スネにゃんとカズにゃん・梅雨の話2



道を歩き、塀の上を歩き、やがて人間達がたくさん住む場所にやってきました
カズにゃんは複雑な塀の上をするすると歩いていきます
どうやら、よくここにはくるようです

「あ、そうだ…アンタ、人間は平気か?」

そして、あるお家の庭に降り立ったカズにゃんは
戸惑うように塀の上にいるスネにゃんを振り返って、軽く首を傾げて見せました

「…あまり好きではない」

カズにゃんの言葉に、スネにゃんはほんの少しだけ顔をしかめました

大抵のノラ猫にとって、人間は敵です
人間の中には、ノラ猫に酷いことをするやつがたくさんいます
心無い人間に近づいて、怪我をしたり殺されたりするノラ猫は後を絶ちません
うっかり【ホケンジョ】の人間に捕まれば、他のたくさんの動物達と一緒に殺されてしまうという話は、ノラ猫たちの間では有名です

人間は敵、あまり近づいていはいけない
スネにゃんも、自分を育ててくれた猫からそう教わりました

「そっか…まぁ、ここんちは大丈夫だから降りてこいよ」

ほら、と促されて、スネにゃんはしぶしぶ警戒しながら庭に降り立ちました
実はスネにゃんは子どもの頃、うっかり猫嫌いの人間の家の庭に入って、酷い目にあったことがありました
その時は一緒にいた白猫が助けてくれましたが、それ以来あまり人間を好きになれません
なので、こうして人間のお家に近づくことはほとんどありません

「そんな警戒しなくても大丈夫だって。まぁアンタ流れだし、人間が苦手なのもしょうがないか」

カズにゃんは警戒心丸出しのスネにゃんにどこか困ったように笑い
とことこと、人間の家の窓に近づきお行儀よく座ったかと思うと

「うみゃぁ〜ん」

と、普段からは考えられないくらい、あまぁい声で鳴きました

「(…何だ、その声…)」

その声の甘さに、スネにゃんは思わずドン引きしてしまいました
発情期のメス猫だって、そんなに甘い声では鳴きません
しかも、その声を出しているのは、あの負けず嫌いで頑固なカズにゃんです
おかしいを通り越して、いっそ不気味にすら思えます

「あらぁ、トラちゃんじゃない。ご飯食べにきたのかい?」

けど、そんなカズにゃんの声にがらりと窓が開き
年をとった、優しそうな人間が1人出てきました

スネにゃんは、人間の言葉はわかりません
けれど、カズにゃんはまるでその人間の言葉がわかるかのように声をあげ
頭を撫でようと差し出された手に、自分から甘えるように頭を擦り付けています

「うみゃぁ〜ん、うにゃぁぁん」

「はいはい、ご飯だね…ちょっと待っててねトラちゃん」

「(…誰だ、お前)」

その様子に、さらにスネにゃんはドン引きしました
だって、あの意地っ張りで負けず嫌いなカズにゃんが、ありえないくらい甘い声を上げて人間に甘えているのです
いつも見るカズにゃんとは、まるで別猫です

「よし、飯ゲット!スネークも…何だよスネーク、そんなありえないもの見るような目をして」

「あ、あぁ…別に、なんでもない…」

けど、くるりとこちらを振り返ったカズにゃんはいつものカズにゃんで
少しだけ安心したような、余計怖くなったような、そんな複雑な気持ちを抱えて恐る恐るカズにゃんに近づきました

「お待たせトラちゃん…あら、見ない子だねぇ…新しいお友達かい?」

「みゃぁ〜ん」

けど、人間が姿を現した途端、また別猫のような声を上げ甘えきった表情を浮かべるカズにゃんに
スネにゃんは思わずビクリと少しだけ後ずさってしまいました

「(か、変わり身早すぎだろ…)」

そのあまりの早さに、いっそ恐怖すら覚えてるほどです
初めて会ったとき、まるで飼い猫のように毛並みがいいなと思いましたが
その理由が、今わかった気がしました
きっと、こうやって人間に愛想を振りまいては美味しいご飯をもらっているのでしょう

「あらあら、お友達怖がらせちゃったかねぇ…ごめんねぇ、トラちゃん」

そんなスネにゃんに、人間は少しだけ困ったような表情を浮かべてカズにゃんに話しかけ、頭を撫でています

「ほらすねーくぅ〜、愛想よくしろってぇ〜」

大人しく頭を撫でられながら、カズにゃんは甘えた声のままでちらりとスネにゃんを睨みつけます
その目には、何かものすごい力が宿ってるようにすら思えました

「…すまん、無理だ」

その光景に、ぞわぞわとまるで体の表面を虫か何かが這っているような感覚を感じながら
スネにゃんは、どうにかそう答えました
ずっと流れ者として生きてきたスネにゃんには、カズにゃんのような愛想のよさはありません

「(というか…こんなに人間に愛想のいい猫は初めて見た…)」

スネにゃんは長いこと流れ者としてたくさんの場所を旅して
たくさんの猫たちと出会いましたが、こんなに変わり身の激しい猫には出逢ったことはありません

「ありがとねぇトラちゃん、新しいお友達紹介しにきてくれて。ほら、ご飯おあがり」

「うみゃ〜ん…ほら、スネークも食えよ、うまいぞ?」

ニコニコと笑いながらカズにゃんにご飯の乗ったお皿を差し出し、それにとびっきり甘い声を上げてからスネにゃんを見やるカズにゃんに
スネにゃんは恐る恐る近づき
先に食べ始めていたカズにゃんの隣にちょこんと腰を下ろして一緒にご飯を食べ始めました

