狭間の楽園で会いましょう・2



「イヤだ、逝かない」

また泣きそうになる心をどうにか押さえ、俺はその場にどっかりと腰を下ろし
驚いたように俺を見つめるスネークを、揺るがない意思を込めて見返した

雲一つない青い空
足元で咲き乱れる美しい花々
どこまでも続いている地平線
吹き渡る心地よい風
どこからともなく聞こえてくる小鳥のさえずり

平和で、穏やかで
でも、どこまでも孤独なこの場所へ
スネークを1人残しては、どうしても逝けない
逝きたくなんか、なかった

「カズ…俺はいつ死ぬかわからない。あいつらが俺の体を生かしている間は、俺はこの場所から動けない。でもカズ、お前は違う。お前は、この狭間の向こうへ逝ける」

地面に膝をつき、スネークは真っ直ぐな厳しい目で、でもどこまでも優しい瞳で俺の目を見返してくる
その目に負けないように、俺も精一杯の力でスネークの目を見つめる

「逝かない、アンタとここにいる」

「わがままを言うな、俺は動けないからここにいるだけだ。お前は違う、逝けるなら逝くべきだ」

「わがままでも何でもいい、俺はもう、後悔したくない。ここでアンタを置いて先に逝ったら、ずっと地獄で後悔する…10年前、アンタを選ばなかったときと同じように」

キッと力を入れてスネークを睨めば、その強くて優しい瞳があからさまに揺らいだ
その揺らぎが収まらないうちに、必死に言葉を
10年分の想いを、ぶちまけた

「10年間、ずっと考えていた…もしあの時、アンタの手を取っていたらって」

「カズ…」

「アンタの手を取っていたら、アンタと生きていけた…何度も、そう思った」

俺は、いつも大切なものを見誤る
日本を離れた時も、アメリカを離れた時も
いつだって、本当に大切なものは何かを間違えて、違うものを選んでしまう

『カズ…一緒に行こう。一緒にMSFを、アウターヘヴンを作り直そう』

10年前
スネークにそう手を差し延べられた時だってそうだ
手を取ろうとした瞬間、頭に浮かんだのはソリッドを含む可愛い教え子達や愛しい娘、大切な仲間達の姿
そして、幸せだと感じていた当時の生活

俺は、スネークじゃなく
そちらを、選んでしまった
スネークを、選べなかった

『もう、生きて会うことはないだろう。だがカズ、俺はお前を愛している…死んだら地獄でまた会おう』

そんな薄情な俺を、スネークは攻めることはなく
いつもみたいに笑って、泣きじゃくる俺を抱きしめてくれた

だから、8年前のザンジーバランドでソリッドに協力した
それが、スネークではなく彼等を選んでしまった俺の義務なのだと
叫ぶ心を押し殺して、その死を見届けた

けど、それからの俺は後悔の渦の中で生きてきた
それを悟られないように感情を押し殺して、造った笑顔で生きた

『お前、その嘘臭い笑顔やめろ。いつか本当の自分を見失うぞ』

出会ったばかりの頃
そう言って俺の眉間を押し伸ばしたアンタはいないままで

そして、本当に大切だったのは何か
何を選ぶべきだったのか、思い知らされた

「馬鹿だったんだ…アンタに愛すること、愛されることを…人の温もりの心地良さを教えられて、知らないうちに欲張りになってたんだ」

大切だった
ソリッドも、キャサリンも、ロイも
みんなみんな、大事だった、愛していた

「欲張れば、ロクなことにならないって知ってたのに…大切なものが、1つだけあればよかったのに」

けど、本当に大切だったのは
本当に俺が必要として、愛していたのは
スネーク、ただ1人だったのに

「アンタさえいれば…俺はそれでよかったのに。それだけで幸せだったのに」

何よりも大切だった
誰よりも愛していた
くだらない俺自身よりずっと大切で、愛していたんだ
スネークがいれば、それだけでよかったんだ
俺の幸せは、スネークという存在が根底にいて、初めて成り立つものだったのに
そんな簡単なことすら、欲張りになった俺は忘れていたんだ

