ダンボールの魔力?



「スネーク、今いいか?」

スネークの執務室のドアをノックしながら、俺は扉の向こうへ声をかけた

『あれ?これスネークの書類じゃん…』

ついさっき気づいたのだが、俺の処理する書類の中にスネークの書類が混じっていたのだ
一見俺でも処理できるような書類だが、この書類にはスネークのサインが必要だ
おそらく、研究開発班が勘違いしたのだろう
今の時間は、スネークも書類整理をしているはずだからいるはずだ

そう思って、休憩がてらスネークのところへわざわざ持ってきたのに、扉の向こうからスネークの声はしない

「スネーク?開けるぞ?」

不思議に思って、もう一度ノックしてから扉を開けると
スネークの姿が、見当たらない
そのかわり、部屋の中央にラブダンボールが鎮座している
その圧倒体な存在感に、自然とうわぁ…と声が漏れた

時々、スネークは部屋でもダンボールを被っている
何故戦場でのカムフラージュでも何でもなく、部屋で個人的に被らなければならないのかと思うが、スネークにとってダンボールを被っている時間は葉巻をふかしているのと同じくらい至福の時間らしい
俺はその気持ちはさっぱりわからないし、どれだけ語られても時間がたっても分かり合える気もしない
スネークのダンボール好きは、もはや病気だと俺は思っている

「スネーク…そこにいるのか?」

とりあえず声をかけてみるが、ダンボールからも返事はない
そっと持ち上げて中を覗きこんでみたが…予想に反してダンボールの中は、空っぽだった

「…あんにゃろう、サボリに出やがったな?」

おそらく、ダンボールを被っているうちに実戦を思い出し、体が疼いて仕事放り出してキルハウスにでも行ったのだろう
ダンボールを、放り出したままで

「あの野郎…帰ってきたら説教してやるっ」

本気出せば、コレくらいの書類一日あれば十分終わるのに、どうしてスネークはこうもサボりたがるのか
ダンボールに欠ける情熱の十分の一…いや百分の一でいい、書類整理に向けられないのかあの男は!

苛立ち紛れにダンボールを放り投げようとして…ふと、気になった
ダンボールの中って、そんなにいいものなのか?

滅多に実戦に出ない俺は、ダンボールを被ることはほとんどない
スネークと浜辺にデートに行った後、ちょっと中で話するくらいだ
一度スネークの後ろにくっついて、ダンボールを被って任務に出たが、その時は散々な結果に終わった
狭いし、暗いし、スネークの足蹴っちゃうし、叩かれるし、ネギ臭いし、敵に見つかるし

『もう任務でお前とは金輪際ダンボールに入らん!』

とか、凄い剣幕で怒られたし
いい事なんて、1つもなかった

でも、もはや病気の粋だとはいえ、いい事がなければスネークもダンボールに入ろうとしないだろう
…元々、どうしてダンボールに入ろうと思ったのかもきになるが、よほどいいことがあったのだろう

「…ちょっと被ってみようかな?」

少しだけ、好奇心が刺激された
俺の仕事はもうめどが付いている
サボっているスネークが帰ってくるまでここにいても、問題はない

「よいしょ、と…」

手に持っていたダンボールを被り、その場に座り込む

「…やっぱ、狭いし暗いなぁ」

多少前後に余裕があるとはいえ、頭が箱の底につっかえてかなり狭い
しかもダンボールの取っ手部分から僅かに入る光があるとはいえ、やっぱり暗い
それ以外に、特に感想がもてない
もしかしたら、スネークはダンボールが好きというよりは、暗くて狭いところがすきなのだろうか?
いや、それならダンボール戦車を素晴らしいと言い切るセンスは生まれないだろう

「ダンボールの、何がいいんだ?」

こうして入って考えてみても、ダンボールのよさがさっぱりわからない
はやり、常人離れしている人間のセンスは、常人離れしているのだろうか?
それとも、俺がおかしいだけで、ダンボールにはそれだけの魅力があるのか?

「ん〜…わからん…」

でも、今まで浜辺や任務でしか被っていなかったせいで気づかなかったが、体温が篭るのか案外中は温かい
それに、スネークが愛用しているせいだろうか
何となく、スネークの体から香るのと同じ、葉巻の匂いがする

「…あったかい…」

ほどよい温かさのせいか、それともスネークの香りがするせいか、物凄く落ち着く
オマケに暗いせいか、何だか眠くなってきた

「ダメだ…起きてなきゃ…」

スネークが帰ってきたときに説教してやるためにも、起きてなきゃいけない
けど、ダンボールから出る気がしない
まさか、これがダンボールの魔力ってやつか?
そんなことを考えながら、眠気に逆らえずゆっくりと瞼を下ろした





「おっといかん、出しっぱなしだったか」

書類整理に嫌気が差して、キルハウスで気分転換…カズから言わせればサボリらしい…から帰ってくると、部屋の真ん中にダンボールが鎮座していた
キルハウスに行く前に被っていたのだが…うっかり出しっぱなしにしたままだったようだ

「いかん、カズに見られたら何を言われるか…」

カズは、ダンボールのよさをわからない人間だ
こんな状況をうっかり見られたら、また嫌味を言われるに違いない
カズに見られる前に片付けてしまわねば…
そう思い、ダンボールを持ち上げてみると

「…か、カズ?」

中から、カズが出てきた
驚いて声をかけてみるが、反応がない
よく見ると膝に顔を埋め、肩を小さく上下させしている
どうやら、眠っているらしい
その様子に、自然と笑みが浮かんでくる

大好きなダンボールを取ったら、中から大好きな人間が出てくる
これほどに、嬉しいことがあるだろうか

「どれ、俺も入れてくれ」

カズの後ろにピタリと張り付くように、ダンボールの中に入る
そっと背後からカズの体を抱えると、まるで甘えているように俺にもたれかかってくる
僅かに入る光を頼りにカズの表情を伺えば、安心しきったように眠っている

「…ダンボールの中は、気持ちいいか?」

返事がないのはわかっているが、あまりに心地良さそうな寝顔に、ついそう声をかけてしまう
すると、カズの顔がふにゃっと緩み

「スネーク…すきぃ…」

そう小さく呟いて、幸せそうに微笑んだ

「…まったく、お前という奴は…」

あまりに不意打ちの告白に、自然と頬が熱くなる
照れ隠しに抱きしめる腕の力を少しだけ強くすると、カズが小さく笑った

「んふふ…スネーク…」

「これ以上俺を惚れさせてどうする気だ?ん?」

首筋に顔を埋めれば、甘い香り…カズの匂いが漂ってくる
そこにキスをすれば、くすぐったそうな笑い声が聞こえてきた

「…いいものだな、愛する人間とダンボールに入れるというのは」

何よりも落ち着く場所で、愛する人間の体温を感じる
これ以上の幸福が、他にあるだろうか
おそらく、カズが目を覚ませば説教をされるだろうが…それまでは、この至福の時間を楽しんでもいいだろう
カズを抱きしめ、その体温を感じながら
俺はつかの間の幸福を楽しむことにした




















相変わらずの思いつき突発文、あまり意味はない

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