8月6日 僕が生まれた日・2



互いに酒瓶を傾けながら、他愛のない話をする
互いのこと、昔のこと、今のこと…本当に取り留めのない、何てことない話
けれど、この空間がとても心地よい
火照った体を撫でる海風も、ミラー君との会話も、とても心地がいい

「知らなかった、ヒューイもそういうことがあるんだな」

「僕も意外だったよ、君がああだったなんてさ」

ミラー君の話は面白くて、それでいて凄く新鮮だった
そして、僕はミラー君の事を何一つ知らないのだなぁと、今更ながら思った

日本で生まれたこと、アメリカに渡ったこと、自衛隊にいたこと
それと、ほんの少し彼が話してくれた過去のこと
それ以外、僕はミラー君の事を、ミラー君の過去を知らない
けれどミラー君が自分は日本人だと主張しているのに、見た目は完全に欧米系の人間であること
それに、ミラー君が僕より2つ下だということ
それらを考えれば、何となくどういう生まれの人間であるかというのは察しが付く

あの国に、日本に生まれ、育ったミラー君
僕と同じように、あの戦争に影響を受け育った人間

「ミラー君はさ…」

少し彼と親しくなったという高揚感、互いに生まれながらにして戦争に関わっている人間という近親感
それに、向こうも僕の事をあまり知らないのだという安心感
それに酔いも手伝って、僕は彼に聞いて見たくなった
あの日を、どう思っているのかを
僕の心にのしかかる、あの日の事を

「あの日を、どう思う?」

「あの日?」

「1945年8月6日…それに9日」

さすがに日本で育っただけあって知っているのか、それだけでミラー君は僕が何をいい退化を理解したらしく、あぁ…と小さく頷いた

「原爆投下、か…」

「うん。そして、8月6日は僕が生まれた日なんだ」

「そういえば、そうだったな」

「ねぇミラー君…僕は、この日になるといつも思うんだ。あれは、本当に必要だったことなのかなって」

ちびりとほとんどなくなったお酒を舐めて、ぽつりと、僕は本心を彼に零した
たった一発で、十数万人もの人間が死んだ
木造建築は吹き飛んで燃え落ち、数え切れないほどの人が黒こげになり、たくさんの人間が苦しんだ
人口35万人の大都市を、一瞬で地獄へと変えてしまった

「僕の父は、マンハッタン計画に参加していた…アレを作ったのは、僕の父でもあるんだ。だからこそ、その疑問が拭いきれないんだ」

母はいつも言っていた、お父さんは正しいことをしたのだと
たくさんの若者を、死の恐怖から救ったのだと
けれど、あの子が見せてくれた写真集には、それ以上の人間の苦しみや悲しみが映されていた
僕の父の作った兵器によって、理不尽に日常を奪われた人達がたくさんいたのだと、あの写真集は語っていた

あれから20年近くたって、父への気持ちも、僕の憤りもそれなりの形へと昇華した
けれど僕は、いまでもわからない
父のしたことは正しかったのか、あの兵器が落とされたことは正しかったのか

「ヒューイは、どう思ってるんだ?」

「…わからない。あんなにたくさんの人間を犠牲にする必要があったのか、何か別の方法はなかったのか…僕には、わからない」

ミラー君は、まるで何もかも見透かすような真っ直ぐな目で僕を見る
その目が見れなくて、僕は少しだけ視線を外す

「…アメリカには、原爆投下に賛同する意見が多いのも確かだ。原爆投下があったからこそ戦争が早期終結し、結果的に多くの人間の命を救ったと」

ミラー君は真っ直ぐに、まるで会議でもするときのような表情で、ゆっくりと話し出す
それは、紛れもない事実
僕が生まれ育った国には、そう思っている人間が少なくない
あれは正しかったのだと、愚かな戦争を続けようとする日本への、正義の鉄槌だったのだと
あの原爆投下があったからこそ、逆に日本人もアメリカ人も、無駄な犠牲を出さずにすんだのだと
その意見に賛同してしまえれば楽なんだろうけど、それでもあの日見た写真が僕の脳裏を過ぎる
あの日見た原爆が投下された後の街の光景が、被爆者の目が、頭から離れない
彼らを、ただ普通に生きていただけの彼らを不幸にしてまで、原爆を落とす必要はあったのだろうか
ただその街で生きていただけの彼らは、必要な犠牲だったのだろうか

だからこそ、ミラー君の話が聞きたかったのかもしれない
あの国で生まれ育った、ミラー君の話が

「ただ…戦争を続けるだけの資金も、資材も、兵士も、何一つ当時の日本には残っていなかった。遅かれ早かれ、日本はアメリカに降伏していたはずだ」

すぅっとミラー君の目が細まり、どこか張り詰めたような表情へと変わる
まるで張り詰めた糸のような、それでいてどこか悲しさすら帯びている不思議な表情
ミラー君が何を考えているのかは、僕にはわからない
けれど、その表情は酷く苦しそうで、そして悲しげだった

「戦争を早期終結に導くためとはいえ、民間人に20万人以上の犠牲者を出すほどのことだったのか…正直俺もわからない」

あれはデモンストレーションをかねた人体実験同然だって意見もあるしな、とミラー君はふっと表情を緩めて酒瓶を傾けた
その表情は、笑ってはいたけれど、やっぱりどこか哀しそうだった

「全ての物事には、いい面と悪い面が必ず存在する。そのどちらの比率が多いかの違いだけだ」

「ミラー君は、どっちが多かったと思う?」

「ヒューイはどっちだったと思う?」

「わからないから聞いてるんだよ」

「俺もわからないから聞いてるんだ」

互いに顔を見合わせ、そしてほぼ同時に吹きだした
その表情に、哀しそうなものは見えなくて
少しだけ、ほっとした

僕の疑問は何一つ解決していないし、何一つ進展を見せてすらいない
けれど、何となく心の奥にあるものが軽くなったような気はした
ミラー君に話したからだろうか、それとも別の何かがあるのかはわからなかったけど

「ま、こんな日にしけた話はこれくらいにしとこうぜ。誕生日おめでとう、ヒューイ」

「…うん、ありがとう」

けど、ほんの少しだけ
ミラー君の祝福の言葉に、生まれてきてよかったと
久しぶりに、自分の誕生日が、祝えた気がした


















ヒューイ誕生日おめでとう!的な小説
ヒューイの誕生日って1945年8月6日でいいよね…?
ち、違ってたら大恥だお…(´・ω・`)

何て言うか…我ながらグッダグダだななおい
本当はもっと、原爆投下についてわからないといいつつも、アメリカ人だけど科学者のヒューイのわからない、日本人だけど軍人のカズのわからない、の違いが出せたらよかったんだけどなぁ…力尽きましたorz
後、もっとヒューイがカズの背負っているものの重さをわかっていない感出したかった…知らないから質問できちゃう、的な
カズもヒューイの背負っているものの重さをわかっていない、互いに互いの深い部分がまだよくわかっていない感出したかった…
うん、消化不良!
マジでリベンジしてぇこのネタ!!

ヒューイ、誕生日おめでとう!
そして、66年前のこの日に亡くなられた方全てに、黙祷を捧げます

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