鬼さんこちら、捕まえたら…



「はぁっ…はぁっ…か、はぁっ」

くそ!まさかあいつらまで手懐けているなんて!!
当てもなく必死で走りながら、俺は自分の甘さを痛感していた
あの男の、言うとおりだった
見張りが1人とは限らないし、ミエールが俺の望むままに動いたとも限らない
そのあたりを失念していたのは、まさに俺の未熟さゆえ
あの男という存在の深さを見抜けなかった、俺自身の失態
カリスマ、技量、洞察力
今の俺じゃ、何もかもがあの男に敵わない
それは、痛いほど理解している

だが、俺があの男の下に付くかどうかはまた別問題だ
俺は、あの男の下につく気はさらさらない
俺には、夢がある
証明したい俺の価値を、時代にも何にも左右されない、絶対的な存在価値を
それなのに、一生あの男の下で飼い殺しなんて、死んでもごめんだ

「おーい、今度の勝負は鬼ごっこか?」

背後から、あの男…スネークの余裕たっぷりな声が聞こえてくる
その声の大きさから、先ほどからほとんど距離が縮まっていないようだ
おそらく、距離を詰めるでもなく、ゆっくりこちらへと歩いてきているんだろう

「くそっ…舐めやがって」

その余裕が、まるで獲物を目の前にして遊んでいる肉食獣に重なる
まるで、いつでも俺はお前を捕まえられるんだぞと言われている様で、悔しさに舌打ちをし、

「ぐっ…」

ズキリ、と全身が痛み、ガクリと膝が崩れ落ちた
いくら傷が治ったとはいえ、病み上がりでこれだけ動くのは無理だったようだ

「くそ…動けっ」

全力で走ろうにも、すでに限界を訴えている体は言うことを聞かない
苛立ちに、役に立たない膝をたたくと

「おーい…鬼さんこちら、だったかー?」

先ほどよりも近い位置から、スネークの声が聞こえてきた
その声に滲みだす焦りを押し殺して、深く深呼吸をして出来るだけ心を落ち着ける
これ以上走って逃げるのは無理だ
病み上がりの俺と、万全の状態のスネーク
本気で鬼ごっこをしたら、どちらが勝つかは明白だ
今はスネークがある意味俺で遊んでいるから逃げ切れているだけで、向こうが本気になったらあっという間に捕まってしまう
なら、どうすればいい?
どうすれば、アイツから逃げ切れる?
ざっと辺りを見回すと、幸いにもこのあたりは藪が深く木も多い
こうなったら、どこかに隠れてやり過ごすしかない
瞬時にどこに隠れたかばれないようにいくつかの妨害工作をして、手近な藪の中へと飛び込んだ

「カズヒラ、どこにいった?」

直後、先ほど通り過ぎた木の向こう側からスネークが姿を現した
ゆっくりと出来るだけ音を立てないように姿勢を低くし、息を出来るだけ押し殺す
上手く俺の痕跡を見失ってくれたのか藪の向こうのスネークは、きょろきょろと辺りを見回しながらきょとんとした表情で少し首をかしげ

「…そうか、今度はかくれんぼか」

にやり、と楽しそうな笑みを浮かべた
その笑みに、ゾワリと背筋に悪寒が走る
まるで、楽しくて仕方がないといわんばかりの笑み
その笑みに、笑いながら虫をばらばらにする子どもの姿が重なる
まるでその虫に自分がなったようで、本能的な恐怖から震えそうになる体を、自分で抱きかかえてどうにか押さえ込む
少しでも音を立てたら、見つかってしまう
怯えた本能が、そう訴える

「おーい、出て来いカズヒラー。今出てきたら許してやるぞー?」

けれど、スネークは俺の恐怖を煽るように、至極楽しそうに笑いながらあたりを歩き回る
やがて、俺の隠れている藪に向かって歩き出した

「っ…」

反射的に口で手を覆って、漏れそうになる悲鳴を押さえ込む
ドクドクと大きな音を立てる鼓動すら聞こえてしまいそうで、限界まで体を縮こませて外に音が漏れないようにする

「どこだー、カズヒラー」

俺のすぐ真上から、声が降ってくる
スネークの足が、俺の目の前50cmほどの場所で動いている
気付くな、気付くな、お願いだ気づかないくれ!!
カチカチと鳴る歯を、みっともなく震える体を、必死に押さえ込みながら、必死に祈る

