Oh My Girl!3



時々、まどろむように浮上する意識
まるで、夢でも見ているかのように不確かでふわふわとした感覚
その時かすかに聞こえる、男と女の声

女の声に聞き覚えはなかったが
男の声は、あの時俺を助けた男の声だった





どこだ、ここ…

目が覚めて、最初に思ったのがそれ

目に入る天井は知らないものだったし、自分の部隊を壊滅させた俺が味方のキャンプまで無事に辿り着けたとは思わないし
つか、あの男を道連れにしようと手榴弾のピンを抜いて
覚悟を決めた瞬間、手榴弾ごと手を包まれて

『例えどんな手段を使おうと、決して負けない』

そう、啖呵を切って
それから、記憶がない

体を見れば、大量のチューブに繋がれ
体中の傷が丁寧に治療してあった

「あら、目が覚めたのね」

ぼんやりと考え込んでいると、不意にあのまどろみの中聞こえた声がした
そちらに顔をやれば、ショートカットの綺麗で可愛らしい女性が俺のほうを見ていた

それで、何となく気づく

ここは、あの男…俺が殺そうとした、俺を助けた男のキャンプなのか

「意識が戻ったなら、もう大丈夫ね。気分はどう?」

「よくはないな…ここは…あの男のキャンプなんだろう?」

「ふふ、そんな口がきけるなら十分ね。ボスに報告してくるからちょっと待っててね」

彼女は、鈴が鳴るような綺麗な声でふふっと小さく笑って、外に繋がるらしい扉へと消えていった
カチャリと鍵のかかる音がして、ここには俺しかいないことに気がついた

「囲っている、つもりなのか…?」

俺が女であることは、あの男も知ってしまったはずだ
ここは、戦場だ
だからこそ、負傷者が多く医務室なんかいくらあっても足りないはずなのに、俺がここを1人で使用していることがおかしい
ここにいる医療スタッフも、先ほどの女性だけのようだったし

おそらく、俺を囲うつもりなのだ
体のいい、性人形として
もしかしたら、もうすでにあの男にいいように扱われてしまってるかもしれない
いや、そうに違いない
そうでなければ、あんな綺麗で可愛らしい女性がいるのに、わざわざこんなごつい男らしい体格の女を囲おうとは思わないだろう

あ〜あ…俺まだそういう経験なかったのになぁ…

「はは…そりゃ、そうだよなぁ…」

俺も、戦場を生きる場所と決めた人間だ
純潔なんか、いつ奪われてもおかしくはなかった
捕虜になれば、女はいつもそういう扱いを受けるものだ
だから、覚悟はしていたつもりだった

けど…

「少し、きついな…」

やはり、自分が実際そうなると、やっぱり少しきつい
意識があるときにどうこうされなかっただけましだと思うべきか
それとも、意識があったほうが一矢報いてやれたのにと嘆くべきか

それに、相手があの男というのも少しだけショックだ
あの男は…あの男だけは、そういうことはしないと思ったのに

目を閉じると、あの瞬間が思い出される
手榴弾ごと、俺の手を包み込んだ男
そいつの目は、真っ直ぐで深い色を湛えていて

こいつは、他の男とは違う…そう思えたのに

目を閉じていると、またトロリと眠気が襲ってくる
まだ、体力が回復しきっていないのだろう

眠ってしまおう
これ以上、余計なことを考えてしまう前に

眠りに落ちる瞬間

―まだ面会謝絶だって言ってんだろこのアホたれがぁぁぁ!!!

―だが意識が戻ったと…ぐふぉあぁぁぁっ!!!!!

ものすごくドスの効いた先程の女性の声と、情けないあの男の声が聞こえた気がしたが
たぶん、夢だろう…






それから、何日も夢と現実の間をさ迷い
その合間で、何度もあの女性とあの男の声を聞き
ようやく、あの男と再会を果たしたのは
意識もきちんと昼夜でしっかりするようになり、怪我もある程度治った頃だった

「あ〜…どうだ、気分は?」

「よくはない、敵のキャンプにいるんだからな」

「そ…そうか…」

こいつ、こんな男だったっけ?
そいつと向き合って、最初に思ったのがそれだった

戦場では、他を圧倒する、まさに戦神といっても過言でもないほどで
その目は、まるで全てを見透かして射抜いてしまいそうなほど鋭かったのに

今目の前にいる男は、どこか緊張した面持ちでそわそわと落ち着きがない
まるで、俺のほうがここの司令官か何かのような態度だ

てっきり、高圧的な態度で自分のものになれとでも言われると思っていたのに
最初から、拍子抜けしてしまった

「…で、アンタは何が目的で俺を助けた?俺を手篭めにして人形にするためか?」

けれど、油断をしてはいけない
油断をすれば、あっという間に飲み込まれて砕かれる
それが、戦場というものだ
それにこいつは、ここのボスだ
ここは、敵陣なのだ、全てが敵なのだ
それを忘れるな、カズヒラ

