満月の下で



「知ってるかスネーク、日本では月にウサギが住んでるって言われてるんだ」

空に浮かぶ満月を見ていたら、ふとそんなことを思い出して、隣で葉巻をふかしながら歩くスネークにそう声をかけた
スネークは訓練の帰り、俺はちょっとした事務仕事の帰り
偶然戻る時間が重なって、2人ですっかり日の落ちた甲板を歩いている
さすが中秋の名月、というだけあって、空に浮かぶ月は丸くいつもより強く美しく輝いている
半分くらいは気分の問題なのだろうが、それでも照明が何もなくても歩くのに不自由しないくらいには、柔らかな光を放っている

「ウサギ?何でまたウサギなんだ?」

「まぁ、色々由来はあるが…月の影の部分が、餅をついているウサギに見えるっていうのがでかいだろうな」

「…どのあたりがウサギなんだ?」

俺の説明に、スネークも顔を上げて月を見上げる
2人で月を見上げている、というのが何となく嬉しいような気がして、自然と上がる口角に任せるまま俺も月を見上げる

「ほら、あの辺りがウサギで、あそこが臼と杵だな」

「…さっぱりわからん」

影の辺りを指差して説明して見せたが、どうやらスネークは全くわからないらしい
目を細め小さく唸りながら、必死といってもいい形相で月を睨んでいる
その表情につい噴出せば、不機嫌そうな瞳が月から俺に向けられて、慌てて表情を引き締めた

「カズ、一体どの辺りがウサギなんだ?」

「別にウサギに見えなくてもいいじゃないか…ヨーロッパでは女性の横顔なんかに例えられることも多いし、カニやライオンなんかに例える地域もある」

「どれにも見えん」

「じゃあ、あんたには何に見えるんだ?」

「団子」

「…形と色しかあってない気がするんだが?」

「十分だろう」

そう自信満々に言い放つスネークに、脱力感からため息が漏れる
いや、スネークがこういうことにあまり興味がないのは重々承知しているが、それでも団子はないだろう
じろり、と呆れてますというのを隠さないままでスネークに視線を向ければ、スネークははきょとんとした表情で

「月見には酒飲みながら団子を食うんだろ?」

そう、何がおかしいんだ?といいたげな目で俺を見た

「よく覚えてたな。っていうか、よく今日が中秋の名月だってわかったな」

スネークの口から出た月見という言葉に、一瞬聞き間違いかと思うほど驚いた
確かに去年も、俺はスネークに月見の由来を話した覚えはあったが、いつが中秋の名月かは話していない
当然、今日がその日だなんて口にしていない
まさか、スネークなりにそういったことに興味が出て調べたのだろうか?と一瞬感動しかけ

「チュウシュ…?いや、去年言っていただろう?秋の満月には団子を食うって」

本気でわかっていない、というかそこはすっかり忘れているらしいスネークの表情に、俺の淡い期待は一瞬でぶち壊された
どうやら、スネークは自分にとって有益な情報しか覚えていないらしい
しかも、自分の都合がいいように
覚えているとは思わなかったが、いかにもスネークらしい覚え方に自然と苦笑が浮かぶ

「…色々と違うぞそれ」

「そうか?だが団子はあるんだろう?」

「どれだけ団子食いたいんだよアンタは。まぁ作ってあるけど」

こんどこそ脱力感を隠しきれないままそう呟けば、スネークの顔があからさまといっていいほど輝いた
本当に食い物にしか興味のないオッサンだな、こいつは

「よし、じゃあ早いとこ戻って団子をつまみに酒盛りといこうじゃないか!」

「わかってるか?月を見るんだぞ月を」

「団子が先だ。花より団子…だったか?」

「だから何でそういう事だけ覚えてんだよアンタは…」

ホラ行くぞ、と歩幅を早めたスネークの背中を眺めながら
やっぱり、スネークと月を楽しむなんて風流なことは当分お預けかぁ
と少し残念な気持ちが湧き上がるけど

「おいカズ、早くしろ」

待ちきれない、とどこか楽しそうなスネークに、まぁ今は団子と酒でいいかと思い直す
月を見ながらのんびり酒と団子を楽しむのも、月見の醍醐味だ
それに、そっちの方が俺達らしいといえば俺達らしい

「慌てるなよ、酒も団子も逃げやしないんだから」

「だがカズ、腹が減った」

「言っとくが、アンタの腹を一杯に出来るほどには団子作ってないからな?」

「そうか、ならその前に飯だな」

「あぁ、そのほうが良さそうだ」

楽しげに笑うスネークの隣を歩きながら
こういった月見も悪くないな、とぼんやりと思った
















ニュースで今日が中秋の名月だと知って慌てて書いた
クオリティは気にしない(コラ)
月にウサギがいるというネタは別のとこで詳しく書きたいなぁ…
なら今やるなとか聞こえない

我が家のスネークにとって、月見は酒飲んで団子を食う行事です

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