初体験は副司令室で・1



「…最悪だ」

俺は食堂の隅で昼食をつつきながら、幸せってなんだっけっという勢いでため息を吐いた

つい先日
仕事サボってたらオポッサムにキスされ、それをスネークに見られ、何故かキレたスネークに色々といたされるという、色々不名誉な経験をした

何をいたされたのは、正直思い出したくない
本気で、医療班が記憶の一部をなくす薬を作ってくれないかと思い始めた
…開発費をおろしたら、開発してくれないだろうか

さて
それからというもの、やたらとスネークが俺の側をうろつくようになった
いや、コチラとしては、普段嫌がるデスクワークもイヤイヤながらやってくれるので助かるのだけど

何故か、俺に近づく兵士達に軽く睨みをくれてやるのだ
特に、書類に関する質問をしにきた兵士を、俺の背後からじぃっと見つめるのをやめてくれないだろうか
おかげで、最近は全員マングースに預けるようになってしまった
正直、書類を口実に会話をするのがひそかな楽しみだったのだが…
ぶっちゃけ、最近ちょっとうっとうしい

さて、そんな若干うっとうしいスネークが、1週間という長期任務に出て早数日
別の意味で、困っている

兵士達が、やたらと俺にかまってくるのだ
後ろにいたスネークがよほど怖かったのか、いなくなった途端どうでもいい書類の質問にきたり、やたら訓練に誘われたり、一緒に飯でも!と誘われたり
しかも、昨日からマングースが交渉のためマザーベースから離れた途端さらにそれが激化した