「…あっちか?」

やがて、祈りが通じたのかスネークはくるりと反転すると、ゆっくりと反対方向へと歩き出した
その姿が視界から消えてから、小さく息を吐いて体の緊張を解いた
とりあえず、これで少しの間は時間を稼げるだろう
だが、いつまでもここに隠れているわけには行かない
ある程度探し終えたらスネークもまたここに戻ってくるだろうし、その時にもう一度見つからずにいる自信はない
一刻も早く、この場所から離れて逃げなければ

俺だって、闇雲にこの場所を指定したわけじゃない
万が一、俺が目をかけた精鋭部隊が奴らにやられたときのための、最後の手段
それがまだ、残っている
革命軍の教官に就任したときから、こういう事態…自分が捕虜になる可能性を考えなかったわけじゃない
その時のために、色々と準備はしてあった
革命軍にはクライアントもいたし、兵士達にそれなりの思いいれもあった
だが、所詮はビジネスだ
俺の命を危険に晒してまで、居座るほどの場所じゃない
それに武装では正規軍に劣る以上、本格的にぶつかり合えばこちらの負けは硬い
そんな危うい集団を率いているんだ、切り札は多い方がいいに決まっている
まさか、2ヶ月で使うハメになるとは思っても見なかったが

俺が用意しておいた、最後の切り札
俺が革命軍に入る前に用意しておいた、ベネズエラ方向へ脱出するためのルート
これは、誰にも教えていない
クライアントにも教えてないし、俺が目をかけてきた奴らも知らない
誰も知るはずのない情報、おそらくあの男も知らないはずだ
これはまだ、生きている可能性が高い
この場所から森を抜けていくのが、あのルートへの一番の近道だ
逃げるのは癪だが、無駄死にしたり飼い殺されるよりはましだ
あの時は死を覚悟していたから、あの男を道連れにしてやろうと思ったが…何の因果か助かった命だ
あの男のために死んでやる気はないし、命をかけて働く義理もない

「…この場所からだと、あっちか」

この国から脱出すれば、あの男が蛇だろうがなんだろうが追ってこられないだろう
このあたりで仕事がやりにくいというのなら、別の場所へいくだけさ
紛争地帯は、俺のビジネスの場は、世界中にいくらでも転がっている
この場所にこだわる気もない

大まかな場所を把握し、移動しようと少し体を起こした瞬間


「見つけたぞ、カズヒラ」


背後から…いや、俺のすぐ耳元で
スネークの、楽しそうな声が聞こえた

「っ!?」

反射的に身を翻すと、いつの間にか俺のいた場所のすぐ後ろにスネークが座り込んでいた
こんなに近くまでこられていたのに…全く、気付けなかった
ブワリ、と背に汗が滲み、それを誤魔化すためにスネークを睨みつけて銛を構える
けれど、目に力がないのは自分でもよくわかっている
きっと威嚇にすら、なっていない
けれど、威嚇していなければ気がどうにかなりそうだ

「さぁ、かくれんぼも鬼ごっこも終わりだ…帰るぞ、カズ」

ガタガタと震える俺を、スネークはまるで父親か何かのように穏やかな目で見つめ、優しい声でそういって俺に手を差し出した
けれど、その一見穏やかに見える瞳の奥から、優しい声の裏側から
ドロリとした、得体の知れない恐ろしいものが滲み出す
それはたとえるなら、狂気
普通に見えるのに、スネークの纏う気配は明らかに普通じゃない
恐怖で、思考も何もかもが上手く働かない
そのままでスネークを見つめていると、やがてすぅっとスネークの目が細まり
にまりと、口の端をあげて笑った
その笑みに恐怖が爆発し、悲鳴が喉の奥に張り付いた

