Oh My Girl!4



「なぁ、ジェーン…」

「あら、どうしたのミラー」

俺は手の中の物を眺めながら、事務作業をするジェーンに声をかけた





このキャンプに運ばれて早数月
怪我もほとんど治り、今は今後の身の振り方を考えるためにこの医務室にいさせてもらってる

本来なら、医務室から出て独房か何かにでもいるべきなのだろうが

女だということを、あまり知られたくない

そういう俺の主張を、2人は快く受け入れ
重症で、反抗心が強く強暴だから他人に任せられない…と、ちょっぴり失礼な嘘でスタッフを納得させ医務室を提供してくれている

その俺に唯一つくスタッフが、女性であるジェーンであることを素直に納得してしまう辺り
このキャンプにおけるジェーンの立ち位置が判る気がする

ボスに対してすら、あぁなのだから他スタッフにはもっと凄いんだろう
まぁ、こんな野郎だらけのキャンプだ…こういう性格じゃないとやってられないんだろう

しかし、罪悪感がないわけでもない
戦場で、貴重な医務室と優秀な医療スタッフであるジェーン
その2つを、たかが捕虜である俺が独占してしまっているのだから

そのことをジェーンに話したら

『あら、いいのよ?事務作業がはかどるし!ボスも他の野郎どもも、ちっとも事務作業してくれないのよ。それに、野郎といるより同じ女性とお喋りしてたほうが楽しいわ』

と、コロコロと笑ってくれた

『あぁ、それにジェーンがうろついていないほうが兵士が怯えずに…がはぁっ』

『あらボス?何か言った?』

そしてお約束のように、余計なことを口にするスネークに拳を飛ばしていた





「あ〜…悪い、忙しかったか?」

「ううん、ちょうどお茶にしようと思ってたとこ。ミラーも飲む?」

「あぁ、頼む」

「それじゃ、お菓子も出しましょうか!ちょうど美味しいのが手に入ったのよ」

ウキウキとお茶の支度を始める彼女は、俺とは違って本当に女性らしい
確かに手も早いし口も少し悪いけど…それでも十分に可愛らしい

こんな女性がいるのに、スネークは何故俺に求婚したんだ
彼女と、とても親しそうなのに…

「はい、熱いから気をつけてね」

ぼんやりと考え事をしていると、ジェーンが俺の前にお茶と皿を差し出してくれた
いい香りのするそれを口に含みながら、手の中の物を弄ぶ

「それ、気に入ったの?」

そんな俺を見て、ジェーンは可愛らしく小首を傾げるが、そんなもんじゃない
ぶっちゃけ、それ以外の使い方を思いつかないだけだ

「いや…なぁ、ジェーン」

コップを机に置き
俺は、ささやかな疑問を口にした

「おたくのボスは、コレでほんとに俺が喜ぶと思ってんのか?」

俺の手の中にあるもの
先ほど届けられたスネークからの今日のプレゼント
何だかよくわからない木彫りのお面を眺めながら、はぁっとため息を吐いた

「ごめんなさいね、日本では木彫りの熊がお土産で喜ばれるって話をしちゃったから」

「木彫りしかあってない気がするんだが…」

しかも、このお面やたらと不気味だ
むしろ、非常に禍々しい何かを感じる
これで俺が本気で喜ぶと思っているんだなら、スネークの中での俺のイメージを一度聞いてみたい

もしかして、これは軽い嫌がらせなのだろうか
プレゼントに見せかけて俺を呪う気なのか?

「まぁ…ボスも悪気があるわけじゃないのよ?ただ、あの人基本的にバカだから…」

そんな俺の思考に気づいたのか、ジェーンは困ったように笑った

数月前
俺は、ここのボス、スネークから結婚を申し込まれた
しかもその理由は

結婚前の女性の胸を見て、なおかつちょっと揉んでしまった責任を取る

という、非常にくだらないことだった

ちっとも話を聞いてくれないスネークに困り果てていると、目の前にいるジェーンが俺の代わりに怒って部屋から叩き出してくれたが

それ以来、スネークは毎日何かしらプレゼントと称してわけのわからないものを持ってくるようになった

最初は、花だった
しかも、そこらへんに咲いているような花をただ集めただけの花束
それを持ってきたスネークは、期待に満ちた目で俺を見ていたが…おれは微妙な反応しか返せなかった
それがお気に召さなかったのか、次はもっと沢山の花を集めて持ってきた
が、俺はまたも微妙な反応しか返せなかった

だって、しょうがないだろ
花に、血がついてるんだからさぁ
1本や2本じゃなく、しかもけっこうべっとりと
どうみても、戦場で見つけた花ですね…わかります…

そんなことが何度かあり
どうやら、俺は花が嫌いらしいとズレた認識を持ったスネークは、今度は食べ物らしきものを持ってきた

まだ生きてる蛇とか、蛙とかをそりゃもう生き生きとした表情で

さすがにそれは俺が何かを言う前に、ジェーンが殴り飛ばしたが
それを、生きてるからいけないんだと微妙に違う認識をしたらしいスネークは、今度はちゃんと殺したやつを…しかも、ちょっと齧った後があるやつを持ってきて
それでも殴り飛ばされると、原型があるからいけないんだと丁寧に捌いて
それでも殴られ、ようやく蛇とか蛙が駄目なんだと気づいたらしく

