食文化が違います



任務から帰った翌日
疲れからか、つい昼過ぎまで寝過ごしてしまった

「…腹減ったな」

さすがに空腹を覚え、食堂へ行こうと部屋を出てすぐ

「ぼ、ボス!!」

「あぁ、おはよ…」

「ボス!副指令を止めてください!」

いきなり、兵士に泣きつかれた
わけもわからず混乱していると、グイグイと凄い勢いで引っ張られた

「お、おい、どうした?」

「もうボスしか…ボスしか副指令を止められないんです!」

半泣きの兵士は、切羽詰った声でそう言いながら俺を引っ張り続ける
その後姿を混乱しながら眺め、どうにか状況を整理しようと試みる
副指令…おそらくカズが、何かしたのだろう
だが、カズは一応ここの副指令だ
多少ハメを外すことはあっても、大抵苦笑と共に許される程度のことだし、何よりここの連中はカズに甘い奴らばかりだ
それに、大事なことは一応俺に相談してくる
だが、こいつは取り乱して俺をカズの元へ連れて行こうとしている
そうなるほどの事を、カズはやらかそうとしているらしい
しかも、俺に内緒で

…一体、何をやらかした?何をしようとしている?
全く、想像が付かない

とりあえず引きずられるままに歩いていると、食堂へたどり着いた

「…何だ、これは…」

その中央に、人だかりが出来ていた
ぱっと見ただけでも10人以上の兵士達が何かを取り囲んでいる

「副指令、やめてください!」

「何かあったらどうする気なんですか!?」

「うるさいなぁ、大丈夫だって」

その人だかりから、カズを心配するような声と、鬱陶しそうなカズの声が聞こえてきた
何が何だかわからないが、おそらくカズを囲む形で人だかりが出来ているのだろう

「みんな!ボスがいらしたぞ!!」

「ボス!!」

「よかった、ボス!副指令を止めてください!」

なんだろうと確かめる間もなく、俺を引っ張っていた兵士がそう声をあげ
それを聞いたカズを取り囲んでいるらしい兵士達が、ざっと左右に寄って道をあけた
何事かと思いながらも、ようやく姿が見えたカズに歩み寄ってみる

「おい、カ…ズ…?」

「あ、おはよスネーク、よく眠れたか?」

カズはニコッと笑って、挨拶をしてくる
普段なら、その顔が可愛いとか、人がいなければキスするのにとか、そんなことを思うのだが
今日ばかりは、カズの手元にしか目がいかない

今から昼飯なのだろう、カズの前にはトレイが置いてあり、その上に乗っているのは白飯とスープ…日本独特の調味料、ミソという物が使われている…それに、塩で焼いただけの魚と日本のピクルス
カズの祖国、日本の伝統的な食事…と、カズが言っていたメニューだ
それ自体は、もう見慣れている

『和食が食べたい』

マザーベースに越してきてすぐ、カズがそんなことを言い出し
日本から食材を仕入れるのはGMPがかかりすぎるからと却下したのを、今でも覚えている
それで意地になったのか、それともよほど食べたかったのか
それならばとカズがピクルスやらミソやらを食堂の隅で作り始め、それが上手いこと成功したらしく今では時々こうして自分で作っては美味そうに食っている
確かにカズの作る和食は美味いし、兵士達がご相伴にあずかろうと群がることも日常だ

そう、和食自体は見慣れている
見慣れていないのは、カズが持っている、小さな小鉢
その中に入っている、おそらく元は豆であっただろうもの

「…カズ、ソレは何だ?」

なにやらねっちょりとしていて、糸を引いている不思議な物体だ
しかも、何だか妙な匂いがする
この匂いを上手くいい表せないが…一言で言うなら、臭い、物凄く臭い
本能が、この物体を拒否しているのがわかる

「ん?これは納豆だ」

だが、カズは平気そうな顔でハシを持ち上げてみせる
そのハシが、ぬちょおっと糸を引いている
その糸の引き具合に、ぞわりと背筋に悪寒が走った

「うん、いい具合だ!」

だが、カズはその糸を嬉しそうに眺めている
その顔には、満足げというか、一仕事やり遂げた男のような笑みが浮かんでいる
カズのことが分からないと思うことは多々あったが、今ほどカズがわからないと思ったことはない
ソレの何がカズにそんな顔をさせるのか、全くわからない

「それは…食い物なのか?」

一応、念のために聞いてみる
ここは食堂、そしてカズは今から昼飯、さらにハシでナットウとやらはかき混ぜられている
俺も何となくわかってはいるが、この物体が食い物だと認識するのを脳が全力で拒否している

「あぁ、美味いぞ?スネークも食う?」

俺のそんな葛藤を知らないカズは、ニコニコと機嫌良さそうに笑いながらあろうことかその物体を俺に近づけてくる
反射的に、1歩後ずさった

「副指令!それ絶対腐ってますって!危ないですって!!」

「そんなもの食べてお腹壊したらどうするんですか!?ボスも何とか言ってください!」

それを見ていたらしい兵士達が、一斉にカズに訴え始める
基本的に飯はカズのやりたいようにやらせてやっているが、今日だけは兵士達の言葉に賛同したい気持ちでいっぱいだ
そんなわけのわからないものが、食い物だと認めたくない

「だぁ〜かぁ〜らぁ!これは納豆っていって、日本の伝統的な食べ物なの!美味いんだからな!」

もう、俺が来るまで散々そう説明したのだろう
カズは心底鬱陶しそうにそう叫んだ後

ぱくりと、コメに乗せた物体を口に入れた

「あぁ!副指令!!」

「ダメです!!ペッしてください!!!」

「誰か!医療班呼んでこい!!」

その瞬間、食堂が大混乱に陥った
大慌ての兵士達が叫び戸惑い、医療班を呼ぼうとした者は入り口付近でこけている

「うん、美味い!」

だが、当のカズは何事もないように
逆に、どこか幸せそうにアレをぱくついている
その様子に、少しずつ食堂が落ち着きを取り戻していく

「だ、大丈夫ですか副指令?」

「なんともないですか?お腹痛くないですか?医療班呼んできますか?」

「だからこれ日本の食い物なんだってば。なぁボス」

俺に話を振るな
そういう間もなく、食堂中の兵士達の目が一斉にコチラを向いた
俺としては、周りの兵士達同様、その物体を一刻も早く処分して欲しいところだが

「…日本は、神秘の国だ…そういった類のものもあるだろう…」

カズが大丈夫だという以上、ようやく収まりかけているパニックを煽る必要はないし、司令官としてこの場を落ち着ける義務が俺にはある
それに、その物体が食い物であるということは理解しがたいが
カズが凄く美味そうに食っているし、本当に食い物なのだろう、多分

「さっすがボス!話わかるなぁ」

えぇ〜と言いたげな兵士達に囲まれているカズは、俺の言葉に、にこっと幸せそうに笑った
食い物だと認めたくないが…いいか、カズが幸せそうだから

「ほらボスも食ってみろって、ほんと美味いから」

「いや、俺は遠慮しておく」

俺は、死んでも食いたいとは思わないが…


















相変わらず突発文
納豆好きの方、および茨城の方に土下座して謝ります、本当にすみません(土下座)

スネークの心境は、半分は管理人の心境です
だって、ぬちょおって…ぬちょおって…!( ;д;)←納豆無理な人

カズは食堂の隅っこで自前で味噌とか漬物とか作ってればいいと思う

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