何も悪いとは思っていない



「確かに。ようこそおいでくださいました、ミラー様」

入り口に待機していた初老の男…顔なじみの執事に招待状を見せると、彼はにこりと笑みを浮かべて扉を開けてくれた
もう何度も会っているから別に招待状がなくても入れてくれるのだろうが、一応そこは形式なのだろう
彼に会釈をして扉をくぐり、会場へ続く長い廊下を歩く

「…うん、オッケー」

そして隅に設置された全身鏡で、念のため自分の格好をチェックする
いつも以上に固めた髪と、普段のラフな野戦服とは違う堅苦しいスーツ
最大限に自分の容姿を生かした格好がきちんと決まっているのを確認してから、俺は会場…俺の戦場へと足を踏み入れた

煌びやかとしかいいようがない内装
趣味の悪い絵や置物がごてごてと飾られた室内
そしてテーブルに乗せられた豪華な食事
これ持って帰ったらボスが大喜びするんだろうなぁと思いながら、ドレスやスーツで談笑をする人の間をすり抜けて、このパーティーの主催者…我がMSFの貴重なスポンサー様の姿を探す

ここは、うちのスポンサー様が所有する別荘の1つ
スポンサー様と同じくらい金持ちの連中が集まった、いわゆる社交パーティーだ
あくまで、表向きは

「ミスター!」

会場のほぼ中央
何人かに囲まれて談笑しているスポンサー様の姿を見つけ、話の空気を読んでちょうど途切れたときを狙って声をかける
今見つけました、といわんばかりに声をあげ、出来る限り嬉しそうな表情を作って近寄ると、スポンサー様はにこりと笑みを浮かべてハグを求めるように腕を広げてきた
我ながら名演技だ、本気で食うのに困ったら役者にでもなろうかな?
求めに応じてハグをしながら、俺の思考は割とどうでもいい事を考える

「いやぁ、ミラー君久しぶりだね!いつも美しいが、今日は格別に美しい」

「お褒めに預かり光栄です、ミスター。ですが、私など…」

「そういった謙虚なところもまたいいね、君は」

なーにがいつもより美しいだ、この狸爺
服も髪型も香水も、何もかもいつもどおりだっつの
肌が寒くなるような笑みと言葉に、つい悪態が口から零れ落ちそうになったが、それらをぐっと飲み込んで、男好きするようなはにかんだ笑みを浮かべてみせる
俺のその笑みがお気に召したのか、狸爺…スポンサー様はにまりとそのいやらしい笑みをさらに深めて俺の腰に手を回してきた
気安く触るな、香水に混じって加齢臭がぷんぷんして気持ち悪いんだよ
そういって手を払ってしまえたら、どれだけいいか

「ミスター…その、ここは人前で…」

けれど、このいやらしい笑みを浮かべた狸爺は、うちの貴重なスポンサー、そしてさらなるスポンサーを集めるために重要な人物だ
万が一にも機嫌を損ねて、援助を切られたらたまらない
もじもじと恥ずかしげに頬を染めて見せ、落ち着きなくスポンサー様をチラチラと見やる
我ながら、随分と気持ち悪い仕草だ

「おや、恥ずかしいのかね?」

けど、やはりこういった仕草が好みらしいスポンサー様はどこか満足げにそう言い、調子に乗ってきているのかさりげなく尻にまで手を回してきた
おいこら、もうちょっと待てねぇのかよスケベ爺!
俺まだ全然挨拶とかしてないんだけど!!

「ミスター…そういったことは、その…後で、ゆっくり…」

ついうっかり手を振り払ってしまいそうになるのをぐっと堪え、うるっと瞳を潤ませておねだりするように見上げる

「(うぇ、きもちわるぅ)」

一瞬今の自分の顔が頭に思い浮かび吐き気すら覚えたが、必死で堪えて目を潤ませる

「はは、そうだね。後のお楽しみにとっておこう」

努力のかいあってか、そんな俺の気持ち悪い仕草に満足してくれたらしいスポンサー様は、ようやく俺の尻から手を離してくれた
ばれないようにホッと息を吐いてから、ちらりと辺りを見回して金を出してくれそうな奴を見繕う

「(アイツとアイツ…後、あのマダムなんか金出してくれそうだな)」

俺を興味深げに見る奴らから大体の目星をつけ、小さく深呼吸してから人好きのする笑みを貼り付けて、にっこりとそいつらに笑いかけた

「初めまして、カズヒラ・ミラーといいます」

ニコニコと笑いながら握手を求めて手を差し出すと、相手も笑みを浮かべながら…けれど、まるで俺を品定めするような視線を向けてくる
あまり気持ちのいい視線じゃないけれど、ぐっと我慢して相手の目を見て飛び切りの笑顔を向けておく
この場では、俺はある意味で商品なのだから

いつの時代も、金を持て余している人間というのは悪趣味な趣味を持つものだ
そして対抗心からか、いかに悪趣味な趣味に金を費やすかを競い合っている
ここに集まっているのは、皆そういった類の人間
金さえあれば、何でも自分の思い通りになると信じているゲスの群れ
パーティーとは名ばかりで、次はどんな悪趣味なことに金を費やそうと考えている奴らが集まっている
そういった奴らに、俺達の組織を売り込むのが今日の目的だ