今度は、生きたヤギを連れてきた

蛇も旨いが、ヤギも中々いけるぞ!
と、自慢げなスネークの表情が今も忘れられない

それから、鳥やらウサギやらネズミやら
何だかよくわからないキノコとか、あからさまに不味そうな果物とか
いろんな物を持ってきては、ジェーンに怒られ、俺の微妙な反応を眺め

俺は、食べ物も喜ばないというまたズレた認識を持ってしまった

それからのプレゼントは、色々とカオスだ
形や色が珍しい石ころとか
何だかよくわからない民族衣装とか、アクセサリーとか
本当に何が何だかわからない物体とか
時には、武器を持ってきたこともあった(捕虜に武器もたせてどうする気なんだ)

今となれば、どうして最初の花の時点で喜んでおかなかったのかと悔やまれる
そうすれば、今俺の手の中に禍々しい仮面があることもなかったのに

まぁ、何が言いたいかというと

「いい加減、うっとおしいんだが…」

スネークのわけのわからないプレゼントで埋まり始めた、医務室の隅を眺めながらげんなりとため息を吐いた
いったいどうしろというのだ、この大量のわけのわからないものを

「ふふ…まぁ、許してあげて。あの人女性に何をプレゼントしたら喜ぶかわからないのよ」

「それにしても、コレは酷いと思うが…」

「それもそうね、一度きっちり言っておくわ」

ふぅ、とため息を吐くジェーンに、ほどほどで…と釘を刺しておく

「まぁ、品物はどうあれ…ボス、貴女のこと気に入ってるのよ」

ジェーンはお茶を一口口に含むと、にっこりと笑った
その笑顔が可愛らしくて、男はやっぱりこういう女性が好きなんだろうなぁってふと思った

「ほら、最初のことで、貴女に嫌われたんじゃないかって気にしてるの。ほらあの人、戦闘と食べ物以外のことはさっぱりだから」

「…別に、嫌ってはいないけど…けど…」

「けど、なぁに?」

彼女は、真っ直ぐな目で俺を見つめる
でもそれは問い詰めるような瞳じゃなく、言いたかったら言ってもいいんだという優しい色をしていた

「けど…結婚は、できない……スネークが、俺にここまでする意味がわからない…」

だから…ずっと、疑問に思っていたことを口に出した

スネークは、ただの捕虜でしかない俺に貴重な医務室を与え
優秀な医療スタッフである彼女を与え
女であることがばれないよう配慮してくれている

なぜ、ただの捕虜でしかない俺に、そこまでするのか

最初に、しょうもないことで責任を取って結婚とか言い出した男だ
こうして側において、物を与えることで責任を取ってるつもりなのかもしれない

表現の仕方はおかしいが、スネークは案外紳士でフェミニストなのかもしれない
その証拠に、ジェーンはスネークに対して遠慮なく物を言えるし、スネークも何をされてもジェーンにやり返そうとしない
スネークに、相当女性に対する思いやりがないと築けない関係
女性が下に見られがちな戦場では、非常に珍しい関係だ

そんな、フェミニスト精神で俺を側に置きたがっているのなら
俺が女だからという理由で、こんな風に扱われるなら
そんなの、死んでもお断りだ
そんな同情まがいのことで側に置かれるなんて、まっぴらだ
そんな風に庇護されるくらいなら、今すぐ出て行ってやりたくなる

どうせ側に置くなら、もっと対等な関係を求めて欲しい
女だからという理由で、庇護される存在でありたくない
堂々と、隣に立てる存在でありたい

「…ボスは、貴女を気に入っているのよ」

「…それは、女として?それとも責任を感じて?」

俺の言葉に、一瞬きょとんとした表情になったジェーンは
次の瞬間、堪えきれないといった風にくすくすと笑い出した

「やだ、そんなこと気にしてたの?…ミラーは意外と初心ねぇ」

「な、何で笑うんだ!?俺は真剣に…」

「ふふ…ごめんなさい。まさか、そんなこと気にしてるなんて思わなかったから」

「気にするさ!目覚めて最初にされたのがプロポーズだぞ!?」

「あはは、そうね〜。ミラーって案外可愛いとこあるわね」

カラカラと笑うジェーンに、少しだけイラっとする
俺がこのことに、どれだけ頭を悩ませているか、わかってもらえていないと思った

本当に、悩み続けているのに

『カズヒラ、俺と結婚しよう!』

『…お前はまだ、死ぬべきじゃない』

あの男に手を取られた、あの時から

「ジェーン!俺は真剣に!」

「大丈夫よ、確かにプロポーズは本気だったけど…貴女を助けたいと思ったのはそういう理由じゃないわ」

「じゃあ一体…」

「コイツは、女だがとても気高い戦士だ…だから、死なせたくない」

「…え?」

「貴女の意識がなかった時、ボスがそう言ったのよ…最初につれてきたとき『サムライだと思った』とも」

「スネーク、が?」

「あら?私が嘘をついてるとでも?」

「い、いや…そういう意味じゃないけど…」

驚いた
まさか、スネークがそんなことを言ってくれていたなんて
サムライとか、気高い戦士とか
俺は、そんなたいそうなもんじゃないのに
アンタを道連れにしようとしたのも、負けたくなかったから
どうせ死ぬなら、一矢報いてやろうと思っただけなのに

