星の海の中で



「まったく…どこにいったんだカズは」

すっかりと日も落ちた頃
俺は、消えたカズを探してマザーベースをあちこち歩き回っていた

時折、ふらりとカズはいなくなる
いつも副指令として気を張っているんだから、たまにはいいだろう?と本人はいたってケロッとしているが
急にふらりといなくなって困るのは、俺達…特に側近中の側近であるマングースだったりする
俺は基本的に任務以外何も出来ないが、カズは違う
雑務やら書類整理やら交渉やら、俺なら頭が痛くなるようなことばかりやっている
実質、このマザーベースはカズが動かしているようなものだ
つまり、カズがいなければ回らない

今日も、夕食をとった後ふらりと消えたカズを探してマングースが走り回っていた
一言言ってくれればいいのに…と半ば涙目で書類を抱えて走り回るマングースに同情して、俺も探しているわけだが
とにかく、消えたカズはなかなか見つからない
誰よりもこのマザーベースを熟知しているカズを見つけ出すのは、結構骨が折れる作業だ

副司令室、食堂、射撃場…
マザーベース中を探して、ようやくカズを見つけた

カズは、マザーベースの甲板の隅っこ
暗いその場所で、寝転がって空を見ていた
見えにくいのか、サングラスを外して
ただ、ぼんやりと…でもどこか真剣に空を見上げていた

「カズ、探したぞ」

「ん…あぁ、スネークか」

声をかけると、カズはチラリとこちらを見て
声をかけたのが俺だとわかると、また視線を空に戻した

「まったく…みんな探していたぞ?で、何してるんだ?」

「星を、見ていたんだ?」

「星を?」

「アンタも寝転んで見てみろよ」

カズは、空から視線を外さないままで自分の隣を手で叩いた
カズに誘われるままに横に寝転べば

「…すごいな」

満天ともいえる星空が、空いっぱいに広がっていた

今日は、月がない夜だ
だから、星がいっそう明るく見えているのだろう
白い大小たくさんの光に混じって、黄色や赤色が所々に見える
その小さな光の洪水は、まさに圧巻といっても過言ではない
まるで、飲み込まれてしまいそうだとすら思えるほどの、星空

遮るものが何もなく、光も見張りに必要最低限のものしかないこのマザーベースで星がよく見えるのは当たり前だとふと思ったけれど
ここにきて数ヶ月…一度もその事実に気付かなかった
夜は毎日やってきて、雲がない夜はこうして星空が頭の上にあったというのに

こうして星空を見上げたことなどいつ以来だろう
最後に星空を見上げたのはいつだったか…と何となく思って
思い出せないくらい、遠い昔だということに気がついた

「気付かなかった…ここは、こんなに星が見えるんだな」

「俺も今まで気づかなかったさ…たまたま空を見上げたら、星が見えたんだ」

「そうか…」

「あぁ…」

まるで、夢見心地なふわふわとした声でカズは小さく笑い
俺も、小さく笑い返した

響くのは、風の音と波の音
そして、下から聞こえる低い機械音
それだけしか、音のない空間
何を言うでもなく、ただ黙って2人星空を見上げている

だが、不思議と心地よい
逆に、何かを口にしたら、この心地よい空気が壊れてしまうような気すらした
沈黙が心地よいなんて、不思議だと感じたが
相手がカズだからこそ、こうして何も言わなくても心地よいのかもしれないと思った

カズも、同じ気持ちなのだろうか
いつものカズなら、星座やら星の名前なんかのウンチクを語りだしてもおかしくないのに
今日に限って、黙ったまま星空を見上げている
とても、穏やかな顔をしたままで
きっと、俺も同じような表情をしているだろう

どれくらい、そうしていただろうか
何となく、カズが寝転んでいる側の手を、そっとカズの方へと動かせば
指先が、カズの手に触れた
その手をたどり、少しだけ冷えてしまっている指先を握りこむ
途端、その指先がピクリと動く
チラリとカズに視線をやれば
カズの蒼い瞳と、視線がかち合った

どちらからともなく、お互い無言のまま互いの指を絡めあう
互いの指に、互いの温もりが伝わって
互いに、小さく笑いあって空に視線を戻した

穏やかで、優しい空間の中
互いの指先の温もりを感じ、ただ何も言わずにお互いの存在を感じて
星の海を、ただ眺める

愛しくて、でもどこか泣き出しそうな感情を覚えながら
できるなら、このまま時間が止まればいいと
ガラにもないことを、祈った



星の海の中で



今日カズと一緒に見上げた星空は
きっと、いつまでも俺の記憶の中に鮮やかに残るのだろう
この指先の温もりの記憶と共に


















思いつき突発小説
いや、いつも思いつきの突発ですが

何となく、星空を見上げる2人が書きたかっただけ
甘いと表記したけど、これって甘いんですかね?(知るか)

自分田舎民のお山在住なんで、夜は星がよく見えますが
以前東京とか行ったとき全然星が見えなくて、ものすごくビックリしたことをふと思い出したんですよ
それから、ふっと星を見る2人が思い浮かんだ、うんそれだけ

スネークはすっかり当初の目的を忘れてます
きっと今頃、マングースはボスまで消えて本気で泣きそうになってることでしょう

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