甘いお菓子と甘い君



「おいカズ、入るぞ」

コンコンと一応ノックしてから副司令室の扉を開けると、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった
甘いチョコレートか何かの匂い
何か菓子でも食べているのだろうか
あまり書類整理をしながら何かを食べることをしないカズにしては珍しい

書類に集中しているのだろう
チラリと一瞬こちらに視線をやり、入ってきたのが俺だとわかるとまたすぐ書類に視線を戻した

そのカズは見慣れないモノを口にしていた
とても細長いクッキーのようなものに、おそらくチョコがかかっている
見た目からして、甘そうな菓子だ

それをカズは口にくわえ、書類を両手に持って眺めながら口をもごもご動かして器用に食べていた
行儀が悪いと思いつつも、真剣な表情とむにむにと動く唇のギャップが何となくおかしく思えて、つい口元が緩んでしまう

「おいカズ、それ何だ?」

書類を置くのを待って声をかければ、ちょうど食べ終えたらしいカズは知覚のさらに盛られたその見慣れぬ菓子の山から一本取り出し

「ドイツでおつまみとして一般的なプレッツェルは知ってるか?」

「あぁ」

「それを菓子みたいに甘くしたものにチョコをかけたんだ。しかも、手で持つところにはチョコがかかってないから手が汚れない!画期的だろう?」

どこか自慢げに言いながら、褒めてくれと言わんばかりに目を輝かせた

「ほう、凄いな」

そのあからさまな視線に漏れそうになる苦笑をどうにか抑え、少し大袈裟な声をあげてやれば
カズの目が得意げに、嬉しそうに細まる

「で、これは新しい菓子の試作品か何かか?」

「え〜っと…まぁ、そんなものだ」

「名前は?何て言うんだ?」

「う…その〜…ポッキー…もどきだ」

「…もどき?」

だが、軽く質問を繰り返すと急に語尾が弱くなる
それに軽く眉を寄せて見せれば、居心地が悪そうに視線をさ迷わせる

「いや…自衛隊にいた頃好きだった菓子の名前がポッキーっていってな」

「ほう…で?」

「…で、思い出したら食べたくなってな…つい…」

「糧食班にわざわざ作らせたのか?」

わざと軽く睨むような視線を送ってやると、カズが一瞬うっと言葉につまり

「…いいじゃないか!チョコレートもバターも小麦粉も、必要なもの全部あるんだから!作らせて何が悪い!?」

むすっとした表情で逆切れした

まぁ、少しからかってやりたかっただけであって、別に悪いわけではない
娯楽の少ないプラント生活では、菓子類などの開発も実は結構重要だったりする
食うことぐらいしか楽しみがないからだ
それに、糧食班を仕切っているのはカズだ
そのカズがうまいと思うのなら、ドリトスなんかと同じく糧食班で作って配ればいい

…まぁ、元は日本の菓子だというが
MSF内で消費するだけなら、特に問題ないだろう

「悪かった、少しからかっただけだ」

軽く両手を挙げてそう言ってやったが、カズはむすっとした表情のまま手に持っていたポッキーとやらを口に含んだ
どうやら拗ねてしまったらしく、口のポッキーは俺ともう会話しないという意思表示のつもりらしい

むすっとした顔で、ぽくぽくとポッキーを口に含む姿が可愛くて
少しだけ、イタズラしてやりたくなってくる

「それ美味いのか?」

そう声をかけてやれば、カズはむすっとした表情のまま皿をこちら側へと手で押し出す
自分で取れということらしいが…あいにく俺の目の前には、もっと美味そうなのがある

唇の狭間で小さく上下に動くそれを、半分くらいまでぱくりとくわえる
驚いたように目を丸くするカズのサングラスを取ってやってから、もう一口
ギリギリ唇に触れない場所で噛み切ってやり顔を離す

「…なかなかいけるが、少し甘いな」

サクサクとしたプレッツェルに甘いチョコが絡んで、なかなか悪くない
だが、俺には少々甘すぎる
チョコをビターにすればちょうどいいかもしれないな
できればもう少し食べ応えがあるほうがいいが、この類の菓子にそれを期待するのは無理だろう

そんなことを考えていると、ポカンとした表情で俺を見つめていたカズはようやく状況を理解したらしく
かぁっと顔を真っ赤にして睨みつけてきた

「スネェ〜ク…食うなら皿の食えよっ」

「別にいいじゃないか」

「よくないに決まってるだろ!」

「そう吼えるな…ほら、お前も食えばいいじゃないか」

皿に盛られたポッキーを一本つまみ上げ
口がチョコで汚れるのはいやだから、手で持つチョコが付いてないほうをくわえて手招きしてやる
俺の意図に気がついたのか、カズはパクパクと何か言いたげに口を開閉させた後しばらく黙り込み

意外にも、ぱくりと反対側に噛み付いて
恥ずかしそうに目を伏せながら、ゆっくりとポッキーを食べ始めた
ぽくぽくと少しずつポッキーを噛み切るたび顔が近づいてきて
頬が少しずつ、赤く染まっていく

…これは、なかなか楽しい
恋人からのキスを待つというのは、案外いいものだな

のんびりとそんなことを考えていた
が、カズは唇が触れそうな位置で食べるのをやめ顔を離してしまう

「カ〜ズ〜…」

一瞬で先ほどの仕返しだとわかったが、てっきりキスまでしてくれるものと思っていただけに落胆の声が隠し切れない
そんな俺に、カズは頬を染めたまましてやったりといった表情で笑った

「だって、そこまでしかチョコが付いていなかったし」

口の先に僅かに残ったポッキーを摘んでみれば、確かにチョコの部分だけキレイになくなっていた
どうやら、最初から計算してやっていたらしい
チョコの付いてないポッキーを口に入れて咀嚼し飲み込むが、どうも甘いプレッツェルの味しかしない

ポッキーとやらは、チョコと一緒でポッキーになるんだろう?
なら、チョコ味を足してやろうじゃないか

カズが満足そうにふふんっと鼻を鳴らして口の中のモノを飲み込んだのを確認してから
顎を掴んで、唇についているチョコをペロリと舐めてやった

「ちょっ」

そのまま驚いたように開いた口に舌を捩込み、今だチョコの味の残る咥内を掻き回す
舌先に残る甘いプレッツェルの味と、カズの咥内に残るチョコの味が混ざり合い、甘い甘いポッキーの味へと変化する

甘いものはそんなに好きじゃないが
この味は極上の甘さだ

その味をたっぷりと堪能してから、名残惜しく口を離し

「うまかった…これならいくらでも食えるな」

すっかり力が抜けてしまっている体を抱きしめながら耳元で囁いてやれば

「…バカスネーク」

目元をほんのりと赤く染めたカズが、力無く睨み返してきて

甘い菓子の次は、甘い恋人を堪能しようと思いながら
もう一度、その甘い唇に口づけた

















今日ポッキーの日だから、ポッキー使ってイチャラブしてもらった
ポッキーゲームさせたかっただけなのに…どうしてこうなったorz
あ、タイトルはいつものごとくやっつけ仕事です

糧食班開発のお菓子設定にしようかと思ったけど、ふと食べたくなって職権乱用するカズが書きたくなったからこうなった

話も後書きも纏まらーん!


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