「ほう、話を聞かせてくれないかミラー君」

当たり障りのない談笑に交えて俺達の組織のことを軽く話すと、目星を付けた奴の1人が興味を持ったらしく続きを促してきた

「えぇ、我々MSFは…」

その表情に、まるで釣り針に魚のかかった釣り人のような心境になりながらいかに俺達の組織がいい道楽になり、かつ新しいビジネスとして優秀かを説明する

悲しい話だが、出来たばかりで実績などほとんどない俺達がマトモな人間に金を出してもらうのは難しい
こういった人間のクズのような連中に、道楽だと割り切らせて金を出させるほうがよっぽど楽だ
それには、いかにこの道楽が面白く、かつ金を生むかを理解してもらわなければならない
幸い、今のスポンサーはかなりの金持ちで俺を気に入ってくれているが…いつそいつが文無しになるかなんてわからない
それに、金を出してくれる人間は多ければ多いほどいい
傭兵ビジネスは、初期投資が莫大かかる
ある程度人材と設備が整えば金を産むが、まだMSFはそこまで成長し切れてない
今は、金はいくらあっても足りない

「ふむ…中々興味深い話だね…」

どうやら、俺の説明で相当興味を惹かれたらしく、男は小さく顎に手を当てて考え込むような仕草をした
よっし!と心の中でガッツポーズをして、一気に陥落させてしまおうと作戦を練っていると

「ちなみにだが…その契約には、オマケなどはつけてもらえるのかね?」

男の視線が急に粘ついたものになり、まるで俺の体を舐めるように眺めていく
あぁ、こいつもか
やっぱり金持ちは変わった性癖が多いなぁ、とどこか他人事のように感じながらも、俺はいつものように笑って

「えぇ、貴方がお望みならば」

ほんの少しだけ、首もとのネクタイを緩めて見せた

体を使って金を出させること…いわゆる枕営業が別に悪いことだとは思っていない
どんな方法で稼いでも、どんな手段を使って出させても、金は金だ
金さえあれば武器が買えるし、医療も情報も充実させられる
それらは俺のビジネスの基礎となり、基礎が充実すれば俺のビジネスはさらなる発展を見せる
俺が愛人になることで、体を売ることで金を容易に出させることが出来るなら、俺のビジネスがより完成されていくのなら、悪い契約じゃない
現に、今のスポンサー様も俺の体が気に入っている部分があるせいか、少しねだればすぐに金を出してくれる

俺は体とひと時の夢と道楽を差し出し、スポンサー様は対価に金を出す
これも、立派なビジネスだ

「それじゃあ、また今度別荘ででもゆっくりと話を聞かせてくれ」

「えぇ、いい返事を期待しています」

直通の電話番号が書かれたメモをひっそりと胸のポケットに入れられ、男はニヤリとどこか粘ついた笑みを浮かべて人の群れの中へと戻っていった
多分、あの男は体使って迫れば金出してくれるな
わざわざ自分の別荘へ来いということは、つまりそういう目的があるという事だ
変な性癖ないと楽なんだけどなぁ…過度な嗜虐思考とかだと跡残っちゃうし
そう思いながら腕時計を見れば、もうすぐパーティーもお開きの時間だ
このパーティーが終われば、今日もスポンサー様への体を使った接待が待っている
微妙に重い気分になりながらも、別のスポンサー候補を探して俺も人の群れの中へ戻る

枕営業をしていることは、MSFの誰にも言っていない
自慢して言うようなことじゃないし、金銭関係は俺が担当しているから誰も気付くはずないし
多分、俺がこうやってスポンサーを獲得していることは誰も知らないだろう

「(まぁ、バレても別にいいけど)」

だって俺悪いことはしていないし、枕だってある意味体張った立派な営業方法だ
自分で言うのもなんだが、俺見た目は抜群にいいし、武器になるもんはなんだって使う
手段を選べるほど、俺達は金に不自由していないわけじゃないし
文句言うなら、お前がスポンサー捕まえてこいと言ってやる
あぁ、でも…ボスは怒るかもなぁ
妙に真面目で硬いから、もっと自分を大事にしろとか、そんなことで稼いだ金は使えないとか言い出しそう
それとも、軽蔑されるかな…体使わないと契約取れない、使えない奴とか思われたりして
もしかしたら不潔だって、嫌われたりして

…それは、やだなぁ
ボスに嫌われたり軽蔑されたり、失望されるのは…

「ミラー君」

不意にスポンサー様から声をかけられふと気が付けば、パーティーがお開きの時間になったらしく、談笑をしていた連中が軽く挨拶を交わしながら部屋を次々と出て行っている
しまった、もう1人くらいは唾付けときたかったんだけど…
自分の失態に、内心頭を抱えていると

「挨拶を済ませてくるから、先に部屋で待っていてくれたまえ」

スポンサー様は俺の耳元で、こっそりとそう囁いた

「…はい、ミスター」

ふわり、とどこかはにかんだような笑みを浮かべて見せ、人の群れに混じっていくスポンサー様の背中を見送った
実はこの別荘に来たのは初めてじゃない
彼が言う部屋がどこか、何をしておくべきかはすでに頭に入っている

さて、今日はどうやって楽しませてやるべきか
枕営業の辛いところは、飽きられたら一発で終わりだという事だ
まだコイツは貴重なスポンサー様だし、変な性癖もない上爺だから肉体的にはかなり楽だ
まだ手放すわけにはいかない

落ちかけた思考を頭の隅に追いやって、俺は今日の接待の内容を考えながら胸糞悪いほど煌びやかな部屋を後にした


















枕営業するカズのエロを書きたくて、途中で挫折したorz
でももったいないからエロに入るまでをUP
誰かエロ書いてください(待て)

最近タイトルが思い浮かばない…なので全部てけとーです

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