けれど、アンタはそう思ってくれてたんだな
こんな、俺のこと…そんな風に…

自然と熱くなる頬を誤魔化すようにお茶を煽ると、ジェーンはまるで小さな子どもを見るように笑った

「それに、私がボスに遠慮なく物を言えるのも、ボスがみんなを平等に扱ってくれるからなの」

「平等…?」

「えぇ…戦場では男も女も関係ない、そんな小さなことを気にする奴は真っ先に死ぬ…ってね。だから、私はここで他のスタッフと同じように扱ってもらえるし、他のみんなも私を平等に扱ってくれる…女だからとか、女だろうとか言わずにね」

嬉しそうに笑う彼女の言葉に…俺は自分が何だかとても小さな存在に思えてきた
女扱いをされたくない、平等に扱われたいと思いながら
女であることを気にしていたのは、他でもない俺自身
けど、スネークはそんなものより、もっと大きなものを見ていてくれたのだ

俺を、1人の人間として、見ていてくれたのだ
性別を気にするあまり、そのことが見えていなかったんだ

「表現方法は不器用でおかしかったかもしれないけど…貴女に気に入られようと必死だったのよ」

「俺…に…?」

「えぇ、貴女を1人の人間として気に入ってね…ただ、私が最初にちょっと脅しすぎちゃったのかもね…」

ごめんさないね、と小さく頭を下げるジェーンに、俺は慌てて頭を上げてくれと頼んだ

彼女が、謝る必要なんかない
悪いのは、考えすぎで疑いすぎた俺なんだから

「だから、考えてみてもらえないかしら?ここに残ること」

「え…?」

「まぁ、結婚とかは別にして…というか、アレはボスが勝手に盛り上がっただけだから気にしなくていいわ」

「は、はぁ…」

「貴女がこのキャンプに残ってくれたらボス、凄く喜ぶと思うわ。それに、私も凄く嬉しいし。いくら平等といっても、やっぱり同性がいるというのは嬉しいもの」

ジェーンの嬉しそうな顔に、少し戸惑ってしまう
このキャンプに残ることを、まったく考えてなかったわけじゃない
けれど、いきなりそんな風に言われても実感がわかない
そりゃ、俺にはもう行く場所もないし、ここに残れたらいいと思うけど…

けれど、自信はない
あの男と、対等に立てるくらいの力量が自分にあるのか
そこまで言われて、その言葉にふさわしい人間であるのか

「けど…俺は…」

「ボスが気高い戦士って評価したんだもの、もっと自信持って!とうか、ボスもぶっちゃけ貴女に残って欲しいと思ってるみたいだし」

「…本当、か?」

「えぇ、何を気にしてるか知らないけど、ボスは貴女を気に入ってるんだもの。それにボスは性別とか生まれとかで人を区別するような小さい男でもないし」

まぁ、バカだけど
そう言って笑うジェーンに、俺もつられて笑う

急に、細かいことを考えていることが馬鹿馬鹿しくなってきた
ここは、とても居心地がいい
ボスは確かにバカだけど、懐の深い大らかな男で
ジェーンは口も手癖も悪いけど、優しく思いやりのある女性で

そんな2人がいる場所なんだ
ここに残るのも、悪くないのかもしれない

「前向きに、考えてみる…」

「そう…ボスといい返事を期待してるわ」

ジェーンはにっこりと笑って、机の上の菓子に手を伸ばした

よく考えたら
この目の前の女性に、いいようにいわれてるだけかもしれないと思ったけど

でも、不思議と嫌な感じはなしなかった

「(悪く、ないのかもしれない)」

ボスと、ジェーン
この2人の隣にいるということは

そんなに、悪いことではないような気がしてきた

















ちょっぴり進展…したのかなぁ?

前半ギャグと見せかけて、後半はそこそこマジ話
2話に分けるべきかと思いましたが、あえて1話で
その結果、少し長くなってしまった…

もはや、この作品のサブヒロイン…というか、裏の主人公ジェーン姐さん
予想斜め上の方向でカズに気に入られようとするスネークのフォローをいれ、嫌われそうになれば鉄拳をいれ、グダグダ悩むカズの背中を押し…
初期予定より、ずいぶんと空気読める頼れる姐さんになってます
ついでに、初期構想よりずいぶんと活躍なさってます
そして、様々な騒動の間接的な原因でもあります

詳しくは、小ネタに裏話がありますのでよければ見てやってください

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