だから、あの苦しかった時間は俺への罰
大切なものを見失い、欲張りになった俺に与えられた、罰だったんだ

「だから…もう、離れたくない、側にいたい。アンタを愛してる…もう、間違いたくないんだ」

何が大切か
何を選ぶべきか

俺はもう、間違えない
本当に大切なものが、何を選ぶべきなのか
ようやく、わかったから
バカだから、随分と長い時間がかかってしまったけど

「あの時、選べなかった俺を…許してくれとは言わない。頼む、もう一度チャンスを…」

くれ、と言いかけた瞬間
スネークの顔が泣きそうに歪み
ぎゅうっと、俺を抱きしめた

「スネーク?」

「違う…違うんだカズ…選べなかったのは、俺だ…」

体に回された腕に、痛いほどに力が篭り
肩に埋められた顔からは、聞いたことがないほど弱々しい声が聞こえてきた

「俺だって選べたんだ……復讐に囚われず、ロイやパラメディクやフランク…そして、お前と生きる道を。幸せそうに笑うお前の隣で、復讐なんか忘れて生きることだってできたんだ」

触れ合う場所から、スネークの体が震えているのが伝わってきて
ゆっくりとその背に腕を回して、震える体を抱きしめる
けど、スネークを抱きしめる俺の体も…きっと震えている

「俺も、欲張ったんだ…ボスの幻影に、復讐に囚われて、本当に大切なものが何か見失ってた。カズ、お前がいれば、お前さえいればよかったのに。お前が隣で笑ってさえいれば、復讐なんかどうでもよかったのに」

肩に、ほんのりと暖かく湿ったような感触がする
弱弱しく震える声からは、スネークが泣いていることが伝わってくる
生きている間、滅多に泣かなかったスネークが
その事実が、俺の胸をキツク締め付け

「お前と共に生きていけたら…それだけで、よかったんだ」

そして、その言葉に
さっき散々泣いて引っ込んだはずの涙が、俺の頬を伝った
悲しいのか、嬉しいのか、切ないのか
よくわからない感情が、俺の胸を支配していく
けど、その中心にあるのは
どうしようもないほどの愛しさ

スネークの頬に、そっと手を添えて少しだけ体を放し
そっと、涙に濡れた瞼に唇を落としてから、こつりと額をぶつけた
この胸の中の感情を言葉にしようと思ったけど、うまく言葉に出来なくて

「スネーク…愛している」

そう、どうにか笑みを作って、一番強い感情の名前を口にした

「俺のほうが、愛してるさ」

スネークの顔が、泣き笑いのようなものに変わり
そのまま、互いに口付けた
重ねた唇からは、涙と幸福の味がした





「もう一度言うぞカズ、俺はいつこの場所から動けるようになるかわからない。それでもいいのか?」

「かまわないさ。10年ぶりに会ったんだ、話すことはたっぷりある」

花の中に寝転がって互いに手を握り合い、雲一つすらない空を眺めて笑いあった
そうさ、10年ぶりの再会なんだ
少なくとも、俺には話すことが山ほどある

「それに、アンタと一緒ならここだって十分楽園さ」

雲一つない青い空
足元で咲き乱れる美しい花々
どこまでも続いている地平線
吹き渡る心地よい風
どこからともなく聞こえてくる小鳥のさえずり

1人なら、孤独でしかないこの場所も
スネークと一緒なら、楽園に思えるだろうし

「この狭間の空間がか?」

「そうさ。第一、俺達が造った場所も【天国の外側】だったろ?俺達にはおあつらえ向きの場所じゃないか」

「はは、違いない…そうだな、お前と一緒なら、どこだって楽園かもな」

「地獄でもか?」

「あぁ。カズがいれば、どこだって楽園だ」

「お世辞はよしてくれよスネーク」

「いいや?俺は本気だぞカズ」

「…心臓が忙しくて、死にそうなんだが」

「大丈夫だ、もう死んでる」

チラリとスネークを睨みつければ、楽しそうな表情をしたスネークと視線がかち合って
互いに噴出しながら指を絡めあう
照れくささから空に視線を戻せば

「愛してる、カズ」

体を起こしたスネークが、空を遮って笑い
もう片方の手に、スネークの手が重なる

「…俺のほうが、アンタを愛してる」

俺も笑って、その手にも指を絡め
そのまま、落ちてくる唇を受け止めた

















一度書いてみたかった、ネイカズの死後再会話
う〜ん…書きたいことがまとまってないっ

カズが死んだとき、スネークは厳密に言えば死んでないんだよな〜
とか思ったのでこんな話に
カズが泣きっぱなしなので、たまにはスネークにも泣いていただいた

2人とも、欲張って道を違えて
でも、心の底では一緒にいることを何よりも望んでいて
離れていた10年で、それを思い知った…という話が書きたかった、はず
最後のほうは、完全に趣味です
う〜ん…入れないほうがまとまらない気がしないでもないけど、どうしてもイチャラブさせたかったんです



- 99 -


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -