スネにゃんとカズにゃん・春の話



小さな街の中心を流れる、大きな川
そのほとりの、広い広い川原

そこは、川の向こう側までカズにゃんの縄張りでした

カズにゃんは、ふわふわの金色の毛並みに蒼い瞳を持つとても綺麗なノラ猫です
カズにゃんは、とても賢い猫です
人間を一目見ればその人が猫が好きか嫌いかわかり
またどうやって甘えたらご飯がもらえるかよく知っていました
カズにゃんは、とても強い猫でした
この辺のノラ猫の中でも、一番喧嘩が上手でした
力は普通でも、賢いカズにゃんはどこを引っかいて噛み付いたらいいのかよく知っていたからです

強くて賢いカズにゃんは、このあたりのボスだったのです
子分も沢山いて、カズにゃんの子猫を産みたいというメス猫も沢山いました

けど、桜の花が咲く頃
隣の街から、一匹のノラ猫が流れてきたのです

とても大きな身体に沢山の傷跡がある、茶色い片目のない猫です

流れ者の猫は、たいていその土地のノラ猫たちに悪いことしかしません
なので、流れ者を追い払うのは土地を守るボスの役目なのです
当然、ボスだったカズにゃんはその流れ者の猫を探し出し
自分の縄張りの端の小さな茂みの中で眠っていた流れ者を睨みつけて、精一杯の威嚇を含んだ声で話しかけました

「おい、お前何者だ?どこから来た?」

その声に、身体の大きな流れ者は片方だけの青い瞳をカズにゃんに向けます
その目が怯えも警戒もしていないことに、カズにゃんは少しだけ腹を立てました
怯えも警戒もしていないということは、舐められているということだからです

「お前、誰だ?」

案の定、流れ者はだるそうな声で体を起こそうともせずカズにゃんに問いかけます
その態度にイライラしながら、カズにゃんはどうにか冷静になろうと尻尾を軽く揺らしました

「俺は、このあたりのボスだ」

そういうと、流れ者の目が驚いたように丸くなります

「そして、ここは俺の縄張りだ…さっさと出て行ってもらおうか」

イライラしながらそういうと、流れ者はようやく体を起こしてカズにゃんと向き合います

「(…でかい)」

カズにゃんが一瞬怯えてしまうくらい、流れ者は大きな体をしていました
カズにゃんは、決して小さな猫ではありません
むしろ、普通より大きな体をしています
けれど、流れ者はそんなカズにゃんよりはるかに大きな体をしています
さらに、流れ者の猫が放つ雰囲気がさらにその体を大きく見せていて
カズにゃんは、負けじと毛を逆立てて流れ者を威嚇しました

「そいつは悪かった」

けれど、流れ者は愉快そうに笑いながらカズにゃんを見下ろしています

「…アンタ、どこからきた?何故ここにいる?」

カズにゃんが低く、唸るようにそう問いかければ

「俺か?俺は、スネークだ」

流れ者…スネにゃんは、そんなカズにゃんとは対照的に余裕たっぷりに笑いました





スネにゃんは茶色の傷だらけの体に片方だけの蒼い瞳を持つ、流れ者の猫です
流れ者は特定の縄張りを持たず、ふらふらとあちこちへ旅する猫のことをさします
まだ若かった頃は、とある白猫の流れ者についてあちこちを巡っていましたが
今は、1人であちこちふらふらと旅をして過ごしていました

桜の花が咲く頃
スネにゃんは、とある小さな街に辿り着きました
別に、その街に興味はありませんでしたが
ちょうど日が暮れる少し前に辿り着いたので、今日はここで夜をあかそうとスネにゃんは思いました
広い川原の隅に、眠るのにちょうど良さそうな茂みを見つけ
今日はここで寝ようと、そこに丸まって目を閉じていました

「おい、お前何者だ?どこから来た?」

不意に、さくさくと茂みが掻き分けられる音がして
警戒したような声が、聞こえてきました
その声に目を開ければ、目の前に一匹の猫が立っていました

ふわふわの金色の毛並みに、蒼い生意気そうな瞳を持つまだ若い猫です

「お前、誰だ?」

すっかり眠くなっていたスネにゃんは、面倒なのを隠そうとせず金色の猫に問いかけます
金色の猫があまりにも偉そうなので、少しばかり不機嫌になっていたのです
そんなスネにゃんに、金色の猫も不機嫌そうに尻尾を揺らします

「俺は、このあたりのボスだ」

そういう金色の猫に、スネにゃんは驚きました

「(こんなに綺麗なのに、ノラなのか)」

つい、そんなことを考えてしまいます
ふわふわの毛並みは、まるで飼い猫のように柔らかそうでつやつやしていて
その顔立ちは、まるで人間が血統書つきと呼んでいる奴らのように整っていたので
てっきり、世間知らずな飼い猫が興味本位で自分に話しかけてきたのだと思ったのです

