小さな歯車の願い



利用してやるだけだった
いままでの奴らと同じように、利用できるだけ利用して
俺にとってメリットがなくなったら捨ててやろうと思っていた
俺の夢のための踏み台ってなってもらう
それだけの、つもりだったのに…




2年前
コロンビアの反政府軍の教官をしていた俺は、ある1人の男と出会った

『さぁ、諦めて俺のところへ来い』

そう、得意げに笑う男
俺が率いていた反政府軍を潰し、その大将である俺を気まぐれで救い
なぜか、自分の手元に置きたがった奇特な男

その男は、名前の通り蛇のようなしつこさで俺を追い詰め
ついには、自分と共に来るか、自分の腕の中で死ぬかという、究極の選択を用意しやがった

その男が俺の何をそんなに気に入ったのかは、わからなかった
サムライが好きなのか、それともこの容姿を気に入ったのか、それとも本当にただの気まぐれか
率いていた部隊を壊滅させ、さらには散々な醜態を晒した俺をそこまで欲しがった理由は、今もわからないままだ

だが、薄れる意識の中
俺は、その究極の選択に、1つの答えを出した

逃げられないのなら、利用してやればいい
俺はいつもそうやって生きてきた
親父も、アメリカの奴らも、コロンビアの反政府軍も
みんなみんな、利用して生きてきた
こいつも、同じようにすればいい
それに、こいつはあの有名なBIGBOSSだ
利用価値は、たっぷりある
価値がなくなったら、俺のビジネスに必要なくなったら捨ててやろう
広告塔としても、兵士としても
この男は、今はとても魅力的な存在だ

そう考えたら、この男と共に行くのは悪くない
予定よりずっと、早い段階で目的が達成できそうだ

『よろしくな、ボス』

『スネークでいい』

この男が、俺を気に入っているというのなら
アンタ好みの俺を演じて、アンタの心の中に入り込んでおこう
そう思いながら、俺は男…スネークの手を取った

それからしばらく後
サイファーという組織が、スネークの監視と組織への協力を条件に莫大な援助をすると申し出てきた

『どうかね?条件としては悪くないと思うのだが』

初老の男が、笑いながら俺にそう尋ねてきたとき

『もちろんです、ミスターゼロ。貴方とはいいビジネスが出来そうだ』

俺は何の戸惑いもなく、彼の言葉に頷いた
元々、別にスネークに入れ込んでいたわけでも、何かしらの個人的感情を持っていたわけでもなかった
客観的に見れば、彼がだした条件はとても魅力的だった
罪悪感などという感情は、全く感じなかった
BIGBOSSという、非常に魅力的な存在が
サイファーという、非常に魅力的なビジネス相手を運んできてくれたのだ
断る理由なんか、1つもなかった
まさに、鴨がネギをしょってやってきた
それくらいにしか、考えていなかった

それから俺はずっと、スネークを騙し続けてきた
スネークが望む俺を演じ、隣にい続けた
スネークは、あっさりと俺を信用してくれた
俺をカズと親しげに呼び、べたべたに甘やかしてくれた
まぁ、時には厳しいこともあったけど
全て、俺のことを考えてのことだった

そんなスネークに、最初は笑いを抑えるのに必死だった
まさか、BIGBOSSほどの人間が
幾多の戦場を生き抜いてきた、生きる伝説とまで言われた男が
こうもあっさり、自分の敵であった俺を信用し、なおかつ好意まで示してくるとは
あまりにも、俺の考えたシナリオどおりに進むから
こうもうまくいっていいものかと、少しだけ怖くなったくらいだ

『カズ、なぁカズ』

あの頃、アンタが笑って好意を示すたびに
俺の頭を撫でて甘やかすたびに
俺が心の中で舌を出して、嘲笑っていたことなんて
きっと、アンタは知らないんだろう

情なんか、移すつもりはなかった
慕っている風に見せかけて、心で舌を出すのは得意だ
ずっとずっと、そうやって生きてきた

少しずつ懐いていくように、心を許しているように見せかけて
そうやって、そいつの心の奥に入り込み
俺を信用させて、最大限利用する

それが俺の生き方だ
誰も信用しない、誰も求めない
不確かな心の繋がりなんか必要ない
求めるのは、必要なのは、絶対的に信頼できるもの
金やビジネス、俺を裏切らない確かなもの
それだけだ



それだけだった、はずなのに



『スネーク、なぁスネーク』

けれど、いつの間にか
アンタが優しくするたび
甘やかされ、好意を示されるたび
胸がどうしようもなく苦しくなって、叫びだしたい衝動を抑えるのに必死になっていた

アンタに甘やかされる事が、幸せだと感じた
アンタの役に立てるのが嬉しくて、もっと役に立ちたいと努力するようになった
アンタにいつも笑っていて欲しい、笑いかけて欲しいと思った
アンタの居場所を守ることに、必死になっていた
アンタが死ぬのが、怖くなった
誰かを失いたくないと、生まれて初めて願った