僅かに震える体を叱咤して、怯えを悟られないように男に問いかける
…が

「そんな最低な目にあわせるために助けたんじゃない!俺はお前がサムライだと思ったから助けたんだ!!」

その瞬間、全力で否定された
そりゃもう、この俺が思わず信じちまうくらい全力で
てっきり、物分りが良くて助かる、とでも言われると思ったのに
しかも、その理由がサムライだからとか…さっぱり意味がわからん

俺がポカンとしているのに気づいたのか、男はあわあわとあからさまに慌て始めた

「あ〜、すまん…熱くなりすぎた…そ、そうだ!お前の名前は何というんだ!?」

「…カズヒラ、カズヒラ・ミラーだ」

「カズヒラか!変わった名だな!日本の女性の名か?可憐で美しい名だ、お前にぴったりだ!!」

「…男の名前なんだが」

「あ…そ、そうなのか…」

慌ててペラペラと早口になったかと思えば、急に落ち込んでがっくりとうなだれたり
非常に忙しい男だ

ともかく、この男は相当変わっているらしい
この数分間のやり取りで、よくわかった

「で…何で俺を助けた?」

「?お前がサムライだと思ったからだが?」

「いや、そうじゃなくて…」

「それよりも、俺はお前に謝らなければならんことがあるんだ」

聞けよ、人の話
俺にとっては、何よりも大切なことなんだが

けれど、急に真剣な目で俺を見つめる男に、とりあえずこいつの言うことを聞いてみようという気になった
もしかしたら、それが俺をここへ連れてきた目的に繋がるかもしれない

「その、お前…いや、カズヒラは傷だらけだっただろう?」

「あぁ、アンタの部隊にこっぴどくやられたからな」

「う…それで、キャンプに運ぶまでに、応急手当をしようと思ったんだ」

その言葉を聞いて、スッと腹の奥が冷えた
応急手当をしようとしたということは、俺の服を脱がせたということだ
俺は体格も良いし、その時は胸も隠していた
きっと、男だと思ったんだろう

男だと思ったやつの服を脱がせたら、実は女だった
戦場での男女比なんて、男のほうが多いのだ
兵士は、慢性的に女に飢えている
オマケに、戦闘というのは本能的な部分を引き出させるのだ

となれば…コイツが何を謝りたいか、見当はつく
おそらく、俺の体を好き放題したのだろう

でも、それは仕方のないことだ

戦場で女が敵の捕虜になれば、陵辱されることくらいわかりきっていることだろう?

だから、耐えろカズヒラ
わかっていたことだっただろう?
だから、決して泣くな、怯えを見せるな
笑って見せるくらいの余裕を持つんだ、カズヒラ

「その時…その…お前の…」

「言わなくてもいい…大体はわかってる」

「お前の…お前の胸を見てしまったんだ!!」

「あ〜…しかたない………は?」

え?こいつ、今なんて言った?

つい、またぽかんと口を開けて男を見てしまった
そんな俺の様子に、男は慌てたように視線をさまよわせた

「だ…だから…すまん、胸を見てしまった…」

「はぁ…胸を…」

「そ、それだけじゃなく……すまん!ちょっと揉んでしまった!!」

男は勢いよくそう言いきり
がばぁっと勢いよく頭を下げた

え?それだけ?
たかが、胸見てちょっと揉んだだけ?
それだけでコイツ、こんな慌ててんの!?

いや、どうぞ揉んでくれいう意味じゃないし、俺も一応女だから見ず知らずの奴に胸を揉まれるのは確かにいい気分じゃないが
え?
たかが胸だけでコイツこんな真剣なの?こんな大慌てなの!?
えぇ〜…俺もっと凄いことされたかと思ったのに…
たかが、胸?え?ほんとにそれだけ?
いや、期待とか全っ然してないけど!むしろそれだけでラッキーだけど!
でも、俺すっごい覚悟してたのに…何言われても冷静でいようと心落ち着けてたのに
つか、ここにいるのだってむしろそういう意味だと思ってたのに
場合によっちゃ、誘う振りして一矢報いてやろうとすら思ってたのに
えぇ〜…何このものっすごく拍子抜けした感じ
返せよ…俺の覚悟…

「…すまん、許してくれとはいわん…すまなかった」

黙りこくった俺に、男は怒っていると勘違いしたのか一度顔を上げて俺を真っすぐに見た後、再び頭を深く下げた

「あぁ…うん、まぁ…うん」

けど、予想外すぎる事態に頭がついていかない俺は、情けない返事を返すしかできない
というか、頭がまったく働いていない感じがする
まさに、放心状態という言葉がぴったりだ

「…カズヒラは、結婚をしているのか?」

ずいぶんと長い沈黙の後、男がポツリと呟いた

「へ?いいや、結婚はしていないが」

ぼんやりとしていた俺は、ずいぶんと呆けた声を出してしまった

「なら、恋人はいるのか?」

「いいや…いない」

この男は、そんなことを聞いてどうしようというのか
俺が疑問に思った瞬間、男の顔がぱぁっと輝き
俺の両手を、がっしりと包み込むように握った

え?何この状況?
何この手!?

