MSFの華麗なる日常・2



『マナティ、目標との接触まで後1分30秒…大丈夫か?』

「はい、ジュラフ隊長…」

耳元に付けられた、一見して無線機とは見えないそれを通して、ジュラフ隊長の声が聞こえる
俺は緊張感で震える声で、どうにか言葉を返した

組織の幹部達が出した結論は、不届き者を言い逃れできない状況で捕まえ、厳しい制裁を加えるというもの
オポッサム副隊長率いる諜報部隊が捕まえた、写真の購入者を脅し…いや、協力を仰ぎ、写真を欲しがっている奴がいるから売ってやって欲しい…と、不届き者に知らせる
そして、まんまとやってきた不届き者が写真と金を引き換えた瞬間を捕らえる…ようは、囮捜査という奴だ

その囮に選ばれたのは、俺だった
活動に熱心だが比較的会員番号が若い
なおかつ食料班所属の俺なら面が割れていないだろうという、ジュラフ隊長の判断だ

「…お前が、ミラー副指令のお宝写真が欲しいって奴か?」

そう、声が聞こえて振り向くと、そこには1人の男が立っていた
あまり面識はないが、たしか研究開発班の奴だったと記憶している

『目標と接触したか、うまくやれよマナティ』

隊長の激励の言葉に、ドキドキと心臓が高鳴る
犯人を捕まえるという、重要な役目
緊張と動揺が顔に出ないように、必死に取り繕う
しかし、実戦部隊と違い普段マザーベースで飯を作ってばかりの俺ではなかなかうまく誤魔化せない

「あぁ…」

「渡してもいいが…もちろん、金は持ってるんだろうな?」

「もちろんだ」

しかし、どうやらこの男は俺の緊張を副指令の写真見たさによるものとでも思ったらしい
ニマリと笑うと、俺に小さな紙袋を差し出した

「ほら、ミラー副指令の写真だ」

「…中を、確認してもいいだろうか?」

「好きにしろ…」

相手の目を少しだけ見てから、紙袋の口を開け
渡された写真を確認する
確かに、画面に映されていたものと一致する

「…確認した。確かに、ミラー副指令のお宝写真だな」

その言葉に、目の前の男は笑い
無線の向こうが、緊張に包まれたのがわかった

「ほら、写真は渡したぞ?早く例のものを寄越せ」

「わかった…」

そして、男が俺から金を受け取った瞬間

『「目標確認!ムーヴ!!」』

耳と、無線から同じ声が聞こえ
MSF選りすぐりの実戦部隊があちこちから飛び出した

「な、何だ!?」

男が突然の出来事にうろたえているうちに

「大人しくしろ!このミラー副指令を辱める不届き者が!!」

一瞬で、実戦部隊によって取り押さえられた

まだ状況がつかめず、視線をさまよわせる男を

「MSF隊長、ジュラフだ…観念しろ、ターキー」

ジュラフ隊長が、毅然とした表情で見下ろす
それで、ようやく男…ターキーは状況がつかめたらしく舌打ちをした

「チッ…MSFとはな…」

「本日の会議にて、貴方をミラー副指令の盗撮、および写真の販売の罪で制裁することが決定したの…もう逃げられないわよ」

「ハッ…制裁っつったって、お前らに俺をどうこうする権限はねぇだろ!俺を実戦部隊にでも配備するか?解雇するか?できるもんならやってみろ!!」

アイリス副隊長の言葉に、挑発的に返すターキー

ターキーは、MSF幹部を目の前にしても、まだ気づかないらしい
これから、行われる制裁の意味を

「確かに、我々はただの兵士達の集まりに過ぎない…お前を物理的にどうこうする権限はない」

ジュラフ隊長の言葉に、ターキーがほらみろ、と言わんばかりに笑う

「だが…我々が、個別に制裁を与えることは、できる」

「何…?」

「まずは、食料班である僕からですね」

隊長の後ろから、幹部でもあり俺の上司でもある食料班所属のアルバトロスが顔を出す

「僕からの制裁は…そうですね、君の夕飯のメインとデザート、向こう1ヵ月抜きにしましょうか」

にっこりと柔和に微笑みながら、静かに怒りのオーラを放つアルバトロスの言葉に、僅かにターキーの顔が歪む
夕飯のメニュー、および配膳を統括するアルバトロスが指示を出せば
夕飯のメインとデザートを、1人減らすことくらいたやすいことなのだ

