マングースの幸せな日常・3



「あ〜…終わった…」

「終わりましたね…」

怒涛ともいえる執務に終わりが見えてきた夜、俺と副指令は大きく息を吐いて互いにそう呟いた
最優先で終わらせなければならない案件は、これで終わり
もう立て込んだ案件もないし、残りは明日に回しても問題はないだろう
副指令もそう思ったのか、ペンを机に放り投げて大きく伸びをして肩を回している
俺もそれに習い、伸びをして肩を回す
長時間座りっぱなしで書類を書いていたせいか、バキバキと音がしてちょっと気持ちいい
副指令も、肩を回しながら気持ち良さそうな顔をしている

「あ〜、肩凝った」

「ずっと同じ姿勢でしたもんね」

「だからマングース、肩揉んで?」

にっこりと甘えるように笑う副指令に、苦笑しながらも席を立って副指令の背後に回る

「お、やってくれる?」

「えぇ、副指令お疲れみたいですし」

「さっすがマングース、俺の右腕なだけはあるな!」

「茶化さないでくださいよ」

やはり、副指令も長時間同じ姿勢というのは疲れるのだろう
触れた肩は、ガチガチに張って固まっている

「ここどうですか」

「うぁ…そこ、痛い…」

触れた場所を指先で押すと、副指令はびくっと体を硬くして抗議してくる
肩はあまり痛い場所を刺激しない方がいい

「あ、すみません…じゃあ、こっちは?」

そこから少し外れた場所を揉むと、今度はほう…と気持ち良さそうに息を漏らした
どうやら、このあたりが気持ちいいらしい

「あ、そこ…気持ちいい…」

「このへんですか?こっちは?」

「あ、そ、そこっ…いいっ…」

肩や首筋を揉むたび、くぁ〜っと、気持ち良さそうに声を漏らす副指令に、やっぱり疲れてたんだなぁっと思う
普段おちゃらけてるし、兵士達には疲れてるとことか見せないようにしてるけど、俺以上に執務を抱えている副指令が疲れないはずがない
さすがに極限まで来ると八つ当たられるけど、そうでない限り滅多に俺にも疲れたとか言わない人だ

「あ〜、気持ちよかった…ありがとマングース」

一通りマッサージし終わると、副指令はため息を吐いて肩を回しながら俺を振り返る
その顔が、さっきよりもずっとリラックスしていて、マッサージをした側としては嬉しいかぎりだ

「ついでにこっちもやっときます?」

ついでに靴を指差すと、副指令の顔がぱぁっと明るくなる
副指令は、足ツボのマッサージも好きだ
やってあげれば喜ぶだろうし、何より疲れももっと取れるだろう
山場は越えたといっても、明日もきっと忙しいだろうし

「え、いいの?」

「もちろんです。はい、脱いでください」

副指令はいそいそと靴と靴下を脱いで足を俺の前に出す
その足を取って、ゆっくりとツボを一つ一つ確かめるように押していく

「どうですか?」

「ふぁ〜…気持ちいい…」

するとさっきのマッサージも相まって、少しだけ眠そうなとろんとした声が降ってくる
このまま気持ちいいままでもいいけど、足ツボの真価はこの先にある
やがて、ある一箇所を押すと

「ま、マングースっ…痛いっ」

副指令が突然声をあげ、涙目で俺を睨みつけてきた
今俺が押した場所は、消化器系のツボだ
ここが痛むということは、消化器官が弱っているということだ
やっぱりストレスとか疲れとかで消化器官がやられ始めてるんだな…糧食班に、胃に優しいものでも作ってもらおうか
そう思いながら、遠慮ナシに副指令の足の裏を押す

「い、痛いっ…痛いってばマングースっ」

「我慢してください、痛いのわかってたでしょ?」

「け、けど…あ、あっ」

よっぽど痛いのか、副指令は座っている椅子の肘置きをぎゅうっと握り締めながら、涙目で震えている
う〜ん…これは予想以上に弱ってのるかも
一応医療班のチェックも入れてもらったほうがいいかな?

