後悔先に立たずとはこういうことで・1
「うぁ〜…嘘だ嘘だこんなの嘘だぁぁぁ…」
とっぷりと日も暮れ、夜勤以外のものはそろそろ眠りに付く時間
俺は1人マングースから渡された書類を見ながら、泣きたい気持ちを必死に堪えていた
マングースから渡されたのは、よくある決算書
問題は、その決算書に書かれている収益だ
『ダメだ、そんなもの許可するわけにはいかない』
3か月ほど前、俺とボスはある案件で言い争っていた
内容は、この決算書…MSFとして新しく展開するビジネスの内容だった
練りに練った、我ながら完璧なビジネスプラン
このビジネスが軌道に乗れば、今までにないほどの利益を生み出すことができる
俺には確信があった、このビジネスは絶対成功する
だが、さぁこれから運営だというときに待ったがかかった
ボスが、この案件に反対の意を示したのだ
『どうして!?これが軌道に乗れば莫大な利益が上がる、その金で前線の兵士達にもっといい武器をやれる、医療支援だってできる!』
『本当にこんなやり方で利益が出るのか?』
『もちろんだ!俺には確信がある、このビジネスは絶対成功する!』
『自信があるのは結構だ。だが金がかかりすぎる。成功するかどうかわからないものにこんなに金はかけられない』
ボスは厳しい表情で俺の出した報告書を机に叩き付けた
そう、このビジネスの最大の難点は、初期投資に金がかかること
万が一失敗すれば、大ダメージどころではない
MSFの存続に関わる…それほどの金額だった
『確かに金はかかる、だがそれに見合った収益が上がる!これを見ればわかるだろ!?』
『成功すれば、だろう?その金を稼ぐのは誰だ?俺達前線の兵士達だ。失敗したらどうやって償う気だ?』
ボスの言葉に、俺は言葉に詰まる
ボスの言い分も、十分すぎるほどわかる
確かにこのビジネスはリターンも大きいがリスクも大きい
だが、成功が見えていてここまで詰めたのにやめてしまうのは、俺のプライドに関わる
けど、どう説明すればボスが納得してくれるのか全く思いつかなくて…
『…3ヶ月だ』
『何?』
『3ヶ月でこの3割の利益を上げてやる。それなら文句ないだろう?』
『利益を上げられなかったら?』
『何でもやってやる!もし3割の利益を上げられなかったら何でもアンタの言うこと聞いてやるよ!』
半ばヤケクソでそう啖呵をきったところ
『…はぁ〜…わかった、お前がそこまで言うならやってみろ』
俺の本気が伝わったのか、ようやく折れたボスから3ヶ月やってみろとのお達しを貰った
そして、それから3ヶ月がたち…俺は1人頭を抱えていた
「…どうしよう……」
ちらり、と机の上の決算書に鎮座する決算書に視線をやる
決算書に書かれた利益の金額は、初期投資のおよそ2割
何度見ても変わらないその結果に、じわりと目尻に涙が滲んだ
予想では3割くらいなら利益が上がるはずだったが、立ち上げ当初にちょっとした手違いが起こり損失がでてしまったのだ
どうにか巻き返そうと不眠不休で奮闘し、マングース達も頑張ってくれたが…2割が精一杯だった
「どうしよう…どうしよう…」
ボスが懸念していたのは、このやり方で利益が出るかどうかだ
啖呵を切った数値には足りなかったとはいえ、一応利益は上がっている
手違いがなければ3割は確実に上がっていたし、これからはもっと増えるであろう事は明白だ
やめろとは、多分言われない
「どうしよう…何でもするって言っちゃった…」
問題は、3割の利益が出なければ何でもするという約束をしてしまったことだ
足りない分をポケットマネーで補填しようかとも考えたけど、どう考えても足りない
つまり、俺はスネークの言うことを何でも聞かなければならない
「うぅ…何、させられるんだろう…?」
あの変態エロ親父のスネークのことだ
確実に、確実にプライベートな面での欲求をしてくるに違いない
十中八九、変態なエロプレイを強要してくるに決まっている!
何を欲求させられる?
緊縛?鞭打ち?おもちゃ?それとも薬?露出プレイ?泡踊り?
ま…まさか浣腸プレイとか…
「…な、ないない…ないってば……」
軽く首を振ってみるものの、それが現実逃避な事くらい痛いほどわかっている
どれをさせられる?いや、どれということはない…合わせ技で来る可能性もある
縛ったまま露出とか、おもちゃ使いながら鞭打ちとか、薬盛られて…
頭の中を駆け巡る妄想に、ざぁぁっと顔から血の気が引いていく
ありうる…スネークなら何もかもありうる!
「うわぁぁぁ俺のバカァァァ!何で3割にしたんだよ!?2割くらいにしとけよ!!」
3ヶ月前の自分をぶん殴ってしまいたい衝動に駆られながら、どうにか逃げられはしないかと必死に考えていると
「おいカズ、俺だ、入るぞ」
ノックもなしに、最悪のタイミングでスネークが部屋にやってきた
「す、スネーク!?どどどどうしたんだ?」
「いや、この間の件についてな…今日で3ヶ月だったと思ってな」
反射的に出そうになった悲鳴を必死で飲み込んで慌てて書類を机の隅にやると、スネークは冷や汗を流す俺とは対照的な表情で
のほほんと、死刑宣告を口にした
「…覚えてなくていいのに」
忘れてたら、このまま誤魔化してやろうと思っていたのに
もう1ヶ月もすれば、スネークとの約束の3割の利益は確実に出るから、それまで逃げてやろうとかちょっと考えてたのに
というか、普段は俺が忘れるなと釘を刺しても忘れるのに、どうしてこういう時だけはっきりと覚えてて自主的にやってくるのか
「何か言ったか?」
「いや…何も…」
半ば放心状態の中
あぁ、これから食われる獣ってこんな気分なのかなぁ…と現実逃避でしかないことを考えていた
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