マングースの幸せな日常・2



書類整理もひと段落付いた正午過ぎ
俺と副指令は、昼飯を食いに食堂へと足を踏み入れた
忙しいときは副指令室に摘めるような物を持ってきてもらうが、今日は幸いにも書類整理に早めのめどがつき、こうして食堂へと来る余裕が出来たのだ

「うわ、さすがに多いな」

昼飯時なだけあって、食堂はごった返している
しかも今日は実戦部隊が出払う任務もないせいか、余計人が多く見える
席はまばらには空いているものの、2人並んでというのは難しいかもしれない

「そうですね…えっと、空いてる席は…」

さて、空いている席は…と探していると、ボスの姿を発見した
ちょうど今から昼飯らしく、まだ手の付けられていないトレーを前に座っている
そして、その右隣
そこに、1つの空席を発見した
おそらく、そこで飯を食っていた奴がボスとほぼ入れ替えで席を立ったのだろう

これは、チャンスだ
そこに副指令が座れば、2人の進展のきっかけになるかもしれない!

「副指令、ほらあそこ!ボスの隣空いてますよ!」

副指令の肩を軽く叩き、周りに聞こえないようにそっと耳打ちする
飯時なら話しやすいだろうし、緊張もほぐれると思ったのだけど
副指令は俺の指差す方向を一瞬見て

「無理無理無理無理、1人でボスの隣で飯とか無理、緊張で絶対吐く」

ブルブルと首を振りながら小さな声で、でも全力で否定した

「大丈夫ですって、ほらその向こうはホーネットですし!」

「お前いないと無理!絶対無理!!なぁ頼むよ俺を1人にすんなって!」

軽く背を押して促してみたが、逆に服の裾を握られて縋られたりしているうちに、ボスの隣の席に兵士が座ってしまった
もう空気読めよな、なんて心の中で呟いてみたけど、別にそいつに何の罪があるわけでもないのはよくわかっている
せめてボスの近くの席が空かないかどうか見ていると、ちょうどボスの斜め前に2つ並びの席を見つけた
あの位置なら、ボスとの会話も可能だろうし

「なら、あそこにしませんか?」

その2つ並びに空いた席を指差せば、副指令は一瞬戸惑ったように俺を見る
軽く親指を立てて見せれば、副指令はほんのりと頬を赤くし

「まぁ、いいけど…じゃ、俺飯取ってくるから席確保しとけよ!」

と、早口に言うと食堂の奥へと駆けて行った

「ちょ、副指令!?」

止めようとも思ったが、一瞬で人ごみに紛れてしまった副指令がどこにいるのかよくわからない
目立つ人だが、このMSFの中ではそれほど背が高い方じゃないし、俺も小柄な方だから余計に見つけにくい
俺が飯を取りに行って、その間に副指令とボスがいい感じになるのを期待したんだけど…
まぁ仕方ないと割り切って、急いでボスの側の並びの席を確保しにかかる

「マングース、今から飯か?」

幸い、まだ狙った席には人は座っていなかった
ほっと息を吐いて、ボスに近いほうの席を空けて座ると、俺に気づいてくれたボスが声をかけてくれた

「あ、はい!」

やっぱり、この位置ならボスも話し掛けてくれるみたいだ
欲を言えば副指令の席がボスの正面ならよかったのだけど、コレばっかりは仕方ない
ボスは辺りをきょろきょろ見回し

「そうか…カズも飯にきているのか?」

と、俺に尋ねた

これは、いい傾向だ
ボスは、副指令と話したがっている
副指令は自分からボスにアピールするのが苦手だけど、ボスから話しかけてくれれば会話も弾むだろう
そうなれば、副指令の想いが実るのも…

「えぇ、副指令も…」

「俺がどうかしたか?」

もうすぐ来る、と言おうとした時、副指令の声が聞こえた
慌ててそちらの方を見れば、いつの間にか副指令が2人分のトレイを持って側に立っていた

「おぉカズ、お前も今から飯か?」

「あぁ、今日は仕事が早めに片付きそうだからな」

ボスと軽く会話をしながら、副指令は空いているほうの席を確認し、俺のほうを見る
その目が
絶対に席立つなよ?いいか絶対だぞ!?俺を1人にするんじゃないぞ!!
と雄弁に語っている
それに答えるため、にこりと笑って軽く頷いて見せれば、副指令は安心したような顔をして空いている席に腰を下ろした
副指令から食事の乗ったトレイを受け取り、チラリとボスの様子を伺えば

