きっかけは些細なことで



「はぁ…帰ってきた…」

プラント内の食堂に近づくにつれ、あぁ、帰ってきたんだなぁという実感がわいてくる

珍しく、長期の依頼が入って長く…といっても、1週間くらいプラントを空けていた

やはり、帰る場所があるとはいいことだ
つくづくそう思いながら、久々に食料班の旨い飯でも食うか…と、食堂に足を踏み入れると

「うひゃっ…あ〜くそ!やられた!!」

「ははは、甘いな!今日のデザートは…あ、ボス!お帰りなさい!」

「…何をやってるんだ、お前たちは」

何だか、わけのわからない遊びが流行っていた



「…ほう、背中をなぁ…」

どうやら、背中を指先でつーっと撫でて、相手の反応を見る
という、遊びらしい

それの何が楽しいのかよくわからないが、野郎ばかりのMSFでは時々おかしな遊びが流行ることがある
以前にも、肩を叩いて振り向いた相手の頬に人差し指をつきたてるというわけのわからん遊びが流行ったことがあった

「で、その遊びは誰が始めたんだ?」

「副指令です」

…またか
兵の言葉に、思わずそう言いたくなったのをため息で堪える

そして、こういったくだらない遊びの発祥は、たいていカズだったりするのだ

『日本じゃ、こういった遊びが一種のコミュニケーションなんだ!』

と力説していたが、何せMSFに日本出身のものはカズしかいないので、本当のところはどうかわからない
おそらく、カズの適当な発言に過ぎないのかもしれないが
もしもそうなら、日本人というのは案外お茶目な人種なのかもしれない

さて、その遊びがエスカレートして
今では、背後を取られるか否か…という、半ば戦場のような遊びになっているらしい
さらには、夕食のデザートを賭けるというオマケつきで

戦場では命がけでやっているというのに、何が楽しいのかさっぱりわからん
…まぁ、平和なのはいいことだ

そう思い、あちこちでその遊びに興じる隊員達と共に、夕飯を取った


「…あ〜、そうだった」

隊員たちと食事を取り、軽くシャワーを浴び
さぁ、ゆっくり寝るぞ!と思い、ふと机の上を見ると、1枚の書類が目に入った
本来なら、任務に行く前にカズに渡すはずだった書類
本当はもう書きあがっていたのだが…提出するのをすっかり忘れてしまっていた

「…急ぎだとか、言ってた気がするな」

急ぎだから、できるだけ早く目を通してくれ
この書類を受け取ったとき、カズがそういっていた気がする

「届けてくるか…」

もう寝ようとしていた体は睡眠を訴えたが、この書類がないとカズの仕事が進まないのではないか、という罪悪感に駆られ
俺は、思い体を引きずって、カズがいるであろう副指令室へと足を向けた

