七夕の魔法



甲板中に響き渡るバカ騒ぎ
ほぼ300人近い人数が甲板の上で酒を酌み交わし、食い物を思う存分腹の中へと納めていく
広い甲板の上を、料理を抱えて必死に走り回る糧食班の姿を眺めながら、俺ものんびりと酒の入った杯を傾けた

今日は7月7日
いわゆる、七夕だ
とはいっても、このマザーベースにいる奴らのほとんどがついこの間まで七夕なんて知らずにいた
まぁ、それもしょうがない
七夕は日本や中国…いわゆるアジア圏の文化だ
このマザーベースは立地上、南米やヨーロッパ圏の人間が圧倒的に多い
そんな奴からからしたら、なじみのない文化だろう
実際、俺が今月の誕生会は七夕祭りもかねないか?と提案したとき、一発でわかってくれた奴は1人もいなかった

『副指令の国の文化ですか?面白そうですね!それ』

だが俺が日本出身であるせいか、このマザーベースには日本の文化に興味を持ってくれる奴も少なくない
副指令の故郷の文化なら、ぜひ体験してみたい
ありがたいことにそういってくれる兵士も多く、七夕をどういうものか説明すると、皆笑って快諾してくれた
それで今月の誕生会は、納涼をかねての七夕祭りという事になった
年中暑いこのマザーベースで納涼もクソもないが、一応気分だ

「おいカズ、飲んでるか?」

そんなことを考えながら、つまみを口にしていると、スネークが酒とつまみを片手にふらりとやってきた
その顔はほんのりと赤く、おそらく向こうで兵士達と散々杯を酌み交わしてきただろうことは容易に想像できた

「ようボス、いいのか?兵士達ほっといて」

「それはお前もだろう、副指令。隣いいか?」

「どうぞご自由に、司令官殿」

隣いいか、と聞く前にすでに腰を下ろしかけていたスネークに軽口を叩いてから、軽く自分の隣を叩く
嬉しそう腰を下ろしたスネークと軽く杯をぶつけてから、同時に中身をぐっと煽る

「…くは〜!外で飲む酒は格別に美味いな!」

「あぁ、同感だ」

半分ほど中身を減らした杯を掲げ、赤い顔のまま楽しげに笑うスネークの頭先からつま先まで、じっくりと眺める

「何だ、どうした?」

「いや、やっぱ似合ってるなと思って」

それ、と俺はスネークの着ている服…黒緑の浴衣を指差して、その出来に自然と笑みが浮かんできた
どうせ日本式にするならとことん日本式にしてやろうと、希望者には浴衣を配布している
やはり、日本の祭りといえば浴衣だ
浴衣といっても、正直俺がうろ覚えな記憶で作った浴衣もどきだけれど、我ながら上手くできている
兵士達にも好評で、正直縫うのが全然追いつかず、大慌てで他の奴にヘルプを頼んだりもしたほどだ
もちろん、スネークの着ているものは俺が縫ったものだったりする
密かに一番出来のいいやつをスネークに渡したのは、他の奴には内緒だ

「うん、やっぱり我ながらよく出来てる。似合ってるし」

普通西洋人は和服が似合わないのだが、スネークは体型がしっかりしているせいか、それとも惚れた欲目か、浴衣がとてもよく似合っている
似合わなかったら笑ってやろうと思っていたが、あまりの男前っぷりに惚れ直すどころか逆にムカつくくらいだ
金髪のせいであまり浴衣が似合わない俺とは、大違いだ

「いや、おまえの方が似合ってる」

「お世辞はいいよ。俺金髪だから、あんまり浴衣似合わないし」

「いや、本当だ…色っぽくてよく似合っている」

「褒めても何もでないぞ、この酔っ払いが」

「本当のことだ。本当によく似合ってる、額に入れて飾っときたいくらいだ」

けど、スネークが物凄い真剣にそんなことを言うから、少しだけ悪くない気分になる
正直、浴衣着るの結構迷ったけど…スネークが似合うって言ってくれるなら、着たかいがあったってものだ
スネークが気に入ってくれたなら、たまに着るものいいかもしれないと思ったけれど

「そう?ありがと」

「出来れば、ベットでも着てくれるとありがたいんだが」

スネークのオブラートの欠片もない下心しか感じない言葉に、一瞬でそんな気分は吹っ飛んでいった
祭りが終わったら、速攻脱いでやる
そう心に誓い、スネークの尻を思い切り摘む

