どちらがお好み?



俺は40年近い人生の中で今ほど、頭を抱えたい出来事に遭遇したことはない
橋の上から遥か下の川に投げ落とされたり、幻のツチノコを見たり、あの世を見たり、死にそうになってるときにお茶目な幽霊を見たり
最近では、やたらでかいボスもどきに踏み潰されそうになったり、喋る猫にであったり、ありえない生き物と戦わされたり
まぁとにかく、色々な経験をしてきた
が、どれも今この目の前の事態に比べれば可愛いもんだ

それほどまでに俺が頭を抱えたい出来事
今この目の前で起こっている異常事態

「…お前、誰だよ」

「カズヒラ・ミラーに決まってるだろ。お前こそ誰だ」

「カズヒラは俺だ!どこから来たこの偽者が!」

「偽者はお前だろ?俺がカズヒラだ」

カズが、2人いる
もう一度言おう…カズが2人いるのだ
何でかはよくわからない…だが、確かに目の前にまったく同じ姿をしたカズが2人いる
顔、体格、服装、声、言葉遣い、仕草…何もかもが同じカズが目の前で言い争ってる
情けないが、恋人である俺もどちらが本物かまったく見分けがつかない

「出てけよ偽者!カズヒラは俺だって言ってるだろ!?」

「だから、俺がカズヒラだ。出て行くのはお前だろ?偽者はお前なんだから」

「違う!お前が偽者だ!カズヒラは俺だ!!」

さっきからやたら冷静というか度胸たっぷりなカズに、ぎゃんぎゃんと顔を真っ赤にしたカズが噛み付いて…あぁもうややこしい!
とにかく、2人のカズが俺の目の前で、どっちが本物か言い争っている

世界には最低3人は自分にそっくりな人間がいるという
だが、ここまでそっくり、かつどちらも同じ人物であると主張している
あれか、これはドッペルゲンガーというやつか?
見たら死ぬとか言われてるアレなのか?

ありえない状況に思考がどんどんとどうでもいい方向へずれていく
できるなら、この場からさっさと逃げ出してしまいたい
本気で頭を抱えてうずくまろうかと思っていると

「なぁスネーク〜…こんな偽者ほっといて、俺とイイことしようぜ?」

言い争いに飽きたのか、冷静なカズがにこりと笑って俺の左腕にするりと自分の腕を絡ませてきた
つぅっと二の腕を撫でる指先や俺を見上げる綺麗な笑みに、とてつもない色香を感じて思わず生唾を飲み込んだ瞬間

「ちょ、お前何スネークに抱きついてんだよ!離れろ!!」

顔を真っ赤にしたカズが、俺の右腕を引っ張り込むようにしがみ付く
ぎゅうっと痛いほどに力を入れられ、必死の表情で俺を見上げる姿が可愛いなぁと、ぼんやりと思っていると

「離れるのはお前だろ偽者。俺はこれからスネークとイイことするの、だからどっか行けよ」

「お前が離れろ偽者!スネークに触るな抱きつくなしがみ付くな誘うな!!」

「カズヒラは俺、で、スネークは俺の恋人。わかるか偽者」

「俺がカズヒラだ!スネークの…こ、恋人は俺!だからお前がどっか行け!!」

呆然とする俺を挟んで、相手を小馬鹿にしたように笑う左腕のカズと、必死に睨みつけながら噛み付く右腕のカズはまた言い争いを…あぁもうややこしい!!

けれど、この状況は俺にとっては美味しい以外の何物でもない
余裕たっぷりでセクシーなカズと、必死で可愛らしいカズが俺を取り合ってるとかどんな…
そこで、ふと気付く

あぁ、そうか
これ夢か
そうか、夢か、この光景は俺の深層心理か、願望か
それならこのおかしな状況も納得できる
だが、カズが2人になるとかどんな深層心理を抱いているんだ俺…いや、美味しいが
と、1人この状況に納得していると

「なぁすねーくぅ…こんなのほっといてもうイイことしようぜ」

甘えたような声が左側から聞こえ、反射的にそちらに顔をやると
腕に絡んでいた手が、柔らかく俺の頬を包み込み
妖艶な笑みを浮かべたカズに口付けられる

「むっ…」

ペロリと唇を舐められ、驚いて唇を薄く開いてしまえば、そこからカズは舌を咥内に差し込んでくる
ぬるぬると咥内を柔らかく探るその舌の動きはツボを的確に突いてきてとても気持ちがいい
咥内を動き回る舌に、自分のそれで触れればまるで蛇のように絡み付いてきた
その動きに、下肢がズクリと刺激される
蛇は俺なのにな、なんて半分溶けそうな思考で考えていると
ちゅっと音を立てて唇が離れる
もちろん、カズは唾液を舐め取るのも忘れなかった

