はキャサリーといいます】
という書置きと共に玄関先にいたらしい

『…で、お前、心当たりはあるのか?』

葉巻を吸って落ち着きたかったが、赤ん坊の前でそれはダメだろう…と思いながら、どうにかそれだけ問いかけると
カズが、無言で俺から目をそらしたのを今でも覚えている

言い忘れていたが、当時すでに俺達は恋人同士となってかなりの時間がたっていた
まぁ、つまりキャサリーを作る頃にはすでに俺達は恋人だったわけで
その件については、後日しっかりとお仕置き…げふん、説教をしたが

『俺の子どもだっていうんなら、俺の手で育てたい』

そう、どこか優しい顔で赤ん坊を眺めながら言うカズに、諦めに近い気持ちを覚えたのが昨日のことのように思い出せる

それ以来、カズはちゃんとキャサリーを育ててきた
慣れない手つきで赤ん坊を抱き、ミルクをあげていた姿は父親というより母親のそれに近かった

当時は、自分の子どもが愛しいというよりは、幼い頃の自分を重ねていたように見えた
カズが話してくれた幼少期は、お世辞にも幸福だと言い難かった
だから、自分の子どもだという彼女に幼い自分を重ね、幼かった自分の代わりに幸せにしたかったのだろう

『スネーク聞いてくれ!キャサリーが喋ったんだ!俺のことパパって!!』

『スネーク聞いてくれ!キャサリーが歩いたんだ!まだあんなに小さいのに、さすがは俺の娘だ!』

だが、歳月がたつにつれカズはキャサリーを育てること自体に喜びを感じ、彼女の成長を心の底から喜ぶようになった
家族が出来た喜びをかみ締め、幸せそうに笑うようになった

俺は、カズの恋人だ
だが、カズに家族を作ってはやれない
共に歩いた時間の長さを考えれば夫婦といってもいいのかもしれないが、俺はカズの家族にはなってやれない
ずっと、そのことがもどかしくてどうしようもなかった

だから、キャサリーがカズの元へ来たことを今では感謝している
彼女はカズの娘…カズの家族だ
俺がなってやれないものに、俺が埋めてやれない心の隙間を埋める存在になってくれた
神様とやらに、彼女が生まれてきたことを感謝したいくらいだ

「ちょっとスネーク、私の話聞いてる?」

「すまん、ちょっと考え事をしていた」

「まったく…何でパパこんなのが好きなんだろう?」

「こんなのとは酷いな」

「レディーの話を聞かない男なんて、こんなので十分よ。パパはキャサリーの話いっぱい聞いてくれるのよ?スネークもパパのこと見習ったら?」

「キャサリーはカズが大好きだな」

「当然よ?大きくなったらパパのお嫁さんになるんだから」

ただ、ファザコンの気が強いのが少々心配だ
将来、俺はキャサリーが嫁に行けるかどうか心配で仕方ない
このままでは、大人になっても本気でパパと結婚するといいかねない
カズはそれでもいいかもしれないが、俺としてはキャサリーの花嫁姿も見たいし幸せな結婚をして家族を作って欲しい
将来彼女に子どもが生まれたら、名付け親になることを密かに夢見ているのだ

「キャサリーは、俺が嫌いか?」

何となくそう問いかければ、キャサリーはきょとんとした顔で俺を見て

「好きよ?パパの次くらいにね」

にこり、と心からの笑みを向けた

そんな彼女に、カズとは違う愛しさを感じる
俺も、キャサリーを赤ん坊の頃から見てきた
いくら毒舌だろうが性格が大人びていようが、可愛いとも思うし、愛しいとも思う

恋人とは違う、けれど同じくらい可愛くて愛しくて、とても大切な存在
カズも、同じ愛しさを彼女に感じているのだろうか

だとしたら、それは幸福なことだと何となく思った

















いい夫婦の日なので、以前から暖めていたキャサリーちゃんの話を書いてみた
あれ…ギャグにするはずだったのに、どうしてこうなった(知らんがな)
以前チャットで盛り上がったので、一度キャサリーちゃんを書いてみたかったそれだけなんです
夫婦関係ないとか言わないで…自分でもワカッテマス

ちなみにチャットで得たキャサリーちゃん知識
・マジ天使
・マジ可愛い
・でもしたたか
・マジ小悪魔
・カズと他の人間の前では態度が違う
・スネークばりのCQCができる
・要するに、キャサリーちゃんは最強

きっと我が家のキャサリーちゃんは激しく間違っていますが、大目に見てください

ギャグにしようとした名残が前半に出すぎて書き直そうと思ったけど、いい夫婦の日終わるからいっそこのままで(最低だ)

要するに、スネークも相当キャサリーちゃん溺愛してます
もう俺の娘気分です
けど、カズがそれ以上に溺愛しているので目立たないだけです

二人を手玉に取るなんて…キャサリーちゃん、恐ろしい子っ

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