「いたたた…おいカズ、痛いんだが」

「うっさいバカスネーク、俺の感動返せよ」

情けない顔でこちらを見るスネークに、ばしっと思いっきりその場所を叩いてやる
どこか不満げな視線をよこされ、思いっきり睨みつけてやると

「そ、そういえばカズ…アレなんだが…」

さすがに俺が怒っているのが伝わったのか、ふいっと視線を別の方向へやり、あからさまに話題をそらしてきた
納得はいかないが、俺としてもせっかくの祭りをこんなことで台無しにもしたくない
スネークと同じ方向へ視線とやると、そこにはこの祭りのメインイベント…七夕飾りがあった
甲板のほぼ中央に設置された、実戦部隊がどこからともなく持ち帰ってきた笹…というか竹
そこに、色とりどりの大量の短冊が吊るされている
まだ結んでいない奴も多いのかかなりの人数が群がり、なにやら大盛り上がりしている
…本当は竹じゃなくササに結ぶのだけど、それを気にするほど心は狭くない
実際、日本でも笹じゃなくて竹に吊るしてる奴多かったし

「どうもよくわからんのだが、どうしてタナバタにはササに短冊を吊るすんだ?確か…元は結婚の話だったろ?」

「…俺の話聞いてた?一応説明したよな、俺」

疑問に思うのもわからなくはないが、けれど俺としてはスネークのあまりにざっくりとした認識の方が気になる
確か俺は、一応全員に七夕はどういう祭りで、どういう起源があるかをざっくりとは説明している
少なくとも、スネークの認識以上の説明はしているはずだ
じとり、と半目で軽く睨むと、スネークはどこかバツの悪そうな表情になり

「…半分くらいは」

と、物凄くぼかしてはきたが、ようは聞いてなかったと白状した

「全く…もう1回説明するか?」

「あぁ、頼む」

あからさまにため息を吐いて見せ、呆れたようにそう声をかければ、スネークは少しだけ困ったように笑った
多分、興味ないんだろうなとは思ったが、一応もう一度説明してやる

世にも美しい布を織る天の神様の娘の織姫が、川の向こう側に住む真面目な牛飼いの彦星と結婚をした
2人は相手を一目で好きになり、物凄く仲のいい夫婦になったが、2人は遊んでばかりで仕事を全くしなくなってしまった
怒った天の神様は2人を引き離し、真面目に仕事をするなら年に一度、7月7日に会うことを許すと言った
2人はそれから真面目に働いて、年に一度の逢瀬を楽しむようになりましたとさ

という、日本では有名なラブストーリ
年に一度しか会えない恋人同士、というロマンチックさがおそらく人気の秘訣なのだろうが

「…それは、自業自得じゃないのか?」

「スネーク、頼むから少しくらいムードとかロマンチックとか、そういう単語を理解してくれ」

この目の前の、ロマンチックとはかけ離れた世界に生きている男には何一つ理解できないらしい
スネークがそういう事に心底疎いのはよくわかっているが、こういう日くらい空気を呼んでくれてもバチは当たらないと思う

「あ〜…なんと言うか、すまん」

スネークもロマンチックはわからなくても俺が呆れているのはわかっているのか、へらりと曖昧な笑みを浮かべながら、小さく頭を下げた
その顔を見ながら、我慢せずに盛大なため息を吐いて…ふと、思いついた

「なぁスネーク…俺達が天の川の岸に引き離されたら、アンタはどうする?」

思いついたことをそのまま口にすれば、スネークはよくわかっていないのか、小さく首を傾げた

「だからさぁ…俺達が織姫と彦星だったら、アンタだったらどうするかって話!」

これくらい一発でわかってくれてもいいだろうとか思いつつもう一度説明すれば、今度はわかったのかあぁ、と小さな声を上げて俺を見た

すっごくくだらない質問だっていう事くらいはわかってるけどさ
こんな日くらい、恋人っぽい質問とか睦言とか、そういうロマンチックなことをしたっていいじゃないか

「そうだな…お前だったらどうする?」

質問を質問で返されてちょっとムカッときたけど、元々俺が言い出したことだから俺が先に言うのが筋だろうと思いなおして、考える

「う〜ん…やっぱ、寂しいかな」

1年もスネークに会えない、1年に一度だけしかスネークに会うことが出来ない
考えただけでやっぱり寂しいし、その分会えたら凄く嬉しいんだろうなとも思うけど、寂しさの方が大きいに決まってる
相手が好きな分だけ、会えない寂しさは辛い
数ヶ月ならまだしも、1年ともなると…正直、耐えれるのかどうか、自信はない

「…お前の場合、俺がいないのをいい事に、向こうで女と好き勝手やらかしそうな気がするんだが?」

「………そこは……否定しない」

多分、スネークが言ったとおりになっちゃうんだろうな〜と自分でも用意に想像できる
寂しいの嫌いだし、1年も恋人と会えない拷問を喜んで受け入れられるほどマゾじゃないし