「お前…いつもこうやって飯食ってるのか?」

「ん、だって人間にもらう飯のほうが美味いし、それに楽だし。他にも何件かあるから教えてやるよ」

「い、いや…別に、いい」

「そうか?あ、この辺で糞とかするなよ?特に庭とかですると人間はうるさいからな」

カズにゃんはスネにゃんに厳しい目で注意しながらも一生懸命ご飯を食べています
確かに、人間が用意しただけとても美味しいご飯です
きっと、カズにゃんはこの人間にとても可愛がられているのだと、スネにゃんは思いました

「ふふふ、仲良しさんだねぇ…美味しいかい?」

「うみゃぁ〜ん…ほら、スネークも愛想振りまけ」

「俺には無理だ…なぁカズ、お前この人間が好きなのか?」

同時に、少しだけ不思議に思いました
カズにゃんは、ノラ猫です
でも、この人間はカズにゃんをとても可愛がっているように思えます
カズにゃんも、この人間に甘えているように見えました

なら、どうしてカズにゃんはこの人間の飼い猫にならないのかと、スネにゃんは思いました

スネにゃんは、人間があまり好きではありません
そして、ノラとして気ままに生きることが好きでした
それから、ある理由があって、スネにゃんは流れ者のノラとして生きています

ですが、人間が好きなら、猫は人間と一緒に生きるほうがきっと幸せなのだろうとも思っています
ノラ猫としての暮らしは、とても厳しいのです
夏は暑いし、冬は寒いし、雨が降れば体が濡れてしまうし、病気になっても自分でどうにかしなければなりません
ご飯だって自分で獲らなければならないのです
厳しい暮らしに耐えられず、大人になる前に死んでしまう子猫もたくさんいますし、大人になってもいつ死んでしまうかわかりません

飼い猫は違います
人間と一緒なので、雨が降ったっておうちに帰ればいいし、外よりおうちの中はずっと快適です
何もしなくても毎日決まった時間に美味しいご飯が出てきて、綺麗なお水が飲めて
毎日遊んでもらえるし、病気になったって病院に連れて行ってもらえます

ノラとして生きるより、優しい人間の飼い猫になったほうが、ずっと安全で幸せな一生を過ごせると、スネにゃんは思っていました

「ん?好きだぜ?この人間がくれるご飯美味しいし」

けど、カズにゃんはきょとんとした表情で
スネにゃんが思ってもいなかったことを言いました

「…それだけで、あんなに甘えるのか?」

「だって、ああしとけば人間は美味しいもんくれるし。スネークも少しは愛想振りまいとけよ、人間はああして愛想振りまかれるのが好きなんだから」

あ、ただし人は選べよ、下手すると怪我するぞ?と大真面目な顔でそういうカズにゃんに
スネにゃんは、少しだけカズにゃんの今まで知らなかった部分が見れた気がしました

カズにゃんは、人間を美味しいご飯をくれる存在だとしか思っていないようです
美味しいご飯がもらえるなら、きっと誰にでもあんな風に甘えた声を上げて甘える仕草をするのでしょう
もしも、この優しい人間がある日突然いなくなっても
カズにゃんは、何とも思ったりしないのでしょう

だから、カズにゃんはノラなのかとスネにゃんは納得しました
飼い猫は、自分と一緒に住んでいる人間のことが大好きです
いくら文句を言っても、結局は自分と一緒に住んでいる人間を特別に思い、誰よりも大好きなのです
少なくとも、スネにゃんが今まで出会ってきた飼い猫たちはそうでした

でも、カズにゃんは人間のくれるご飯は好きなようですが
人間自体は、好きでも何でもないようです
なので、特定の人間に飼われるなんて思いもしていないのでしょう

「(…何が、あったんだろうな)」

ご飯を食べるカズにゃんの横顔を眺めながら、スネにゃんはふとそう思いました

スネにゃんが人間を好きではないのは、小さい頃酷い目にあったのと
母親代わりだった白猫に人間は敵だと厳しく教えられたからです
けど、カズにゃんは愛想を振りまく人間を選べと言いました
きっと、人間を敵だとは思っていないのでしょう
でも、人間が好きだとも思っていません

スネにゃんは、流れ者としてたくさんの猫たちと出会いました
その中には、カズにゃんと同じようにたくさんの人間にご飯をもらう通い猫と呼ばれる猫たちや
その土地の人間達に飼われているようなノラ猫も、たくさんいました
でも、そのどれともカズにゃんは違う気がしました

カズにゃんの過去に何があったのか
自分と同じように人間に酷い目に合わされたのか
それとも、他に何かあったのか

スネにゃんは、知りたいと思いました

「(でも、今はまだ無理だな…)」

ですが、今カズにゃんに聞いても、きっとカズにゃんは教えてくれないだろうとスネにゃんは思いました
スネにゃんが、自分の過去をあまり話したくないように
きっと、カズにゃんも話したくないでしょう

辛く苦しい想い出ほど
他の猫に話したくないものです

「(だが、知りたい…カズ、お前の過去に何があった?)」

どこで生まれて、どうやって生きてきたのか
ずっとここにいたのか、それとも自分と同じようにどこからか流れてきたのか
スネにゃんは、もっとカズにゃんのことを知りたいと思いました

そんな気持ちになるのは、随分と久しぶりのことなのだと
スネにゃん自身も、気付かないままで
カズにゃんともっと仲良くなれたら、いつか聞けるのだろうかと思いながら
カズにゃんの隣でご飯食べることに集中することにしました

















にゃんこパロ、梅雨の季節の話でした

う〜む…ちょっと詰め込みすぎたかしらん?
書きたかったのは、人間に対して態度違いすぎなカズにゃんにドン引きスネにゃん
ソレを目指したら長くなって
そして、いらんオマケがつきました

別名・スネにゃんカズにゃんへの想いを自覚するの巻

次はちみっとシリアスチックになるかも

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