迷子の迷子の…?



「へぇ、今祭りの時期なんだ」

そうどこか楽しげに辺りを見回すカズを横目に見ながら、なぜ今日にかぎって祭りをするのかと、この街の誰か偉い奴の胸倉を掴みたい衝動に駆られていた

『明日買出しだろ?俺も行きたい』

買出し部隊についていきたいとカズが言い出したのは、昨日の夕方のこと
とある事情から、普段ならカズの仕事が立て込んでいて忙しいときを狙って買出しに行かせるのだが
ここ最近はあまり立て込んだ案件も舞い込まず、平和そのものというときにどうしても買出しに行かねばならない状況に陥った
すると案の定、カズも一緒に行きたいと言い出した

『い、いえ!危険ですし副指令はマザーベースにいてください!』

『いーや、俺も行く。大体買い出しに行くだけだろ?何が危険なんだ?』

『ミラーさんがマザーベースにいてくれないと困るんです、ほら何があるかわかりませんし!』

『いいじゃん、お前らがいたら十分だろ?それに最近マザーベースに篭りっぱなしだったし、たまには外に出たい』

マングースとホーネットの必死の説得も、もう一緒に行く気満々のカズには一切通用せず

『あー、カズ…お前は留守番…』

2人のどうにかしてくれ!という視線に、説得しようと声をかけてみたが

『ねぇボスお願い、俺もみんなと一緒に買い出し行きたい…だめ?』

逆にうるうるとした瞳で、こてんと首を傾けながら甘えたように上目遣いに見上げられれば

『いいぞ、お前の好きにしたらいい』

頭で考える前に、反射的にそう口にしてしまった

『やったぁ!ボスありがと!』

嬉しそうに俺の腕に絡みつくカズの可愛らしさに、一瞬鼻の下が伸びそうになったが
2人からの刺すような、この役立たず!という視線にいたたまれなくなったのは、記憶に新しい

『ボスがいいって言ったんですからね』

『ミラーさんのこと、ちゃんと見ててくださいよ』

そして、俺はカズの付き添い…という名のお守り役を2人から言い渡された

絶対に、カズから目を離さない
常にカズの1歩後ろにいて、カズの行動を全て観察する
カズが動く前に、自分が動く
二人からきつく言い渡されたことを頭の中で呪文のように繰り返し

「おいカズ…」

密かに気合を入れて、隣にいるはずのカズへと振り向けば

カズの背中は、すでに消えかけていた

「カズゥゥゥ!!!」

人ごみに飲まれかけている背中を慌てて追いかけ、その肩を掴む
途中数人にぶつかったが、謝っていたらカズを見失ってしまう

「あ、スネーク見ろよ!アレなんだろうな?」

心臓がバクバクとうるさく鳴り、冷や汗がダラダラと流れている俺とは反対に
カズは至極楽しそうに、興味を引かれているであろう出し物を指差した

「…そうだな、何だろうな…」

お前は俺が気合を入れている間くらい大人しくできないのか!?
そう喉まででかかったのをどうにか飲み込み、無難な返事を返す
ここで拗ねられて、この人ごみの中に消えられれば、誇張でも何でもなくもう二度と見つけられなさそうな気がして怖い
人がいなくても、心配なのに!!

カズが滅多にマザーベースから出してもらえず、こうしてたかが買出しにすらお守り役を必要とする理由

カズには、重度の迷子癖があるのだ

地図が読めないわけじゃない
任務の進行ルートのほとんどはカズが考えるし、そのルートは非常に理にかなっていていつも助かっている
カズに地図を渡せば、ここがどこで何があるのかちゃんと言い当てる

ただ、なぜか1人で移動させると必ず迷子になる
俺も周りも、不思議で仕方ないが事実だ

それを見せ付けられたのは、まだ出会って間もない頃

『買い出し?俺行って来ようか?』

MSFのメンバーもまだ十数人しかいなかったため、それぞれ手の開いたものが仕事をしていたのだが
たまたま、買出しが必要なときにカズしか手が空いていなくて、買出しを頼んだことがある

『き、教官!俺が行きます、俺が行きますから!!』

『俺も、俺も手が空いたら行きますから!教官はここにいてください!!』

『教官が行くなら俺も行きます!後2時間…いや、30分待ってください!!』

『何だよお前ら、大丈夫だって、買い出しくらい1人で行ける』

カズが教官をやっていた頃からの付き合いの奴らが、なぜか慌てたように止めるのを不思議に思いながらも、カズに買出しを任せた
やたらカズに惚れこんでいる奴らだから、過保護なのかと思ったが