「痛いほうが気持ちいいでしょ?」

「そ、だけどっ!」

「ほら、辛かったら声出しちゃってください」

「ひっ…い、ぁっ…も、だめっ…む、無理っ」

「もうギブアップですか?まだ我慢してください」

「お、オニっ…ひぅっ…あ、悪魔!」

「何とでも」

副指令の涙声の抗議を軽く聞き流しながら、足のツボを押し続けていると

―ガァンッ!!!!!

突然大きな音が響き、ドアが吹き飛びそうな勢いで開いた
驚いてそちらの方を見れば、あまりの勢いに床の埃が舞い散ったのか少し霞む景色の向こうに、ボスが見えた

その顔は、戦場にいる最中のように…いやもっと鬼気迫るものだった

炎すら宿って見える青い瞳が、ぎろりとコチラを睨み付けてくる
どうしてか意味がわからない上に、物凄く怖い
蛇に睨まれた蛙というのはこんな気持ちなのだろうかと思いながら副指令のほうを見れば、副指令もよくわかってないのか、困惑しきった瞳を向けてくる

椅子に座って困惑している副指令と、その足元で完全にビビッている俺
そして、何故か鬼気迫る表情で俺達を見るボス
よくわからない空間が完成し、そのまま暫く沈黙が部屋を支配する

「……お前ら、今何をしていた?」

沈黙を破ったのは、ボスのまるで地の底から出しているような低い声だった
お前ら、と言ってはいるが、実質俺に向けられた質問だというのは何となくわかる
そして、ボスの機嫌がかつてないほど最悪なことも、伝わってくる

「え、と…足ツボの、マッサージ…です、けど…」

その目と声に完全にビビりながら、俺はどうにかそう答えてボスをチラリと見る
けど、やっぱり怖くて速攻視線を外した

「…マッサージ?」

けど、俺の言葉にボスの声が少しだけ緩む

「えぇ…副指令、お疲れみたいでしたから…」

「俺がマングースに頼んだんだ。それがどうかしたのか?」

そのことに少しだけホッとしてそう言えば、副指令も戸惑いを含んだ表情でボスにそう返した

「マッサージ……」

その瞬間、ボスの顔がひくりと引きつり
がくりと、脱力した
同時に張り詰めていた空気が、一気に緩んだ

「そうか…マッサージか…そうか……」

突然鬼気迫る顔で入ってきたかと思えば、急に脱力しきったボスに、俺も副指令も困惑しきって互いに顔を見合わせた

「え、と…ボスもやってもらう?マングース、マッサージ巧いぞ?」

「お疲れなら、俺マッサージやりますよ!?」

「いや…いい…いいんだ…」

何かあったのかと、副指令も俺も声をかけてみるが、ボスはどこか虚ろにすら見える表情で手を振るだけだ
本当にどうしたんだろうと、考え込んでいると

「マ〜ング〜ス〜…」

ボスの背後から、疲れ切った声が聞こえてきた
その声に、ようやくホーネットがボスの背後に控えていることに気が付いた

「ホーネット…ボス、何かあったの?」

ととと、と疲れたような表情で立ち尽くしているホーネットへ近寄り、2人に聞こえないようにこっそりと聞いた
我らがボスに、何かあったら大変だ
ボスも副指令も、自分が辛い時でも隠してしまう人だから心配だ
けど、ホーネットは俺の問に疲れた顔で笑い

「そうだな、何て言うか…勘違い、かな?」

と、よくわからないことを言った

「ボス、何かあったのか?」

「そうだな…ちょっと、疲れてたのかもしれんな…」

「大丈夫か?医務室付いていこうか?」

俺達の後ろでも、副指令が心配そうにボスに話しかけている
…何だかよくわからないけど、2人が仲良さそうだから、いいのかな?
そう、ホーネットに言ってみると

「…俺、時々お前が羨ましいよ…」

と、やっぱりよくわからないことを言われた


















日常シリーズ、勘違い編でした!
や、一度書いてみたかったんですよねこういうベタな話(*´∀`)
どれだけマングースとカズの言い回しがエロくなるか必死で考えました(コラ)
きっと部屋に突入してきたときのスネークの表情は、目で人殺せるくらいだったでしょうね!

だんだんホーネットの立ち位置ガ決まってきた今日この頃

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