無機質な空気とビニールの塊に嫉妬



「おいカズ…いつまでそれやってる気だ?」

「ん〜…」

本日、何度目になるかわからないその質問に
何度目かわからない生返事で返され、俺は盛大にため息をついた

カズは今、手元のそれに夢中だ
空気とビニールで出来た、ごく一般的な梱包材
カズは何故か『ぷちぷち』と呼んでいた、それ

もともと、日本から仕入れたという部品が包まれていたそれを、カズが研究開発班から貰ってきたらしい
暇つぶしに、潰したいがために

俺が副司令室にやってきたとき、カズはそれをすでに潰し始める体勢に入っていたところだった

『意外だな、お前がそういうの好きだなんて』

『そうか?これ時々潰したくなるんだよな』

と、心底楽しそうに潰し始めた

効率を重視し、ドケチ…いや、金銭関係で苦労させすぎたせいか節約が半ば趣味のようになったカズには珍しい行為
意味がない行為に没頭し、真剣に、しかし楽しそうに空気の塊を潰しているカズの姿を
新たな一面を発見した喜びと、真剣な様が可愛いなぁと思いながら葉巻に火をつけのんびりと眺めていた

『カズ…まだか?』

『ん〜…もうちょっと…』

だが、1時間くらいたった頃、さすがに飽きがきはじめた
俺も任務がなく、カズも急いで処理しなければならない案件がないという、とても珍しい午後
もともとは、カズと恋人同士の時間を楽しもうと思ってここにやってきたのだ
普段甘えたがらないカズをたっぷりと甘やかして、あわよくば行為におよべないかと下心たっぷりでやってきた俺にとって、この状況はあまり面白いものではない

『カズ…まだやるのか?それ…』

『もうちょっと…』

だが、何度声をかけてもいつになく夢中なカズは生返事
すでに40分ほど、声をかけるたびに

『もうちょっと…』

発言を聞いている気がする

何度かやめさせようと、さりげなく体に触れてみたりもしたが

『スネーク、邪魔』

の一言とともに、手のひらが飛んでくる
ここまで夢中なのだ、きっと力ずくでやめさせようものなら機嫌を損ねてしまうだろう
あまり機嫌を損ねるようなことはしたくない
後で、副指令の権限を最大限に利用した仕返しが来ることは目に見えている

だが、いい加減待っているのも飽きた
せめて会話でもしてくれるなら気もまぎれるが、何を話しかけても生返事なのだ
楽しくとも、なんともない

大体、本当にそれいつまで続ける気だ?
すでに、俺が部屋にやってきてから2時間近く経過している
まさか、全部潰すまでやる気じゃ…という疑問が、俺の頭の中をよぎる
…ありえる
仕事でも何でも、夢中になれば周りどころか自分自身まで見えなくなることのあるカズだ
コレだけ夢中なら、本当に全部潰すまで集中しかねん
カズの手元にある、半分以上残っている梱包材を見て、背筋がゾッと震える
こんなのを待っていたら、日が暮れるどころか夜も更けてしまう

「おーい、カズ…カズヒラ・ミラー」

「ん〜…」

相変わらず生返事のカズに、だんだんとイライラしてくる

なぁカズ、それ後でもいいだろ?
明日でも明後日でも、俺がいない間にでも潰してればいい
せっかく俺がいるのに、他のものに集中するな
俺を見ろ、俺の声を聞け

「おいこら、スケベグラサン野郎」

「ん〜…」

なぁ、せっかく2人きりだというのに、そんな無機質なものに集中するな

「好きだ、愛してるカズ」

俺だって、あまりほっとかれると寂しくなるんだぞ?

「うん、俺も愛してる」

…ん?
今、何て言った?

生返事と同じトーンでカズの口からポロリと漏れた言葉に
俺の思考が、一瞬止まった

「おいカズ、今なんて言った?」

「ん〜…」

「こらカズ、俺の話を聞け」

「後で〜」

目線は梱包材から外さないまま
でも、ほんのりと耳元を赤く染めたカズはわざとらしい生返事を続けている

どうやら、集中していたで誤魔化す気らしい
その態度に、俺の頭の中で何かがプチリと切れた
そっちがその気なら、俺にだって考えがある

葉巻を灰皿に突っ込み、立ち上がってカズの前に座り
反対側から、目下の敵…ぷちぷちを急いで潰し始めた



無機質な空気とビニールの塊に嫉妬



さっさとこれを潰し終えて、先ほどの睦言の続きといこうじゃないか
















ぷちぷちって潰しだすと止まらないよねって話
うん、本当にそんだけの話し
オチも意味もない
いつものことですね、はい

本当はエロルート突入させようかと思ったけど、企画のためエロケージ溜めなきゃいけないから我慢した

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