軽くパニックを起こしていると、男は嬉々とした表情で

「よし…なら、結婚しようカズヒラ!」

そう、ものっすごく明るい声で言った

「ちょ、は!?えぇぇぇ!!?」

「結婚前の乙女の胸見て、あまつさえ揉んでしまったんだ!責任を取ってお前を嫁にもらう!!」

ま…待て待て待て待て待て!!!
結婚前の女の胸を見て、揉んだから責任とって結婚!!?

「ちょ、冗談だろ!?」

「冗談なものか、俺は本気だ!」

やばい、こいつ目がマジだ!
本気で、責任とって俺と結婚する気だこのバカ!!!

「待て、何で責任とって結婚なんだ!!?」

「日本人はとても健気でおしとやかで貞操観念が固いと聞いている。夫が死んだら操を立てアマになるとも。そんな女性の胸を揉んでしまったんだ…男として、責任を取らなければならない」

それはいつの時代の話だ!!
つか何故に尼!?なんか関係あんのか!!?

「いやいやいや!第一俺お前の名前も知らないし!!」

そうじゃねぇだろ俺!!
もっと突っ込むとこあるだろう俺!!

「そうか!俺はスネーク!ジョンでもジャックでもボスでも好きなように呼べば良い!これでいいのか!?」

お前も素直に答えるな!!つかジョンとジャックの要素どこだ!!
というか…

「いいわけねぇだろぉぉぉ!!!」

名前知ったからハイ結婚とかできるわけねぇだろうが!!
それともあれか?コイツの母国にはお互いの名前を明かしたら結婚とかいう風習でもあるのか!?
冗談じゃねぇ!!

「ならどうすればいい!?どうすれば結婚してくれる!?」

「つか結婚から離れろ!!別に胸を揉まれた位俺は気にせん!!」

「俺が気にするんだ!!だから結婚しよう!!」

「俺の意志は何処にある!?まず俺の意思を尊重してくれ!!!」

あぁ、もう何が何だかようわからん!!
誰か助けてくれ!!!

「ボス?彼女病み上がりなんだからあんまり長いこと…」

俺の祈りが天に通じたのか
ずっと俺の治療をしてくれた女性が、部屋に入ってきてくれた

彼女は、困った様子の俺と興奮気味のスネークを交互に見比べ

「怪我人に何しようとしてんだこの最低獣野郎がぁぁぁ!!!!!!」

「ぐぉあぁぁぁっ!!!」

スネークを、素晴らしいストレートで殴り飛ばした

えええぇぇぇぇぇ!!!!?
こいつ…スネークはここのボスなんだよな!?
んで彼女はここのスタッフなんだよな!!?
ボスってことは、ここで一番偉い人なんだよな!!?
何の戸惑いもなく、しかもすごい勢いで殴り飛ばしたんだけど!!!

「ごめんなさいね、大丈夫?この人本当にバカなんだから…ほら、謝れ獣!!!」

「いだだだだ!!じぇ、ジェーン!ホント痛…いでででで!!!!!」

「謝れっつってんだろ単細胞!!」

しかも、すっごい表情で踏んでるんだけど!!
自業自得っぽいけど、むちゃくちゃ痛そうなんだけど!!

えええぇぇぇ…ほんとなんなのここ…
ここのボスにはいきなり求婚されるし、可愛い系だとおもってたスタッフはボス踏んでるし…
ええぇぇぇ〜…

目の前に広がる軽く地獄絵図を呆然と眺めながら
俺は、とんでもないところに来てしまったと思った















前半シリアスと見せかけて、本質はギャグです
にょたカズと聞いて、最初に思いついたのは
『胸を見てしまった…だから責任を取ってお前を嫁にもらう!』
と、本気で言うスネークの姿です
見るどころか、揉んじまいやがりましたが

今更ですが、うちのにょたカズとスネークは始終こんなテンションで進みます
しっとりとした大人の恋愛とか、シリアスとか無縁な予感がします
むしろ、ここから進展するのかどうかすら疑問です




関係ないけど、にょたを書いてると、しめじカズの増殖スピードが早い気がするのは気のせいか…
今20匹くらいわらわらいるんだが…


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