何故か、眉間に皺が増えていた

…何か口に合わないものでもあったのかな?
一応今日のメニューを確認してみる
パンに魚をフライにしたものに豆のスープ、後野菜を煮込んだもの
うん、いつもの食事だけど…

「ところでカズ」

「ん?どうしたボス」

考え込んでいると、いつの間にか眉間の皺を消したボスが副指令に話しかける
副指令もちょっと緊張してるみたいだけど、普通に返事を返している

うんうん、いい傾向だ
二人が仲良さそうに話しているのを横目に見ながら、食事を口に運ぶ
時々
俺変なこと言ってない?大丈夫?
と副指令が横目で俺を見ながら服の裾を引っ張ってくるから、それに軽く裾を引き返して、大丈夫ですよと伝える
そのたびボスの顔が何となく微妙そうなものになるような気がするけど、気のせいかな?

そんなことを繰り返しているうち、ふと2人の会話が止まる
話半分にしか聞いていなかったけど、何かあったんだろうか?
不思議に思って2人のほうへ視線をやると…副指令が俺の皿、正確にはその上にある魚のフライを見ていた

俺は、飯を食うのが人よりも遅かったりする
今も、ボスも副指令も話をしながら食べていたのに、皿はもうほとんど空になっている
対する俺は、まだ皿の上に半分以上おかずが残っている

「マ〜ング〜ス〜?」

副指令が、どこか甘えるような猫なで声で俺の名前を呼ぶ
その顔は、にっこりと笑っている
副指令がこんなことをするときは、大抵俺にそれ頂戴?とねだっているときだ
そして副指令は、人が食べていると一口欲しがる傾向がある

「…1個食べます?」

「お、悪いなぁマングース!」

苦笑を隠しきれないままフォークにフライを刺して持ち上げて見せると、副指令は満面の笑みを浮かべて口を開ける
その仕草に、まるで雛に餌付けしているような気分になりながら、口元へとフライを持っていく
副指令は嬉しそうにそれをぱくりと咥えた

―ダンッ

瞬間、ボスが何故か机を叩いた

「…ホフ?ほーひた?」

「副指令、お行儀悪いですよ」

もぐもぐと咀嚼しながら言葉を紡ぐ副指令を一応注意したけど…ボス、どうしたんだろう?
2人してボスを眺めていると、先ほどのように眉間に皺を浮かべたまま

「…虫が、いたんだ」

そう、どこか苦々しげに呟いた
それとほぼ同時に、ボスの隣の兵士が大慌てで立ち上がりトレイを持って早足で立ち去っていった

「虫?」

「あぁ、虫だ」

どうしていきなり隣の兵士が逃げるように立ち去ったのか、その隣のホーネットの顔が青くなっていくのか
…そんなに大きな虫でもいたのかな?
ボスが叩いた辺りを見るけど、特に大きな何かが潰れているようには見えない

「ふ〜ん?」

副指令も不思議そうな顔をしていたけど、虫がいたで納得したんだろう

「よしマングース、さっきのフライの礼にこれやるよ」

と、ニッコリと笑ってスプーンに乗った野菜を差し出してきた
…多分、あんまり好きじゃない野菜なんだろう

「…副指令?好き嫌いはよくないですよ?」

「何を言うマングース、俺はお前がこれ好きだと思ったんだ。それとも何か?お前は俺がフライの礼に嫌いな野菜をやるようなやつだと思ってるのか?」

俺の咎めるような言葉に、副指令は少し大げさに首を振りながら、しれっとそんなことを言い出した
俺は別に、副指令がスプーンに乗せている野菜を好きだといった覚えはない
十中八九、副指令が嫌いな野菜なんだろう
まぁ、副指令に口で勝てたためしなんかない

「はいはい、ありがとうございます」

諦めて口を開ければ、副指令は満足げに笑って俺の口元へとスプーンを運ぶ
それを苦笑いでぱくりと咥えた

―ダンッ!!

