マングースの幸せな日常番外編・少し未来のボスの話



カズと出会って約3年、カズに惚れていると自覚してから約1年、それなりのアピールをスルーされた回数数え切れず、カズのアピールをスルーしてしまった回数も数え切れず
ものすごい紆余曲折をへて、どうにか…本当にどうにかといった風に、カズと恋人同士になることができた
だが、カズは俺より一回り年下だ
仕事の話ならともかく、プライベートでは俺よりもやはり若い奴…特に年が近い奴の方が話が合うようだ
しかもカズは見た目が抜群で、非常に社交的だ
男女問わず非常にモテるし、友人も多い
面白いか面白くないかといわれれば、あまり面白くはないが、それをとやかく言うほど俺も心は狭くない
それに、俺はカズよりも12も年上なのだ
俺とザ・ボスに近いくらいの年齢差があるのだ
多少のことは、年上の余裕とやらで見逃してやるべきなのだ
そう、いくら恋人といえど、俺が年上である以上寛大な心を持って接するべきなのだ

「なぁ、マングース…ちょっと…」

「何ですか?副指令」

たとえ、カズが右腕で親友と認めている男と額をつき合わせて話をしていても
ちょっとでも後ろから押されたらキスしてしまうんじゃないかという至近距離で、なにやら話をしていても
しかも、こそこそとなにやら内緒話を、そんなんじゃ互いに息がかかるだろう!といえる距離でしていても
俺ですらそんな距離で話をしたことないぞ!という距離で会話をしていても

「…ぼ、ボス……ペプシ、零れてます…」

手の中で音を立てて変形していく缶と同じ目に、マングースを合わせるわけにはいかない
すぐ側でホーネットが青い顔をしていて、よほど俺は酷い顔をしているのだろうと予想は付く
だが、それを一番気付いて欲しい人間は、生憎親友とお前らキスする気か?といいたくなるほどの距離で内緒話に夢中だ
俺だって、カズにキスをした回数など片手で足りてしまうのに…!

「ボス、タオルどうぞ」

「あぁ…すまん」

完全に潰れてしまった缶を放り投げ、恐る恐るといった様子で差し出されたタオルで濡れてしまった右手を拭く
まだほとんど口をつけていなかったのに、もったいなかったか
一瞬そんなことを思ったが、顔を付き合わせたマングースがどこか困ったような顔になり、ほぼ同時にカズがもじもじと恥ずかしげに頬を染める姿を目の当たりにし

「…ボス、顔怖いです…」

瞬時に、後10個くらいは缶を握りつぶしたい衝動に駆られた

カズとマングースは、異常に仲がいい
マングースがカズの秘書的な役割をしているため仕事の間は常に一緒、プライベートでも俺がいないときは2人でいることが多い
悔しいことに俺よりも時間を共にしているし、仕事のパートナーでもある2人が親しいことは結構なのだが…俺から見たら、あいつらはちょっとばかり仲がよすぎる
何というか、距離が近すぎる気がする
マザーベースで俺がカズを見かける時は、大抵マングースが引っ付いている
俺がいない間の話をカズに聞くと、半分以上マングース絡みの話題
しかも、マングースが俺達から離れようとすると、カズ自ら引きとめる始末
一時期は本気でマングースとカズが付き合っていると思い込み、どうやってマングースを始末しようか本気で考えていたのも、今ではいい思い出だ
博士やセシールといった女性陣から見たら、アレは野郎同士の友情というより、女子学生のノリらしいが…俺にはイマイチ理解できない

それでも、恋人として付き合い始めた当初は、これでマシになると信じていた
恋人同士になるのだから、いくら親友とはいえ他の男との付き合いは控えてくれるだろうと

「…マングース…俺…!」

「ふ、副指令…」

だが、そんな淡い期待など、一月もたたないうちにあっさりと砕け散った
よく考えたら、それも当然だ
カズはマングースを自分の親友、いやそれ以上の存在だと思っている
立場上マングースは多少遠慮してくれているようだが、何が悪いのか…そもそも悪いなんて欠片も感じていないカズが、行動を改めるわけもなくあの距離
しかも、なにやら最近はカズが俺を微妙に避けている
一時期は嫌われたかと心配したが、何故か恥ずかしがっているようだとわかってからはそれほど心配していない
だが、それでも恋人と他の男があれほどまでに密着しているというのは、正直言い気分ではない
むしろ、マングースにひと欠片…それこそ埃1つ分でも下心があるのなら、即座に威嚇射撃をする自信がある
というか、あってくれたほうが楽だ
それを大義名分に、マングースを堂々と追っ払えるのだから
カズは口は上手いし性格もやや捻くれているが、根は素直で物分りがいい
きちんとした理由さえあれば、たとえ不服だろうと話し合えば納得してくれるだろう

「ホーネット…あいつらに、下心とかほんのひと欠片でも浮気心とか、そういった類のものがあると思うか?」

「ないですね、絶対」

「…だろうな」

だが、悲しむべきなのか喜ぶべきなのか
誰がどう見ても、マングースに下心だとか不純な動機だとか、そういった部分が見られないのだ
こいつらは何が楽しいのか、しょっちゅう2人で部屋飲みをしては朝まで同じベットで過ごしている
それにもかかわらず、2人が一線を越えたという証拠が何一つ出てこない
俺の能力をフル稼働して調査したが、本当に何一つ、いっそ切ないほどに出てこない
それなのに、朝不意打ちでカズの部屋を訪ねたら、2人が同じシーツに包まって寝ているという、羨ましすぎて殺してしまいたい事態に遭遇したことも片手じゃ足りない
しかも、2人とも俺に見つかっても悪びれる気配すらないものだからいっそ清々しい
そう、あいつらは純粋に友情で繋がっている
それはもう、眩しすぎて涙が出そうになるほど純度の高い友情だ

そうなると、いくら俺が嫉妬しているからといってマングースをカズから引っぺがすのは難しい
基本的にカズは人懐っこくて誰とでも親しくするように見えるが、その実ものっ凄い人見知り…いや、軽い人間不信の気があるといってもいいほど他人に心を開かない
俺だって甘えてもらえるようになるまで随分かかったし、このマザーベースでもカズが本当に心を開いている人間は数えるほどしかいないだろう
その中でも、一番カズが心を開いているといっても過言ではないマングースを遠ざけようものなら、いくら俺でもカズに反発を食らうのは目に見えている
いや、むしろ
『マングースと仲良くするなって言うなら、スネークと別れる!』
といわれるシーンがリアルに想像できてしまう

「どう…」

「…扱く…舐める……挟む…」

あいつらの友情が本物なのはわかっているし、浮気とかそういうものでもないことはわかっている
だから、たとえ段々と会話の内容が不穏なものに聞こえ出しても、密かに安全レバーを外したこの銃をあの2人の間にぶっ放すわけにはいかないのだ

「…少しくらいなら、わがままを言っても許されるんじゃないですか?」

さてどうしようかと2人を睨…いや観察していると、ホーネットが恐る恐ると、けれどどこか優しい声でそう声をかけてきた

「どういうことだ?」

「その、ボスは年齢差とかを気になさっているのかもしれませんが…恋人なのでしょう?だったら、たとえ友人とはいえ他の男がくっついていたら、やきもちくらい焼いたっていいじゃないですか」

それくらい普通ですよ、と小さく笑うホーネットに、少しだけほっとしたような気分になる
一回りも年上なのだから、と少しだけ格好をつけてみてはいたが、やはりカズに友人とは言えど男が近寄るのは気に食わない
大人気ない、といわれるかと思ったが…そうか、少しくらいなら俺がわがままになってもいいのかもしれない

「…マングースに威嚇射撃したくなるからあまり近寄らないでくれ、と言っていいだろうか?」

「…オブラートに包んで、仲がいいのは結構だがあまり仲良くしすぎると妬けてしまう、くらいがいいんじゃないですか?あくまで優しく、優し〜くですよボス」

「そうか…なら少し声をかけてみる」

何故か額にうっすらと汗を浮かべたホーネットの言葉に小さく頷いて、俺は2人が話しこんでいるテーブルへと足を向けた
そうだ、それくらいなら言ったっていいだろう
俺とカズは、恋人同士なのだ
仲がいいのは結構だがそんなに引っ付いているとと妬けてしまう、くらい言ったって問題はないだろう

「…お前ら、何を話している?」

今日は言うぞ、と覚悟を決め、なにやら話がまとまりかけているらしい2人の背中に声をかけると

「「うわぁぁぁぁ!!!」」

声をかけたこっちが驚いてしまうくらいの勢いで、見事に重なった悲鳴が食堂中に響き渡った

「おいおい、驚きすぎじゃないかお前ら」

「す、スネークが急に声かけるから…!!」

2人も本当に驚いたのだろう、マングースは心臓の辺りを押さえながら絶句し、カズにいたっては僅かに涙目になりながら俺を睨み付けている

「あぁ、すまん…で、お前ら何を話していた?」

もう少しゆっくり声をかければよかったか?と我ながらよくわからないことを考えながら本来の目的であることを訊ねれば
本来何気ない質問であるはずの俺の言葉に、マングースの顔がギクリと強張った
そのまま視線でチラリ、とカズのほうを見やる
気付かれないように俺もカズへと視線をやれば、なにやら涙目で小さく首を振っている
どうやら、俺に聞かれたくない話をしていたらしい
本来なら今すぐに問いただしてやりたいが、ホーネットに優しく、といわれたのを思い出し、ぐっと我慢をして続きを待っていると