以前なら、それをただ純粋に嬉しく感じたんだろうが

『ミラー副指令が、最近色っぽいって』

そう、あの時オポッサムに言われたせいで、どうにも伺った見方しかできない自分がいる

そして、そのせいで
近寄ってくる隊員達の何人かは、オポッサムの言ったとおりの意味だったという気づきたくなかった現実に気づかされてしまった

「あ〜…最悪だ…」

「…そんなにため息ついてると、幸せなくなっちゃいますよ?」

ため息を連発していると、すぐ隣から聞きなれた声が降ってきて、慌てて声のしたほうに振り向けば

「お、オポッサムっ」

この間の騒動の原因であるオポッサムが、昼飯の乗ったトレーを持ってにこやかに立っていた
一気に、体が警戒体勢に入る

「…そんな警戒しなくても、何もしませんって」

そんな俺に、オポッサムは苦笑を漏らしながら隣の椅子に腰掛けた

「…あんなことされて、警戒するなというほうが無理な話だと思うんだが?」

「あはは、ボスが背後にいるのに何もしませんよ…俺もまだ、死にたくないですし」

にこやかに、さらりと恐ろしい言葉を吐いたオポッサムは。まるで何でもないようにスープに口を付ける
その姿を見て、俺もパンに手を伸ばした

「で、俺になんの用だ?」

「つれないなぁ…いや、ボディーガードしようかと思いまして」

「ボディーガード?」

「えぇ、ボスが帰るまで、ミラーさんの貞操を守ろうかと」

「ぐっ」

思いもしない言葉に、飲み込もうとしたパンが喉に詰まる

「はい、ミラーさんお茶」

オポッサムに差し出されたお茶を飲んで、どうにかそれを胃に押し込めた

「ぷは…な、何だよ貞操って!」

「ミラーさんに言い寄ろうとする兵士がみんな、俺みたいに聞きわけがいいわけじゃないってことです」

「意味がわからん…」

「まぁ、この間の罪滅ぼしだと思ってください。…というか、あれ以来ボスの視線が厳しいんでちょっと点数稼ぎしときたいんですよ」

「はぁ…」

「大丈夫ですって、何にもしません。我らがボスに誓って」

にこやかな笑顔に、何故か一気に毒気が抜かれ
一気に疲れがどっと出て

「…もう、好きにすればいいさ」

もう、勝手にさせることにした

「はい、好きにします」

そんな俺を見て、オポッサムはいつものにこやかな笑みを浮かべた





「…何故お前がカズの部屋にいる?」

それから数日
長期任務から帰ってきたスネークは、当然のように俺の側で仕事をするオポッサムを見て盛大に眉を寄せた

アレから言葉通り、オポッサムは俺の側をうろうろしていた
最初はちょっとうっとうしかったが、スネークと違ってオポッサムは非常に役に立った
重要度の高そうな書類をより分け、それから優先的に俺に渡すため仕事が非常にはかどったし、オポッサム自身の仕事も非常に早い
できるなら、このまま俺の側近の1人に加えてしまおうか…そう思っていたが

スネークの表情から、何となくソレは無理だろうなぁと感じてしまった
…別に、俺が誰を側近にしようとスネークには関係ないが
何で墓穴を掘りえらい目にあわされるかわからない今、スネークがあんな表情をするなら、避けたほうが無難に違いない

「そんな顔しないでください、ボス…ちょっとボディーガードの真似事をしてただけです。何もしてませんって」

「ボディーガードだと?」

「えぇ…ココの兵士全員が、俺みたいに聞きわけがいいとは限りませんからね。マングースもボスもいなかったことですし」

にっこりと、穏やかな微笑を浮かべるオポッサムに、スネークは小さく唸った
何が何やらわからんが、どうやらオポッサムが勝ったらしい

「それじゃ、俺は退散します」

そういうと、オポッサムは何故か俺の側に来て

「また呼んでくださいね、親愛なるミラーさん」

ちゅっと、頬にキスをして
呆然とする俺と、一瞬で目つきの鋭くなったスネークを残して
ぱたりと音を立てて、部屋から出て行った

「…カズ、オポッサムとは本当に何もなかったんだろうな?」

数秒の沈黙の後
くるりと俺のほうを向いたスネークが、いつもよりトーンの低い声を出す

「…何も、なかった…ぞ?」

相変わらず、その目が異常に怖い
べつにやましいことは何一つないのだけど、どうしてもその目が見れなくて、微妙に視線を外してしまう

「ほぅ…何もないのなら、どうしてそんな目をする?」

が、そのことが墓穴を掘ってしまったらしい
ぐいっと顎をつかまれ、鋭い眼光で目を合わせられる

ちょ、怖い怖いほんと怖い
やましいことはないけど、その目は怖すぎる!

「カズ、俺の目を見ろ」

「…い、いやん…恥ずかしい…」

「見ないということは、何かあったということだな?」

だから、そんな怖い目で見られて目をあわせられるか!
というか、何でオポッサムとのことそんな気にするんだよ!?

「だ、だから何もないって!」

「じゃあ俺の目を見ろ」

「アンタの目怖いんだよっ、何か食われそうで怖い!」

「ほう、わかってるじゃないか」

しまったぁぁぁ!!
また墓穴掘った!しかも特大の!!

ニヤリと肉食獣の目で笑うスネークに、俺はどっと汗が噴出してくる
俺は食用的な意味で食われそうだと言ったけど、スネークは絶対性的な意味に捉えたに違いない
ということは…

「す、スネークっ違う、違うんだ!」

「まさか、お前から誘ってくれるとはな」

「誘ってない!断じて誘ってない!!」

「照れるな照れるな…そうだな、本当にオポッサムと何もなかったかついでに調べてやろう」

「いらん!何もなかった、神に誓って何もなかったから!!」

「お前は無神論者だろ?そんなお前が神に誓っても信用できん」

「スネーク!頼む、信じて…」

くれ、と言いかけた時
スネークの唇が、俺のそれに噛み付いた

やっぱり、こうなるのかよ!

ぬるぬると咥内を蹂躙する舌に酸素を持っていかれながら
俺の思考は後悔と、僅かな快感への期待に溢れていた




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