瞬間、またボスが机を叩いた
しかも、さっきよりも音が力強い

「…ボス、どうした?」

「虫だ、虫がいたんだ」

「また?」

「あぁ、まただ」

虫だ、と言い張るボスの眉間の皺は、先ほどよりも深い
しかも、何だかイライラしてる

何かあったんだろうか…と思い
あることに思い至る

「(ま…まさか、ゴキブリ!?)」

ボス、もしかしてゴキブリを見たんだろうか?
それならこの表情にも納得がいくし、何より一大事だ
副指令は、ゴキブリが大の苦手だ
見ただけで、軽く発狂して大騒ぎになる

た、大変だ!ゴキブリなら、副指令が見つける前に追い払わないと…!
慌てて辺りを見回していると

「マーングースー…」

どこか疲れたような、ホーネットの声が聞こえてきて、あたりの気配に注意しながらそちらに視線を向けた
ホーネットは青い顔をして虚ろな目で、胃の辺りを押さえながらこいこいと手招きしていた
そして気付けば、ボスとホーネットの間の席が1つから2つに変わっている
よく見れば、ホーネットが1つ横へずれている

何だかよくわからないけど、チャンスだ!

「副指令、副指令」

ちょいちょいと軽く肩を叩いて、副指令の視線をホーネットへと向けさせる

「マングース…ちょっと、こっちこいって…」

するとタイミングよく、ホーネットがもう一度俺を呼ぶ
それで俺が移動しようと促していることに気付いたらしい副指令は、少しだけ困ったように視線をさ迷わせ
ほとんど空になった皿の乗ったトレーを持って、立ち上がった
俺もまだ3分の1ほどおかずの乗った皿とトレーを持って、副指令の半歩前を歩き出した

「いいか、隣いろよ、絶対だからな」

「わかってますって」

小声でそんな話をしながら、副指令はボスの隣へ、俺はホーネットの隣に腰掛けた
その瞬間、ホーネットがすごい勢いで俺の肩を抱き、自分のほうへと引き寄せる

「え、ちょ、何?」

「いいから…いいから黙って暫くこうしてろ…!」

頬がくっつきそうなほど俺を引き寄せられ、反射的に離れそうになるが
どこか切実さすら含んだホーネットの声に気圧されて、不思議に思いながらもそのまま大人しくなすがままにされておく
近くで見ても、ホーネットの端整顔が真っ青になってる
腹押さえてたし…腹痛いのかな?

「…腹痛いなら、薬貰ってきてやろうか?」

「…お前…もうちょっと、空気ってもんをだな…」

心配してそういえば、ホーネットはどこか疲れたような、呆れたような声でブツブツと小さな声でよくわからないことを呟いている

「カズ、そういえば…」

不思議に思っていると、ボスと副指令がまた会話をはじめた
副指令はやっぱり少し緊張しているみたいだけど、凄く嬉しそうなのが声で伝わってくる
…もしかして、ホーネットは副指令がボスの隣に座りたいの気付いて、それで席をずれてくれたんだろうか?
ホーネット、よく回り見てて気付く奴だし

「…ありがと、ホーネット」

小声で、副指令たちに聞こえないように礼を言えば

「…お前、ホント……うん、まぁ…うん、ありがとな」

ホーネットは何故か微妙そうな顔をしながら、曖昧に笑った

今日の昼飯は、何だかよくわからないことばかり起きたけど
でも、副指令が幸せそうだから、きっといい昼飯だったのだろう
そんなことを思いながら、この幸せの立役者であるホーネットの皿の上に、お礼代わりにフライの最後の1個を乗せてやった























マングースの日常第2弾
別名・ホーネットの苦悩に満ちた日常(笑)

…2人ともキャピキャピさせすぎたかな?
何て言うか、食べさせあいっこは2人ともナチュラルにやってます
恥ずかしいとか一切ナシの、ほんとの仲良しさんだからやってます
なので、2人とも何がおかしいとか、全然わかってません
スネークから見たら、はいアーンにしか見えない、いちゃついてるようにしか見えない
羨ましいやら憎らしいやら、複雑な心境のボス(笑)

うん、何て言うか勢いなんで許してください

- 51 -


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -