空を飛ぶ



太陽が照りつける甲板
上からも下からも熱に煽られて、自然と汗が浮かぶ
額から流れてきた汗を拭いながら、俺は辺りを見回した
陽炎で遠くの景色が、ゆらゆらと揺らいでいる
そのゆらめきを眺めながら、ぼんやりと考える
…どうして俺は、甲板に来たんだ?
誰かを、探していたような気がするがよく思い出せない
暑さのせいか、景色と同じように思考もゆらゆら揺れてはっきりとしない
霞む思考をはっきりさせたくて、軽く頭を振って何となく空を見た

「…カズ?」

そして、気がついた
よく晴れた、雲一つない真っ青な空
その中に、カズがいた
遠い空の上で、楽しげに歩いている
よく見れば、細い糸のようなものがその足元に見える
おそらく、送電のために電線か何かだろう
この甲板にそんなものがあったか?と一瞬思ったが、今はそれどころじゃない

「おーいカズ!危ないぞ、降りて来い!!」

慌てて、足取りも軽くその上を歩くカズに向かって叫ぶ
そんな細いものの上を歩いていたら、いつ落っこちてもおかしくない
一刻も早く、あの場所からカズを降ろさなくては
だが、カズは俺の声が聞こえないのか、楽しげに前を向いて歩いている

「カズ、聞こえるか!?今すぐ降りて来い!!」

俺が出せる、精一杯の声でカズに向かって叫ぶ
ようやく俺の声に気付いたらしいカズは、ふとこちらを…下を見た
その仕草にすら、ひやりと肝が冷えた
あの細さでは、いつバランスを崩すかわからない
だが、カズはとても楽しそうな顔で笑うと

「大丈夫だって!ほらっ」

片足を上げ、くるりと、まるでバレリーナか何かのようにその上で回って見せた
危ない、と頭で考える前に反射的に体が飛び出す
だが、カズは落ちることなく再び2本の足を細い糸の上に乗せた
そのことにほっと緊張が緩むと同時に、どうしようもない苛立ちがわいてくる

「ばっ…!!何を考えている!?落ちたらどうする気だ!!?」

苛立ちに任せて、カズに向かって叫ぶ
この高さから落ちれば、怪我ではすまないことはわかりきっている
それなのに、そんな場所でのん気にしているカズに、無性に腹が立った

「大丈夫大丈夫!だって俺、空飛べるし!」

だがカズは、俺の言葉など全く堪えていないように
そんなとんでもないことを言って、まるで子どものように無邪気な笑みを浮かべた
その言葉に、自然と口がポカンと空いた

空が飛べるだって?
馬鹿馬鹿しい、人間はその体1つで空を飛ぶことは出来ない
それなら、飛行機は何のためにある?
人間は空を飛べないから、飛行機が生まれたんじゃないか

だが、空の中を楽しそうに歩くカズは、まるで本当に空を飛んでいるみたいだ
万が一その足がその細い糸から外れても、好き勝手自由に飛んでいけるのかもしれない
何故か、そんな気がした

「カズ!降りて来いカズ!!」

「へーきだって!スネークも来いよ、気持ちいいぞ〜」

だが、いつ切れるかもわからない細い糸の上を不安定に、だが足取りも軽く楽しげに歩くカズの姿に、どうしようもなく不安が煽られる
そのまま歩き続けたら、いつかマザーベースが見えない場所にいってしまうかもしれない
糸が切れても、カズは飛べるのかもしれない
だが、糸が切れたらカズはどうやってマザーベースに帰ってくる?
カズは、何処へ帰る?誰のところへ帰る?

カズは、何処へ行ってしまう?

心なしか、カズの姿が先ほどより遠くなったように見える
慌てて、軽やかに歩くカズの隣を地から追いかける

「カズ!!いい加減降りて来い!!」

「も〜、スネークは心配性だな。大丈夫だって」

「大丈夫でも降りて来い!!」

俺は必死にカズに向かって叫び続け、カズは笑って大丈夫だと繰り返す
幾度、そのやり取りを繰り返しただろう

―スネーク?