「あ…あぁぁぁああぁ!!!」

怖い怖い怖い怖い!!!!!誰か、誰か…助けて!!!!!
恐怖に突き動かされるまま、銛を投げ出して必死に逃げ出した
どこにいくとか、どうするとか全く考えられない
ただ、目の前の男が怖い、こいつのいない場所に行きたい、逃げたい
どこまでも純粋な、恐怖
それが、俺の体を突き動かした

「はぁ〜…まだ逃げる気か?」

けれどスネークは、逃げ出そうとする俺にどこか呆れたような声をかけ

「悪いな…俺も、ずっとお前の遊びに付き合っていられるほど暇じゃない」

その声が、とても冷たいものへと変化した瞬間

―バン!!

耳に至近距離からの銃声が飛び込んでくると同時に、右の太ももに熱を感じ

「があぁぁぁ!!!」

一拍遅れて、強烈な痛みが全身を駆け巡った
ガクリと足が崩れ落ち、勢いを殺しきれず地面に激突した

―バン!!

みっともなく地面にはいつくばった俺の、今度は左の太ももを、強烈な熱と痛みが襲う
どうして、なんで、いたい、うごかない、どうして、いたい、いたい、こわい、こわい
完全にパニックに陥った頭は、何がどうなったかすら認識できずに、ただ単語を繰り返す

「すまんな、カズ…だがお前も悪いんだぞ?帰ろうといっているのに、まだ逃げようとしするから」

混乱し、それでも逃げようともがく俺の耳元で、じゃりっと土を踏む音が聞こえ
まるで小さな子どもにするように、スネークはしゃがみこむと俺に視線を合わせた
その手に握られた銃から上がる煙に、ようやく自分が撃たれたのだと理解する
けれど、今更理解してもどうしようもないし、どうこうなるわけでもない
ただ、恐怖が増しただけ

「ほら、足が動かないなら歩けないだろう?俺が連れてってやるから帰るぞ」

柔らかな、けれどどこか濁った青い瞳が俺を映し、銃を腰のフォルダーにしまった手が俺の体に触れようとする
反射的にその手を払いどうにか逃げようと必死で後ずさると

「…腕も、撃たれたいのか?」

驚くほど低い声が鼓膜を揺らし、スネークの表情が消えた
その声に、表情に、体が固まる
まるで、蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れない
ぼろり、と限界を超えて決壊した涙すら、拭えない

逆らったら、殺される

生まれて初めて、そう思った

「…いい子だ、そうやって最初から大人しくしていたら撃ったりしなかったんだぞ」

完全に動けなくなった俺に、スネークはふっと表情を和らげて、そっとまるで壊れ物にでも触れるように俺の涙を手のひらで拭った
そのまま同じような手つきで俺の体に触れると、ゆっくりと持ち上げて肩に担ぎ上げた
死にたくない、怖い
その間、俺の頭にはそのことしかなった
だけど、大人しくされるがままの俺がお気に召したのか、スネークはどこか満足げに笑うと

「さぁ、帰るぞカズ」

ぽんぽんとあやすように俺の背を軽く叩くと、俺達がやってきた方向へと歩き出した

あの時殺されたほうがましだった
連れ帰られた先で、そんな目にあうとはまだ知らないままで
俺はただ、恐怖と生存本能に従って大人しくしていた

















裏行きと最後まで迷ったけど、見てるうちに…これくらいならいいかな?と色々ゲシュタルト崩壊したので表に
後で見返してやっぱ裏だと思ったら、移動するかもしれない

何て言うか、捕虜拷問系エロを書きたくて書いた前フリだけど…色々使えそうですよね
最初の通りに拷問陵辱系エロでもいいし、ボコ愛(スネークが一方的に)でもいいし、がっつり調教でもいいし、大事にしまくって愛玩道具扱いとか、いっそ囲って監禁とか、全力で狂気スネークでもいいし…
やっべ、どれにしよう!?どれがいいですか!?(聞くな)
どれにしても、続きは多分裏行きですが
どうでもいいですか、途中からカズの呼び方が変わったのは意味があったり…どうでもいいですが

定期的にこういった暗く狂気的な話を書きたくなります

い、いろいろすみませんでした…

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