アンタに心を許させるつもりが
いつの間にか、俺がアンタに心を許していた

スネークが、好きだ
誰よりも大切で、ずっと一緒にいたいと思う
スネークのためなら、何でも出来ると思えた
自分の利益も、ビジネスも、全部全部飛び越えて
俺に…カズヒラ・ミラーという人間にとって、何よりも必要で
世界で一番大切な存在になっていた

そう気付いたときには
もう、遅かった

『それでは、計画を実行する…いい働きを期待してるよ、カズヒラ・ミラー』

全ての歯車がそろい、俺1人ではどうしようもできない大きな流れが
奴らに造られたシナリオが動き出していた

俺1人の力では
小さな歯車の1つでしかない俺の力では、止められない大きな流れ
小さな歯車が壊れたところで、やつらは俺の代えなんかすぐ用意できる
小さな歯車が、俺がいなくなったところで奴らの計画は止まらない
入念に練られ、もはや運命といっても過言ではないほどの大きな流れ

もう少し早く、スネークを好きだと気付いていれば
この流れを止められたのだろうかと、何度も後悔した

けど、きっと俺がいなくても
俺がスネークを最初から好きで、この流れを止めようと足掻いたところで
たくさんの人間の思惑が複雑に絡み合ったこの流れを
たかが、俺1人の力では、止められなかっただろう

俺は、小さな歯車でしかない
俺の代わりなど、あいつらにはたくさんいるんだろう

だから

『それではまた…親愛なるゼロ』

俺は、奴らの忠実な歯車であることにした
人の心を欺くのには慣れている
俺は、そうやって生きてきたんだから
いつも共にいるスネークとは違って、奴らを騙すことなんて簡単だ

そして、止まらない流れの中
アンタが少しでも、足掻けるよう
アンタが望むなら、一瞬でもこの流れを止められるように

『すまないスネーク…俺は、全部知っていた』

ほんの少しだけ、流れに歪みを作っておいた
アンタほどの人間なら、たとえ小さな歪みからでも
流れに出来た、ほんの僅かな澱みからでも
大きな流れを知ることが出来るだろう

これ以上大きな歪みを作り出せば
流れが変わってしまえば、やつらは戸惑いなく俺を消し
万が一のためのサブシナリオを、発動させるだろう
そうなれば、スネークはもう逃げられない

だから、これが俺に出来る精一杯
小さな歯車でしかない俺が出来る唯一の贖罪

「スネーク、俺さ、アンタが好きだよ…大好きだ」

もしもこの大きな流れに、奴らの存在に気づいたなら
アンタほどの人間なら、きっと抜け出すことが出来るだろう

「どうしたカズ、そんな改まって」

「何となくさ、気にするなよ」

その時、アンタが俺を捨てる苦しみに耐えるのが
いつか、アンタの優しい目が冷たく見下したものに変わることに怯えながら生きることが
最後まで、歯車として演技を続けることが
アンタをだまし続けた俺に与えられた罰なのだろう

だから、その日まで
歯車としての役割を演じながら
アンタのために生きることを許してくれ



小さな歯車の願い



けれど、その小さな歪みが
俺が作り出した、大きな流れの中のほんの僅かな澱みが
さらに流れを加速させ、大きな歪みを作り出してしまうことなんか
その頃俺はまだ、知るはずもなかった



















CDを聞いて改めて色々考えてみた小話
というか、自分はテープネタで何本書けば気がすむのか
いえ、それほどテープは重要だと思うんですよ!!

CD聞く前は、カズは最初からスネークのこと好きだったのかな?と思ってましたが
CD聞いて、スネークのあまりの強引っぷりに、最初はカズスネークのことそんなに好きではなかったのかな〜と
だってアレ軽く強制かつ半ば拉致じゃないですか
死ぬか俺とくるかの2択ですよ?
そりゃカズはスネークのこと、最初は好きか嫌いかで言ったら、確実に嫌いだろとか思いまして(ネイカズサイト管理人にあるまじき発言)
いえ、そこからPWでカズがデレるまでのことを考えるとニヨニヨします
だって、PWではカズ、スネークのこと大好きだし(妄想含)
ゼロに協力しているのは、もう引っ込みつかなくなったのかな、なんて妄想した結果がコレだよ

ネイカズっていうか、ネイ+カズでいいかもしれない
CP要素、薄いし…
CD聞いて少し書いた後書いて放置してたものを見つけて、続きを書いたなんていえない…
今年の目標、書きかけを少しでも書き上げる

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