不意に、耳元で空にいるはずのカズの声が聞こえ
一気に、世界が暗くなった

「…ネーク?おいスネーク、どうしたんだ?」

次に世界に色がつくと、空にいたはずのカズが目の前で心配そうに俺を覗き込んでいた

「…か、ず?」

「随分うなされてたぞ?俺の名前呼びながら…」

カズが不思議そうな声で何かを言いかけていたが、それにかまわず腕を伸ばしてカズを腕の中に閉じ込める
もう一度、空へ上がってしまわないように

「ちょ、スネーク!?」

「やっと、降りてきたな」

確かに感じる腕の中の温もりに、あぁようやく降りてきたのかとほっとした

「す、スネーク?」

「空なんか、飛べなくていいだろ…」

そうだ、空なんか飛べなくていい
ここにいて、地にしっかりと足をつけて、俺の隣にいればいい
俺は、お前と違って空を飛べない
俺もお前も空を飛べなきゃ、意味がない
お前だけ空を飛んだって、何の意味もないじゃないか

「…ごめん、さっっっぱり意味がわかんないんだけど」

やわらかな髪に顔を埋めると、腕の中でカズが呆れたように呟いた
何を言っている、お前さっきまで空にいたじゃないか
俺の忠告も聞かず、空を気持ち良さそうに歩いてたじゃないか
俺の事なんか、ほったらかしにして
そう言ってやりたかったが、どうしてかゆっくりと思考が揺らいで溶けていく

「…お前は、ここに…俺の隣に、いればいい…」

もうそれだけ言うのが、精一杯だ
そして俺は、カズの返事を聞くことなく
暖かな温もりを感じながら、ゆっくりと意識を手放した





「…何なんだよ、もう」

俺を抱き枕にして再び眠りに付いたスネークに、俺はわけがわからずそう呟いた
せっかく熟睡していたのに、夜中に呻き声で叩き起こされて
酷くうなされながら俺の名前やら、降りて来いやら意味不明なことを繰り返すから心配になって起こせば、わけのわからないことを言われてこの仕打ち
降りてきただの空を飛ぶだの、全くわからない

「全く…どんな夢を見てたんだか…」

しっかりと抱き締められているから、スネークが今どんな顔をしているかは見えない
けど、先ほどよりもずっと穏やかな寝息を立てている
全く状況がわからないが、どうやら悪夢は見なくなったようだ
まぁ、それならいいかと割り切るしかない

「空を飛ぶ、ねぇ…」

空なんか飛べなくていい
寝起きで不鮮明だったが、スネークは確かにそう言った
空を飛ぶ夢でも見たんだろうか?
それとも寝言で降りて来いと繰り返していたから、俺が空を飛んでいたのだろうか
どっちにしろ、随分とメルヘンな夢を見たんだな
普段のスネークの姿にメルヘンという単語があまりにも似合わなくて、自然と噴出してしまった

「…飛ばないよ、どこにも」

どっちが空を飛んでいたのか、そもそもスネークがどんな夢を見ていたのかすらわからない
でも、たとえ飛べたとしても、俺はきっと空は飛ばない
飛んだって、どこに行ったらいいのかわからない
俺の居場所は、ここだ
空を飛ばなくても、ここにはいられるじゃないか

まぁ、アンタが空を飛ぶって言うんなら、意地でも飛ぶけどな

「どこにも飛んでいかない、ここにいるさ」

誰に言うでもなく、そう呟けば
スネークが、小さく笑った気がした

















相変わらずの突発文クオリティ
スネークは失う怖さを知ってる人だよね、みたいな発想だったはず
けど最終的によくわからなくなった
山も落ちも意味もない

実はこれとほぼ被りの
(*▼∀▼)実は俺、かぐや姫なんだ
ネタとどっち上げようか迷った
カズがかぐや姫とかいいよね(どうでもいい)

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