海上プラントであるマザーベースでの一番の楽しみといえば、ほとんどの兵士が食事と答えるだろう
そこを攻められ、動揺したのがわかった

「次は、医療班の私からね…そうね、人間ドック受けてもらいましょうか?3日間かけて、バリウム、胃カメラ、直腸診その他もろもろ…じっくりと病気がないか調べてあげるわ」

続いて、医療班所属のアイリス副隊長がにこりと笑って言った
医療班で病理対象者の検診を一手に引き受けているアイリス副隊長が一声かけるだけで、強制的に医務室に閉じ込められ人間ドックを受けさせられる
しかも、検査内容は全てアイリス副隊長が決めるのだ
きっと、キツイ検査ばかり詰め込まれるのだろう
徐々に、ターキーの顔が青くなっていく

「次は、実戦部隊の俺だな…うちの部隊でしごいてやりたいが、さすがにそれは無理だろう。新作の武器のテストに付き合ってもらおうか…もちろん、ジャングルで」

表情を変えないまま、ジュラフ隊長が続ける
新作の武器のテストは、普通は実戦部隊が書類を提出するだけなのだが
部隊が要請すれば、研究員を付き合わせることが許可されている
危険性の高い武器や、いち早く実践に投入したいときなどに要請があるが…研究員がそれを酷く嫌がっているのは有名だ
何せ、普段は空調完備のマザーベースで研究開発ばかりしている連中だ
蒸し暑かったり急に雨が降ったり、虫や動物がいたりするジャングルに行きたがらないのは当然だ
しかも、実戦部隊が帰るまで、研究員も帰れない
その権限を持っているのは、言うまでもなくリーダーのジュラフ隊長だ

「はいは〜い、じゃあ最後は研究開発班の俺ね!」

ぴょんぴょんと陽気に跳ねたのは、研究開発班のクリケット

「う〜ん…そうだなぁ…」

しばらくの間、クリケットは顎に手を当てて考え込む仕草をし

「君、しばらくうちの班に配属してもらうから」

にっこりと笑って、ターキーの肩を叩いた
その言葉に、ターキーの顔が真っ青になった

「じょ、冗談だろ!?」

「冗談じゃないよ〜?いやぁ、ちょうど人増やしたかったんだよね〜。ボスに言えば、きっと一発で配置換えしてもらえるよ〜」

ニコニコと、楽しそうに笑うクリケット
実は彼は、研究開発班の中でも特殊な班のリーダーだ

その名も、ダンボール開発班

ダンボールに過剰ともいえる情熱と愛情を持つ、ボス直属の研究開発部隊
選りすぐりの腕を持つものが集められ、ボスの権限で望むままに開発費を得られるその部隊は、当初かなりの酷評を受けていた
他の部隊だけでなく、同じ研究開発班内部からも

『公費を使ってダンボールで遊んでいる』

と、皮肉を言われていた

だが、今ではその意見はひっくり返されている
選りすぐられた研究員が集められ、日々ダンボールを研究し、より高度なダンボールをと望むボスの期待に答え続け
今では、彼らの作るダンボールは非常に軽量ながら防弾チョッキ並みの強度を誇り、スコールくらいではびくともしないというまさに芸術とまでいえる域に達している
さらに、ボスお気に入りのダンボール戦車
あれも、様々な種類が開発され、今では使い方次第で本物の戦車に対抗できるのだ
さらに、ダンボール支援のダンボールも彼らの開発の賜物だ
着地したとき、綺麗に分解するように…しかし、決して空中では分解しない特殊な作り
さらに最近では、スタンやらスモークやら、入るだけで傷の治りが早くなるなんていうものまで開発し

用は、研究開発班の中でもとんでもなく特殊な技術を要する部隊なのだ
一度配属されれば

『銃やミサイルを開発するほうが何百倍も楽だ』

と、誰もがいわずにはいられない
研究開発班の中でも、最も過酷で激務で誰得な部隊だ

研究開発班の中では
ダンボール開発班に配属されることは死を意味する
とまで言われているらしい

「とうわけで、これからよろしくね〜。病理検査と武器テスト終わったらすぐ配属してもらうからね〜」

「ちょ、ちょ…なぁ、冗談だろ!?」

「いえいえ、冗談じゃないですよ?…あぁ、もしも逃げ出そうとか考えたら…」

にこりと笑った、諜報班のオポッサム副隊長が何やらターキーの耳元で囁き
それと同時に、ターキーの顔が愕然としたものになる

「お、お前…それを、どこで…」

「諜報Sランク、舐めないでくださいね?貴方が大人しく制裁を受けないなら…うっかり誰かに喋っちゃうかもしれませんね、とぉっても口の軽い兵士とかに」

にっこりと笑いながら、どこか黒いオーラを漂わせるオポッサム副隊長に
ターキーは、グッタリとうなだれた





ある日の平和なMSF

ボスと楽しそうに会話をする我らが愛するミラー副指令を眺めながら、俺はゆっくりとマテ茶を啜っていた

「マナティ」

不意に声をかけられて、そちらを振り向けば

「あ、オポッサムさん」

副隊長のオポッサムさんが立っていた
ちなみに、会議以外では副隊長とは呼ばないようにしている

「隣いいかな?」

「はい、もちろん」

ニコリと笑えば、オポッサムさんもニコリと笑って隣に腰を下ろした

「ターキーの奴、どうなりました?」

「クリケットが相当しごいているらしい、毎日涙目でいるところを目撃されているし」

「そうですか…それにしても」

俺はマテ茶を啜り、小さく笑ってオポッサムさんを見る

「ボスに見つかる前に、カタがついてよかったですね」

「あぁ、本当に」

そんな俺に、オポッサムさんも小さく笑って俺を見る

「ボスにばれたら、こんなものじゃすみませんものね」

「そうだな、本当に海の藻屑にされてるかもしれないし」

ボスがターキーを海の藻屑と化すシーンがありありと想像できて
お互いに、顔を見合わせて笑いあう

ちなみに、会員にとって最も大切な条約
会員規約第一条第一項
ミラー副指令は、我々みんなで愛でること。ただし、ボスは特別

つまりは、そういうことなのだ

けど、それはみんな承知の上のこと
なぜなら、俺たちはみんな、ミラー副指令が大好きで
ミラー副指令が幸せなら、それは願ってもないこと

愛する副指令が幸せなら、俺たちはそれだけで幸せなのだから



MSFの華麗なる日常



俺たちはMSF…ミラー副指令ファンクラブ
今日もミラー副指令を愛でながら、マザーベースの平和のために活動している

















1000hitカズアイドル化計画のボツネタ
もったいない精神でUPしてみる

最後までカズが欠片しか出てこなかったんだ…
カズがアイドルでというリクエストだったのに(´・ω・`)
こっそりと、実際に記念小説としてあげたほうにもこの話の設定が適応されてます
あの話の裏側では、MSFが活動しているのですよ
そうしないと、パニックになるのですよ
だって、カズはアイドルだから(笑)
実は相当細かい人物設定なんかもあるけど、多分だれも期待していないだろうから心の奥底に秘めておきます

自分英語弱いので、副司令官という単語はネット翻訳で調べましたが
Vice CommandantとA second-in-commandの2種類出てきて
多分、Vice Commandantが正しいんだろうな〜と思いましたが、A second-in-commandだとMSFにかかるという理由でこっちにしました
というか、ぶっちゃけカズの姓がMillarかMillerかすらわかってないです(オイ)
間違ってたら教えてください…

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