雲の上の月を、まだ知らない



遠くから、兵士達の笑い声が聞こえる
それを聴きながら、俺は持ってきた団子を口に入れた

今日は、毎月恒例の兵士達の誕生会
その予定日が、ちょうど中秋の名月と重なることに気づき

『今月の誕生会は月見もかねるぞ!』

そう言ったのは、今月の初めのこと

たまには風流な行事をするのも言いかと思ってのことだった
まぁ、気合を入れた割にはすでにいつもの馬鹿騒ぎと化してしまっているが

第一、月見の説明をしたとき、ほとんどの奴がよくわかってないみたいだったしな
日本人は何かを見ないと団子が食えないのかと、的外れなことを言い放った我らがボス、スネークを筆頭に

けどまぁ、兵士達が楽しそうで何よりだ

空に浮かぶ満月を眺めながら
遠くに聞こえる兵士達の笑い声を聞きながら
ゆっくりと、酒を口に含む

みんなで騒ぐのも楽しいが、こうやってゆっくりと酒や月を楽しむのも悪くない

そう思い、月を眺めていると
控えめな足音が、耳に届いた

その方向を見ると、スネークが酒瓶片手に立っていた
何故か、どこか呆然としたような表情で

「何だボス、兵士達と一緒に居なくていいのか?」

そう声をかけると、スネークは何やらがっかりしたような、安心したような妙な顔をして俺の隣に腰を下ろした
…いったい、何だって言うんだ?

「いや、お前の姿が見えなかったからな」

「何だ、俺がいないと寂しいのか?」

「バカ言え、お前が酔っ払って甲板から落ちてないか調べにきたんだ」

「誰が落ちるか!俺はただ、ゆっくりと月を楽しみたかったの!」

けれど、軽口の応酬をしているうちに、いつものスネークに戻っていた
さっきの表情が少し気になったけど、まぁなんでもないんだろうと満月に視線を戻した

さすが、中秋の名月といわれるだけあって、今日の月はいつもより大きく綺麗に見える

「意外だな、カズが月が好きだなんて」

そんな俺を見て、スネークが心底意外そうにそう言った

「意外とは何だ、俺は日本人だからな。風流なものが好きなのさ」

「月が風流、ねぇ…」

スネークも月を見上げているが、どうやらイマイチわかっていないらしい
もともと風流というのが、日本独特の文化だと感じてはいるが
こう、同じ物を見ても分かり合えないというのは、何となく切ないものでもある

「まぁ、今日の月は綺麗だとは思うが」

だから、スネークがポツリと呟いた言葉に、少しだけ嬉しくなってしまったのは不可抗力だ

「そうだろう。その月を楽しむ行為が風流なのさ」

「ほぉ…」

うんうんと頷くその姿に、欠片でも風流を理解し始めたかと思った

「日本ではこの時期は雨の多い時期で滅多に満月は見られないんだ」

「そうなのか?」

「あぁ、10年のうち9年は月が見られないという話がある」

そういうと、スネークは訝しげに眉を寄せた

「それじゃあ、月見をする意味がないじゃないか。月見は、月を楽しむものなんだろう?」

「わかっていないな、スネーク…見えないからいいのさ」

「見えないから?」

「そうさ。丸いものを見て、口にして、心の中の月を楽しむ…それこそが、真の風流というものなのさ。ちなみに、これを雨月というんだ」

そう、自慢げに話しては見たものの
正直、俺もまだ雨月のよさはわからない
そう、スネークに告げると
何やら、スネークは真剣な顔をして考え込んでいる

まさか、雨月のよさがわかるのか?
一瞬だけ、そう思った

「…それはつまり、団子が食いたいだけなのか?」

けれど、至極真剣に放ったその言葉に
一瞬で、脱力感が全身を襲った

やっぱり、この男は風流というものをまったく理解していなかったらしい
わかってたけど…一瞬でも理解してくれたのかと期待した俺が馬鹿だった

「悪かった、アンタに風流なんてもんがわかるはずなかったな」

「おいカズ、それはどういう意味だ?」

「そのままの意味だ。アンタと風流については話せそうにないな」

どこか小ばかにしたように言ってやれば、スネークはむぅ、と黙り込んだ
どうやら、まったく言い返せないらしい

「…月は、綺麗だぞ?」

「あぁ、そうだな。アンタの脳みそじゃそれが限界だよな」

拗ねたように唇を尖らせるスネークに、何だかおかしくなってくる

「まぁ、それがスネークらしいといえば、らしいけどな」

まぁ、今は
俺が雨月のよさを知らないように
心の中の月を楽しむ方法を知らないように
スネークも、風流な楽しみ方を知らないだけなのかもしれない

今は、それでもいいやと思った



雲の上の月を、まだ知らない



けれど
俺が雨月のよさをわかる歳になる頃には
スネークも、風流の欠片くらいは理解して欲しいと思った


















前もry
ラブラブな季節物が書きたかった話

うちのカズは、騒ぐのも好きですがこういった行事が大好きです
でも、みんなあんまり理解してくれない
カズ、不憫(笑)

さりげなく、その他にあるソリマス月見話の過去の話となってます
その話のマスターは、雨月のよさをわかる歳になってます
でも、その時隣にいるのは…
そう考えると、この話がシリアスに見えてきませんか?

…すみません、誰得ですね、はい

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