「カズ、遅くなってすまん、報告書だ」

副指令室の扉を開けると、ちょうど仕事が終わったのか、書類の束を軽く整えているところだった
その紙の束の分厚さに、軽く眩暈がした気がした

…俺は、一枚でも面倒なのに

「スネーク…任務帰りで疲れてるだろう?明日でもよかったのに」

「いや、この書類がないと作業が進まないんじゃないかと思ってな」

「そう思うなら、任務に出る前に仕上げて欲しかったな…すぐチェックするから、冷蔵庫に入ってるマウンテンデューでも飲んで待っててくれ」

「おう」

カズの皮肉を聞き流し、言われたとおり備え付けの冷蔵庫からマウンテンデューを取り出してソファーに座る

「ふむふむ…」

チビチビとそれを傾けながらカズを見ると、なにやら難しい顔をしてうろうろと動き回っている

座ってチェックすればいいだろう

そう思っていると、くるりとカズは俺に背を向け
文字が見にくいのかサングラスを外して机に置くと、そのまま動かなくなった

暑いせいか、それとも眠気覚ましに軽くシャワーでも浴びたのか
珍しくカズは野戦服の上着を抜いてシャツ一丁になっている

ふと、思う
そういえば、あの妙な遊びを流行らせたのはカズだったな、と

少しイタズラしてやりたい気分になり、音を立てないようにそっと立ち上がる

「ふむ…なるほど…」

ゆっくりと近づいても、書類に夢中なカズはまったく気づかない
指先が十分届く位置に来てもまだ気づかないカズに、何だか愉快な気分になってくる

…なるほど、平和な中でやると、結構スリルがあって楽しいものかもしれない

まったく警戒していない、無防備な背中にほくそ笑むと

「カズヒラ!」

背骨に沿って、つぅっと指を這わせてやった

「んひゃぁぁっ」

その瞬間、カズの体がビクリと震え
普段より高い声が、鼓膜を震わせた

「ちょ、スネーク!いきなり何だよっ」

お前が流行らせた遊びだろう?
そういってからかってやるつもりだったのに

勢いよく振り返ったカズに、俺は固まったまま動けなかった

…何だ、今の声
バクバクと、心臓が嫌な感じで悲鳴を上げでいる

いつものカズとは違う、高めでそれでいてどこか甘さを含んだ声だった

「もしかして、今流行ってる遊びか?勘弁してくれよ…俺くすぐったがりなんだから」

しかも、振り向いたカズの姿
もともと色が白く、決めの細かい綺麗な肌は耳から首筋まで真っ赤に染まり
いつもはサングラスに隠されている蒼い瞳は、何故か潤んでいて
拗ねたように突き出された唇が、ぽってりと柔らかそうに見えて

その全てが、まるで情事の最中の女の姿のように見えた

「…スネーク?」

呆然とカズの姿に見入っていると、何も言わない俺を不審に思ったのか、カズが吐息が触れ合ってしまいそうな位置で俺の顔を覗き込んだ

「い、いいいいやいやいやいや何でもない!!」

…ヤバイ
ヤバイヤバイヤバイ!

何というか、これはあれだ
1週間も任務で、1人で抜けもしなかった反動だ
半分眠った体が起こしだ事故だ

まさか…
まさかまさか…

「ほんとっ…何でもないんだ!」

カズで、勃ってしまうなんて!!
しかも、完勃ちしてしまったなんて!!!

バレたらやばい
カズのあのエロい声と顔で勃ってしまったなんてバレたら…!!
というか、このままここにいたらうっかり間違いを犯してしまいそうだ!!

「しょ、書類に不備はあったか!?」

「へ?いや、なかったが…」

「なら俺は疲れたから帰るな!!お休みカズ、良い夢を!!!」

「え?ちょ、スネーク!?」

カズの驚いたような声を背中に受けながら
俺は半分前かがみになりながら、全速力で部屋を後にした

「はぁっ…はぁっ…」

そのまま、自室に飛び込み鍵をかけ
全速力で走ったせいで荒くなった息を落ち着ける

しかし…

「…どうするか、コレ…」

一度熱くなった体は、ちっとも収まりそうにない

「……抜く、かぁ」

…きっかけがカズというのが、非常に情けないが
そうでもしないと、きっと寝付けない
寝付けたとしても、何だか凄い夢を見てしまいそうで
俺はため息を吐きながら、下肢に手を伸ばした



きっかけは些細なことで



けれど

『…スネーク?』

達する瞬間、脳裏に浮かんだのは
色っぽい表情のまま、心配そうに俺の顔を覗き込むカズの顔
柔らかそうな唇のその奥に潜む、甘そうな赤い舌先で

すっきりしたはずなのに、無性に泣きたくなった

















こーいーしちゃったんだぁーたぶん
きづいてなーいでしょー

流行りませんでした?こういう遊び
しかし…どうして我が家のスネークはこうシモくなるのか

というか、書いといて何だがこんな始まり嫌だ(笑)

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