if〜あったかもしれない悪夢の話



気がついたら、知らない場所に立っていた
なぜここにいるのか、ここがどこなのか、さっぱりわからない
けれど、気がついたらここにいたのだ

「…ここは、どこだ?」

混乱しながら、とりあえず辺りを見回してみる
マザーベースとは違い、こぎれいでコンクリートでできていて
窓から覗く景色も、どこかの街のようで
下の道には、車が何台も走っている

「まるでオフィスビルだな」

けど、なぜここに俺はいる?
俺は、マザーベースにいたはずなのに

とりあえず、長く続く廊下を歩いてみる
廊下の先の、少しだけ広くなっている空間
その先に、カズが立っていた

「…カズ?」

カズは、誰かを探すようにあたりをきょろきょろと見渡している
ようやく見知った人間…愛しい恋人の姿を見て
緊張していた体が、ほっと緩んだ

「おい、カズ!」

安堵感から、大声で愛しい恋人の名前を呼べば

カズは、くるりとコチラに顔を向けると
まるで、花のように笑った

『ボス!』

少しだけ早足で、カズが駆け寄ってくる

「…え…?」

けど、手が触れようとした瞬間
するりと、その手がカズを通り抜け

カズが、俺の体をすり抜けていった

何だ…
何が、起こった?

混乱と驚きで思考がぐちゃぐちゃになりながらも、反射的にカズの方に振り返る
カズが、真っ直ぐに見つめて駆け寄るその先には
男が、1人いた
顔は逆光でよくわからない
けど、背の高い男だということはわかった

『ボ〜ス〜、探したんだぞ?』

カズはその男をボスと呼びながら歩み寄り
咎めるように、けど、どこか嬉しそうに笑う

その声は、その笑顔は
カズが、心を許した相手に甘えてくるときのもの
俺しか、知らないはずの声と表情

笑いかけるカズに、男は小さく笑って
カズの柔らかな髪を優しい手つきで撫でる
カズはその手を拒むことなく、逆に気持ち良さそうに目を細めて行為を受け入れている

その光景に、かっと腹の奥が熱くなって
ドロドロとした感情が、一気に噴出してくる

やめろ、そいつに触るな
それは、俺のものだ…!

「カズ!おいカズ、聞こえないのか!?」

そう叫びたい衝動を、どうにか堪えて
必死に、その男の行為を受ける恋人の名前を呼ぶ
けどカズは聞こえていないのか、甘えるような声で、やめろよ〜と男に笑いかける
熱くなる腹の奥とは逆に、背筋が氷のように一気に冷えていく

「カズ!!カ…」

混乱する頭で、カズに駆け寄ろうとして気がついた
足が、その場に縫い付けられたように動かない

「何だ、これはっ」

膝は動く
でも、足の裏が何かに張り付いているように持ち上がらない
どうにかして引き剥がそうと足掻いてみるものの、まるで最初からくっついていたかのように動かない

その間に、カズの髪を撫でていた男の手が、ゆっくりと柔らかな頬を撫で
その手につられるように、カズが顔を上げて男と視線を合わせる

『ボス…ここ、オフィス…』

するりと反対側の手がカズの腰に回り、その手に戸惑うような表情をしながらカズは男の胸を押す
でも、その目は甘く潤んでいて心の底からは拒絶していない
男はカズに笑いかけ、その耳元で何かを囁いた

『…意地悪いぞボス』

途端、カズの頬にさぁっと朱が差し、拗ねたように唇を尖らせながらも男に体を預けた

やめろ…触るな
カズに、触るな!
こんな光景を、俺に見せるな!!

「カズ!!返事をしろ…答えてくれカズ!!!」

悲鳴にも似た感情が心を支配し、俺は必死でカズの名前を叫んだ
けど、カズにその声は届いておらず、男の腕の中で安心しきって甘えている
するりと、男の指がカズの顎を撫で
何かを、囁いた
途端、カズの目がとろりと溶けて潤み
顔が、そっと近づく

「カズ!!」

『愛してる…ボス…』

カズは、俺の言葉を聞こうとしないまま
うっとりと目を閉じ、男の唇を受けいれた…




「カズ…!!」

がばりと跳ね起き、急に変わった景色に辺りを見回す
見慣れた壁、見慣れた部屋、見慣れたベット
そこは、マザーベースの俺の私室だった

ゆっくりと深呼吸をして、どうにか心を落ち着け
状況を、ゆっくり整理する

「…夢、か?」

不可解な状況、不可解な現象、現実ではありえない事柄、そして俺が眠っていたという事実
おそらく、今まで見ていたものは、夢だったのだろう
あまりにもリアルで、はっきりとした…ただの悪夢