「そして、ここは俺の縄張りだ…さっさと出て行ってもらおうか」

機嫌が悪そうに尻尾を揺らしながら、そういう金色の猫に

「(どうやら、ここはこの金色の猫の縄張りだったみたいだな)」

そう思ったスネにゃんは、ゆっくりと立ち上がって金色の猫に向き合います

その瞬間、一瞬金色の猫の蒼い瞳が驚いたように丸くなり
ぴるぴると動く耳が、怯えたようにぺたんと一瞬だけ寝てしまいました

どうやら、あまりの体格差にビビッてしまったようです

しかし、すぐに金色の猫はキッとスネにゃんを睨みつけ、ふわふわの毛を逆立てて威嚇します

どうやら、相当気の強い猫のようです

「そいつは悪かった」

そんなことを考えながら金色の猫を見つめていると、金色の猫は見る見るうちに不機嫌そうな顔になりました

「…アンタ、どこからきた?何故ここにいる?」

低く、警戒心を滲ませた声を出す金色の猫に、スネにゃんは笑い出しそうになりました

「俺か?俺はスネークだ」

スネークは、気が強いこの猫にほんの少しだけ興味を持ったのです

「お前は?」

「…カズヒラ」

そう、警戒しながらも素直に答える金色の猫…カズにゃんを、スネにゃんはすっかり気に入ってしまいました

「そうか…カズヒラ、なら縄張りを賭けて勝負をしよう」

「勝負?」

いきなりそんなことを言い出したスネにゃんに、カズにゃんは一気に体を緊張させます
縄張りを持たない流れ者が、縄張りを賭けて勝負しようということは
自分をここから追い出して、ボスになると言っているのと同じです

「…いいだろう」

けど、それから逃げるのは、カズにゃんのプライドが許しません
2匹は広い場所に移動し、互いに向き合いました

高い威嚇声を出しながら互いに睨みあいます
互いの姿すら、よく見えないほど近くで互いの目を真っ直ぐに見つめ

そして、長い時間そうして互いに威嚇しあい
ふとした瞬間、同時に互いに飛び掛りました

カズにゃんは、力ではスネにゃんに敵わないことを一瞬で理解しました

「(けど…これなら、どうだっ)」

それならと、カズにゃんはスネにゃんの上に乗ろうとしながら
死角であろう右側に向かって素早く腕を伸ばしました

「(悪くない攻撃だ)」

しかし、スネにゃんはその腕を叩き落として
力と体格の差をうまく利用して逆にカズにゃんを吹き飛ばしました

「にゃっ!?」

思いも寄らなかった攻撃に
カズにゃんはあっという間に吹っ飛ばされ
川の中に、勢いよく落ちてしまいました

「冷たっ」

いくら暖かくなってきたとはいえ、まだ川の水は冷たく
カズにゃんは、慌てて川原へ飛び上がり

「俺の勝ちだな、カズヒラ」

そう、余裕たっぷりに笑うスネにゃんを見て
ケンカに負けてしまったことを悟りました

「…」

カズにゃんは何も言えず、スネにゃんを睨みつけます
ケンカに負けてしまったということは、カズにゃんがここから出て行かなければなりません

それはとても屈辱的で、辛いことでした

「ところでお前、縄張りはどこからどこまでだ?」

「…川のこちら側と、向こう側だ」

「ほう、そりゃ広い」

「一応ボスだったからな…アンタに負けるまで」

「だが、ちと広すぎるな…俺は流れ者だからな、全部はいらない。そうだな、川のこちら側をもらおうか」

思いも寄らなかった提案に、カズにゃんは一瞬きょとんとし
すぐに、不機嫌そうにスネにゃんを睨み付けました

「何だソレ、同情のつもりか?そんなのまっぴらごめんだ!」

そんなカズにゃんに、スネにゃんはニヤリと笑って見せました

「何がおかしい?」

「いや…威勢がいいのはいいことだが、土地猫のお前が縄張りをなくしてどうする?流れにでもなる気か?」

そう言われ、カズにゃんは言葉に詰まりました
流れ者として生きるのは、ノラとして生きるよりずっと辛いと聞いていたからです

言葉に詰まったカズにゃんに、スネにゃんは余裕たっぷりに笑いました

「俺は流れ者だ、この場所に住み着く気もない。なぁに、しばらくの間ここを貸してくれればいい。しばらくしたら出てってやるさ」

「それを、信じろと?」

「信じようが信じまいが、ケンカに勝ったのは俺だ。ここは俺がもらう」

そういわれれば、カズにゃんは黙るしかありません
スネにゃんがどう言おうが、ケンカに負けてしまったことには変わりません
とにかく、今日の晩はカズにゃんは引き上げるしかありません

「…必ず、アンタに勝ってやるからな」

そう、スネにゃんに吐き捨てて
カズにゃんは、川のコンクリートを渡って、向こう側に帰っていきました

「…面白い猫だな」

スネにゃんは、そのカズにゃんの背中を見送りながら
しばらくの間は退屈しそうにないなと思いました
















きっと自分だけが楽しいにゃんこパロ
一応、猫について調べたりはしましたが
ぶっちゃけ、猫飼ったことがないので…描写がおかしい場所があるかもしれません
童話っぽい第三者視点を目指して書いていますが、失敗してる感が拭えない

まぁ、何が書きたかったかと言うと
スネークに縄張り取られるカズが書きたかっただけなんですけどね(コラ)

のんびりと続いていくかもしれない

- 19 -


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -