スネにゃんとカズにゃん・初夏の話



桜が終わり、若葉の季節がやってくる頃
スネにゃんは、川のほとりの日当たりのいい場所でのんびりと昼寝をしていました

桜の花が咲く頃、スネにゃんはこの街にやってきました
この地域のボスだったカズにゃんを倒して、この川のほとりの縄張りを手に入れました

最初は地域の猫たちも、急に現れて、カズにゃんを負かしたスネにゃんを警戒していましたが
優しくて強いスネにゃんのことを、みんなあっというまに好きになっていました

ただ1匹、カズにゃんをのぞいて

カズにゃんは、スネにゃんにボスの座と縄張りを取られたことが、とっても悔しくて気に入りませんでした
そして、今まで自分の側にいた子分がみんなスネにゃんのところにいってしまったことも、とってもとっても気に入りませんでした

「スネーク!勝負だ!!」

縄張りを取られた日から、毎日カズにゃんはスネにゃんにケンカを挑みました

「にゃっ!!」

「ほら立て、来い!」

「くっそ!!」

「ほらほらどうした、隙だらけだぞ!」

「うみゃっ!!?」

「どうした?俺に一発いれてみろカズヒラ!」

「くっそぉぉぉ!!!」

けれど、毎日のように返り討ちにあっていました
それどころか、まるでスネにゃんに遊ばれているような気すらしていました

そして、桜が散り終える頃、賢いカズにゃんはケンカではスネにゃんに勝てないことイヤでも理解しました
けど、カズにゃんはとても負けず嫌いです
このまま、負けたままではカズにゃんの気がおさまりません

なので、カズにゃんは別の作戦に出ることにしました

「スネーク!勝負だ!!」

「またか…いい加減諦めろ、お前じゃ俺にケンカじゃ…」

「今日はケンカしに来たんじゃない」

「…今勝負だと言わなかったか?」

不思議そうなスネにゃんに、カズにゃんはふふんっと鼻を鳴らし

「今日は木登りで勝負だ!」

人間だったら、指をびしぃっと突きつけるような態度でそう言いました

そうです、ケンカで勝てないのなら、別のことで勝負をすればいい
そう、カズにゃんは考えたのです

ケンカで勝つことは諦めましたが
プライドの高いカズにゃんは、負けっぱなしだけは我慢できなかったのです

「木登り?」

「そうだ、あの川原の隅にある大きな木…あのてっぺんに早く着いたほうが勝ちだ!どうだ?」

「…まぁ、いいだろう」

ため息を吐きながらも、のそりと立ち上がったスネにゃんに、カズにゃんは小さく笑いました
もともと、この場所はカズにゃんの縄張りでした
なので、あの木にももう何度も登って遊んだことがあります
どこから登り始めて、どこに足をかけて登れば早いか、カズにゃんはよく知っていました

「随分と自信たっぷりだなカズヒラ」

「あぁ、木登りは得意だからな」

お互いに木の下で思い思いの場所に陣取り、上を見上げます
当然、カズにゃんは一番登りやすい位置にいます
対するスネにゃんは、あまりいいとはいえない位置です

カズにゃんは、勝ったと思いました

「それじゃあいくぞ…よーい、ドンっ」

けれど

「ふんっ」

あまりいい位置からスタートしなかったにもかかわらず、スネにゃんはどんどんと登っていきます

「(は、速い!)」

カズにゃんも一生懸命幹に足をかけて登りますが、スネにゃんはさらに速い速度で登っていきます
力の差もありますが、スネにゃんはとても上手に幹や枝を使っています
スネにゃんも、どうやら木登りは得意だったようです

「…俺の勝ちだな、カズヒラ」

ようやくカズにゃんが頂上についたとき、スネにゃんは毛づくろいをしながらのんびりと待っていました

「………」

そんなスネにゃんに、カズにゃんは尻尾をべしべしと揺らします
勝てると思った勝負で負けて、カズにゃんは悔しくてたまりません
そして、生まれつきの負けず嫌いが、さらに刺激されてしまって
何でもいいから、スネにゃんに勝ちたくて仕方なくなってしまいました

「スネーク!勝負だ!!」

次の日も、また次の日も、カズにゃんはスネにゃんのところにやってきました

「今日はハンティングで勝負だ!」

「はぁ…まぁいいだろう」

「この公園で、日が沈むまでにどれだけ多くの獲物を獲れるかで競う…いいか?」

「わかった、日が沈むまでだな」

ある日は、公園でどちらが獲物を多く獲れるか勝負をしました

「鳩…だと…!?しかも、そんなにたくさん…」

「何だ、すずめか…それじゃあ腹いっぱいにならんだろ」

「(しかも、すでに食い始めてやがる…!)」

けれど、すずめしか獲れなかったカズにゃんは、鳩をたくさん獲ってきたスネにゃんには勝てませんでした

「今日はかけっこで勝負だ!」

「かけっこか…まぁいいだろう」

「あのいろんなものがある山を越えて、先にあのポールまでたどり着いたほうが勝ちだ…いいか?」

「わかった、あのポールだな」

またある日は、人間達がごみで作った山をどちらが速く越えられるか勝負をしました

「うわっ…あぁぁぁぁ!!!」

「おーい、大丈夫かカズヒラ?」

「いってぇ…くそ、あそこが崩れるなんて…」

「ケガないか?」

カズにゃんが足をかけたところが崩れ、下まで落っこちてしまいました
それを心配したスネにゃんは、一応一度ゴールまで行ってからカズにゃんに駆け寄りました
その行動に、カズにゃんは自分がとっても情けないような気持ちになりました

「今日は宝探しで勝負だ!」

「…なぁカズヒラ、お前のわけわからん勝負に俺まで巻き込むなよ…」

「いいじゃないかロイ、俺とお前の仲だろ?」

「まぁ、別にいいけどな…ようスネーク、いつもカズヒラが迷惑かけてすまんね」

「かまわないさ。で、宝探しってのは何だ?」

「やけに仲いいなお前ら…ロイに、このねずみを隠してもらう。それを先に見つけたほうが勝ちだ。どうだ?」

「あぁ、いいだろう」

ある日は、近所にすむ飼い猫のロイにゃんを巻き込んで、宝探しで勝負しました

「よし、見つけたぞ…このねずみだな、ロイ」

「おう、それそれ。今日もスネークの勝ちだな」

「くそうっ…まさか、あっちだったとは…」

「カズ、お前もまだまだだな」

「ほんとにな、1回くらいはスネークに勝ったらどうだ?」

「うるっさい!俺はまだ負けてない!!」

しかし、スネにゃんに負けてしまった上に、妙に仲のいいスネにゃんとロイにゃんにからかわれて
カズにゃんは唸りながらぶわりと毛を逆立てました

こうして、毎日毎日カズにゃんは勝負を挑み続け
そのたびに、スネにゃんにこてんぱんにされていました

「スネーク!勝負だ!!」

そして、今日もカズにゃんはスネにゃんのところへやってきました

「おう、カズか…いい加減、俺に勝負挑むのやめないか?」

「うるさい、俺はまだ負けてない!」

「はぁ〜…で、今日は何だ?魚でも捕るか?それともねずみか?」

スネにゃんのどこか呆れたような声にムッとしながらも
カズにゃんは、うっと言葉に詰まりました
いくら賢いカズにゃんでも、そろそろ勝負のネタがなくなってきてしまっているのです
今日も、習慣のようにスネにゃんに勝負を挑みにきましたが、何をするかはまったく考えていませんでした

「え〜っと…今日は…」

うろうろと視線をさまよわせ、ぴるぴると耳を揺らしながら考え込むカズにゃんを見ながら
スネにゃんは、大きくあくびをしました

「早くしろカズヒラ、俺は眠いんだが…」

「今日は…今日は、そうだな…」

カズにゃんは一生懸命考えますが、どうしても思いつきません
思いつく限りの勝負は、全部してしまっているのです
しかも、全部カズにゃんに負けてしまっています
同じ勝負で2度負けるのは、カズにゃんのプライドが許しません
でも、このまま負けっぱなしなのも我慢がなりません

「俺はもう寝るぞ?」

「ま、待て!今すぐ考えるから!」

「俺は眠いんだ…どうせだ、お前も昼寝していけ」

とろんと、眠そうな目でカズにゃんを見ながら、スネにゃんは小さくあくびをしながらそう提案しました

スネにゃんの提案に、カズにゃんは目を丸くしました
ここは、元はカズにゃんの縄張りだったとはいえ、今はスネにゃんの縄張りです
そして、カズにゃんはそこを取り戻すために勝負にきているのです
そんな相手に、一緒に昼寝をしようといわれるとは夢にも思っていませんでした

「アンタ…舐めてんのか?俺は縄張りをかけた勝負にきてるんだぞ?」

「勝負なら、昼寝から起きたら受けてやる」

「いや、そういう意味じゃ…」

「ここは日当たりもいい、昼寝には最高の場所だ」

「知ってる、元は俺の縄張りだぞ」

「なら話は早い…俺は眠い。お前も寝ていけ、起きたらいくらでも勝負してやろう」

ぽかんと、目を丸くしているカズにゃんにかまわず
スネにゃんは体を丸めて目を閉じて
そのまま、寝息を立て始めました

「おい、スネーク?…ほんとに寝やがった…」

ぴすぴすと寝息を立てるスネにゃんに、カズにゃんは呆れたように呟きました
確かに、カズにゃんはスネにゃんにケンカでは勝てません
でも、それは起きているときの話です
今寝込みを襲えば、きっとカズにゃんはスネにゃんを追い払い縄張りを取り戻せるでしょう

「はぁ〜…俺が寝込みを襲ったらどうする気だ?」

でも、カズにゃんはスネにゃんの寝込みを襲おうとは思いませんでした
カズにゃんは、スネにゃんに勝ちたいのです
寝込みを襲ってスネにゃんから縄張りを取り戻しても、カズにゃんはちっとも嬉しくありません

「わかってんのか?俺は縄張りを取り戻しに来てるんだぞ?そんな相手の前で寝るか?」

こうして、カズにゃんがいるにもかかわらず、スネにゃんは平和そうに眠っています
それは、例え寝こみを襲われても勝つ自信があるのか
それとも、カズにゃんは寝込みを襲ったりするようなマネはしないと信頼しているのか

後者ならいいと、カズにゃんはぼんやりと思いました

「(変わったやつだよなぁ、こいつ…俺の勝負を律儀に受けたり、俺の側で平気で眠ったり)」

カズにゃんも、本当はわかっていました
ケンカならともかく、わけのわからない勝負まで受ける義務はスネにゃんにはありません
威嚇して、そんなのできるか!と一蹴してしまえばそれでいいのです
けれど、スネにゃんはカズにゃんの言い出した勝負全てを断ることなく受けていました
それでカズにゃんの気がすむのならと

「(くそっ…敵わないなぁ)」

カズにゃんはどこかイライラとした、でもちっともイヤじゃない気持ちで眠っているスネにゃんを睨みつけ
その場に、ゆっくりと丸まりました

日当たりがよく風通しもいいこの場所は、スネにゃんに取られてしまうまではカズにゃんのお気に入りの昼寝場所でした

暖かな日差しに、とろとろと眠気がやってきます
くぁ〜っと、大きなあくびをしてやってくる眠気に任せて、カズにゃんはゆっくりと目を閉じました
起きたらどんな勝負をしようかと、頭の隅で思いながら







「(まさか、本当に寝るとはな…)」

ぴすぴすと気持ち良さそうな寝息が聞こえてきて、スネにゃんは閉じていた目をぱちりと開けました
起き上がって軽く伸びをして、少しだけ離れた場所で丸まって眠るカズにゃんにそっと足音を立てないように歩み寄ります
完全に眠っているカズにゃんは、そのことに気づかず気持ち良さそうに眠っています

カズにゃんの側に座って、ペロペロとふわふわの毛で覆われた首を舐めれば
気持ちいいのかゴロゴロと喉が鳴る音が聞こえてきて、スネにゃんは困ったように笑いました

「おいカズ、俺がこのまま喉に噛み付いたらどうする気だ?」

スネにゃんの言葉に、カズにゃんのヒゲがぴくぴくと動きましたが、目を覚ます様子はありません
とっても、よく眠っています

「おい、俺が敵だったらどうする気だ?お前殺されるぞ?」

その警戒心のなさに、スネにゃんは少しだけ呆れながら
とってもカズにゃんに信頼されているみたいに思えて、嬉しく思いました

もしもカズにゃんが襲ってきたら、スネにゃんは本気のケンカをして、さっさとここを出て行くつもりでした
でも、カズにゃんは自分を襲うどころか、誘われるままに側で昼寝をし始めました

眠ってしまったら、自分がスネにゃんに襲われるかもしれないというのに
素直に眠ったということは、そんなこと考えてもいないということです
今も、スネにゃんがこっそり毛づくろいしても気づかず眠っているのがいい証拠です

「随分と信頼されたもんだな…」

スネにゃんは流れ者です
たくさんの猫の縄張りを奪ったり、返したりしてきました
でも、カズにゃんほど負けず嫌いで、しつこく勝負を仕掛けてくる猫はいませんでした
そして、スネにゃんもいつの間にかその勝負を楽しんでいました

今日はどんな勝負をするのか想像するのも
そして、負けたときのカズにゃんの悔しそうな顔を見るのも
そして、明日もやってくるかどうか考えるのが

スネにゃんは、楽しくて仕方なくなっていました

「…もう少し、この街にいるか」

本当は、そろそろこの街から出て行こうと思っていましたが
もう少しだけ、カズにゃんの勝負に付き合っているのもいいかもしれないと
気持ち良さそうに眠るカズにゃんの隣で丸くなりながら、スネにゃんは思いまし


















にゃんこパロ若葉の頃編でした〜
少しだけ仲良くなったかもしれない2匹の話

勝負挑んではスネにゃんに勝てないくせに、けっこう無防備なカズにゃんと
そんなカズにゃんをすっかり気に入ってるスネにゃん
さて、これからどうなるのやら

とりあえず起きたとき、スネにゃんがすぐ側に居てカズにゃんがびっくらこく予感がします
で、考えてた勝負とか全部吹っ飛んでる気がします
うん、楽しいのは自分だけ

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