『それじゃ、行ってくる』

カズはそういって車を運転して、やがて見えなくなり
日が暮れても、帰ってこなかった

その時、MSFは大騒ぎだった
途中何者かの襲撃を受けたか、それとも見た目はいいから拉致にあったか、はたまた何か問題が起きたのか
隊員総出で目的地付近、および通るはずのルート周辺を探し回り、2日目には生存が絶望視され始め…

3日目に、通るはずのルート上とは全然関係ない村で見つかった
何のことはない、道を間違えた上ガソリンがなくなり、途中で購入したはいいがまた道を間違え、またガソリンがなくなりそこで立ち往生していたところを近くの村の人間に保護されたらしい
その話を聞いたとき、俺含む隊員たちは開いた口が塞がらなかったが
あの時必死で止めていたやつらは、あぁやっぱりか…といわんばかりの諦めきった表情をしていた

話を聞くと、カズの重度の迷子癖は教官をやっていたころもいかんなく発揮されていたらしく

『3日で見つかったらいいじゃないですか…俺達といた頃は、大変だったんですから…』

と疲れたように言われ、カズが何をやらかしたのか、聞きたかったが聞きたくなかった
そして俺達にやられる頃は、カズを1人で出歩かせない、そして移動の際は必ず土地勘のある兵士が2名以上隣に付き添い、カズから絶対に目を離さないという暗黙のルールが出来ていたらしい
それでも教官をやっていられたカズの手腕を褒めるべきか、そんな奴を教官に任命する反政府軍の人材不足を嘆くべきか
ともかく、複雑な感情を抱いたのは今でもはっきり覚えている

カズはおそらく、元々方向感覚が壊滅的な上
まるで子どものように好奇心が旺盛で、興味があることにはすぐ飛びつき周りが見えなくなりがちだ
そして、妙なところ…主に自分の事に関しては楽観的だ
それらが合わさって、この壊滅的な迷子癖になっているのだろう
さらに本人に自覚が一切無いから、余計に酷いことになっている

「あ、スネーク!あっちに面白そうなものがあるぞ!」

呆然とカズの肩を掴んだまま、軽く現実逃避をしていると
カズの楽しそうな声が、耳に届いた
その声でどうにか思考が現実に戻ってきて、カズの肩をがっちりと掴みなおして俺は周囲を見渡す
見渡す限りの人、人、人、人の群れ
そして、周りにはカズの興味を惹きそうなものが数え切れないくらいある
そしてカズも、早く見に行きたいと子どものように目を輝かせている

ダメだ
これは絶対、迷子になる
どれだけ気をつけていても、この人ごみと状況じゃ絶対にカズを見失う
だが、こうしてずっと肩を掴んでいるわけにもいかない
こうして止まっていれば通行の邪魔だし、何よりカズが焦れてどこかへふらりと行ってしまい絶対に帰ってこなくなる
だがカズの性格上、俺の側を離れるななんて言おうものなら膨れてどこかへ行ってしまうだろう

どうすればいい?
どうすればカズの機嫌を損ねず、俺の側に置いておける?

必死に考え、ある1つの解決方法を思いついた

「カズ…手を、繋いでもいいか?」

そう、俺とカズは恋人同士だ
こうして側にいるのも、俺が恋人だからデートもかねて、という名目だ
恋人なら、手を繋いでもおかしくない
手を繋いでいれば、カズを見失うこともない
我ながら、完璧な作戦だ

「す、スネーク…ここどこだと思ってるんだ?」

カズは少し怒ったように俺を睨みつけるが、それが照れ隠しであることは知っている
本当に怒っていないなら、少々強引にいけば大丈夫だろう

「誰も俺達を見ていない。それにこの人ごみだ、手くらいばれんさ」

カズが反論をしないうちに、その手を取って俺の手に絡める
もちろん、拘束力の強い…いわゆる、恋人つなぎという握り方で

「あ…」

「ほら、行くぞカズ」

そのまま、その手を緩く引けば、カズは何か言いたそうに俺を俺を見上げたが
そのまま大人しく、俺に手を引かれて歩き出した

そのほんのりと染まった耳を可愛いなと思いつつ
絶対に、この街から離れるまではこの手を離さないと心に誓い
俺はデートという名の、カズを見失わないという超重要任務を遂行するべく気合を入れるのだった




















以前チャットで盛り上がった、カズ迷子ネタ(笑)
拍手でスネーク保護者コメ頂いて思いつき、思いついたまま書いてみた

書いといて何だが、カズ酷いwww
いや、カズラジではもっと盛大に迷子になっているし、これくらいは普通に違いない
ちなみにカズは何一つ気付かず
手を繋いでスネークとデート!
とウキウキですが、スネークは気が気じゃありません
手を離したら、もう二度とカズと会えないくらいの気合を入れて手を繋いでいます

うん、スネークも酷いですねwww

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