ただいま、おかえり・1



「ボス!ミッション、お疲れ様でした!」

無事ミッションを終えて、戻ってきたマザーベース
爆音を響かせるヘリからゆっくりと降りると、敬礼をした兵士達が出迎えてくれた
そいつらに小さく手を上げて答え、見慣れた金髪を捜す
甲板に集まった、たくさんの兵士達
その後ろから探し人、カズが姿を現した

「【おかえり】スネーク」

カズは俺を見ながらそういって笑うと、いつものように腕を広げる
俺も腕を広げて、互いに無事を確かめ合うように抱擁しあう
久しぶりに抱きしめる体に、あぁ戻ってきたのだという実感がわいてくる
それと同時に、すでに聞きなれてしまった、けれど意味のわからない日本語が耳に残る

「今回も見事だったなボス、特に変わった事はないか?」

「そうだな…」

司令塔へと戻る道すがら、軽い報告をしながら、耳に残るカズの言葉の意味をぼんやりと考えてみる
俺がミッションから戻るたびにカズが口にする【おかえり】という言葉
カズがそういった特定の日本語を特定のタイミングで使うときは、それが何かしら意味のあるときだ
たとえば食事の前
カズはいつも【いただきます】という日本語を使って、食事に手を合わせる
食事の前にいつも言うものだから、気になって聞いてみたところ

『あぁ、あれは感謝の言葉だ』

『感謝?誰にだ?』

『作ってくれた奴とか…あとは、命にだな』

『命に?』

『食事は、命を貰う行為だからな。だから貰う命に感謝するんだ』

まぁ、俺はもう習慣になってるだけなんだけどな、と苦笑するカズに、俺は驚きからつい目を丸くしてしまった
食事によって他者から命を貰い、そのことに感謝をする
そういった考え方を俺はしたことがなかったし、そもそもアメリカでは食事の前に感謝をするのは神だと相場は決まっている
命に感謝をするなんて思いつきもしなかった
ちなみに食事の後に言う【ごちそうさま】も似たような意味だといっていた
やはり、日本は変わっているが…とてもよい国なのだなと思ったのを、今でもよく覚えている

それと同じように、カズの言う【おかえり】にも何かしら意味があるのだろう
カズがよく使うものだから、最近は兵士達も俺が帰る度に【おかえり】という言葉を使うようになってきた
そいつらも意味はよくわかっていないらしく、副指令が言うのなら、という感じらしい
何度も聞こうとは思うのだが、ミッション帰りにはこうして簡単な報告をしあうし、その後の本格的な報告をした後はつい忘れてしまっていて、結局聞けずじまいだったりする
次の日に持ち越してまで聞くようなことじゃないような気もするし、それに今更聞くのも何となく気恥ずかしい気もする

「あぁ、そうだ。アンタに明日、休暇割り振っといたから」

カズの報告を軽く頭で流しながら考えていると、不意にカズが思い出したように俺の方を見ながらそう口にする
その言葉に、自然と眉間に皺がよった

「休暇?必要ない。任務がないなら訓練でもしているさ」

軽く肩を竦め、どこかきょとんとした様子のカズに軽く笑って見せる
訓練を1日休めば、取り戻すのに3日はかかる
大体、今までも休暇らしい休暇はほとんどとってこなかったんだ
休暇を取れるだけの余裕が出てきたのはありがたいが、今更休暇なんて言われてもぴんと来ない

「そうもいかない、人間にとって休むことは大切だ。当然体だけじゃないく、精神的なリフレッシュも重要だ。アンタがいかに凄い兵士だと言っても、結局は人間だ。休むことをおろそかにすれば、あっという間に体や心はダメになる。それにいつまでも若いつもりだろうが、アンタももう40近いんだ。いつまでも若い頃と同じように行かないのはわかってるだろう?大体アンタはいつもいつも…」

「わかったわかった、明日は休みだな?肝に銘じておく」

だが、俺の言葉を理解したらしいカズは目を吊り上げ、あっという間にお説教モードへと突入する
このまま放っておけば、数時間は開放してもらえない
その数時間の気疲れとその結果を考えれば、今は折れておくほうが無難だ
降参、の意を込めて軽く手を上げながらカズを見れば、まだ不満げだが一応は納得したのか、よく回るその口を閉じた
別に休暇なんかいらなかったが、仕方ない
俺なりの気分転換だといって、明日はキルハウスにでも…

「ちなみに明日は街行きの船も出すから、明日休暇の兵士達はほとんど乗って行くらしいぞ。アンタも混ぜてもらえよ」

だが、カズにはそんな俺の思考などお見通しなのか、じとりと俺を睨みつけながら
もらえよ、とは言っているものの、声色と視線は確実に行けと俺に命令している
断れば、お説教モードが帰って来るのは確実だ

「…わかった」

俺としてはそんな場所に行く方が気疲れするのだが、カズが一度言い出したら聞かないのはよくわかっている
今回は大人しく従っていたほうがいいだろう
軽く肩を落としながらそう返せば、カズはようやくどこか満足げに鼻を鳴らすと

「ちなみに俺は明日仕事だから、お土産よろしく」

にこりと笑って、俺の方をぽんと叩いた



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