「で、スネークはどうすんの?」

けど、さすがにスネークが不機嫌になってきたのを空気で感じて、慌ててスネークに質問し返す

「そうだな…」

不機嫌そうながらも考え始めたスネークに、ばれないようにホッと小さく息を吐く
まぁ、不機嫌になるのもわかるけど…実際俺もスネークに、耐えれないから女の子と浮気しますなんて言われたら、あんまり気分よくないし
…けど、健気にスネークだけ待ち続けるなんて嘘言っても、多分…ていうか絶対ばれるし
嘘言ったら言ったで、嘘言うなとか怒られそうだし
じゃあなんて言えば良かったんだよバカスネーク!と半分八つ当たりにも似た気分になったころ

「さすがに1年は待てないからな、お前を攫いに行く」

顎に手を当てて考え込んでいたスネークが、さもいいことを思いついたかのように、そう言った

「…いやいやいや、無理だろ無理。川の両端だぞ?どうやって渡る気だ?」

「どうやってって…泳いで渡ればいいだろう?」

しかもあまりにぶっ飛んだ発言に、一瞬ポカンと口を開けてしまう
いやいやいや、それこそ無理だろ。ちょっと嬉しかったけど、物理的に無理だろ
だって、ものっ凄く広いんだぞ天の川
普通の人間が泳いで渡れるなら、彦星だって大人しく牛飼ってないで泳いでるだろうさ
そう、皮肉をたっぷりと込めて言ってやりたかったけど

「どれだけ広かろうが、所詮は川だろう?なら泳いで渡るさ…お前のためならな」

スネークは、物凄く自信たっぷりな顔で笑うと
真っ直ぐに俺の目を見つめて、どこか甘い声でそう言った

「っ…!」

その瞬間、ありえない勢いで俺の心臓が跳ねる

やばい、やばいやばいやばい
今絶対顔真っ赤になってる!っていうか心臓痛い、ホントに痛い!
っていうか、なにあの声!あの自信たっぷりの顔!
あぁもう、ホントに…!

不意打ち過ぎて、どうしたらいいのかわからない
嬉しいとか、恥ずかしいとか、色々混ざりすぎてわけがわからない
ただ、はっきりとわかるのは

ホントにホントに、大好きだバカヤロウ!

今この瞬間、確実にスネークに惚れ直したことだけだ

「どうした、顔が赤いぞ?」

「酒のせいだ酒の!断じてアンタの言葉に惚れ直したとかじゃないからな!!」

「あぁそうだな、酒が回ってきたせいだな」

ニヤニヤと楽しげに笑うスネークの顔が見られなくて、力いっぱい視線をそらしたままで残った酒を一気に煽る
本当に酒も回ってきたのか、全身が熱くてたまらない
気分を落ち着けようと襟元を少し崩して、手で扇いで風を送る
冷やりとした風に、ほんの少し肌が冷えて、気分が落ち着いてきたかもと思った瞬間

「…よく考えたら、引き離される以前にお前を攫って逃げた方が手っ取り早いかも知れんな」

まだ話を引きずっていたらしいスネークは、俺の気なんか知らずにさらにそんなことを言い出した

「まだその話続けんのかよ!もういいだろ!?」

「何だ、お前は俺と逃げてくれないのか?」

誰もそんな話してない!つかいい加減にしてくれ恥ずかしいんだよ!
ちくしょう、普段全然ロマンチックな事いわないくせに、何でこんなときばっかり!

そう、頭の中を罵倒か何だかよくわからない言葉が過ぎったけれど
スネークの俺を見る目が、あまりにも真剣だったから

「…ちゃんと責任持って、最後まで連れてけよ」

つい、そんな言葉が口から零れ落ちた
その言葉を後悔するとほぼ同時にスネークの顔がぱぁっと明るくなり

「あぁ、もちろんだ!」

本当に嬉しそうな顔で、そんなことを言うから
スネークと地の果てまで逃げるのも、悪くないかもしれない
そんな乙女にも似た、自分でも気持ち悪い言葉が自然と浮かんできた

七夕だから、しょうがない
自己嫌悪に陥った頭をどうにかそう納得させて、俺はもう空になった杯を傾けた





















微妙に間に合わなかった、反省
やりたいことを詰め込みまくった結果、何だかよくわからない話になりましたorz
浴衣着てる2人が書きたかった、そして

キリッ(*`●ω・)お前のためなら、天の川くらい泳いで渡ってやる
キュンッ(*▼д▼)スネーク…

な2人が書きたかった

二つを混ぜたら、よくわからなくなった…神様、文才をください

多分この後2人は浴衣プレイを楽しみます、だって浴衣だし
浴衣プレイは誰か書いてくれると信じているので、あえて私は書かない!(待て)

パラレルギャグにするか真剣に迷ったので、いつかはパラレルを書くかもしれない

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