「なぁ…俺もう我慢できない…」

とろりと妖艶に溶けた瞳で、体を擦り付けながらそんなことをうっとりとした甘い声で言われればたまらない
その赤く濡れた唇にもう一度キスをしようとした瞬間

「スネークっ!」

右側から、カズの切羽詰ったような声が聞こえ
ガッとすごい勢いと力で右側から頬を掴まれ
そのまま、強引に右側を向かされる

「いっ…」

反射的にそういうものの、痛みはあまりない
やはり、夢だからだろうか

そんなことを考えていると、ぎゅっと目をつぶったカズに歯がぶつかりそうな勢いで口付けられる
ガチガチとあからさまに力の入った唇が薄く開き、そこから舌がぐいぐいと押し付けられ
心の中で苦笑しながら唇を開いてやると、さっきまでの勢いが急に弱まり、おずおずと舌が咥内に入り込む
だが、どうしたらいいのかよくわからないのだろう
咥内を動き回る舌はあまりにもぎこちない
じれったくなって自分から舌を絡めに行くと、驚いたように引っ込もうとする
その舌を絡め取れば、カズの体がビクリと震える

「んっ」

その咥内を十分堪能してから、唇を離してやる
唇を繋ぐ唾液を舐め取ってやれば、とろんとした瞳が俺を見返してきて
甘く吐息を漏らす唇にたまらず軽くキスをすれば
カズはかぁっと頬を赤く染め、ぎゅうっと俺の腕にしがみ付き

「スネークの恋人は俺だ!だ、だからっ…スネークはこ、これからっ…おおお俺とイイことするんだ!!」

左側で不満げにカズ(右)を睨むカズ(左)に叫ぶように言い放った
カズ(左)は一瞬むっと眉を寄せたものの、すぐにふっと余裕たっぷりにカズ(右)に笑いかけた

「へぇ?お前スネークのこと満足させられんの?」

「さ、させられるに決まってるだろ!?」

「あのヘッタクソなキスで?」

「うるさい!お前こそスネーク満足させられんのか!?」

「させられるに決まってるだろ。お前なんかほったらかすぐらい凄いことできるぞ?」

「俺だってできる!スネークの恋人は俺だ!!」

「なら、勝負しようか…どっちがスネークを満足させられるか。満足させられたほうがスネークの恋人だ」

…何だか、どんどんとおかしな方向で話がまとまっていく
カズ(左)の提案に、カズ(右)はうっと言葉につまり、うろうろと視線をさ迷わせている
さすがにいくらなんでもそれは…と俺も思い、口を開こうとした瞬間

「何だ、自信ないのか偽者」

ニヤリと、バカにしたような顔でカズ(左)が笑い

「そんなわけないだろ!?いいだろう、その勝負受けてやるよ!!」

売り言葉に買い言葉、という表現がぴったり当てはまるように
カズ(右)は顔を真っ赤にしてカズ(左)に指をびしりと突きつけた

「よぉし…後悔するなよ偽者」

「お前こそ後悔するなよ偽者!」

互いに、俺の腕に絡みついたままでバチバチと火花を散らしあうカズ×2に
どうしてこうなった、という単語が頭を過ぎったが

よく考えなくても、ここは俺の夢の中だ
なら、別にどうなろうが全部夢だ、全部俺の願望が作り出した幻だ
こんな美味しい状況現実ならありえないし、もう一度同じ夢を見られるとは限らない
ならいっそ、思いっきり楽しんでしまおうか
2人のカズが俺を満足させてくれるというのなら、そのひと時の幻を楽しんだって悪くはないだろう

「カズ…」

名前を呼べば、4つの飴玉みたいな瞳が俺を見返してくる

「スネーク…好き…」

ふわりと柔らかく
けれど誘うような瞳で俺に笑いかけるカズ

「俺だってスネークのこと好きだっ」

頬を赤く染め
けれど真っ直ぐな瞳で俺を見つめるカズ

同じようで違う2人のカズの瞳を見つめ返し
下心をたっぷり含ませたまま、俺は笑った


















迷うなぁ〜セークシーなの、キュートーなの、どっちがタイプよ〜?
という歌を久々に聴いて思いついて、そのまま書いた
後悔はあまりしていない
えぇ、多分スネークの夢です
どんな願望持ってるんだ我が家のスネークは

せっかくなのでダブルカズプロフでも

カズ(左)
スキル・誘い受けを持つセクシーカズ
余裕と色気たっぷりな微笑みが武器
テクニシャンでとにかく色っぽい
人を翻弄するのが好き

カズ(右)
スキル・照れ屋を持つキュートカズ
必死で一生懸命な姿が武器
負けず嫌いですぐ赤くなる
意外と独占欲が強い

さぁ、貴女はどっちのカズが好きですか?
どっちもカズじゃねぇとか聞こえません
だって、スネークの妄想の産物だもん(コラ)

え?続き?
多分書きません!
だって難しいよエロ展開!!

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