そう認識して、枕もとの葉巻に手を伸ばして火をつける
けど、背中に伝う冷や汗は乾きはせず、心臓もバクバクと嫌な音を立て続けている

わかってる、あれはただの夢だ
疲れた俺の脳が見せた、ただの幻
とるにたらない、ただの悪夢だ

けど、もしも
もしも、2年前
政府軍との契約が、あと1日短ければ
反政府軍の移動が、あと1日遅ければ

俺とカズが、出会う事はなかった
今頃、お互い知らないもの同士として生きていた

そしたら、カズはどうしたのだろうか
カズは、俺がいなくてもMSFを立ち上げるつもりだった
生きていれば、カズはきっとそうしたはずだ

それなら…
もしも、あの時俺達が出会わなければ
カズは、俺以外の誰かを『ボス』と呼んだのだろうか
その男に、俺にしたように心を許すのだろうか
俺に甘えるあの仕草で、その男に甘えたのだろうか

そして
その男を愛し、俺に抱かれたようにそいつに抱かれていたのだろうか

ドロドロと、黒い感情が腹の中を暴れまわって心をグチャグチャに乱していく
もしもの話だということくらい、わかっている
事実カズは俺と出会い、俺と共に組織を立ち上げ
公私のパートナーとして、俺を選んでくれた
だから、考えるだけ無駄なのだ

『愛してる…ボス…』

けど、どうしても夢の中で見たカズの顔が消えてくれない
俺以外に向けられる、とろりと甘く溶けた瞳、信頼し安心しきった表情、心からの愛を紡ぐ唇
上官であり恋人である俺が独占しているカズの姿

「全部…俺のものだ…」

腹を焦がすほどの、嫉妬と独占欲
カズは俺のものだと、あの男に叫んでやりたい
夢だろうとなんだろうと、カズを他の男に渡したくない
男も女も、誰にも渡したくない

カズは俺のものだ
俺が見つけて、俺が磨き上げ、俺が愛した
俺だけの宝石、誰よりも愛する存在
たとえ仮定の世界でも、俺だけのものだ

腹の中から生まれたドロリとした感情が、全身を駆け巡る

「ボス〜、まだ寝てるのか?」

その瞬間、トントンと軽くノックの音とともに
さっきまで夢で他の男とキスをしていた、愛しい恋人の声が聞こえてきた

その声が、全身を巡る感情を煽って火をつける
炎のような激情に、支配されていく

「カズ…入ってこい…」

扉に向かってそう声をかければ、それがカチャリと音を立てて開き
愛しい恋人が、部屋に入ってきた

「どうしたスネーク、体調が悪いのか?」

心配そうに近づいてくる、無防備なカズの姿に心の中で笑いながら
熱を測ろうとしたのか、伸ばされた手を掴んでベットに沈め
そのまま、強引に口付ける

突然のことでうまく頭がまわらないのか、カズの喉から苦しそうな声が上がる
それを無視してさらに舌を突っ込みその咥内をかき回し
邪魔臭いサングラスを取り払って、舌を絡めあう
長い口付けに飲み下しきれない唾液が口の端から漏れ、反射的に俺の腕を掴んでいた手の力がどんどんと弱くなる
その手がすがるものに変わってから、ゆっくりと唇を離す

「すねー、く…」

涙の溜まった蒼い瞳
ほんのりと赤く染まった頬
うっすらと開いて唾液で光る唇
甘い吐息で吐き出される声が、耳を擽る

「俺のものだ…」

唇を親指で撫で唾液を拭ってやれば、カズは不思議そうな目で俺を見上げる

「お前は、俺のものだ」

その目も頬も唇も、心も魂さえも
お前の全ては、俺のものだ

その言葉に何か言いたげに唇を開いたカズが言葉を発する前に
真っ白な首筋に噛み付いた

















エロ展開させようと思ったけど力尽きた(オイ)

心の奥底で、スネークはカズを失うことを恐れていて
無意識に、出会えなかったらどうなっていただろうという疑問を持っている
で、時々こうやって深層心理が悪夢になって出てくる
カズが他の誰かを愛するかもしれないという恐怖が
カズと出会っていなかったらどうなっていただろうという不安が
そのたび、酷く焦燥感と独占欲が刺激されて
カズが自分のものだという確認せずにはいられない

そんなスネークいいよねと思って書いた話

エロ展開させるなら、やや強引チックになるかもなぁ
エロ展開見たい人挙〜手(コラ)

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