「……か、怪談話を、少し…」

マングースは俺から視線をそらしたまま、どこか苦しげな口調でそう口にした

「…怪談話?」

いや、お前それ絶対嘘だろう?
喉の奥まででかかった言葉を飲み込んで、どうにかそう口にする
元々マングースは嘘があまり上手くない方だが、これは誰だって嘘だとわかる声と表情だ
本人もこれは失敗だとでも思っているのか、自己嫌悪で一杯といった目で俺を見ている

「そ、そう!怪談話してたんだ!マングースが日本の怪談話聞きたいって言うから!!」

だが、カズはその言い訳に乗ることにしたらしく、苦し紛れといった笑みを浮かべながらマングースの肩を抱き、縋るような目で同意を得ようとしている
マングースも、どこか縋るような目でカズを見返している

「そうです!お皿を1ま〜い、2ま〜いって数えていくやつとか背筋が凍るかと!」

「皿屋敷だな!四谷怪談は面白いからなぁ!それに日本の吸血鬼の話も…」

「吸血鬼の話はするな」

お前ら、密着しすぎだ。少し離れろ、そんなに見つめ合うんじゃない
そう告げようとした直前、不穏な単語が耳を掠めて思わずカズの話を遮ってしまった
しまった、と思うとほぼ同時に、カズがきょとんとした目で俺を見つめ
やがて意味がわかったのか、ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべて俺の方へ歩み寄ってきた

「どうしたんだスネーク…あ、わかった!ボス吸血鬼が苦手なんだな?」

「苦手じゃない、ただ話を聞くと悪夢を見るだけだ」

「それが苦手って言うんだよ」

「苦手じゃない」

「なら聞く?日本の吸血鬼の話。こう見えても怪談はちょっと自信が」

「いや、遠慮しておく」

「遠慮するなよボス〜、俺達の仲じゃないかぁ!」

うりうりーと楽しげに俺を肘で突くカズの笑顔に、俺は心底困り果ててしまう
カズはどうにも、俺の苦手な物を使ってからかおうとする傾向がある
おそらく、吸血鬼の話をするまでは俺を解放しないだろう
それが俺に対する信頼や甘えからきているのもわかるし、楽しげに笑うカズは可愛らしいが…正直吸血鬼だけは勘弁して欲しい

「遠慮するなって!そうだ、今夜酒のつまみに怪談話といこうじゃないか!」

「遠慮しておく」

気が付けば、釘を刺しておきたかったマングースも、すぐ側にいたはずのホーネットもすでに消えている
出来れば、どちらかがいるときに釘を刺しておきたかったのだが…

「遠慮すんなって!とびっきりのやつ、話してやるから」

きひひ、とからかう気満々の笑顔で俺を見上げるカズの愛らしさに、まぁ今日のところはいいかと思ってしまう
それに、これも共に酒を飲む口実だと思えば悪くはない
特に部屋で2人きりで酒を飲むというなら、正直チャンス以外の何ものでもない
今は俺をからかうという目的のせいでカズもよくわかっていないようだが、恋人と2人きり、部屋で酒を楽しむ
こうなれば、念願の色っぽい展開につなげることも可能、いや容易だろう
いつもはそれとなくカズに逃げられているが…酒が入ればカズのガードも緩むだろうし、色々やりやすい

「遠慮すんなって!怪談話も楽しいぞ〜?」

「あ〜もうわかったわかった、いつかな」

「今夜だぞ、こ・ん・や!」

「…覚えていたらな」

「今夜酒持ってアンタの部屋行くからな、逃げんなよスネーク!」

不意に振って沸いたチャンスに、カズに気付かれないようにコッソリとほくそ笑みながら
マングースが乱入してこないようにするにはどうすればいいか、必死で考え始めた

後日、ホーネットが何とも言えない目でマングースと俺…正確には股間を眺めるのを見て不思議がるハメになるとは、まだ知らないままで
















最初ボス視点で書き進めていて、くどいからという理由でボツにした物をもったいない精神で書き上げた
ほとんど今書きましたけどね、ほとんど企画作品参考しましたけどね(ダメ人間)

ボス、実はコッソリと聞き耳を立ててました
まぁ、2人が話しているのは食堂ですしね!聞き耳立てられちゃうよ!
嫉妬しまりなボスが書けて楽しかったwww
そりゃあ恋人が他の男とキスしそうな距離で話してたら、そりゃ嫉妬するよ
特に我が家のボスは嫉妬深くて大変なのに!

割とマジでボスはマングースの排除を目論んでました、嫉妬心ゆえにwww
色々羨ましいやら妬ましいやらで、毎日ギリギリしまくってます
むしろ、恋人になってからのほうがギリギリしまくっている予感がします
ボスが無事カズと色っぽい展開を繰り広げられたかどうかは、皆様のご想像にお任せします

このシリーズは、別名ホーネット苦労人物語だと勝手に思っています(笑)

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